平成17年度 卒業論文
提出日:平成18年1月31日
平成17年度 卒業論文
卒業論文題目
大阪教育大学 教育学部 022441 陳 黎真 |
日本において、国語教科書に載せられている物語作品ほど、多く読まれている物語は無い。ではなぜ、教科書にはそれらの作品が選ばれ掲載されているのか。選ばれている物語教材には、何らかの特徴があり、そういった点を考慮して、教科書に掲載されるようになったのではないか、ということに大変興味を持った。
昨年、私の所属するゼミでは光村図書・東京書籍・教育出版の物語教材を対象に、主人公に焦点を当てて研究を行った。主人公に焦点を当てた理由は、小学生は物語を読む際に、主人公に自分を重ねたり、客観的に主人公を見つめたりしながら読んでいくのではないだろうかと考えたからである。その研究では、主人公の分析を中心に、主人公を取り巻く状況や、その状況における主人公の心理、物語中での主人公の態度など、いくつかの項目を立てて、個別に分析をしたり、組みあせて分析したりした。その結果、光村図書・東京書籍・教育出版の多くの物語作品では、主人公が行動することによって、状況に良い変化を与え、主人公の心理もよくなるというものだった。これは、低学年ではさらに顕著であった。また、学年が上がるに連れて、行動はしたものの、状況は変化しない、あるいは悪化してしまったが、その結果を受け入れようとする主人公が増えていくという傾向も見出せた。
そして、私は残る3社の大阪書籍・学校図書・日本書籍に掲載されている物語教材を含めるとどうなるのか、この傾向は変化するのか、あるいは変わらないのか、ということに興味を持ち、同じように主人公に焦点を当てて研究を始めることにした。
また、昨年の研究では注目しなかった、作品を構成する文字数・談話表現の割合などの叙述方法に関しても分析対象とし、これらと組み合わせることでまた違った特徴が見えてくるのではないかと考えた。
研究対象は、小学校教科書を出版している全6社(大阪書籍・学校図書・日本書籍・教育出版・光村図書・東京書籍)の平成16年度まで、各小学校で使用されていた国語教科書の物語教材、全118作品(重複は含まない)である。
以下に作品の一覧表を載せる。
1年生 | 2年生 | 3年生 | 4年生 | 5年生 | 6年生 | |
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大阪書籍 | おおきなかぶ どうぞのいす はんぶんこずつすこしずつ ぴかぴかのウーフ 天にのぼったおけや | いいものもらった お手紙 かさこじぞう コスモスさんからお電話です とらとふえふき | がんばれわたしのアリエル つり橋わたれ マーリャンとまほうの筆 やまんばのにしき 母さんの歌 | ごんぎつね 風のゆうれい 雨の夜のるすばん 一つの花 | 手紙 大造じいさんとがん 注文の多い料理店 | マコちゃん 川とノリオ |
学校図書 | いいものみつけた おおきなかぶ たぬきのじてんしゃ はじめは「や!」 ふしぎな竹の子 | かさこじぞう くま一ぴき分はねずみ百ぴき分 ひつじ雲のむこうに ぼくのだ!わたしのよ! | つり橋わたれ 海の光 大きな山のトロル 大砲の中のアヒル | ごんぎつね ポレポレ 小鳥を好きになった山 白いぼうし | チョコレートのおみやげ 注文の多い料理店 父ちゃんの凧 | アニーとおばあちゃん ロシアパン 青い花 |
日本書籍 | おおきなかぶ ねずみのおきょう ピーターのいす | お手紙 かさこじぞう クロはぼくの犬 草色のマフラー | アナグマの持ちよりパーティ ガラスの花よめさん モチモチの木 白いぼうし | ごんぎつね チィ兄ちゃん 海、売ります 海にしずんだおに | おいの森とざる森、ぬすと森 魔法使いのチョコレートケーキ | ふたりのバッハ 石になったマーペ 川とノリオ |
教育出版 | けむりのきしゃ はなび お手紙 おおきなかぶ 雨つぶ うみへのながいたび | アレクサンダとぜんまいねずみ うしろのまきちゃん ちょうちょだけに、なぜなくの きつねのおきゃくさま かさこじぞう | のらねこ わすれられないおくりもの おにたのぼうし 屋根のうかれねずみたち 消しゴムころりん | 一つの花 やい、とかげ ごんぎつね ホジャ物語 @二人の言いつけ Aめがね アーファンティ物語 @分量が足りない Aとられるもの、とられないもの 引っこし | ゆきわたり おはじきの木 五月の初め、日曜日の朝 | きつねの窓 川とノリオ 美月の夢 |
光村図書 | はなのみち おむすびころりん くじらぐも ずぅっと、ずっと、大すきだよ たぬきの糸車 ぼくんちのゴリ おおきなかぶ | お手紙 スイミー スーホーの白い馬 ふきのとう | きつつきの商売 三年とうげ ちぃちゃんのかげおくり モチモチの木 | 3つのお願い ごんぎつね 一つの花 白いぼうし | わらぐつの中の神様 大造じいさんとがん 新しい友達 プラム・クリークの土手で | きいちゃん やまなし 海の命 |
東京書籍 | サラダで元気 おおきなかぶ てがみ ゆきの日のゆうびんやさん | お手紙 かさこじぞう ニャーゴ まど 手紙をください 名前をみてちょうだい | テウギのとんち話 サーカスのライオン すいせんのラッパ ぼくはねこのバーニーが大好きだった | 世界一美しい僕の村 ごんぎつね とっときのとっかえっこ あ・し・あ・と | ちかい 注文の多い料理店 父さんの宿敵 | ヒロシマのうた 海の命 あの坂をのぼれば |
また、重複している作品は以下の通りである。出版社の後ろの数字は学年を表す。
おおきなかぶ | 大阪書籍1 | 学校図書1 | 日本書席1 | 教育出版1 | 光村図書1 | 東京書籍1 |
---|---|---|---|---|---|---|
かさこじぞう | 大阪書籍2 | 学校図書2 | 教育出版2 | 光村図書2 | 東京書籍2 | |
お手紙 | 大阪書籍2 | 日本書籍2 | 教育出版1 | 光村図書2 | 東京書籍2 | |
つり橋わたれ | 大阪書籍3 | 学校図書3 | ||||
モチモチの木 | 日本書籍3 | 光村図書3 | ||||
ごんぎつね | 大阪書籍4 | 学校図書4 | 日本書席4 | 教育出版4 | 光村図書4 | 東京書籍4 |
一つの花 | 大阪書籍4 | 教育出版4 | 光村図書4 | |||
白いぼうし | 学校図書4 | 日本書席4 | 光村図書4 | |||
注文の多い料理店 | 大阪書籍5 | 学校図書5 | 東京書籍5 | |||
大造じいさんとがん | 大阪書籍5 | 学校図書5 | 日本書席5 | 教育出版5 | 光村図書5 | 東京書籍5 |
海の命 | 大阪書籍6 | 光村図書6 | ||||
川とノリオ | 大阪書籍6 | 日本書席6 | 教育出版6 |
なお、各出版社の学年ごとの作品数は以下の通りである。
学年 | ||||||||
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1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 合計 | ||
出 版 社 |
大阪書籍 | 5 | 5 | 5 | 4 | 3 | 2 | 26 |
学校図書 | 5 | 4 | 4 | 4 | 3 | 3 | 24 | |
日本書籍 | 3 | 4 | 4 | 4 | 2 | 4 | 21 | |
教育出版 | 6 | 5 | 5 | 8 | 3 | 3 | 30 | |
光村図書 | 7 | 4 | 4 | 4 | 4 | 3 | 26 | |
東京書籍 | 4 | 6 | 4 | 4 | 3 | 3 | 24 | |
合計 | 30 | 28 | 26 | 28 | 18 | 18 | 148 |
昨年の研究同様、小学校物語教材の主人公に焦点を当てて分析すれば、低学年のほとんどの作品において、主人公は何らかの問題を解決する、あるいはしようと努力する、または自己の目標・目的を達成するタイプが多いだろう。そして、学年進行とともに、必ずしも解決・達成するのではなく、時には失敗したり、不満足な結果を受け入れたりするようなタイプが増えてくる、ということも同様だろう。
では、昨年の研究では行わなかった、学年進行や出版社ごとに見た、平均文長や談話表現の割合・思考動詞の割合はどうだろうか。
平均分長に関しては、学年進行とともに、高くなっていき、高学年であればあるほど、一文が長くなっていくと予想される。
逆に談話表現の割合については、登場人物の心情を読み取りやすい談話表現は低学年で最も比率が高く、学年が上がるにつれて、談話表現は減っていき、地の文が多くなっていくと思われる。
思考動詞の割合に関しては、分類語彙表−増補改訂版−(※1)によって、『精神および行為 【2.30心】〜【2.31言語】』に分類されている動詞、例えば思うなど、主人公の心の動きを表す動詞と、走るなど実際の動きを表す動きの比率を分析するのだが、これも低学年の方が思考動詞の割合は低いのではないかと思われる。というのは、主人公の心の動きより、実際の動きの方が分かりやすく、低学年の児童にとって主人公に重なりやすいのではないかと考えられるからである。
また、主人公に焦点を当てるという観点から、心理と主人公の行動の関係、談話表現の割合・思考動詞の割合と主人公の行動の関係はどうなるだろうか。心理は、主人公自らの働きかけたかによっての変化が最も多く見られ、主人公が何かを達成するタイプでは好転するであろうし、失敗するタイプでは暗転するというような、パターンどおりの分かりやすい結果になると予想される。
談話表現の割合と主人公の行動については、上記のように主人公が何らかの目的を達成するタイプも談話表現の割合と同様に、低学年に多いと予想されるので主人公の行動が達成タイプの作品は談話表現の割合が多いのではないかと予想され、また、談話が多いということは登場人物同士の交流が多いということであり、それを通じて主人公は何かを達成することが多くなるのではないかと予想される。
逆に、学年が進むにつれて増えると思われる思考動詞の割合は、結果を受け入れるタイプの主人公の作品の方が多くなってくるのではないかと予想され、また、思考動詞が多い作品ほど、主人公が状況に対して考えをめぐらせていると思われ、それが目的の達成につながり、受け入れるタイプの作品と同様に、達成タイプの作品も思考動詞の割合が高くなるのではないかと考えられる。
以上が、この研究から予想される結論であり、以下よりそれを検証していくことにする。
作品の叙述から、主人公を取り巻く状況、主人公の心理、そして主人公の行動を分析した。また、各作品の平均文長及び標準偏差、談話表現の割合、思考動詞・非思考動詞の割合を分析し、その分析結果を表にまとめた。全作品の一覧表は最後のページに掲載している。
そして、これらの項目と学年・出版社・主人公の行動とを組み合わせて、表を作りグラフ化した。
第1章第2節の仮説を考えるために、叙述内容に関して、「状況(始)・状況(終)」「心理(始・心理(終))」「主人公の行動」の3つの項目を立て分析を行った。
物語において、主人公を取り巻く状況あるいは心理に影響を与える叙述を「事件」とし、その前を「状況(始)」、その後を「状況(終)」とする。そして、それぞれの状況について、プラスと解釈できるものを「+」、マイナスと解釈できるものを「−」、どちらとも解釈できないものを「0」とする。また、「状況(始)」が「−」、「状況(終)」が「+」とあるものを組み合わせて「−+」と表記する。他の組み合わせも同様である。なお、「+−」「+0」「0−」を暗転型、「−−」「00」「++」を不変型、「−0」「0+」「−+」を好転型とする。
第1項と同様にそれぞれの状況における主人公の心理について、プラスと解釈できるものを「+」、マイナスと解釈できるものを「−」、どちらとも解釈できないものを「0」、どちらとも解釈できる心理をプラスマイナス「±」とする。また、「心理(始)」が「−」、「心理(終)」が「+」とあるものを組み合わせて「−+」と表記する。他の組み合わせも同様である。なお、「+−」「+0」「0−」を暗転型、「−−」「00」「++」を不変型、「−0」「0+」「−+」を好転型、「0±」を特殊型とする。
主人公の行動については、状況の変化と関連付けて分析し、「達成」「失敗」「受容」「成り行き」「不満」「無力」の6つに分類した。
・ 「達成」:主人公自らが状況に働きかけ、状況が変化し、その結果に主人公が満足しているタイプ。例:「おおきなかぶ」
・ 「失敗」:主人公自らが状況に働きかけたが、状況の変化の有無を問わず、その結果に不満があるタイプ。例:「引っこし」
・ 「受容」:主人公自らが状況に働きかけたかを問わず、状況は変化がしなかったが、その結果に満足しているタイプ。例:「五月の初め、日曜日の朝」
・ 「成り行き」:主人公自らは状況に働きかけていないが、状況が変化し、その結果に満足しているタイプ。例:「やい、とかげ」
・ 「不満」:主人公自らが状況に働きかけもせず、状況も変化しなかったが、その結果に不満があるタイプ。例::該当なし
・ 「無力」:主人公が状況に対して為す術も無いタイプ。例::「世界一美しい僕の村」
同様に、叙述方法に関して、「平均文長・標準偏差」「談話表現の割合」「思考動詞・非思考動詞」の4つの項目を立て分析を行った。
地の文において、句点から句点を一文とし、その一文における文字数を「文長」とした。そして、作品ごとに文長を合計し、文の数で割ったものを「平均文長」とする。また、その平均文長からの差異を表す目安を「標準偏差」とする。
作品において括弧書きされている文字数の合計を、地の文の文字数の合計で割り、百分率で表したものを「談話表現の割合」とする。
作品中の動詞を全て抽出し、分類語彙表−増補改訂版−(※1)によって、『精神および行為 【2.30心】〜【2.31言語】』に分類されている動詞を「思考動詞」、それ以外の動詞を「非思考動詞」とする。また、「思考動詞」の数を「非思考動詞」の数で割り、百分率で表したものを「思考動詞の割合」とする。
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1年生:好転型が77%・不変型が20%・暗転型が3%
2年生:好転型が68%・不変型が21%・暗転型が11%
3年生:好転型が47%・不変型が46%・暗転型が 8%
4年生:好転型が22%・不変型が46%・暗転型が32%
5年生:好転型が39%・不変型が61%・暗転型が 0%
6年生:好転型が45%・不変型が22%・暗転型が33%
【考察】
低学年において好転型が多く、学年が上がるにつれて、好転型の割合が減り、不変型・暗転型が増加していくというのは、予想通りであり、最初に楽しい作品から入り、徐々に多様な作品を読ませていこうという意図だと考えられる。
しかし、4年生・6年生共に暗転型が30%台なのに対して、5年生は0%だった。4年生の暗転型には主人公が死んでしまう「ごんぎつね」が含まれ、この作品は全出版社に掲載されているために、4年生で合計6回重複してカウントされてしまったために、4年生の暗転型が大きくなったと考えられる。6年生の暗転型作品は戦争を契機に状況が悪化するものが多く、傾向どおりであった。
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光村:好転型が46%・不変型が39%・暗転型が16%
大阪:好転型が68%・不変型が25%・暗転型が 8%
学校:好転型が65%・不変型が21%・暗転型が13%
教育:好転型が30%・不変型が57%・暗転型が13%
日本:好転型が44%・不変型が38%・暗転型が19%
東京:好転型が59%・不変型が25%・暗転型が17%
【考察】
教育出版を除く5社が、好転>不変>暗転という比率になっている。低学年は物語教材の数が他の学年に比べて多く、そのほとんどが好転型であるためである。この点から、各出版社はまず好転型の物語に触れさせることで、物語に対する印象を楽しい物とする狙いがあると考えられる。また、教育出版において不変型が多くなったのは、4年生で状況への働きかけではなく、心の持ち方を変えるとんち話が多かったため、不変型が最も多くなったと考えられる。
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1年生:好転型が74%・不変型が23%・暗転型が3%
2年生:好転型が61%・不変型が32%・暗転型が 8%
3年生:好転型が65%・不変型が27%・暗転型が 8%
4年生:好転型が39%・不変型が29%・暗転型が11%・特殊型が21%
5年生:好転型が61%・不変型が23%・暗転型が 0%
6年生:好転型が56%・不変型が17%・暗転型が28%
【考察】
低学年では5作品を除いて全てが「+」で終わっていることから、やはりまず物語は楽しいものという印象を与えようとしていると考えられ、そこから読書に興味を持たせたいという意図がうかがえる。また、学年が上がるにつれて、主人公の心理も多様になっている。特に6年生では暗転型、しかも「+−」と最も大きく悪化するタイプが増加している。これは戦争教材が大きな要因であり、この年齢になって、主人公が大きく落胆する作品も読めるようになると出版社が考えて掲載しているのではないかと考えられる。
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光村:好転型が69%・不変型が23%・暗転型が4%・特殊型が4%
大阪:好転型が71%・不変型が17%・暗転型が 8%・特殊型が4%
学校:好転型が69%・不変型が17%・暗転型が 8%・特殊型が4%
教育:好転型が43%・不変型が46%・暗転型が 7%・特殊型が3%
日本:好転型が57%・不変型が19%・暗転型が19%・特殊型が5%
東京:好転型が63%・不変型が25%・暗転型が 8%・特殊型が4%
【考察】
全社を通して好転型の「−+」が40%前後を占めている。また、教育出版を除いて出版社ごとの差異は特に見出せなかった。教育出版のみは、好転型と不変型の割合がほぼ同じである。これは状況同様、教育出版の4年生には短編のとんち話が4作品カウントされているため、他社との傾向が異なったのだと思われる。全体としてはやはり、掲載する物語作品の多くは主人公の心理が好転するタイプが多く、そこから物語の楽しさを伝えようと意図していると考えられる。
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1年生:達成が67%と最も高く占め、次いで受容が20%である。
2年生:達成が61%と最も高く、次いで受容・成り行きが14%を占める。
3年生:達成が38%と最も高いが、受容も35%とほぼ同比率である。
4年生:3年生と同じく達成が39%と最も高いが、受容も36%を占めている。
5年生:受容が50%と半数を占めていて、他はほぼ同比率になっている。
6年生:達成が44%と最も高く、次いで無力が28%である。
【考察】
5年生を除き達成が最も高かった。しかし、3年生・4年生・5年生では受容が35%・36%・50%と増加している。主人公の行動に関しても学年が上がるにつれて、達成が減り、それ以外のタイプが増加することが分かった。これも状況・心理同様、まずは主人公が何かを達成する作品を読ませることで、達成する喜びや大切さを学ばせ、次に、時には失敗やそれを受け入れることも必要であるということを考えさせるために、掲載作品はこういう傾向を示していると考えられる。
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光村:達成が50%と半数を占め・受容が35%である。
大阪:同様に達成46%・受容25%の順である。
学校:達成が43%と最も高いが、次に成り行きが30%となっている。
教育:達成が32%と最も高いのは変わらないが、受容も30%とほぼ同比率である。
日本:達成が52%・次いで受容が33%・無力が14%とこの3種のみである。
東京:達成が58%と全社中最も高い比率である。
【考察】
教育出版を除けば、大半の作品において主人公は何らかの目的を達成している。この点から、小学校においては、物事を達成することの大切さが重視されていると考えられる。唯一教育出版だけは、多様なタイプの主人公像を読ませることで、物語の多様さ、そしてそこから感じられる物語の面白さに重点を置いているのではないかと考えられる。
出版社 | |||||||
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大阪書籍 | 学校図書 | 日本書籍 | 教育出版 | 光村図書 | 東京書籍 | ||
学 年 |
1 | 29.08 | 24.46 | 29.07 | 25.18 | 24.96 | 29.64 |
2 | 27.76 | 27.52 | 28.97 | 25.86 | 25.32 | 26.03 | |
3 | 28.33 | 27.22 | 31.51 | 27.97 | 31.01 | 28.65 | |
4 | 33.78 | 30.4 | 33.33 | 40.22 | 31.79 | 24.87 | |
5 | 38.22 | 37.03 | 37.33 | 30.28 | 35.85 | 33.88 | |
6 | 32.01 | 30.04 | 33.42 | 26.12 | 35.36 | 31.47 |
【考察】
どの出版社も基本的には学年が上がるにつれて、一文の長さが増えている。だが、予想外だったのは、教育出版を除いて、平均文長のピークが6年生ではなく、5年生にあることである。また教育出版のピークは4年生であり、その値も全社全学年中最も高くなっている。これは、各出版社が、児童が長文を読む能力の成長は5年生くらいまでと考え、それ以降の6年生は長文よりも、内容を読むことを重視しているのではないかと考えられる。
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1年生:10%以上30%未満が66%と最も高い。
2年生:30%以上40%未満が36%と最も高く、他はほぼ同比率である。
3年生:20%以上30%未満が46%を占め、それ以上の割合が42%である。
4年生:20%以上40%未満が64%と半数以上を占めている。
5年生:30%以上40%未満を除き、各割合ともに、近い比率である。
6年生:10%以上20%が半数を占めている。次いで10%未満が22%である。
【考察】
地の文に比べて、談話表現は登場人物の心情が読み取りやすいと思われる。そのため、低学年をピークに、学年が上がるにつれて、談話表現は減少すると予想していた。しかし、低学年に比べて、中学年・高学年の比率が低いということも無く、むしろ高い場合もあった。これは、低学年では談話表現でなく、平易な地の文が多用されている点と、登場人物の視点ではなく、地の文での作者の語りが中心となっている作品が多いからであると考えられる。また、中学年や5年生で比率が高くなっているのは、地の文がやや難しくなり、それを補う形で談話表現による登場人物の心情を説明するという形が多いからだと考えられる。6年生は当初の予想通り、談話表現の割合は全学年中最も低くなっている。
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光村:最も高い比率を示しているのが20%以上30%未満で31%である。50%以上のものを除けば、他はほぼ同比率である。
大阪:同様に33%である。次いで30%以上40%未満が21%で、他は同比率になっている。
学校:同様に33%である。その前後が22%であり、次いで40%以上50%未満が17%である。
教育:同様に23%であるが、40%以上50%未満を除いて、他はほぼ同比率になっている。
日本:同様に38%である。次いで10%以上20%未満が24%、30%以上40%未満が19%となっている。
東京:同様に29%である。10%未満を除いて、他はほぼ同比率である。
【考察】
表・グラフから、各社とも最も比率が高いのは10%以上40%未満であることが分かった。また、表からは教育出版や東京書籍が50%以上の作品を多く掲載し、グラフからは東京書籍や大阪書籍が極端に談話表現の割合が高い作品を掲載していることが分かった。それ以外にはこれといった特徴は見出せなかった。
このことから、学年進行に合わせて、談話表現の割合は考慮されていると考えられるが、出版社ごとに何らかの特徴をだそうとはしていないことが分かった。
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1年生:10%未満が100%を占めている。
2年生:10%未満が54%で半数を占めている。
3年生:10%以上20%未満が73%を占めている。
4年生:10%以上20%未満が46%と最も高比率だが、10%未満も39%と差は小さい。
5年生:10%以上20%未満が56%であり、10%未満・20%以上30%未満が22%ずつである。
6年生:10%以上20%未満が67%であり、10%未満・20%以上30%未満が17%ずつである。
【考察】
予想通り低学年、特に1年生ではグラフから、全ての作品に思考動詞が5%以下であるということが分かった。しかし、2年生では思考動詞が増加していると考えられるが、それ以降はほぼ横ばいであり、高学年になるにつれて思考動詞が増加していくという予想とは異なる結果となった。このことから、掲載する作品を選ぶ際には、思考動詞という点については考慮されていないと思われる。
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光村:10%未満・10%以上20%未満が46%ずつであり大半を占めている。
大阪:10%未満が63%・10%以上20%未満が38%の2種類のみである。
学校:10%以上20%未満が48%・次いで10%未満が39%である。
教育:10%以上20%未満が40%・次いで10%未満が37%である。
日本:10%以上が48%・10%以上20%未満が43%であり、大半を占めている。
東京:10%未満が42%・10%以上20%未満が38%・20%以上30%未満が21%と少しずつ比率が低くなっていっている。
【考察】
表やグラフから分かるように、出版社ごとには思考動詞に関して、特にこれといった特徴は見出せない。唯一言えそうなことは、教育出版において、極端に思考動詞の割合が高い「ホジャ物語@二人の言いつけ」が掲載されているという点のみであった。このことから、学年と同様に出版社ごとに作品を掲載する際に、思考動詞の多寡は考慮されていないだろうと考えられる。
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達 成:好転型が72%を占め、残りの19%は暗転型である。また特殊型が9%を占める。
失 敗:不変型が45%を占め、次いで好転型・暗転型がともに27%を占める。
受 容:好転型が51%を占め、不変型が41%、暗転型が7%を占める。
成り行き:好転型が93%を占め、残りの7%は不変型である。
無 力:暗転型が54%を占め、次いで好転型が31%、不変型が16%である。
【考察】
予想通り達成には好転型が多かった。しかし、失敗で最も多かったのは暗転型ではなく、不変型であった。もっとも、その不変型は「−−」というようにこれ以上心理が悪化しようが無い状態であるため、このように結果になった。また、主人公は行動せず、他人の働きかけによって状況が変わる成り行きでは、好転型が93%であった。このことから流れに身を任せるような行動も、時には必要であると作品を通じて言おうとしているのではないかと考えられる。無力については、該当する作品の大半が戦争教材であるため、暗転型が46%と最も多いのは予想通りだが、次いで好転型が31%である。これは、たとえ理不尽な状況下でも、前向きな考えが持てるように意図された作品があると考えられる。
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達 成:10%以上30%未満が56%を占め、次いで30%以上40%未満が22%である。
失 敗:20%以上30%未満が45%を占め、次いで40%以上50%未満が36%である。
受 容:20%以上40%未満が44%を占め、他はほぼ同比率である。
成り行き: 20%以上30%未満が43%を占め、次いで40%以上50%未満が21%である。
無 力:20%以上30%未満が46%を占め、次いで10%未満が31%である。
【考察】
どのタイプも最も比率が高かったのは、20%以上30%未満であり、主人公の行動と談話表現の割合は特に関係が無いという結果だった。談話表現の多寡によってだけでは、主人公の行動は影響を受けず、他の要素が関わるということである。
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達 成:10%未満が59%を占め、次いで10%以上20%未満が29%を占める。
失 敗:10%以上20%未満が55%、次いで10%未満が36%を占める。
受 容:10%以上20%未満が46%、次いで10%未満が37%を占める。
成り行き:10%以上20%未満が64%、次いで10%未満が29%を占める。
無 力:10%以上20%未満が62%、次いで10%未満が23%を占める。
【考察】
達成は10%未満が59%と最も高く、他の4つは10%以上20%未満が順に55%・46%・64%・62%と最も高かった。このことから、談話表現の割合と同様、思考動詞の割合は主人公の行動に何ら影響を与える物ではないということが分かった。
叙述内容の分析のための項目「状況(始)・状況(終)」、「心理(始)・心理(終)」、「主人公の行動」に関しては、昨年の研究同様、低学年では好転型の作品が主に掲載され、主人公の行動も達成タイプのものが一番多く、学年が上がっていくにつれて好転型の割合が減っていき、主人公の行動も受容や失敗・成り行きタイプが増加し、多様化していく傾向があり、また4年生以降には戦争教材が掲載され、主人公の行動が無力となるタイプが現れてくる点も昨年同様であり、叙述内容に関しては昨年の光村図書・東京書籍・教育出版に学校図書・日本書籍・大阪書籍を加えても、学年進行が大きく関わっているということが結論として言えるだろう。出版者については、教育出版を除いて、大きな差は無かった。教育出版は主人公の行動ごとの割合が他の5社に比べて、平均化されていて、多様な主人公のタイプを読ませることに重点を置いていると考えられる。
次に、叙述方法の分析のための項目「平均文長・標準偏差」「談話表現の割合」「思考動詞の割合」に関しては、予想とは異なる結果であった。平均文長に関しては最も文長が長かったのは教育出版のみ4年生で、他の出版社は共に5年生であり、6年生で最も平均文長が長くなるというわけではなかった。また、談話表現の割合と思考動詞の割合については、学年進行とともに変化すると予想をしていたが、実際は学年進行に左右されることなく、談話表現の割合については20%以上30%未満に集中し、思考動詞の割合については、低学年で割合が低かったのは予想通りであったが、学年が上がっても10%以上20%未満のまま、大きな変化が見られなかった。結論として、これらの叙述方法は叙述内容に比べて学年進行に大きな影響を受けていないということが言えるであろう。また、出版社ごとにも、平均文長に関して教育出版が他の出版社と違っていたことを除けば、概ね似通っていて、出版社ごとに何らかの特徴があるというようなことは無かった。
また、主人公の行動と心理、談話表現の割合・思考動詞の割合の組み合せについては、心理との組み合わせでは予想の通り、典型的な変化を示した。しかし、談話表現の割合・思考動詞の割合については、予想に反して、主人公の行動と特に大きな関わりはないという結果になった。このことから、この研究で考えた叙述内容と叙述方法の間には、特に大きな関係が無いということが結論として言える。
今回の研究は小学校の物語教材前118作品を対象に、主人公に焦点を当てて分析し、また叙述方法についての分析も行い、上記の結論が得られた。小学校の国語教科書について、さらに研究を進める方法として、説明文や詩に関しても、同様に項目を考えて、その個数を計算する方法を通して、作品ごとの傾向を考える研究が可能だと思われる。また、中学校の物語教材や高等学校の物語教材との比較、そして改定前の教科書などとの比較を通して、小学校国語教科書に掲載されている物語教材がどういった変遷を経ているのかという研究も考えられる。
この研究を通して、私は小学校の物語教材を何度も読み返したおかげで、タイトルを聞けば、あらすじが言えるようになった。この知識を、卒業後の教員生活で生かしていきたいと思う。
最後に、この研究を進めるに当たって、指導教員である野浪正隆先生には、内容に関する助言のみならず、データの集計方法やデータの運用方法に関しても教えていただき、何より、膨大なデータを処理するためのプログラムを書いていただき、本当にありがとうございました。このプログラムなしでは、この研究は進まなかったことでしょう。これから自分でも少しずつ勉強していきたいと思います。
また、2年間表現ゼミで一緒だった同回生の皆さんや、後輩・先輩方からは、色々な知識や刺激をいただき、この2年間はとても充実し本当に楽しい2年間でした。どうもありがとうございました。
国立国語研究所編 (2004) 「分類語彙表−増補改訂版−」 大日本図書 (※1)