大阪教育大学国語教育講座野浪研究室←戻るcounter

平成24年度 卒業論文

小説結末部における裏切り表現の研究
〜星新一ショート・ショート作品を対象にして〜

大阪教育大学 教育学部
小学校教員養成課程 人文・社会系 国語専攻
国語表現ゼミナール
092425 北村行宏
指導教官 野浪正隆先生

目次

はじめに
 題設定の理由
第一章 課題解明の方法
 第一節 研究対象
 第二節 小説の結末部について
 第三節 星新一について
  第一項 星新一という人物
  第二項 ショート・ショートという作風
  第三項 SFについて
第二章 研究方法・分析項目・分析結果
 第一節 主人公
  第一項 「主人公のタイプ」
  第二項 「主人公の心理の変化」
  第三項「主人公の状態の変化」
 第二節 「話題」と「結果」
  第一項 「話題」
  第二項 「結果」
 第三節 物語の進められ方
  「進め方」
 第四節 読者の予想を裏切る効果
  第一項 「読者を引き戻すもの」
  第二項 読者の予想を「裏切るもの」
 第五節 作品の結び方
  「結び方」
第三章 相関関係
 第一節 「主人公のタイプ」と「話題」
 第二節 ストーリータイプ
 第三節 裏切りの効果を生み出す話の作り
第四章 まとめ
第五章 今後の課題
参考文献・研究対象作品一覧


はじめに

 題設定の理由

 小説には、話の結末部で思いもよらない結末をむかえる「どんでん返し」という表現がある。その表現は読者の意表を突き、驚きを与え、面白さを提供する。私はそういった作風を用いる作品の中でも、星新一のショート・ショート作品を愛読している。それらの作品は短い文章量にもかかわらず、いずれも結末部の展開がこちらの予想をこえるものばかりで、私はそこに面白みを感じている。そういった作品を読むうちに、私はそういった作品の結末やオチには何かしらの法則があるのではないかと興味を持つようになった。そういった作品の結末はバラエティに富んでおり、主人公が亡くなるものや、作中で生じた問題が未解決のまま終わるもの、思いがけない人物が得をするのどさまざまなものが存在する。しかし、いずれも読者の意表を突く面白いものばかりである。そこで私はそれらの作品の表現特性に何かしらきまりがあるのではないかと考え、今回「小説の結末部における裏切りの表現特性の研究」というテーマで研究に取りかかった
 なお、「どんでん返し」をはじめとした思いもよらない結末を読者に与える表現には、作品を読み進める中で読者に実際とは異なる話の結末を予想させる、または結末の見当もつかせさせない必要がある。そいれゆえに、作中で読者に話の結末を予想をさせ、さらにその予想を裏切るものが作品中に存在すると考えられる。今回それを「読者を裏切るもの」とし、それを用いて読者を裏切る文章表現を「裏切り」の表現とした。

第一章 課題解明の方法

第一節 研究対象

 今回の研究は、話の結末部において読者の予想を裏切る小説作品に見られる文章表現の特性を分析する。研究対象として、星新一の代表的な作品集『ボッコちゃん』『ようこそ地球さん』『悪魔のいる天国』の中からショート・ショート作品105作をあげ、その特性を探っていく。

第二節 小説の結末部について

研究を進めるにあたって、やはり作品の結末部に焦点を当てるべきだと考えた。そこで小説中での結末部について、参考文献をもとに整理しておく。

 物語の構成要素として「起承転結」というものがある。

起=物語の発端
 主人公が、あるきっかけを受け、何かの目的を持ち、行動を起こす部分。

承=物語の展開
 様々な困難やピンチと取り組みながら、主人公が目的達成のために進んでいく。物語の中で、最もウェートの重い部分。

転=クライマックス
 目的が半ば達成される(あるいは失敗に終わる)部分。すんなり達成(終結)させたのでは、クライマックスにならない。読者の予想を良い意味で裏切るのが作家の腕の見せどころ。

結=物語の結び
 目的の達成、あるいは失敗が、主人公に何をもたらしたのか?環境の変化は?主人公の心情は?など読者にとって納得のいくラストシーンを考える必要がある。このラストにも意外性があれば、なお良い。
『作家デビュー完全必勝講座 若桜木流奥義書』若桜木 株式会社文芸2002年p28

 ここで作品の結末部とは、クライマックスの後に訪れる物語の結びの部分であると示されている。しかし星新一作品は、物語の結びの部分において目的の達成、失敗、主人公にどのような変化が起こったのかなどを明記しないものも多い。また、クライマックスと結末部が融合し、結末部の役割がクライマックスにおいてなされるものもよくみられる。その場合、裏切りの表現がクライマックスに位置するところで登場することもある。今回は裏切りの表現を研究対象としているため、読者を裏切る表現がみられる個所を結末部とした。

第三節 星新一について

 第一項 星新一という人物

 星新一について、引用をあげて説明する。

 大正15(一九二六)〜平成9(一九九七)。東京都生まれ。本名親一。東京大学農学部卒業。大学卒業後は家業の製薬会社を手伝ったが、父の死後、経営不振におちいり、苦闘ののち会社を他人に任せた。昭和32(一九五七)年、同人誌に書いた『セキストラ』が注目を浴びる。続く『ボッコちゃん』(昭32)や『おーいでてこーい』(同)も好評で、翌年から多くの作品を発表しはじめた。昭和36年には作品集『人造美人』と『ようこそ地球さん』を刊行。ショート・ショートという形式を確立した。現代社会を鋭く風刺する作品が多く、拾い読者層を持つ。『気まぐれロボット』(昭38)、長編『声の網』(昭45)などがある。
『シグマ 新国語便覧』国語教育プロジェクト(代表 仲光雄) 文英堂 2003年p.233

 星新一は以上のような経歴を持つ作家である。彼はSF同人誌で作品を発表し続け、日本におけるショート・ショートという作風を確立したことで有名な作家である。また彼は、自ら作風について以下のような特徴があると述べている。

 書く題材について、私はわくを一切もうけていない。だが、自ら課した制約がいくつかある。その第一、性行為と殺人シーンの描写をしない。希少価値を狙っているだけで、べつに道徳的な主張からではない。もっとひどい人類滅亡など、何度となく書いた。第二、なぜ気が進まないのか自分でもわからないが、時事風俗を扱わない。外国の短編の影響でもあろうか。第三、前衛的な手法を使わない。ピカソ流の絵も悪くないが、怪物の写生にはむかないのではないだろうか。発想で飛躍があるのだから、そのうえ手法でさらに飛躍したら雑然としたものになりかねない。
『SFの時代 日本SFの胎動と展望』石川喬司 奇想天外社 1977年p.38

 @性行為と殺人シーンの描写をしない。A時事風俗を扱わない。B前衛的な手法を使わない。以上のように三つの制約があげられている。確かに今回確認した作品には@とAに当てはまるものは見られなかった。しかし、Bの前衛的な手法をとるものがみられたのでここにあげる。
 それは「殺人者さま」という作品である。この作品はある女性の遺書という形式をとった文章であり、その中で自らが犯した罪の告白と、自殺する決意を持つまでの経緯が語られている。その女性は自分よりも美しい友人をねたみ、電話で嫌がらせをしていたが、そのことが原因で友人が自殺してしまう。彼女は自らが引き起こしてしまったことへの罪悪感からノイローゼになる。そこで、見ず知らずの誰かに電話をかけ、その話を聞いてもらうことで、自らを苦しめる罪悪感からの解放を求めた。しかしいざ相手が電話に出ると言葉を発することができず、電話をとった人物には間違い電話として処理されてしまう。自らを救うすべがないと悟った彼女は、絶望するとともにその見ず知らずの相手を恨み、自らと同じ罪悪感に苦しめられる日々を過ごさせようと考える。そこで自らが自殺する際に、そのことを記した遺書をビンにつめて海に流す。そうすることにより、その遺書の内容がどこかの作家の耳に届き、その作家によって作品として世に出まわる。そして電話の相手がその作品を読むことで、事の真相に気づき、罪悪感にさいなまれるだろうと、その可能性を示唆して締めくくられている。
 この作品は読者を裏切る効果を生むものとして、誰もが体験したことがあるであろう「間違い電話がかかってきて、無言のまま切れてしまう」という出来事が利用されている。そういった経験をした読者全員に、自らが殺人者であるかもしれないという可能性を示し、驚きを与えるのである。つまりこの作品は普段読者の身に起こりうることを利用し、内容が作品世界を飛び出して、現実世界に物語とつながるという独特な手法をとっているのだ。作品世界内でのみ物語が展開されるという常識をくつがえし、読者に意外性を与えるという、前衛的な手法によって読者を裏切る効果を生じる作品であった。
 しかし先ほどの引用で挙げたように、星新一は前衛的な手法を用いることにこだわっておらず、またそういった作品はほとんど見られなかった。それに加え、そういった手法で表現されている作品がショート・ショートとして扱われるかどうかがあいまいであるため、今回はこの作品を例外として扱った。

 第二項 ショート・ショートという作風

 ショート・ショートについて、引用をあげて説明する。

 ショート・ショートとは、ショート・ショート・ストーリーの略で、文字どおり〈短い短編小説〉のことである。アメリカのある評論家は、〈約千五百語の中に短編小説固有のすべてのドラマを含むもの〉と定義し、@新鮮なアイデアA完全なプロットB意外な結末―の三つを必要な要素として挙げている。もともとわが国には岡田三郎の提唱したコントの伝統があり、純文学の分野では川端康成の〈掌の小説〉群、大衆文学の分野では渡辺温の『兵隊の死』のような傑作が生まれているが、戦後は星新一の活躍で、もっぱらSFや推理小説の変種のように受け取られているようだ。
『SFの時代 日本SFの胎動と展望』石川喬司 奇想天外社 1977年p.34
 ショート・ショートの形式は星新一によってはじめられたと言ってよかろう。コントの系列に立つものだが、むしろSFやミステリーを媒介とし、ファンタスティックな次元に花ひらいたものだ。星新一ファンタジーやナンセンス、それにSFやミステリーなどのエッセンスをとりこみ、宇宙時代の開幕にふさわしい形式として、このショート・ショートをつくりだしたのだ。
『ちぐはぐな部品』星新一 解説 尾崎秀樹 角川書店 昭和47年p.269

 日本におけるショート・ショートという作風は星新一によって確立されたものであると記されている。またその作品には、一つ目の引用で挙げられた@新鮮なアイデアA完全なプロットB意外な結末という三つの要素が確かに存在すると考えられる。それゆえ本研究では、それらの3要素に着目して研究を行う。

 第三項 SFについて

 星新一はSF作家としてショート・ショート作品を執筆していた。そこで、SF作品についてもふれておく。

 おもに20世紀に盛んになった文学ジャンルで、科学の発達とその驚異を取り扱い、それが未来、架空の現在もしくは過去のこととして設定される。対象となっている科学も、事実に基づく場合から、こじつけ、矛盾にいたるまで多様である。ただ小説全体を通じて、科学的態度、方法、用語に対する少なくとも表面上の忠実さからくる真実らしさが要求される。
『ブリタニカ国際百科事典』
 Science fictionの略。科学小説とも。M.シェリーの《フランケンシュタイン》などを先駆とし、J.ベルヌ、H.G.ウェルズが決定的にSFのジャンルを方向づけた。<スペース・オペラ>と呼ばれる、宇宙を舞台にした冒険小説により、以後の通俗的なSF的道具立ての原型がつくられる一方で、多くのユートピア小説が書かれ、科学と人間というテーマが考察された。第2次大戦後、I.アシモフ、A.C.クラーク、R.ハインラインなど多くの作家が現れ、米国を中心にSFは隆盛をむかえるが、1960年代に入ると、それまでのやや単純で楽観にみちた米国の作家に異議をとなえる<ニュー・ウエーブ>と呼ばれる作家たちが主に英国から登場し、米国でもこれに呼応して、より思策的で、いわゆる純文学との境界の定めがたい作品が多く書かれるようになった。英米以外でも、ロシアではザミャーチンから、ソ連時代の社会主義リアリズム的なエレーモフ、現代的なストルガツキー兄弟といった作家まで、多くの作品が書かれ、チェコのチャペックやポーランドのレムも独自のSFを書いた。日本でも多くの作家が輩出し、読まれている。
『百科事典マイペディア』

 以上のことから、SF小説とは、ある科学的事象をあげ、結果的にその科学がどう発達し、驚異となりうるのかという内容の話を、真実らしさをもとに展開させる文学であるとわかる。そこで本研究では、作中で提示される化学事象(話題)と、その結末(結果)についてもみていく。

第二章 研究方法・分析項目・分析結果

 第一章で挙げたことを参考にして複数の項目を作成し、それにしたがって対象となる作品を分析・分類することによって、その表現特性や傾向を明らかにする。以下に、立てた項目とその説明、分類結果をあげる。

第一節 主人公

 作品を読むうえで、主人公は読者が作品を読み進める一つの指針となると考え、着目した。

主人公:@主人の敬称。
     A小説・脚本などの中心人物。ヒーロー・ヒロイン
『本国語大辞典』

 本国語大辞典には、主人公について以上のように記されている。そこで本研究でも、作品中において中心的な働きをする人物を主人公として取り扱った。作品で場面が映り変わる中で、それぞれ中心人物が異なる場合、1作品に主人公が2人以上存在するものとした。また、主人公が全人類というよう作品もみられた。その場合は、主人公をその1集団とした。

 なお、星新一は、自らの作品の登場人物について以下のように述べている。

 人物をリアルに描写し人間性を探求するのもひとつの方法だろうが、唯一ではないはずだ。ストーリーそのものによっても人間性のある面を浮き彫りにできるはずだ。こう考えたのが私の出発点である。もっとも、これはべつに独創的なことではない。アメリカの短編ミステリーは大部分がこのタイプである。人物を不特定の個人とし、その描写よりも物語の構成に重点がおかれている。そして人間とはかくも妙な事件を起こしかねない存在なのかと、読者に感じさせる形である。おろかしさとか、執念のすさまじさとか、虚栄の深さとかがそれでとらえられているのである。
 〈中略〉
しかし、道をいささか突っ走りすぎたきらいもある。すなわち人物描写に反発するあまり、主人公がほとんど点と化してしまった。私がよく登場させるエヌ氏のたぐいである。なぜNとローマ字を使わないかというと、日本字にまざると目立って調和しないからである。また、なぜ名前らしいなを使わぬかというと、日本人の名はそれによって人物の性格や年齢が規定されないからである。貫禄のある名とか美人めいた名というのは、たしかに存在するようだ。
『SFの時代 日本SFの胎動と展望』石川喬司 奇想天外社 1977年p.36-〜37

 作品を確認すると、たしかに星新一作品において登場人物そのものの特徴はあまり描かれていない。しかし主人公が宇宙人や動物の作品などもあり、主人公の設定には何かしらの傾向があると考えられる。以上のことをもとに、主人公に関する項目をいくつか立てた。

 第一項 「主人公のタイプ」

 主人公の性質ごとにタイプ分けを行い、以下の5つに分類した。

 以下に分類した結果をあげる。

 人間が主人公として登場する作品が多く、120作品中107作品(主人公が2人以上の作品はそれぞれの主人公につき1作品とカウントしている)において主人公は人間となっている。先ほど引用であげたように、いずれの人物も身体的な細かい特徴は描かれておらず、名前も一般的なものを避けて「男」「エヌ氏」などの呼び名の人物がほとんどである。しかし、性別・年齢・属柄・職業などの設定に傾向がないかを確かめるため、「人間」についてさらに分類を行った。

 「男性」を主人公としている作品が多い。主人公が女性だと、「女性」という設定が有する特定のイメージや特徴が主人公に付加されてしまう。これはその事態を避けた結果ではないかと考えられる。
 「最後の地球人」という作品だけに、性別をもたないという設定の人物が登場した。その作品はいくつかの場面に分けられる。最初の場面では、地球で莫大な人口増加が起こり、人類以外の生物が皆滅びた社会が訪れる。その後、人類が1家庭に付き1人しか子が生まれないという現象が起こり、逆に人口減少が進んでいく。そして最終場面では、人類は最後に誕生した者のみになってしまう。この人物こそが性別をもたない人物である。ストーリーは全人類の遺伝情報を持った最後の地球人が、自分一人となった世界で新たな文明を作り、繁栄させていくであろうという、新たな神の誕生を連想させる形で締めくくられている。この展開も踏まえて考えると、新たな文明を築いていく神としての特別な印象をその人物に持たせようとした結果、性別をもたないという設定が誕生したのだと考えられる。よって、性別がないという設定が何か物語の展開に作用するわけではない。ゆえにこの作品も例外的なものとして扱った。

 年齢に関する表記がないものが多い。これは先ほどあげた「女性」という設定と同様に、それぞれの年齢がもつ特有のイメージが主人公に付加されることを避けたからであると考えられる。また分類した中では、主人公が「若者」のものが多くみられた。これは「老人」や「子供」に比べ、「若者」という設定はさほど特徴的なイメージを持たないからであると考えられる。

 主人公の家庭での属柄が記されている作品は、110作品中10作品と少ない。また主人公に男性が多いため、主人公が母親や妻という作品よりも、父親や夫となる作品の方が多い。

 主人公の職業に偏りはあまりみられなかった。職業の中には、科学者・犯罪者など、特殊なものも多いとわかる。また、主人公が科学者の場合、自らがつくりだした製品を使用するという内容の作品が多い。さらに、物語の舞台が宇宙の場合は、主人公の職業が宇宙の探検隊員や、宇宙で働く会社員といった作品がよくみられる。以上のように、話の内容と主人公の職業には密接なつながりがあるといえる。

 裕福なもの、貧乏なもの、病人というように、設定における主人公の境遇の良し悪しを(性質)という形で項目にあげた。主人公が大金持ちや大富豪といった裕福である作品よりも、貧乏・病人といった恵まれない境遇にある作品の方が多くみられた。大金持ちや大富豪といった境遇は、庶民の立場とかけ離れており、より特殊な性質を持つ。そのため、特定のイメージや特徴が主人公に付加されてしまうことを避ける星新一作品では、主人公が裕福な境遇にあるという設定の作品が、少ないのだと考えられる。
 また、主人公が恵まれた境遇にある作品は、主人公が財産を用いて新しい機械やサービスを利用するという内容のものが多い。一方、主人公が恵まれない環境にある作品は、主人公がどうにかしてお金を得よう、病気を治そうとする内容のものが多い。これらのことから、それぞれの境遇が主人公のものの考え方、とらえ方に影響を与えているといえる。

 次に、主人公が「人間」以外のものについても確認していく。

 主人公が機械であるものは2作品と少ない。これは登場人物が「機械」であるという設定自体が特殊なものであるからだと考えられる。本研究では、主人公であるロボットが思考を持つ場合と、持たない場合を区別して分類した。しかし、主人公が機械である作品数が少ないため、その区別における傾向は見られなかった。

 主人公が天使や悪魔といった性質のものを、「宗教的なもの」とし、分類を行った。これも主人公が機械であるものと同様に、全作品中4作品と少ない。またその中でも、超人的で特殊性の高い「天使」や「悪魔」といったものではなく、元は人間である「霊」が主人公である作品の方が多い。

 主人公が動物である作品は1作品のみであった。その動物の種類はサルである。人に近い体系や知能を持った動物が選ばれたのだと考えられる。

 星新一作品には、登場人物として宇宙生物が出てくる作品が数多くみられるが、主人公とし地球外生命が登場するものは7作品のみであった。

 最後に、主人公が集団である場合を以下のように分類した。

 主人公が地球人全体の場合を「人類」とし、それ以外の数人の集団を「団体」とした。「団体」には宇宙探検隊や犯罪者集団、夫婦などがある。

 さらに「団体」の中でもその構成員の違いによってグループ分けを行った。

 団体の構成員が「人間」というものが一番多かった。「宗教的なもの」と「機械」が団体を形成するには特殊な舞台設定を必要とするためか、あまりみられなかった。

 第二項 「主人公の心理の変化」

 登場人物はある出来事が起こる前と後では感情が変化するが、そのことが物語の展開に作用していると考えられる。そこでそれぞれの作品における主人公の心理の変化をあげ、分類する。今回、主人公の心理の変化を分類するために、以下の方法をとった。
 それぞれの状況における主人公の心理について、プラスと解釈できるものを「+」、マイナスと解釈できるものを「−」、そのどちらでもないものを「0」、どちらとも解釈できるものや、予想も出来ないものを「?」とする。それらを用いて、事件の前後での主人公の心理の移り変わりを「−」→「+」、「0」→「−」といったように組み合わせて表し、それぞれの変化に名前を付けて以下のように表記した。

 「−」→「0」、「0」→「+」、「−」→「+」のように、出来事が起こった後の感情が「+」となる心理の変化を「好転」、逆に「+」→「−」、「+」→「0」、「0」→「−」と出来事が起こった後が「−」となる心理変化を「暗転」とする。さらに「0」→「?」となるものを「特殊」とし、「+」→「+」、「−」→「−」、「0」→「0」のように、前後の変化が生じない場合を「不変」とした。なお、「不変」の場合、不変(0)というように、「+」、「0」、「−」のいずれの感情が保たれているのかも示す。

 これらをもとに作品を分類した。もし作中で感情の変化が複数生じる場合は、「好転→暗転」というように変化を組み合わせて表記し、後ろにくる変化に重点を置いて分類を行った。また、ロボットなどの感情がないものが主人公の場合、そもそも心理が変化することがないので、「/」と表すことにした。

 以下に分類結果をあげる。

 「好転」、「暗転」の2つが多くみられた。「/」、「特殊」、「不変」のように、主人公の心理の変化がない、また見受けられないものは珍しいとわかる。

 第三項 「主人公の状態の変化」

 物語において主人公が自らを取り巻く環境や人々に対して働きかけをする、もしくは働きかけられることによって、主人公がおかれる状況や心理に変化が起こる。そういった物語ごとの主人公の状態の変化を調べるために、項目を立てて分類を行った。今回、主人公の状態の変化をあらわすために、以下の方法をとった。

 @主人公を取り巻く環境や人々に対する、主人公の働きかけの有無(人に命令する、お願いごとをするなどの間接的に働きかけるものも含む)、A主人公の働きかけや、主人公に対する働きかけによって、主人公がおかれる状況に変化がみられるか、BAについて主人公はどういう感情を抱いているのか。以上の3点の組み合わせたものにそれぞれ名前を付けて、以下のように表記した。

 以上のことを表にまとめた。

 以上の「達成」「失敗」「受容」「成り行き」「不満」「通過」「無力」「特殊」の8つの項目を設け、これらをもとに作品を分類した。もし作中でさらなる状態の変化が起こる場合は、「好転→暗転」というように変化を組み合わせて表記し、後ろにくる変化に重点を置いて分類を行った。

 分類結果を以下にあげる。

 「失敗」となるものがとてもよくみられた。主人公が何らかの行動を起こし、それがうまくいかないという展開の話が多いとわかる。ほかには、「達成」、「成り行き」、「不満」、などが主人公の状態の変化によくあるものだとわかる。

第二節 「話題」と「結果」

 ショート・ショートという作風は星新一によって確立されたものであり、先の引用で挙げた「新鮮なアイデア」、「意外な結末」が、作品を成立させるうえでの重要な要素となる。そのため、本研究ではそれらに着目した。

 第一項 「話題」

 星新一はSF作家ということで、その作品はサイエンスフィクションとしての要素を含んだショート・ショートであると考えた。その場合、作中の「話題」となるアイデアはSF作品に見られるものが多いと考えられる。そこで「話題」という項目をつくり、主にSFでよく扱われるとされていたものを参考に分類した。以下にその種類と説明をあげる。

(参考 『SFはこれを読め!』 谷岡一郎 ちくまプリマー新書 2008年)

 分類結果を以下にあげる

 「新しい技術・道具の登場」、「特殊な人物」の2項目がとくに目立った。特殊なものや、特殊な人物が新しく出現することによって、話が展開される作品が多いということがわかる。他には「特殊な環境」、「特殊な文明・社会」といった作品の舞台が特殊であるものがよくみられる。 内容が特殊なものとしては、「異文化間のズレ」というものがよくみられた。

 第二項 「結果」

 提示された「話題」がどのように読者の予想を裏切る結末をむかえるのかを調べる。そこで「結果」という項目を立て、上に示した話題がどのように展開されるのかを確認する。

 この項目と、先ほど示した「話題」という項目とを照らし合わせて作品を分類していく。以下に「話題」と「結果」を合わせた分類結果を示す。

 話題が「新しい娯楽・商品の登場」のものは、結果が「→失敗」「→思わぬ効果をあげる」となるものがみられ、「→成功」となるものは見当たらなかった。作中で新たに登場した新しい娯楽や商品が、悪い結果をもたらすという内容の作品が多いということが分かる。

 話題が「新しい技術・道具の登場」となるものの中でも、結果が「→失敗」となるものが多い。また、「→思わぬ効果をあげる(−)」となるものも多くみられる。これも先ほどの「新しい娯楽・商品の登場」と同じように、作中で新たに登場したものが、悪い結果をもたらすという内容の作品が多いということが分かる。

 話題が「未知との遭遇」となるものの中でも、結果が「→失敗」となるものが多い。未知なるものと接する難しさを表現した内容の作品が多いということが分かる。

 話題が「特殊な人物」となるものの中でも、結果が「→失敗」となるものがいくつかみられるが、先の3項目と異なり、結果が「→思わぬ効果をあげる」となるものが非常に多い。その中でも「→思わぬ効果をあげる(−)」が多数を占めている。このことから、主人公自身が行動を起こして失敗するというものではなく、特殊な人物が周りに悪影響を及ぼすといった内容の作品が多いとわかる。

 話題が「特殊な環境」となるものでは、その結果のほとんどが「→思わぬ効果をあげる(−)」となっていた。これも、主人公自身が行動を起こして失敗するというものではなく、特殊な環境が周囲に悪影響を及ぼすといった内容の作品が多いからだと考えられる。

 話題が「特殊な文明・社会」となるものでも、「→思わぬ効果をあげる(−)」という結果が多数を占めている。これも、先ほどの2つの話題と同様の傾向がみられるものと考えられる。

 話題が「犠牲を払う・何かを失う」となるものでも、結果が「→思わぬ効果をあげる(−)」となるものが複数見られた。しかし他の話題と異なり、「→成功」となるものが多くみられた。何かを失うというマイナス状態から、よい状態に変化するという内容の作品が多いと考えられる。

 話題が「異文化のズレ」となるものでも、結果が「→失敗」や「→思わぬ効果をあげる(−)」となるものが多数を占めた。異文化同士の間に有るズレが悪い結果を引き起こすという内容の作品が多いとわかる。

 話題が「願いをかなえられる状況」となるものは、その作品数そのものが少なかったので、あまり傾向はみられなかった。しかし、結果が「→失敗」となる作品がいくつかみられるということは分かった。

 全体的な傾向として、どのような話題においても「→失敗」となるものや、「→思わぬ効果をあげる(−)」となるものなど、最終的に主人公に悪い結果がもたらされる結果となる作品が多いということがわかった。

第三節 物語の進められ方

 「新しい話題」と「思いがけない結末」の間はどのように結びつけられているのであろうか。その2点の間にある話の展開の進め方に着目し、項目を立てて確認する。

 「進め方」

 物語の展開において、どのように読者を作品内容と関わらせているのかということに着目し、「進め方」という項目を立てて、以下の3種類に分類した。

 以上のことを図にまとめた。

 以下に分類結果をあげる。

 「タネあかし型」が圧倒的に多いとわかる。これは主人公が作品世界に違和感を抱くという「指摘共感型」や、読者が主人公を通して物語を読み進めない「ズレ確認型」が、特殊なものであるからだと考えられる。

第四節 読者の予想を裏切る効果

 読者は登場人物や語りなどを通して、作品世界に入り込んでいく。意外な結末となる作品では、読者がその状態のまま作品を読み進めていくことで、結末部において読者は作品のネタに気づき、「そういうことだったのか」と我に返ることとなる。その時、読者の予想を裏切る効果が働いたといえる。そういった「読者の予想を裏切る効果」について、いくつか項目を立てて確認していく。

 第一項 「読者を引き戻すもの」

 作品の結末部において読者が我に返るということが生じるのは、そのきっかけとなるものや表現が存在するからである。その読者が我に返るきっかけとなるものや表現について観点をあげ、分類を行った。

 以下に分類結果をあげる。

 「主人公」、「他の登場人物」といったものが読者を引き戻す役割を持つという作品が多くみられた。「語り」も多くみられるが、「主人公」や「他の登場人物」といった人物の説明を行う「語り」がほとんどであった。他には「出来事・現象」が読者を引き戻す役割をしている作品がよくみられた。

 第二項 読者の予想を「裏切るもの」

 意外な結末をむかえる作品では、結末部で示される「読者を引き戻すもの」によって、読者が作品を読み進める中でいだいた話の結末に対する予想は裏切られ、読者は我に返らされる。では、作品を読み進める中で生じた読者の予想は、何がきっかけとなって生じたものなのであろうか。そのことについて調べるため、読者の予想を生じさせ、それを裏切るものを「裏切るもの」として項目を立て、以下のように分類した。

※「定説」について、「合理主義者」という作品を例にあげて説明する。この作品は主人公であるエフ博士が魔法のランプを手にするものの、魔法という非科学的なものが存在することを認めない博士は、魔神に対して「ランプの中に戻って、どこかへ行ってしまえ」という願い事をするという作品である。一般的な考え方として「魔法のランプを手に入れた者は、ランプの魔神に財産や権利の獲得をお願いする」ということがあげられる。しかしこの作品は「ランプの魔神が目の前から消えることを望む」という特殊な結末をむかえる。このように、一般的なものとは異なる結果になるものを「定説」に分類した。

 以下に分類結果をあげる。

 「設定」が読者の予想を裏切る作品が圧倒的に多い。次に「継続状態」、「現代社会のルールや概念」といったものが読者の予想を裏切るものが続く。「題名」や「結末の原因」といったものが読者の予想を裏切る作品は少なかった。

第五節 作品の結び方

 第二節の第二項で「結果」という項目を立て、提示された話題の結末を「→成功」、「→失敗」、「→思わぬ効果をあげる(+,0,−)」のいずれかに分類し、話の流れがどのようになっているか確認した。その中で、それらの作品の結末には、何か締めくくり方に特徴がみられるのでないかと考えた。そこで「結び方」という項目をたてて、作品を分類した。

 「結び方」

 作品の締めくくり方ごとに項目を立てた。その際、読者の予想を裏切る作品が「笑い話」となることが多いのではないかと考え、笑い話である「落語」の落とし方を参考にした。

(参考『らくごDE枝雀』桂枝雀 ちくま文庫刊 1993年10月21日p.90〜125)

 もちろん星新一の作品は笑い話だけではないので、追加でいくつかの項目を考えた。以下にそれらをあげる。

 以上にあげた13種類の項目をもとに、作品を分類した。なお、複数の項目にあてはまる作品がある場合は、それぞれの項目に1つずつカウントをした。

 以下に分類結果をあげる。

 結び方が「解明落ち」となる作品が圧倒的に多かった。他には「見立て落ち」、「逆さ落ち」、「教訓落ち」、「暗示落ち」などが目立った。

第三章 相関関係

 次に、各項目を照らし合わせ、そこからわかることを探っていく。

第一節 「主人公のタイプ」と「話題」

 第二章・第一節・第一項の「主人公のタイプ」の分類結果から、話題によって主人公のタイプは規定されているのではないかと考えた。そこで、「主人公のタイプ」と「話題」の2項目を照らし合わせ、その傾向を探った。

 主人公のタイプが「人間」のものは、様々な話題でみられることが分かる。主人公のタイプが「人間」という作品の数そのものが多いので、各話題に分類される数も多い。その中でも「新しい技術・道具の登場」、「特殊な人物」という2つの話題が多い。このことから、主人公である人間が新しい技術や特殊な人物に接していく中で話が展開される作品が多いということが分かる。
 主人公のタイプが「地球外生命(宇宙人)」という作品は、「未知との遭遇」、「特殊な人物」、「異文化間のズレ」という話題で見られた。宇宙人という立場から地球に存在する物や、地球人の文化を見て、議論するという内容の作品が多いようだ。その他には、特殊な能力を持つ者として登場し、周囲に影響を与えるという内容の話も見られた。
 主人公のタイプが「動物」や「宗教的なもの」であるものは、その存在が普通の人間とは異なるものであるため、「特殊な人物」という話題で多くみられた。作品の内容は、その存在が周囲に影響を与えるといったものが多かった。
 主人公のタイプが「機械」である作品は、「新しい娯楽・商品の登場」、「特殊な文明・社会」という話題となるものがよくみられた。これは機械である主人公が娯楽用に作られたロボットの場合が多いことや、ロボットが登場するには技術が発展した特殊な文明・社会が必要であるということから、この結果になったと推測される。

 次に「主人公のタイプが集団」であるものと「話題」との関連性を見ていく。

 主人公のタイプが「全人類」の場合は、特に偏った傾向は無く、「未知との遭遇」、「特殊な文明・社会」、「異文化間のズレ」など複数の話題で偏りなく見られる。
 主人公のタイプが「集団」というものは「特殊な文明・社会」、「異文化間のズレ」の2つの話題にみられた。それについてさらに詳しく調べるため、「団体の種類」ごとに分類したものを以下にあげる。

 団体の種類としては、「探検隊」が一番多かった。その場合、人間や宇宙人が、探検隊を結成して宇宙を調査するという内容の作品になるので、異星人との交流を描く「異文化のズレ」が一番多い話題となった。
 それ以外の団体では、「夫婦」というものが3作品あり、「犯罪集団」というものが2作品あった。いずれもその団体の構成員が新しい物品を得る、特殊な環境下におかれるという話題の作品がみられた。

 次に主人公の性別の違いによる分類を行った。

 様々な話題で主人公が男性の作品がみられた。
 主人公が女性の場合は、その作品数自体が少ないこともあり、該当しない話題も見られた。主人公に「女性」が少ない理由を、ある程度のイメージをもつ「女性」という設定が避けられたからだとした。そのことと関連して、「女性」を主人公にした作品は、か弱さや妖艶さといった女性的なイメージが利用された内容のものが多く、「特殊な人物」という話題となる作品が目立った。「殺し屋ですのよ」という作品では、女性という設定が殺し屋を自称する主人公の妖艶さや不気味さを際立たせている。この作品では読書への裏切りとして、主人公は急病人のカルテを手に入れた看護婦であり、その病人に恨みを持つ者に話を持ちかけ、病人が病死すると、自分が暗殺したとして報酬を得ているということが、結末部において明かされる。主人公の妖艶さや不気味さを際立たせることによって、このような裏切りの効果も生まれるのだ。
 「新しい娯楽・商品の登場」などの話題の作品にも主人公が女性のものがみられる。「もとで」という作品では、借金を返すもとでを友人から借りた帰り道に、男に目をつけられて襲われるという展開になる。しかし、そのもとでというものは金目のものではなく、取立人を殺すために使う拳銃であり、それを使って襲ってきた男を殺してしまうという結末をむかえる。主人公がか弱い女性であるために、拳銃の登場に意外性が増すのである。

 次に主人公の職業の違いによる分類を行った。

 傾向として、話題が「新しい技術・道具の登場」のものは、「科学者」や「犯罪者」が主人公である作品が多いということがわかった。これは科学者が自ら作り上げた新しい道具を試すというものや、科学者が作った新しい発明品を強盗が盗もうとする内容の作品が多数みられたことから、このような結果になったと考えられる。
 また、話題が「特殊な人物」である作品は、主人公が「会社員」、「経営者」などの場合が多くみられた。これは一般的な性質を持つ者が、悪魔や宇宙人といった特殊な登場人物に影響されるという内容の作品が多数みられたのだが、「会社員」や「経営者」というサラリーマンが一般的な性質を持つ者に該当するからだと考えられる。

 次に主人公の性質の違いによる分類を行った。

 それぞれの性質によって傾向がわかれた。
 主人公が「病人」である作品は、話題が「特殊な人物」である場合が多かった。これは作品における病気が、特殊なものが多く、その病人に特殊な力がそなわる場合が多いからである。
 主人公が「裕福」である作品は、話題が「新しい娯楽・商品の登場」である場合が多かった。これは主人公が裕福であるがゆえに、その財力を使って何か新しい商品を買い求めるという内容の作品が多いからだと考えられる。
 主人公が「貧乏」である作品では、話題が「新しい技術・道具の登場」である場合が多かった。これは職業とも関係した結果と考えられる。というのは、主人公が「科学者」である作品は、「新しい技術・道具の登場」という話題になる場合が多く、その科学者たちは発明品をつくるために財産を使い果たしてしまっていることも多いからである。その場合のストーリー展開としては、主人公がその発明品を使って金儲けしようと試みるものや、発明品が予算不足のため完全なものが出来上がらず、誤作動を起こすものがみられた。

 以上のように、主人公に関する数多くの設定と「話題」の組み合わせによって、幅広い内容のショート・ショート作品が生まれているということがわかる。

第二節 ストーリータイプ

 読者の予想を裏切る作品にはどのようなストーリー構成のものが多いのだろうか。そのことを調べるには、主人公の変化と話題の関連性が重要であると考えた。そこで、「主人公の状態の変化」、「主人公の心理の変化」、「話題」の3項目を比較し、裏切りの表現がみられる作品のストーリーのタイプを確認した。その中でも、よくみられたストーリータイプを以下にあげる。

 どのストーリータイプを見てもわかるように、主人公がとる行動や、周りの環境からの影響によって、主人公の状態が変化し、その変化に見合った感情の変化がなされるといった、論理的なストーリー展開がなされているとわかる。

第三節 裏切りの効果を生み出す話の作り

 読者の予想を裏切る効果を引き起こす話の作りを見ていく。「裏切るもの」、「結び方」、「引き戻すもの」の3項目の相関関係をみることで、裏切りの表現がみられる作品には以下のような話の作りがあることがわかった。

 また、各作品の「裏切るもの」、「結び方」、「引き戻すもの」、「進め方」の4項目の相関関係をみて、裏切りの表現がみられる「話の作り」を確認した。その中から多くみられたものを以下にあげ、その特性を明らかにする。その際、それぞれの話の作りにおいて、どのようなストーリータイプが扱われることが多いのかについても確認する。

「話の作り」

 裏切りの効果を生み出す話の作りは、以上の10種類がみられた。「結び方」をみると、解明落ちや逆さ落ちを取り込んだものが多い。また、「裏切るもの」は設定と継続状態が多く、「進め方」はほとんどがタネあかし型となっている。各項目を見た段階ではさまざまの要素があげられたが、組み合わせをみると、特定の要素が多く使われているということがわかる。そこで扱われるさまざまなストーリータイプや設定が、裏切りの効果を引き起こす話の幅を広げているということがわかる。

第四章 まとめ

 星新一のショート・ショート作品は、現実からかけ離れた特殊な作風の作品であるかのように感じられる。しかし本研究においてストーリータイプをあげて確認したところ、星新一作品は作中で提示される環境や設定は特殊であるが、そのなかでの登場人物達の思考や行動は論理的であり、展開は現実的であるということがわかった。
 裏切りの表現として、「夢オチ」というものがある。この「夢オチ」は、結末部においてそれまで語られてきたことが実は夢の中の出来事であったとする表現である。この表現はそれまでの話の展開や論理が無視される形でしめくくられるため、読者がその結末に対して納得できない、面白しろくないということが起こってしまう。「夢オチ」とは異なり、星新一の作品は論理的に話が進められることによって、結末部において予想を裏切る展開となるとしても、読者はその結末に納得し、その作品に面白みを感じるようになるのだ。これは、SFにみられる論理的な話の展開と、ショート・ショートにみられる奇抜なアイデアや思いもよらない結末をもつという特性がうまく合わさった、星新一ならではの作風であり、裏切りの表現効果を高めるものであるといえる。
 本研究において、読者の予想にずれを生じさせる「裏切るもの」や、そのずれから読者を「引きもどすもの」といった、読者への働きかけがうまく組み合わさることこそが、裏切りの表現が成立するために重要であるとわかった。いかに話題が奇抜で、話の展開が論理的であったとしても、結末部の裏切り方がありふれたものであっては読者は作品に面白みを感じない。しかし本研究において裏切り表現の話の型に関する構成要素を確認したところ、それぞれ偏った要素で構成されているものが多かった。それぞれの作品が特殊な構成要素を使って作られたのではなく、作中における読者への働きかけがうまく組み合わさることで、裏切りの表現は成立しているのだということがわかった。

第五章 今後の課題

 今回は研究の対象を、星新一のショート・ショート作品に限定した。それゆえ、他の作者や形式の作品も対象とするなど、対象とする作品の幅を広げることで、本研究ではみられなかった「裏切りの効果を生み出す話の作りや構成」が発見できるのではないかと考えられる。今回の研究のデータを活かし、他の作品の研究を行うことで、より分析の精度を高めていきたい。


参考文献・研究対象作品一覧

研究対象作品

・『ようこそ地球さん』星新一 新潮社 1961年

「ようこそ地球さん」「来訪者」「狙われた星」「人類愛」「傲慢な客」「弱点」「約束」「友好使節」「霧の星で」「通信販売」「宇宙からの客」「復讐」「待機」「思想販売薬」「暑さ」「猫と鼠」「西部に生きる男」「マネーエイジ」「デラックスな拳銃」「悪を呪おう」「証人」「ずれ」「闇の眼」「小さな十字架の話」

・『悪魔のいる天国』星新一 中央公論社 1961年

「合理主義者」「調査」「デラックスな金庫」「天国」「無重力犯罪」「ロケットと狐」「誘拐」「情熱」「お地蔵さまのくれた熊」「黄金のオウム」「シンデレラ」「こん」「ピーターパンの島」「夢の未来へ」「肩の上の秘書」「殺人者さま」「ゆきとどいた生活」「夢の都市」「愛の通信」「脱出口」「もたらされた文明」「エル氏の最期」「サーカスの旅」「かわいいポーリー」「契約者」「となりの家庭」「もとで」「追い越し」「診断」「告白」「交差点」「薄暗い星で」「帰路」「殉職」「相続」「帰郷」

・『ボッコちゃん』星新一 新潮社文庫 1971年

「悪魔」「ボッコちゃん」「おーい でてこーい」「殺し屋ですのよ」「来訪者」「変な薬」「月の光」「包囲」「ツキ計画」「暑さ」「約束」「猫と鼠」「不眠症」「生活維持省」「悲しむべきこと」「年賀の客」「狙われた星」「冬の蝶」「デラックスな金庫」「鏡」「誘拐」「親善キッス」「マネーエイジ」「雄大な計画」「人類愛」「ゆきとどいた生活」「闇の眼」「気前のいい家」「追い越し」「妖精」「波状攻撃」「ある研究」「プレゼント」「肩の上の秘書」「被害」「謎めいた女」「キツツキ計画」「診断」「意気投合」「程度の問題」「愛用の時計」「特許の品」「おみやげ」「欲望の城」「盗んだ書類」「よごれている本」「白い記憶」「冬きたりなば」「なぞの青年」「最後の地球人」

参考文献

・『作家デビュー完全必勝講座 若桜木流奥義書』若桜木 日株式会社文芸社 2002年

・『シグマ 新国語便覧』国語教育プロジェクト(代表 仲光雄)  文英堂 2003年

・『SFの時代 日本SFの胎動と展望』石川喬司 奇想天外社 1977年

・『ちぐはぐな部品』星新一 解説 尾崎秀樹 川書店 昭和47年

・『らくごDE枝雀』桂枝雀 ちくま文庫刊 1993年

・『星新一 一〇〇一話をつくった人』最相葉月 株式会社新潮社 2007年

大阪教育大学国語教育講座野浪研究室△ ページTop←戻る