外国語を学習するとなると、欠かせないのが辞書である。新たに外国語を始めようというときには、一冊くらいは辞書を手元に置いておきたいわけだが、どんな辞書を選べばよいかとなるとなかなか難しい。その外国語の特徴が自分なりに見えてこないと、辞書の良さはわからないし、また、大抵の場合、どんな辞書もそれぞれ長所・短所をもっていて、この一冊があればOKということはないのである。
だから大切なことはやはり店頭で実際に辞書をあれこれ見て、自分で選ぶということではないかと思う。どんなものであれ買い物は楽しいし、自分で選んだ辞書ならばあとで文句を言うこともできないだろう。あるいは、のちのち勉強が厭になったときに、目をつぶって辞書を買った頃のことを思い出してみるのもいいかもしれない。
ちょっとマニアックかもしれないが、辞書のように日常的に使う本の善し悪しは、手触りというか、匂いというか、客観的なデータに出てこない微妙な要素が絡んでくる(ように思う)。だから、現物を見て選ぶことをお勧めする。オンライン書店を利用するならば、まず店頭でチェックしておいてから注文するべきである。
独和辞典を選ぶときの目安の一つに見出し語数がある。主な独和辞典の見出し語数を書き出してみると、以下の通り。5万語から7万語の辞典が主流になっていることがわかる。
書名 | 出版社 | 見出し語数 |
---|---|---|
プログレッシブ独和辞典 | 小学館 | 5万語 |
新アポロン独和辞典 | 同学社 | 5万3千語 |
アクセス独和辞典 | 三修社 | 5万4千語 |
クラウン独和辞典 | 三省堂 | 6万4千語 |
マイスター独和辞典 | 大修館 | 6万5千語 |
独和中辞典 | 研究社 | 6万7千語 |
フロイデ独和辞典 | 白水社 | 7万5千語 |
パスポート独和辞典 | 白水社 | 1万5千語 |
エクセル独和辞典 | 郁文堂 | 2万語 |
スタート独和辞典 | 三修社 | 1万4千語 |
郁文堂独和辞典 | 郁文堂 | 11万語 |
独和大辞典 | 小学館 | 16万語 |
辞書を選ぶ目安をもう少し挙げてみる。
1.見出し語数
2.活字の大きさ
3.重さ
4.見出し語や例文に、どんな日本語があてられているか
(例えば、man という単語がどんな風に説明されているだろうか)
5.発音記号
(カタカナでも表示されているか)
どの項目も実は、矛盾をかかえている。たとえば、見出し語が多ければ多いほど、いろいろなテクストに対応できるが、しかし、たくさんの見出し語のなかから必要な見出し語をみつけるのは大変だ。また、活字が大きくなれば読みやすいが、ページ数がかさみ、携帯には不便になる。
発音をカタカナで示すのは適切なのか? 私個人の意見としては、発音記号は正確かもしれないが、めんどくさいので初級学習者はどうしても敬遠してしまう。カタカナであれば、不正確であってもとにかく読めといわれれば読むだろうから、学習には効果的ではないかと思う。
さらに考えられる目安を挙げてみる。
6.語形変化の記述
(基本語には見出し語の下に現在形や過去形の活用が表示されているものもある)
7.図表
(たとえば、Giebel とはなんだろう?)
8.現代語も取り入れられているか
(たとえば、ドイツ語コンピュータソフトで、メニューの Datei はファイル(F)に相当する。 der grüne Punkt はリサイクル可能を示すマークである)。
9.相性
(紙の厚さ、手触り、匂い)
10.値段
11.新正書法に対応しているか
(見出し語に dass, Kuss という単語があるか)
ドイツ語は新しい正書法が1998年に導入された。2005年までが移行期間ということになっているが、今や大半の新聞・雑誌が、この新正書法で書かれている。たとえば、キスは、Kuß ではなくて、Kuss である。今、辞書を買うならばやはり新正書法に準拠している方がいいだろう。とはいえ、文学テクストなどは大部分が旧正書法で編集されているわけだし、大体、新旧それほどの違いがあるわけでもない。
たとえば、「新アポロン独和辞典」を以上の目安で評価してみると、次のようになる。
1.見出し語数53000語。 2.他の辞書と同様やっぱり小さい。 3.やっぱり重たい。 4.本屋さんへ行って見てください。 5.発音記号はカタカナ表記 6.基本的な不規則動詞だけ現在人称変化が記載されている。 7.Giebelの挿し絵あり。 8.grün を調べると、der grüne Punkt の記述あり。付録にコンピュータ・ネットワーク用語、環境用語がまとめられている。 9.? 10. 4000円 11.新正書法に対応している。
辞書を引くという作業は肉体労働である。何度も同じ言葉を調べればストレスは溜まるし、目はどんどん悪くなる。したがって、私個人としては辞書を引くよりも、単語を覚えることを勧めたい。たとえば、動詞の活用が見出し語のすぐ下に出ているからといって、その細かい文字を読んでいるようではこちらの目の方がまいってしまう。
もう一方で、中級以上のテクストを読むとなれば、見出し語5万語レベルの辞典では足りないということもおこる。
で、私はどうしているかと言えば、目的に応じて辞書を使い分けている。
新聞、雑誌、ウェブページなど時事的な資料で、めずらしい単語に出会った時は、小学館の『大辞典』かDuden(後述)。ド忘れした表現を確認する時(最近このケースが多い)、作文する時は、5万語クラスの中辞典。19世紀の文学作品を読む時は、郁文堂の『独和辞典』か相良守峯『大独和辞典』(博友社)。
相良の大独和は、初版が1958年に出ている。もちろん、コンピュータ用語などまったく記載がないが、19世紀の語彙には滅法強い。
さて、ではドイツ語資料を理解するにはこれらの独和辞典で十分か。
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もうこれ以上読みたくないので、ホームページに戻る。