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描写コンクール 第2回 作品と審査員評

51510
目覚まし時計が荒々しくなり始めた。
郵便配達のバイクがあわただしく走り去る。
隣の台所ではやかんがしゅんしゅんと音をたてる。
薄明るい朝日は、部屋を優しく照らしている。
庭の土は雪で覆われていた。
42431
視点は最後まで人間の視点で統一されているが、それだけに具体的で1つ1つの事象の目の付け所や表現がうまくされていて、イメージがすっと入ってくる。1〜3文目の荒々しく、あわただしく、しゅんしゅんとといった朝の忙しさに対して4文目を入れることで、読み手に忙しさの中にも場面をおおきく見る余裕が生まれる。さらに5文目を加えることでそれまでの何気ない普段の朝の背景が雪に変わり、それまで蓄積されていたイメージが一新されるという構成がおもしろいと思った。
52102
夜になっても暗くならない町。
空から白い雪が舞い落ちる。
大きなクリスマスツリーはきらきら光っている。
流れる歌は思い出の曲。
ショーウィンドウには沢山のおもちゃが飾られている。
52404
夜になっても暗くならない町、と始めに表現したことによって、客観的な視点が明らかになっていてよかった。また、流れる曲は思い出の曲、ということで人物はだしていないけど、どこか寂しげな雰囲気が感じ取れた。あとは個人的に今がクリスマスシーズンなので、それが嬉しくてこの作品を選びました。
52103
樫の樹にぶら下がっている,小さなどんぐり。風に吹かれて,そのどんぐりが落ちた。
次の日,それは「小さな前足」に拾われた。帰り道の途中で,「小さな前足」は「今日の収穫」を土の中に隠した。
次の年,すっかり忘れ去られてしまった小さなどんぐりは,土の中でひっそりと芽を吹いた。
52109
どんぐりという季節感のあるものの移動の過程を人間ではない動物の視点を使って書いているところが良い。具体的な動物名ではなく「小さな前足」としか表現せずに読み手の想像を掻き立てる点も気に入ったのでこの作品に投票しました。
52405
『「小さな前足」』という表現がでてきた瞬間は「ん?」と思ったのですが、次の文章の『「今日の収穫」を土の中に隠した。』というところから、小動物(リス?)が冬に備えて食料の備蓄をしているのだとわかりました。その時の「なるほど。」感が気に入り、投票しました。また、『「小さな前足」・小さなどんぐり』という言い方は、視点がそれらよりも大きいものからであることを思わせてくれ、作品の世界が小さくまとまっている感じがしました。『次の日・次の年』の対比も良いと思います。
52110
ねこがいる。
風が吹いた。
茶色い葉っぱが音を立ててどこかへいった。
ねこはベンチの下にかくれた。
丸くなってしまった。

42451
この作品は短い文章のみで構成されており、一文ごとに次の状況が与えられるようになっている。そのため、状況を把握しやすくわかりやすい文章であると思う。第一文で登場人物(ねこ)、第二文で状況、第三文で前文によって起こった状況の変化、第四文で登場人物の変化、そして第五文でねこは寒くなると丸々という習性を使ってうまくおとしている。この作品の視点を考えてみると、一つに限定できないのではないかと思う。飼い猫を愛くるしい眼差しで見つめ、屈んでいる時に起こったことかもしれないし、遠くにいる野良猫を何気なく見ていたときに起こったことかもしれない。このように読み手によって状況が変わり、様々な想像ができるという点がこの作品を選んだ最も大きな理由である。
52417
短い作品だけど、視点が一貫していてきれいにまとまっていると思う。変に形容しすぎず、淡々と描写しているので、おそらく晩秋の寂しさのようなものが読み手に伝わると思う。また、葉が落ちるのも、猫が隠れてまるくなるのも、冬の描写であり、秋の終わって行く様子を、とても上手く書いているように感じた。時間を表す表現はないけれど、この文章を読んだ人のほとんどが、晴れの夕方、またはうす曇りの午後を想像すると思う。シンプルな文章で寂しさが表現できていると思うからだ。他の作品は少し形容しすぎてゴチャゴチャしてるように思った。
52437
客観的に第三者の視点から書かれていたと思いました。 もう少し具体的に書いていても良かったかなと感じましたが、「ねこがいる」や、「風が吹いた」などの簡潔な文章は個人的に好きなので選びました。 お題が状況描写で、確か、人を出さないルールだったので、そのテーマに沿ったものを選んだつもりです。この作品が、一番描写っぽいと思いました。 他の作品の中にも、好きな作風のものはいくつかありましたが、描写かどうか迷う文のものや、人を描いているものは、候補から外して選びました。 五文という決められた制限の中で、この作品が他のものと少し違った書き方をしていたので目に留まったのだと思います。 状況を描写できていて、お題に沿っていると考えたのでこの作品に投票しました。
52405
太陽が少しずつ欠けていく。
まぶしい光が次第に月の影で覆われていく。
ダイヤモンドリング、そして昼間なのに闇の世界。
影を抜け、再び太陽は輝きを取り戻した。
街角で立ちどまって見ていた人々も、何事もなかったかのように活動を再開する。
52478
この作品では皆既日食の様子が描かれている。「太陽が少しずつ欠けていく」と「まぶしい光が次第に月の影で覆われていく」と「影を抜け、再び太陽は輝きを取り戻した」のこの3つの文章で皆既日食を見ている視点がゆっくりと動いていることが読み手にわかる。さらにもう1つの状況描写がある。人々は皆既日食を見るために立ち止まっていた。しかし皆既日食が終わった後、何事もなかったかのように動き始めた、という表現もまた視点が動いている。この2つの状況描写がいいなぁと思ったのでこの作品を選びました。
52435
「ミーン、ミーン、ミシミシシー。」
腹をせわしく震わせながら、音を出す無数の塊。
1匹がぽとりと地面に落ちた。羽は破れ、脚が1本欠けている。それでもなお、木の根元にしがみつき、夕日が沈みかけた空へと最後の音を響かせた。
41210
まず、冬という季節に夏のセミについて描いているのに好感を覚えた。どの文も多くの言葉を使ったりたくさんのことを語ったりしていないが、しっかりと適切な描写をしていると思う。描写の技術以外にも、その内容(命の儚さと、だからこそ秘める力強さ)にも感動を覚えた。私は今回描写をするのに何に注目しようか迷ったのだが、ここであえて小さな生き物の魅力を取り上げ、ここまでシンプルに、だが適切に描いているこの作品はすばらしいと思う。
54204
他の作品に比べて、視点はまったく移り変わっていません。しかし、この作品に惹かれたのは、作者の細やかな見方です。小学生のときにでも味わったことのあるような情景。そのどこか懐かしいような気持ちがわいてきます。また、セミの最後と夕焼けという情景の組み合わせもとてもきれいだと感じました。「羽は破れ、脚が1本欠けている。」と、実にリアルに表現されているのにもかかわらず、気持ち悪さがまったく生じない。これは、最後の情景の表現によるものだと思いました。このような結果からこの作品を選びました。
54205
作者のある夏の日の視点がセミに向けられているという所が、とても身近に感じられ、共感がもてました。というのも、私も毎年夏になるとセミと共に暮らしている(セミの鳴き声で毎朝目覚める)からです。夏の終わりになると木の根元でセミが死んでいたり、死にかけでもがいていたりするのをよく目にするので、本当にこの通りだな、今まさに息絶えようとしているその瞬間と命ある限り生きようとするセミの姿をうまく表現できているなと感じたので、この作品を選びました。
52437
 街灯が点く。暗闇の中にイチョウの木が浮かびあがる。黄色い葉の先から雫が落ちた。下に溜まった水溜りに波紋ができる。水溜りの平面が再び鏡のように戻ると、周囲もまた静寂につつまれた。
52103
「動」と「静」の移り変わりが視点の移り変わりと共に描かれていて,それが見事に合っていると思ったのでこの作品を選んだ。「街灯が点く」という「動」の描写に始まり,「静寂につつまれ」るという「静」の描写で終わっているが,視点に関しても,対象が上向きの視点となる「街灯」から始まり「雫」を経由して,下向きとなる「水溜り」へと移っていく。最後は「周囲」となって曖昧な感じがするが,それは逆に「雫」が「水溜り」に落ちた後の余韻を一層引き立てる要素となっていると思う。今回は「作品を選び,その作品を選んだ理由を『視点』という語を必ず用いて書かなければならない」ということですが,例えば一つの作品を選んだとして,もしその作品を選んだ理由に「視点」が全く関与しなければ,別の作品を選ぶしかないのでしょうか?
52450
この作品を選んだ理由は、この状況を見ている視点が移動していることがわかりやすいからです。まず、街灯とイチョウの木の描写から、全体を見ている視点があることがわかります。次に、葉の先とそこにあるしずくに視点が近づきます。そして水たまりに視点が下がります。最後にもう一度、周囲という形で全体を見るところに視点が移動します。全体から木の一部分に視点が移動し、少し木から離れてから、再び全体を見ているのです。ただ、最後の「周囲」の描写が、何を描写しているのかはよくわかりません。ですが、視点の移動がわかりやすいので、この作品を選びました。
52465
太陽がやっと顔を出しはじめた。
辺りはまだほのかに夜の静けさを感じさせる。
窓の外に吹きつける冷たい風。
中では暖かいミルクが柔らかな湯気をたてている。
いつの間にか窓は白く染まり外が見えなくなっていた。
52102
 最初は視点が外側にあるが少しずつ内に入ってくるが、最後にまた外に戻る。その順番とタイミングからとても風景が想像しやすく、描写という点で良いと感じたから。また、視覚的、聴覚的、触覚的要素がうまい具合に使われているので目をつぶって聞くと自分自身がこの視点と同調しあたかも自分の感じている状況かと錯覚する。さらに4文目の「中では暖かいミルクが柔らかな湯気をたてている。」で唯一家の中、暖かいというイメージを持たせて、その他の文を際立たせている。これらの理由により、この作品が一番良いと感じ、選んだ。
52465
太陽がやっと顔を出しはじめた。
辺りはまだほのかに夜の静けさを感じさせる。
窓の外に吹きつける冷たい風。
中では暖かいミルクが柔らかな湯気をたてている。
いつの間にか窓は白く染まり外が見えなくなっていた。
52104
「暖かいミルクが柔らかな湯気をたてている」という表現が気に入ったのでこの作品を選びました。「暖かい」と「柔らか」が対応していて、外の寒々とした景色を暖かい家からの視点で描写されており、眺めている状況がすんなりと想像出来ました。また、3行目までは家の外に視点を置き、4行目以降は家の中からの視点に置き換わっている。この書き分けが違和感なくなされているところもいいと思います。全体が冬のよくあら朝の光景をよく表しているところが好きでこの作品を選びました。
52447
 この作品は家の外の冷たさと、部屋の中の暖かさという2つに視点を置き、それをうまく対比させています。そして最後は「いつの間にか窓は白く染まり外が見えなくなっていた」とし、読み手は暖かい場所へ引き込まれていくような印象を受けます。また「朝」と言う語を使わずに、それでもはっきりと朝だとわかる描写をしています。これは作ろうと思うと意外と難しかったので、よけいにこの文章にひかれました。以上のような理由から、私はこの作品を選びました。
52473
コートにブーツ姿で街路を歩く女性たち。
信号が赤になり立ち止まる。
突然、風が吹いた。
彼女たちは一斉に身をすくませる。
信号が変わり、みんな足早に歩き始めた。
52428
単調な文章にも関わらず、状況が非常にリアルに伝わってきました。変に凝った文章よりも読みやすく、しかも正確に伝わっている点が良いと思います。ただ、作者がどこからの視点を想定して書いたのかが明確ではなかったのが残念です。私は「女性たち」を遠くから眺めているつもりで読みましたが、例えて言えば、自分も「女性たち」の中のひとりであるという視点からも読むことが出来ると思います。もう少し視点を限定する文が含まれていると良かったかもしれません。その点を除けば、余計な表現を切り落とし、最低限の描写でこれだけリアルな内容を伝えたこの作品は、非常に良かったと思います。
52478
うっすらと辺りが明るくなってきた。人々は白い息を吐きながら駅へ向かう。自然と足早になり、ただカツカツと靴音だけが響いている。
52424
「辺りが明るくなってきた」「白い息を吐きながら」の2文が早朝、それも冬の寒さを良く表していると思います。「人々は」に加え、「カツカツと靴音だけが響いている」の表現が駅へ向かう人々の流れをさながら俯瞰視点の様にこちらに思わせてくれます。文章の短さも選んだポイントで、与える情報をごくごく僅かに絞ったことがこちらの想像力を掻き立てる効果になっています。また、「カツカツ」の擬音が朝独特の冷たく澄み切った空気を良く表せていると思いました。
52486
冷たい風。暗くなった町。静まりかえる木々。
オリオン座が天で輝く。
52419
冷たい風という描写で、季節が冬だということが安易に想像出来る。また暗くなった町という描写で、設定が夜だということがわかる。更に静まりかえる木々という描写で、冬の夜独特の雰囲気を読者に感じさせることが出来る。そして最後の、オリオン座が天に輝くという描写で文全体を締め、読者に冬の夜の描写をイメージさせている。僕がこの作品を選んだ理由は、描写の視点が僕と似ていたこと。また、文が端的でありながら描写という条件をクリアしているし、何より一読した瞬間にその光景がありありと目に浮かんできたから。以上が僕がこの作品を選んだ理由です。
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