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描写作品コンクール 作品と審査員評

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 牛乳配達や新聞配達のバイクの音も消え、あたりはぼんやり明るくなり始め、今日も夏の長い1日が始まろうとしている。淡い日の出の光を受け、わずかな人々を乗せて動き出す、朝一の電車。がらんとした車内には黒髪に白いカッターシャツ、ブラウスに手提げ鞄、革靴といった清楚な装いの若い数人が、それぞれ楽器を大切そうに持って座っている。
「いよいよ府大会やな。みんなで絶対金賞とろうな。」
今日は吹奏楽コンクールの日。夏の長い1日の始まり。

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体言止めが多く用いられていて,単語で文が終わっているので,各文を読んだ時にイメージがすっきりと頭の中に入ってくる。牛乳配達や郵便配達のバイクの音」によって早朝という時間帯を表現しているのも,夏の早朝の「淡い日の出の光」も個人的に好き。緊迫した雰囲気を醸し出す,受験や部活動の大会の前といった時期の作品が多い中で,この作品は会話部分がポジティブであり,また,「始まり」という単語で文章を締めているので,他と比べて明るく感じる。文章全体を通して,読んだ後に残る余韻が全作品の中で一番良いと思った。以上のことから,この作品を選んだ。
52103
 午前七時半頃,鶴橋駅の,多くの人々で混雑している階段の下で私が見た短髪の少年は,ヘッドホンを首にかけて日本史の教科書を読んでいた。しばらくして,彼の友達と思われる少年が,電車の到着とほぼ同時に現れた。
「おはよ,日本史どう?」
「たぶん平均点ぐらいやと思う。」
と,短い会話を交わすと,二人は電車に乗った。

52110
 「午前七時半頃,鶴橋駅の,多くの人々で混雑している階段の下で」という表現がとても具体的で,想像しやすい。日本史を本格的に習い始めるのは高校からだし,「ヘッドホンを首にかけて」の描写は中学生より高校生らしくみえる。しかし,高校生であると断定はしにくいあたりがいい。会話の部分も「おはよ」や「やと思う」など,高校生が普通に使う言葉であり,気取らないところがいい。内容もなんということのないものだが,よくありそうな会話になっていると思う。 以上から,52103の作品がいいと思う。
52404
 まだ朝靄がかかっている坂道。『ZYOUYOU High School』とかかれたクラブジャージをまとい、大きなバッグを背負った一人の男子学生が、必死の形相で走っている。彼の横を通り過ぎる一台の車が速度を弱め、開いた窓から運転手が彼に声をかけた。
「朝練に遅刻か?急げよ!!」
生徒はその車が走り去ってから、
「先生だって遅れてんじゃん……」とあえぎながら呟いた。

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この作品を読んで、はっきりとその情景が浮かび、思わず微笑ましい気持ちになりました。何気ない描写なのですが、実際にあると思わせられる端的な文章による分かりやすさが気に入りました。その上、ユーモアさもあり、読んでいて楽しかったため、この作品を選びました。他の作品も描写は良かったのですが、内容が受験や部活での大会前といった個人的にありふれた気がしたものだったので、選びませんでした。
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朝霞のかかった坂道という部分が、男子学生が必死の形相で走っているということをイメージしやすくしていると思います。また、『ZYOUYOU High School』は僕の近所なので、親しみを感じてしまいいました。やはり、自分の身近なものやイメージしやすいものは好印象をうけます。また、先生の車での登場や、「朝練に遅刻か?」という言い方が、読んでる僕も以前の自分の経験を思い出し腹がたちました。また、最後の『あえぎながら呟いた』という部分は、本当は叫んでやりたいくらいなのに、走って疲れているのでいっぱいいっぱいという感じがすごく伝わってきてよかったです。
52455
「『ZYOUYOU High School』とかかれたクラブジャージ」という表現で導入からいきなり全体を描かずに、狭い視界から徐々に少年全体へと広がっていく導入が良かった。近づいてきた車に乗っている男をはじめから「先生」と表記せず、「運転手」としているところも物語の導入として、これから物語りに入っていくのに、読み手がすっと入れる気がした。あとは、「朝練に遅刻か?急げよ!!」といった先生に、その車が走り去ってから、「先生だって遅れてんじゃん……」と別にその先生に言うわけじゃなく、独り言みたいに言うのが面白い。あと「〜じゃん」っていう東京弁がよかった。
52405
 夜七時の本屋。学習参考書の棚で黒の学ランを着た少年が立ち読みをしていた。友人らしき人物に声をかけられた彼は数学U・Bの問題集を棚に戻した。
「試験前に休む先生とかホンマ最悪やし。」
そう言うと彼はもう一人の人物と共に店を出た。

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 どの作品も似通っていて、正直迷いましたが、次の三つの理由からこの作品を選びました。 一つ目が高校生だとわかる描写ということです。他の作品の中には、中学生か高校生かわからないものもあったので、数学U・Bの問題集という書きかたが良かったと思いました。 二つ目に、この作品のようなこと(「試験前に休む先生とかホンマ最悪やし。」)が僕自身の高校時代にもあったので、高校生の描写であると、すんなり受け入れることができた点です。 三つ目は、他の作品に比べて文章全体が短かったので、読みやすいように感じたということです。 以上三つが僕がこの作品を選んだ理由です。 時空間の描写や談話描写などはどの作品もちゃんと取り入れていたと思ったので、選ぶのには迷いました。それでも、選ぶ際には、自身の作品を外して他の人の作品同士で見比べたので、一応きちんとした理由で選んだつもりです。
52437
 日が落ち、時計の針は七時を指している。高校の門に、目の前を通り過ぎる車の光がかかる。門の中から自転車に乗った二人組が現れた。共に丸刈りで学生服姿、肩から大きなショルダーバックをかけている。
「明日の大会勝ちたいな。」と一人が言い、もう一人が笑って相槌を打った。
 グローブのはみ出たバックを揺らし、二人は暗闇へと消えた。

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「共に丸刈りで学生服姿、肩から大きなショルダーバックをかけている。」この時点では、登場人物は運動部員の男子生徒だという事しかわからない。しかし、「グローブのはみ出たバックを揺らし、二人は暗闇へと消えた。」と最後に描写されている事で、やっと野球部員だという事実が判明する。私はこのように、段階を踏んで新たな発見をすることに楽しみを感じるので、この作品が好きだと感じました。通っていた高校が部活動の盛んな学校だったこともあり、懐かしさも混ざりこの作品を選ぶに至りました。
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 夕焼けの運動場を、彼はこちらに向かってずかずかと歩いてきた。僕を見上げて、制服姿の彼は怒った。
「早く着替えろよ。明日は早いんだし、さっさと帰ろうぜ」
「明日かあ」
僕は言った。
「泣きながら、土を持って帰るのはいやだな」
彼は僕の背中をばしんとたたいた。

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 この作品を選んだ理由は、登場人物のおかれている状況がとても上手く表現されているからです。 一つ目に、『制服姿の彼』が「早く着替えろよ。」と言ったことから『僕』はまだユニフォームか運動服を着ていることがわかるし、二つ目に、「泣きながら、土を持って帰るのはいやだな」という表現から『僕』は明日に甲子園での試合を控えた高校球児だということがわかります。 さらに、文中で『制服姿の彼』と『僕』との友情もうかがえ、「短いのに深みのある文章だ」と一目で気に入りました。ほかの作品に目を通しても、この作品しかイメージがわかなかったので投票しました。
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「泣きながら、土を持って帰るのはいやだな」という自然な会話が、まず、良いと思いました。「泣きながら、土を持って帰る」ということは、甲子園で負けるという意味を自然に想像させて、その結果、彼は高校生であると悟らせることができているからです。また、「彼は僕の背中をばしんとたたいた」という表現は、その前のセリフと合わせて、引かれるものがありました。前のセリフのすぐ後に、これを持ってきたのは、良かったと思います。その他、「ずかずかと歩いてきた」という表現も良かったと思います。
52459
 吐く息が白くなるほどの肌寒い朝の電車の中、制服を着て、首にはマフラーをかけた一人の少年がいる。彼は緊張しているのか、どことなく強張った表情で手に持った単語帳に目を落としている。しばらくすると彼の元に同じ格好をした別の少年が現れた。
「いよいよ今日やな。」
その少年は来るなりそう言った。
「ああ、お前か……」
彼の表情が少し緩む。
「今更なにやっても変わらんやろ。」
「そうかもな……彼はそう言って手に持っていた単語帳をしまった。
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「強張った表情」や「表情が少し緩む」などの表情の移り変わりの描写から、少年の緊張感がひしひしと伝ってきた。また、「肌寒い朝の電車」や「マフラー」などから冬の寒さが伝わってきて、受験当日であることを直接言わずともしっかり伝えることができていると感じた。最も良いと思った箇所は、最初に出てくる少年の心理の移り変わりが克明にしるされていることだ。始めは、「緊張しているのか、どことなく強張った表情」であるが、「別の少年」の登場によって「表情が少し緩む」。そして別の少年の言葉を受けて「単語帳をしまった」。こういった少年の心理描写から、受験当日の緊張感や、見慣れた顔に安堵する気持ち、落ち着かない不安定な気持ちが察せられる。
52433
おそらくは今年のセンター試験の自身の経験談なのだろう。その時の情景がすごく鮮明に頭に浮かんだ。なぜなら、自分も同じような、他愛もない会話を友人としたから。作品中では「今更なにやっても変わらんやろ。」だが、自分は「(自分)さっきまでめっちゃ余裕やったのに会場近づいてきたらだんだん緊張してきたわぁ。」「(友人)お前それ1番かっこ悪いパターンやんけ。気ぃちっちゃいのぉ。」といった感じの会話であった。もうあれから10ヶ月も経つのに、この作品を読むと何故かつい最近の出来事のように感じたから選んだ。また、この作品に限らず、他の作品を呼んでも自分の経験と重ねて見えた。やはり受験前はみんな同じような考えで過ごしていたんだなぁ、と感じた。
54208
制服や単語帳、会話文からも、大学受験当日の学生のやりとりであることがすぐに読んでる側にわかる。一文目で季節と時間、少年の外見を読み取る事ができる。二文目で少年の行動、そして表情の描写が入ることで少年の現在の心情もうかがう事ができる。あとで登場する少年との会話で「彼の表情が少し緩む」ことから、緊張していたと思われる少年がいつもの友達と顔をあわせて、少し緊張がほぐれたという事もわかる。これらの点から見ても、この作品はその場面の描写によって少年の外見・内面、心情の変化をわかりやすく描いていて、良い作品だと思ったので選びました。
52104
最初に登場する人物の外見が分かりやすく描写されており、読み手はその少年を想像することが出来る。また『吐く息が白くなるほどの肌寒い朝の電車の中』というように空間の描写がよくされている。加えて、『彼は緊張しているのか、どことなく強張った表情』や、『彼の表情が少し緩む』というような細部の描写を、作者(52459さん)の視点を通じて描かれている所もいい。ただ、少年の描写が一方に偏っている気がする。もう一方の少年の描写もあったらいいと思った。
52486
ちょうど9か月前、僕もこんな感じだったなと思い、懐かしくなりました。そして、今年浪人中の僕の友人達に絶対に受かってほしいとゆう気持ちがわいてきました。作品中で一人の少年が友達に出会うとゆうシーンがある。「彼の表情が少し緩む」という描写がとてもうまいと思いました。寒い中一人でテストを受けにいくよりも、友達と出会って話したりしながら行くほうが気持ち的にもとても楽になるという心理が描かれている。これらのことから私はこの作品を選びました。
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 日が沈み、辺りが薄暗くなってきた。コンビニの前でブレザーを着た少年5人が地べたに大きなスポーツバッグを置き、パンを食べている。
「もうすぐ引退やな」
「そしたらもう受験や」
「嫌やなぁ」
一瞬黙り込んだが、1人がすぐにまた話し始めた。

52450
私がこの作品を選んだ理由は、二つあります。一つは、他の作品に比べて文章が読みやすいからです。ですが、「一瞬」という言葉の前に、主語を入れた方がいいと思います。また、地べたは地面とした方がいいとも思います。もう一つの理由は、登場人物が高校生かなぁと思わせるからです。この作品では、少年たちが高校生か中学生か、はっきりとはわかりません。ですが、彼らは五人で買い食いをしています。徒歩通学が基本の中学生ならば、同じ部活の五人が一緒に帰ることはあまりないと思います。以上の二点を考えて、私はこの作品を選びました。
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