走査型電子顕微鏡について

平成21年12月、実践学校教育講座環境科学実験室に卓 上型の走査電子顕微鏡(Mighty-8DX)が導入されました。さらに平成25年10月に天王寺キャンパス 西館実験準備室に同型弐号機が導入され、二機体制になって実習・研修を充実したものにできるように なりました。ここでは、走査型電子顕微鏡と生物試料の観察について簡単に説明します。


走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM) で像が見える仕組み
真空中で細く絞った電子ビームを試料に照射すると、試 料表面から二次電子や反射電子、特性X線などが出てきます。これらのシグナル強度は、電子ビームの照射された試料 表面の構成元素や立体構造の影響を受けます。そこで、電子ビームで試料表面を走査し、そのシグナル強度をモニター 上の同じ座標の画素の輝度に変換してやると、シグナル強度の差がコントラストとなって、試料表面の立体構造や元素 組成を反映した像が得られます。このとき、電子ビームで走査する面とモニター上で走査する面のサイズの比が倍率に なります。

特に金などの金属コーティングをして試料表面の組成を均一にし、電子ビームで走査して微小な領域から出る二次電子 を捉えると、試料表面の凹凸を反映した高分解能の画像が得られます。これが一般的なSEM像です。また、反射電子 でも凹凸像や組成像を得ることができます。特に低真空SEM装置では、反射電子の情報を利用します。

超小型走査電子顕微鏡 Mighty-8DX
Tiny−SEM Mighty−8 #1の写真 Tiny−XEM Mighty−8 #2の写真
写真左は平成21年12月に環境科学実験室に導入され た(株)テクネックス工房の超小型走査電子顕微鏡Tiny-SEMシリーズのMighty-8DX壱号機で、当時の最新鋭機でした。写真 右は平成25年10月に西館理科準備室に導入されたMighty-8DX弐号機です。大型ステージを備えるなど、多少マイナー チェンジされていますが、基本性能やつまみ類の配置、操作手順等は弐号機と同じですので、実習・研修に便利です。

本装置の特徴の1つは、小型・軽量(約35kg)だということです。さらに鏡筒・制御部・モニター・真空ポンプの4つのユ ニットに分離できるため、簡単に持ち運べます。一番重い鏡筒ユニット(写真左)でも約17kgです。従来の大型SEMはもち ろん、他メーカーの卓上型SEMに比べても重量は半分以下です。写真の13インチモニターが大きく見えるくらいです。こ のほかにダイヤフラム型真空ポンプが机の下にあります。動作環境としては、100V300WのAC電源だけで冷却水は不要です。 写真の装置はストーンテーブルに載っていますが、普通の実験机でも十分です。おかげで教室へ移動させて学生に見せる ほか、出前SEMまで可能になりました。これまでに、柏原キャンパスや府内の高校等に運搬・実習の実績があります。

これほどお手軽な装置ですが、最高加速電圧17kV、最高倍率100,000倍、最高分解能約10nmと、生物試料には十分な性能が あります。また、加速電圧2kVで無蒸着試料の観察も可能です。

最近のSEMは卓上型も含めてコンピューター制御・自動化が進んでおり、パソコンモニター画面のアイコンをクリックするだけで操 作できる装置が大半です。ルーティンワークをこなしたり、不慣れな人が操作するのには便利ですが、ブラックボックス 化されているため、その操作でどのようなことが起こるのかを理解するのが困難です。鏡筒も函体の中に収められていて、直ぐに見えるわけではありません。その点、この装置のようにマニュ アル部分が多く残っていて、各部の構造もそのまま見ることのできる方が、教育面での利用価値が高いと思います。ただし、この装置はフォーカス機構が一般的ではありませんが。



SEMと生物試料
「SEMで像が見える仕組み」でも 触れたように、試料は真空中に持ち込みますので、水分等揮発成分を除去する必要があります。生 物試料は一般に水を含んでいますので脱水しなければなりませんが、普通に乾燥したのでは表面張 力によって試料表面の微細な構造が歪んでしまいます。そのため、乾燥には表面張力の影響を回避 できる臨界点乾燥法や凍結乾燥法などが用いられます。
(注:最近は低真空で反射電子を捉えて像を見る低真空モードを有するSEM装置もありますが、これ だと完全に乾燥しなくても大丈夫です)

その一方で、乾燥した生物試料は電気を通しません。電子ビームで持ち込まれた一次電子が試料に 蓄積し、画像形成に影響を及ぼします(帯電現象)。これを解消するには試料をアースに接続しなけ ればならないのですが、肝心の試料が電気を通してくれません。そのため、何らかの方法で試料に 導電性を与える必要があります。

また、二次電子の発生は試料表面の構成元素が重いほど多くなりますが、一般に生物は軽元素でで きています。そのため二次電子の発生効率はあまり良くありません。

これらの問題を同時に解消するために、一般に、生物試料の表面に金や白金などの金属をコーティ ングしたり、試料をオスミウムなどで導電染色して、二次電子の発生効率を高めます。
(注:2kVの低加速電圧で無蒸着の標本を観察することも可能です)。

  

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