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ダイナミカル システムの数理 基礎 

まえがき

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システムとは個々の機能が集って1つの集合をなして,ある目的に対して行動を起こすことができるものである.したがって,自動車や飛行機のような乗り物も,1つ1つの機能を持った部品が集まって形成されたもので,地上を走行したり,空を航空するという行動を起こすものである. さらに例を挙げると,電気掃除機や洗濯機の家庭電気製品等の小型のものから,石油精製のプラントや原子力発電所のプラント等の大型のものまでシステムとして見ることができる.

次にダイナミカル システムの《ダイナミカル》の意味はシステムが時間に応じて変化していることを表すもので,このとき,システムの構成方程式は時間微分を含む微分方程式で記述される.このような個々のダイナミカル システムの振舞いを数学と物理の知識を使って解明したい願望が生じる.この願望をかなえるために行う行動を,順を追って考えてみると,先ずダイナミカル システムをモデル化して構成方程式を導出する必要がある.ここで,モデル化とは構成方程式を導出しやすいように,システムを単純化する作業である.ごく些細で,省略したり,何かに置き換えたりしても結果に大きな影響を及ぼさないものは,この時点で,英断を振るって単純化すべきである.ダイナミカル システムの構成方程式の導出はニュートンの第2法則によって行われる.ニュートンの第2法則は「運動量の時間的変化は外力である」である.運動量の時間的変化より,構成方程式に時間微分が現れる.これがダイナミカル システムの構成方程式が時間微分を含む所以である.システムが空間的に拡がりをもち,空間的座標軸に沿って変化するならば,ダイナミ カルシステムの構成方程式は偏微分方程式になる.

ダイナミカル システムの構成方程式が導出されたら,次の作業は,この構成方程式を解いて解を求めることである.ここで構成方程式を解く手法として,時間微分を含む構成方程式について述べると時間領域と周波数領域の2つの解法がある.ダイナミカル システムの数理を考えるうえで,この2つの解法の存在を常に意識することは重要で,本書では意識的に,この2つの解法を並列して述べるようにした.

構成方程式が得られたら終わりではない.この得られた解に吟味を加えて,その振舞いに物理的な解釈を加えなければならない.例えば,共振曲線とその位相の関係は,力のベクトル図から説明するのが最も良い説明方法と思われるのだが,力のベクトル図を用いてこれを解説している教科書が極めて少ない.本書ではこの説明に力のベクトル図を用いて詳述しており,この点は類書がないものと自負している.また,随所,これに類した説明を配しているのがこの本の特徴であり,ダイナミカル システムの数理と,この本のタイトルに``理''を入れた理由である.

次に,数理と``数''を入れた理由について説明しよう.この本の共著者の芦野,守本は数学者であり,一方,山本,曽根はウェーブレットの応用研究に興味を持つ工学者である.両者は,ウェーブレットのとりもつ縁で交流があり,お互いに知り合うことができて,この本を共著する気運が高まった.この本には,微分方程式,フーリエ級数,フーリエ変換,ラプラス変換を含んでいる.読んでみるとわかることだが,これらの記述は,数学と工学の中間をねらって書かれている.したがって,工学系の低学年の大学生が容易に入っていける場があるが,その延長上に深淵な数学の世界が拡がっているのを感じ取れるようになっている.これも類書がない本書の大きな特徴と思っている.この本を読んで,学生が新たな発見をすることを祈念する.

最後に,京都工芸繊維大学大学院修士課程学生の大橋新君,迫田茂君,中津留智泰君,中野順一君,畑宏明君には,図の作成や文章の入力に協力していただいた.さらに共立出版(株)の小山透氏には編集について多大の御努力を賜った.以上の方々に心からお礼を申し上げる次第である.

1999年1月

編著者  

山本 鎭男

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