3.研究方法

 作品中の叙述から、主人公を取り巻く状況やその状況変化、それに伴う主人公の心理変化、視点などを分析した。項目ごとに分析したものを表にまとめている。この表をもとに、主人公と状況との関わり、主人公の心理の変化を捉えていく。
 更に教科書会社に着目し、各会社ごとの傾向を探る。
 分析の観点は、以下の通りである。

分析の観点

主 題
読み手によって多様になるもので一つに絞ることは困難だが、私達が読み取ることが出来た主題の中で最も一般的だと思われるものを一つ挙げている。
主人公
主題を導く登場人物。キーパーソン。

主人公の年齢、性別、性格
明確に表記の無いものは、叙述や主人公の言動を手掛かりにした。

作品世界の設定
作者が設定した、作品を取り巻く環境・舞台のこと。
現 実
実際に起こりうる出来事を描いている。戦争教材など、過去で実際にあったことを扱っているものも現実に分類した。
非現実
動物が言葉を話すなど、実際に起こり得ないような出来事を描いている。
特 殊
現実とも非現実とも言い切れない出来事を描いている。

「ちいちゃんのかげおくり」・「おはじきの木」・「白いぼうし」が例として挙げられる。

主題につながるきっかけ
主題への伏線となる出来事。

はじめの状況
きっかけとなる出来事が起こる前の状況。
終わりの状況
きっかけとなる出来事が起こったあとの状況。
心 理
はじめの状況・終わりの状況それぞれにおいての主人公の心理。
 ・プラス(+)と解釈できる心理、マイナス(−)と解釈できる心理、そのどちらとも解釈できない心理をゼロ(0)、どちらとも解釈できる心理をプラスマイナス(±)、主人公の心理描写が全く無く、読み取ることが出来ない心理をアスタリスク(*)とし、五種類に分類した。

視 点
全 知
複数の人物の心理を描くことができる全知性を持った語り手の視点。
「とっときのとっかえっこ」・「おてがみ」・「スーホの白い馬」など。
多視点
複数の視点人物の心理を描くことによって物語世界を多角的に描く視点。
「ごんぎつね」・「わすれられないおくりもの」など。
一人称限定
一人称の視点人物の心理を描くことによってその人物が見た物語世界を描く視点。
三人称限定
三人称の視点人物の心理を描くことによってその人物が見た物語世界を描く視点。
客   観
どの人物の心理も描かないことで物語世界を客観的に描こうという語り手の視点。
客観 特殊
どの人物の心理も描かず評価も述べず、説明は行うことで、物語世界を客観的に描こうとする語り手の視点。
「はなのみち」・「はなび」・「けむりのきしゃ」など。

出来事に対する態度
主題につながるきっかけに対する主人公の対応の仕方。
積極的
出来事に進んで取り組む。
受容的
出来事を受け入れていく。プラスの方向で考えようとする。
消極的
出来事を受け入れることも乗り越えることもしない。
無 力
出来事に対してどうしようもない。為す術を持たない。

分析の実際

光村図書一上の掲載作品である「くじらぐも」を例に説明していく。

くじらぐも
なかがわりえこ さく
かきもとこうぞう え 
 
 四じかんめのことです。一ねんニくみの子どもたちがたいそうをしていると、空に、大きなくじらがあらわれました。まっしろいくものくじらです。
「一、二、三、四。」
くじらも、たいそうをはじめました。のびたりちぢんだりして、しんこきゅうもしました。
 みんながかけあしでうんどうじょうをまわると、くものくじらも、空をまわりました。
 せんせいがふえをふいて、とまれのあいずをすると、くじらもとまリました。
「まわれ、右。」
せんせいがごうれいをかけると、くじらぐも、空でまわれ右をしました。
「あのくじらは、きっとがっこうがすきなんだね。」
みんなは、大きなこえで、
「おうい。」
とよびました。
「おうい。」
と、くじらもこたえました。
「ここへおいでよう。」
みんながさそうと、
「ここへおいでよう。」
と、くじらもさそいました。
「よしきた。くものくじらにとびのろう。」
男の子も、女の子も、はりきりました。みんなは、手をつないで、まるいわになると、
「天までとどけ、一、二、三。」
とジャンプしました。でもとんだのは、やっと三十センチぐらいです。
「もっとたかく。もっとたかく。」
と、くじらがおうえんしました。
「天まで とどけ、一、ニ、三。」
こんどは、五十センチぐらい とべました。
「もっとたかく。もっとたかく。」
と、くじらがおうえんしました。
「天まで とどけ、一、ニ、三。」
そのときです。いきなり、かぜが、みんなを空へふきとばしました。そして、あっというまに、せんせいと子どもたちは、手をつないだまま、くものくじらにのっていました。
「さあ、およぐぞ」
くじらは、あおい空のなかを、げんきいっぱいすすんでいきました。うみのほうへ、むらのほうへ、まちのほうへ。みんなは、うたをうたいました。空は、どこまでもどこまでもつづきます。
「おや、もうおひるだ。」
せんせいがうでどけいを見て、おどろくと、
「では、かえろう。」
と、くじらは、まわれ右をしました。しばらくいくと、がっこうのやねが、見えてきました。くじらぐもは、ジャングルジムのうえに、みんなをおろしました。
「さようなら。」
みんなが手をふったとき、四じかんめのおわりのチャイムがなりだしました。
「さようなら。」
くものくじらは、また、げんきよく、あおい空のなかへかえっていきました。

 この作品は一年二組の体育の時間に白い大きなくじらぐもが現れ、一年二組の子どもたちと先生を乗せて空を飛ぶという話である。
 くじらが言葉を話し空を飛ぶという現実にはあり得ない出来事を描いていることから、物語世界の設定は非現実とした。
 くじらぐもの背中に乗って青い空を飛びまわる叙述から、主題は空を飛ぶ楽しさとし、主題に繋がるきっかけは、くじらぐもに乗ることとした。
 そしてその主題を導く登場人物である一年二組の子どもたちを主人公とし、小学一年生であることから年齢は少、性別は男女、性格はくじらに「おうい。」と声を掛けたり、くじらぐもに飛び乗ろうとする叙述から好奇心旺盛だとした。
 また進んで雲に乗ろうと声を掛け、ジャンプして飛び乗ろうとする叙述から、出来事に対する態度を積極的とした。
 はじめの状況は、普段通り学校で四限目の授業を受けている状況であり、0とした。
 またはじめの状況での心理も、同様に0とした。
 終わりの状況は、くじらぐもに乗って空を飛びまわった後、学校に戻り普段の生活に戻ってくるので0とした。
 終わりの状況での心理は、くじらぐもに乗って空を飛びまわったことが楽しいとして+とした。
 このような観点で私達は各作品を分析し、表にしたものを4.分析表に載せる。









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