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第49回大阪教育大学国語教育学会
2013年12月21日
於 大阪教育大学 柏原キャンパス

「文章における仕掛けの研究」
-意味がわかると怖い話を通して-

国語表現ゼミナール
3回生 生地伸安 高橋賢人 竹村和馬 平野孝典
院生 三浦太仁 森川風太 山平千鶴
指導教員 野浪正隆

目次

0.はじめに
0-1 研究動機
0-2 研究対象の紹介
1.研究概要
1-1 「意味がわかると怖い話」の起こり
1-2 「意味がわかると怖い話」とは
1-3 「意味がわかると怖い話」の例示
1-4 研究方法について
1-5 「意味がわかると怖い話」の構成要素の提示
2.全体傾向
3.<仕掛け>の関連
3-1 <気づかせる仕掛け>[字面]と<隠す仕掛け>[字面]との関連性
3-2 <気づかせる仕掛け>[方向性の提示]と[ミスリード]との関連性
3-3 <気づかせる仕掛け>とその他の分類項目との関連性
3-4 [三人称客観]と[思い込み]の関連性
4.考察
4-1 全体傾向についての考察
4-2 <仕掛け>の関連についての考察
5.おわりに

0.はじめに

0-1 研究動機

 今回、私たちは文章における仕掛けを、ネット上に掲載されている「意味がわかると怖い話」を通して研究した。
 この「意味がわかると怖い話」は、近頃ネット上で話題になっているもので、私たちも度々目にする機会があった。
 その中で、なぜ、読者は作者が意図した意味に気づけるのかという疑問が生じ、何か仕掛けが存在するのではないかと考えた。
 そして、意味に気づきやすいものと気づきにくいものがあることに気がつき、これらの文章には、読者が「気づきやすくなるための仕掛け」と、「容易に気づけないようにするための仕掛け」の二種類の仕掛けがあるという仮説を立てた。
 そこで私たちは「意味がわかると怖い話」における二種類の仕掛けを中心に、何故意味が分かるのか、ということについて詳しく研究することにした。

0-2 研究対象の紹介

 次に今回の研究対象とした「意味がわかると怖い話」について説明していく。
 今回の研究では「意味がわかると怖い話」をまとめているサイトから無作為に計204作品を選出した。なお、同タイトルであっても文章が異なるものについては異なる作品として考えた。

1.研究概要

1-1 「意味がわかると怖い話」の起こり

 「意味がわかると怖い話」は「ウミガメのスープ」から派生したものであると言われている。
 『ウミガメのスープ』というのはイギリスの作家ポール・スローンの著作シリーズ『Lateral Thinking Puzzles』を日本語に翻訳した際につけられたタイトルで、推理ゲームの一種である。
 有名な問題としては翻訳の際にタイトルにもなった「ウミガメのスープ」が挙げられる。
 「ウミガメのスープ」は出題者と参加者の二組に分かれて行われる。出題者は物語の背景にある重要な情報を隠して結末を語り、参加者はなぜそのような結末に至ったのかを考える。その際、参加者には出題者に対してYES/NOで答えることのできる質問のみ許されており、出題者の解答をヒントにしながら物語の真相に迫っていくのである。
 このような形式の推理ゲームを日本では総じて「ウミガメのスープ」と呼んでいる。
 また、「ウミガメのスープ」は書籍に掲載されている問題だけでなく、ネット上でも個人が考えた問題を投稿出来る掲示板があり、多くの利用者が楽しむ様子が見られる。「意味がわかると怖い話」はいわば、この「ウミガメのスープ」から出題者への質問の必要をなくしたものである。そのため、「意味がわかると怖い話」は「ウミガメのスープ」から派生したものであると考えられる。発祥は匿名掲示板サイト「2ちゃんねる」であると言われている。

1-2 「意味がわかると怖い話」とは

 先ほども述べたように、「意味がわかると怖い話」はネット上に書かれているものであり、その定義もネット上に書かれているものを引用する。
〈定義〉
@作者に質問しなくても、読めば真相が論理的に理解できる。真相を理解した人間からの説明でも理解出来る。
A「オカルト」「サイコ 」「不思議」のいずれかの要素を含む内容である。(ジャンルとしての前提)
Bいわゆる「不幸の手紙」系統のものでは無い。
C人によってどの話が怖いのかは個人差がある為、一概に「この話は絶対に怖い」ということはない。

1-3 「意味がわかると怖い話」の例示

 ここで実際に、「意味がわかると怖い話」を見ていきたい。

 ある日、彼からムービー付きのメールが届く。
 見てみると自殺する内容だった。
 縄に首をかけ首を吊り苦しそうにもがいて彼は逝った。
 そこでムービーは終了
(ムービー付きメール)

 この問題の場合、あたかも「彼」が自殺したかのように書かれている。しかし、動画の撮影を終了したのは誰か、また、誰がメールを送ってきたのか、ということについては明記されておらず、このことから「彼」は自殺したのではなく、誰かに殺された、ということが真相であると考えられる。
 このように、「意味がわかると怖い話」は「ウミガメのスープ」と異なり、出題者へ質問する必要がなく、問題文だけで真相に迫っていくことが出来る文章である。

1-4 研究方法について

 研究対象とした「意味がわかると怖い話」計204作品を以下の分類表を用いて、分類した。また、分類項目同士の関連性を見る際にはカイ自乗検定を用いて調べた。カイ自乗値が5以上をとるものについては関連性があるもの、10以上をとるものについては強く関連性があるものとして考えた。

1-5 「意味がわかると怖い話」の構成要素の提示

構成要素 小分類 分類の観点
視点 1人称 視点が1人称であるもの。
2人称 視点が2人称であるもの。
3人称限定 視点が3人称限定であるもの。
3人称客観 視点が3人称客観であるもの。
実体験か伝聞か 実体験 視点人物が出来事に直接的に関わっている。
伝聞 視点人物が出来事に直接的に関わっておらず伝聞調である。
実体験ではない 視点人物が出来事に直接的に関わっておらず伝聞調でない。
会話型 会話だけで構成されている。
× 会話だけで構成されていない。
文章量 1-400 句読点を含む文字の量が1以上400以下である。
401-800 句読点を含む文字の量が401以上800以下である。
801- 句読点を含む文字の量が801以上である。
気づかせる仕掛け
別図参照。
隠す仕掛け
別図参照。
視点人物と受け手 同一人物、クラスメイト、
他人、夫婦など
視点人物と物語の中心となる行動の受け手との関係。
視点人物と仕手 同一人物、クラスメイト、
他人、夫婦など
視点人物と物語の中心となる行動の仕手との関係。
受け手と仕手 同一人物、クラスメイト、
他人、夫婦など
物語の中心となる行動の受け手と仕手の関係。
期間 1日以内 出来事の発生から収束まで1日以内。
数日以内 出来事の発生から収束まで数日以内。
数ヶ月以内 出来事の発生から収束まで数ヶ月以内。
数年以内 出来事の発生から収束まで数年以内。
原因 事件 登場人物の意図が働いて起こったもの。
事故 登場人物の意図が働かず起こったもの。

2.全体傾向

2-1〈会話型〉について

 全204作品の内、97.1%(198/204作品)が会話だけで構成されてはいなかった。
つまり、ほとんどの「意味がわかると怖い話」は会話だけで構成されてはいない。
また、会話だけで構成されているのは2.9%(6/204作品)である。以下はその一例である。

友「本当にごめんな」
俺「おいやめろって!」
友「妹が…妹が病気で…金がいるんだ…」
俺「大丈夫か?気をしっかり持てよ」
友「…ありがとう………」
俺「に…いや、10万でよかったら貸してやるよ」
友「本当にありがとう…あと、その…なんていうか…」
俺「ほら、晩飯の残りで良かったら食ってけよ」
友「ありがとう…」
俺「…なに言ってんだよ。それに、俺たち親友だろ?」
友「実は自殺しようと思ってて…お前がいなかったらもう…」
俺「そんなに気にすんなよ」
友「こんな夜中にごめんな」
(本当にごめんな)

2-2〈期間〉について

全204作品の内、63.7%(130/204作品)が作品内の〈期間〉が[1日以内]であった。
また、次いで多いのが27%(55/204作品)の[数日以内]であった。

2-3〈原因〉について

 全204作品の内、80.3%(164/204作品)が[事件]であった。以下はその一例である。

お隣さんは同棲しているらしい。
彼氏と彼女、別々に良く見掛けるけど一緒に居る所はまだ見た事ない。
今朝荷物を運び出す彼女さんを見掛けて話し掛けたら、押入れの天袋が開かなかったり物が無くなったり気持ち悪いから引越すそうだ。
「もう独り暮しは止めるわ」
ん?
(同棲)

2-4〈時間設定〉について

 全204作品の内、54.4%(111/204作品)に[時間帯]を表す記述がなかった。
つまり半分以上のものが[時間帯]の記述がなかったことになる。
次いで多いのが35.2%(72/204作品)の[夜]であった。

2-5〈気づかせる仕掛け〉について

 全204作品の内、22.5%(46/204作品)が[既有の知識]で気づくことができるようになっていた。次いで多かったのが、22.1%(45/204作品)が[方向性の提示]である。
 [多岐]が4.4%(9/204作品)、[不能]が2.0%(4/204作品)あった。
 以下の例は、〈気づかせる仕掛け〉に[既有の知識]が用いられたものである。

今日は親友のA君が転校するのでお別れ会をやった。
みんなと別れるのが寂しいのか、A君はちょっと落ち込んでるみたいだった。
お別れ会はとても素晴らしいものだった。
途中、歌が得意なM君が歌を歌って盛り上げてくれたり、
学級委員のS子が詩の朗読をして雰囲気を作ってくれた。

そして、お別れ会のクライマックス。
親友の僕がA君にプレゼントを手渡す瞬間だ。
プレゼントはクラス全員で書いた寄せ書き。
昨日、出席番号順で周ってきたその白い綺麗な色紙に、僕は今までの思いを込めて
「ありがとう」と、一言だけ書いた。
親友なのにそれだけ?と思うかもしれないけど、その言葉だけで気持ちは十分伝わるはず。

僕は綺麗な袋に入った色紙をA君に渡した。
「元気でね、A君・・・」
「今までありがとう、W君・・・」
A君はちょっと照れたような表情を浮かべて、袋の中の寄せ書きを見た後
感極まったのか号泣してしまった。
そんなA君を見て、たまらず僕も号泣してしまった。
プレゼントをこんなに喜んでもらえるなんて、本当に嬉しい。
二人して泣いてる姿が滑稽だったのか、クラスの皆がニヤニヤしながらこっちを見ている。
僕は急に恥ずかしくなって、照れ笑いをした。
本当に、とても素晴らしいお別れ会になりました。
(白い綺麗な色紙)

 以下の例は、[多岐]に分類されたものである。

「最近、彼がつめたいの」
「え?」
「なんか冷めちゃってる感じ・・・」
「そうなの、どんな?」
「携帯も通じなかったり、返事がなかったり、もうやんなっちゃう・・・」
「花束あげたら?彼喜ぶわよ〜」
「・・・え?」
(彼が冷たい)

 以下の例は、[不能]に分類されたものである。

趣味は雪山に登り写真を撮ること

今日もいつもと変わらず山に登る
だが天気が悪化し近くにある山小屋で、回復するのを待つことに
山小屋にはもう一人赤い色の服を着た女性がいた
だがおさまる気配が無いため泊まることに

次の日起きると寝ている人が一人増えた
まだこの雪山で困っている人がいたんだ
とか思いながらおさまるのを待つ

次の日また一人増えていた
次の日もまたその次の日も

こんなに多いのはおかしいと思い、
持っていた写真のムービーモードで寝ている間を撮った

次の日確認すると、女の人が血だらけの人を小屋にいれて
布団に寝かしていたのである
(雪山)

2-6〈隠す仕掛け〉について

全204作品の内、34.8%(71/204作品)が[情報の欠如・登場人物の語り口(思い込み)]であった。
以下の例は、隠す仕掛けに[情報の欠如・登場人物の語り口(思い込み)]が用いられたものである。

兄が狂乱し、家族を皆殺しにした。
すぐに兄は逮捕され、死刑となった。
妹は幸運にも生き延びたが、事件のショックで記憶を失ってしまった。
父も母も失い、記憶もない。
空っぽな心で無気力なまま生きていた妹は、ある日占い師と出会い、自分の過去を占ってもらうことにした。
「何故兄は発狂したのでしょう」
「いいえ、アナタの兄は冷静でした」
「何故家族を殺したりしたのでしょう」
「いいえ、兄が殺したのはひとりだけです」
そして妹は全てを理解して、泣いた。
(兄が殺したのはひとりだけ)

2-7〈視点〉について

 全204作品の内、76.4%(156/204作品)が[1人称]視点で書かれていた。また、ほぼすべての作品は一貫して同じ視点で書かれている。しかし、以下の作品のみ視点が[3人称限定]から[1人称]に変化した。

とある病室に一人の少女がいた
その少女は、生まれつき病気をもっており、不治の病という
この不治の病のせいで少女は、ずっと病室で過ごしてきたのだ
そんな少女に一人のお星さまが現れたのだ
そして、お星さまはこう言った
「あなたの願いを叶えてさしあげましょう」
少女は答えた
「早く病気をなおして、早く楽になって、新しい友達たくさんつくって、たくさん遊びたい!!」
「かしこまりました………その願い叶えてさしあげましょう……」
−−その日から十日がたった
その日の翌日に何故か不治の病が治っていたのだ
そして、病室から出れた私はたくさん友達をつくることができた
そして、今現在に至る
でもね………おかしいなことがあるんだ
「私の友達は、すでに死んだ人達ばっかりなんだ…………」
(少女の願い)

2-8〈実体験か伝聞か〉について

 全204作品の内、72.1%(147/204作品)が実体験として書かれていた。これは一人称視点の作品が多いことと関連性があると考えられる。

2-9〈場所設定〉について

全204作品の内、69.1%(141/204作品)が[屋内]に設定されている。[屋内][屋外]を合わせた〈場所設定〉は87.3%(178/204作品)あり、ほぼどの作品にも書かれていると言うことができる。

2-10〈現実に起こりうるか〉について

全204作品の内、65.7%(134/204作品)が〈現実に起こりうる〉ものであった。また、34.3%(70/204作品)が現実に起こりえないものであった。

友人の住むマンションのエレベーターは、奥が鏡張りになっている。
家に遊びに行った時、その友人が俺にこんな話をし た。
「エレベーターって、入口の方を向いて乗るじゃん、そうすると鏡が背後でしょ」
「ま、確かに。普通はそうやって乗るね」
「でね、乗ってる時に、なんだか背後に視線を感じる時があるんだよね・・・」
「え?おいおいまさか・・・」
「だけどよーく考えたらさ、背後の鏡に映ってる自分の視線なんだよねw」
「やっぱりそう来たか。
 そりゃお前、勘違いってヤツだぞ。
 背後の鏡に映ってる自分は背中を向けた自分。視線など感じるわけがない」
俺がその理論を述べると、友人は「あはは、そっかーw」と笑っていた。
夜も更け、友人宅をおいとました俺は、件のエレベーターに乗る。
ん?
・・・なんだか背後に視線を感じる?
そんな馬鹿な話あるわけない。
さっき理論的に解明したばかりじゃないか。
気になり、背中を向けたまま手鏡で覗いてみる。
もちろん映るのは俺の背中。
ふと振り返ると、鏡に映るのは眼鏡をかけた俺の顔。
・・・当たり前の事だ。
馬鹿馬鹿しい、何やってんだ俺はw
自嘲の笑いが込み上げて来た瞬間、突然グラッと大きな揺れを感じる。
地震だった。
エレベーターは止まり、白い蛍光灯が消え、代わりに薄暗い電球が灯った。
非常停止状態らしい。
咄嗟の事にうろたえる俺が鏡に映っている。
が、すぐにまた蛍光灯がつき、エレベーターも何事なく再び動き出した。
1階に着き、駐車場へ向かう。
ちょっと焦ったせいか鼓動が少し早い。
車に乗った。
俺は「あれ、エレベーターに眼鏡忘れたかな?」と思った。
だが、眼鏡はちゃんとかけてあった。
なんだ・・・動揺して気が変になったか。
それにしても、なぜ眼鏡忘れたなんて思ったんだろう。
なんか違和感があるな。

(奥が鏡張りになっているエレベーター)

2-11〈文章量〉について

全204作品の内、78.9%(161/204作品)が[1−400字]で書かれていた。

2-12〈視点人物と受け手〉について

全204作品の内、50.0%(102/204作品)で〈視点人物と受け手〉との関係が[同一人物]となっていた。これは視点人物本人が文中で起こる[事件]、[事故]に巻き込まれているということである。読者自身も受け手と同じ視点で読むことで[事件]や[事故]に巻き込まれ、受け手になったかのように感じる。これを仕掛けに利用しているのではないか。
以下は、〈視点人物と受け手〉との関係が[同一人物]の一例である。

先日の話。
高校でセンター模試を理系で受けると最後まで残ることになるため、帰る頃には外が真っ暗。
当然校舎内は外より一層暗い。
にも関わらず、気の利かない先生は廊下の電気を点けておいてくれていなかった。
だからみんな手探りしながら昇降口まで辿り着く。
廊下はほんと真っ暗で、段差を摺り足で確かめながら歩くレベル。
唯一明かりを点けてくれてる昇降口に着いたとき、一緒に教室出て来たはずの友人がいないことに気付いた。
名前を呼んでると、少し遅れて友人が現れた。
聞いてみると廊下にある姿見で髪を整えてたらしい。
正直ビビってたもんだから、ちょっと苛ついた。
全く呑気に髪なんか気にしてんじゃねーや。
(暗い校舎)

2-13〈視点人物と仕手〉について

全204作品の内、60.3%(123/204作品)で〈視点人物と仕手〉の関係が[他人]になっていた。
以下は、〈視点人物と仕手〉の関係が[他人]の一例である。

脳死が確認され、
無数のチューブと人工呼吸器や点滴により生き続けた。

しかし死んでしまった。
「すみません。手を尽くしたのですが」
医者はとても悲しげな顔で告げる。
彼の亡き骸を抱いた時、とても軽く、苦しかったんだと思った。

「治療費は結構です」
決して裕福とは言えない私の状況を察し、
なんて優しい医者なのだろう。私はすぐに泣いた。
「遺体を見るのは辛いでしょう」
お医者さんがシーツを被せた。
「思い出は彼と共に焼いて忘れなさい」
この一言で私は立ち直れたのである。
(医者)

2-14〈受け手と仕手〉の関係について

全204作品の内、55.9%(114/204作品)が〈受け手と仕手〉の関係が[他人]となっていた。
以下は、〈受け手と仕手〉の関係が[他人]の一例である。

ある日、平穏な家庭に赤ちゃんが一人産まれました。
その赤ちゃんは驚いたことに、産まれたばかりですぐに言葉を発したのです。
第一声は、 「おじいちゃん」でした。おじいちゃんはひどく喜び、涙を流したそうです。
ところが次の日、おじいちゃんは死んでしまいました。
赤ちゃんはまた、言葉を発しました。 「おかあさん」と。
そして次の日には、おかあさんが息を引き取りました。
おとうさんは震え上がりました。どうすればいいんだろう・・悩みに悩みました。
一時は子供を殺す事まで考えましたが、さすがにそれは出来ませんでした。
そして、ついに赤ちゃんは言いました。「おとうさん」と。
お父さんは半狂乱になりました。
次の日、隣のおじさんが死にました。

(スーパー赤ちゃん)

3.〈仕掛け〉関連

3-1 <気づかせる仕掛け>[字面]と<隠す仕掛け>[字面]との関連性

 <隠す仕掛け>に[字面]を含むものが17作品あり、そのすべてに<気づかせる仕掛け>の[字面]が用いられている。カイ自乗値も10を超えるものが多く、関連性が高いといえる。
 [字面]を<隠す仕掛け>とする時には次のような書き方が挙げられる。
・二重に意味をとることが出来るよう仮名表記にする。
・文章のある部分だけを読んでいく縦読みが出来るように多くの改行を加える。
 これらの書き方によって意味を隠している。しかし、同時に[字面]に不自然さがあると読者は違和感を覚え、考え出す契機にもなる。よって、[字面]が<気づかせる仕掛け>にもなるので、これら二つの関連性は高くなっていると考えられる。

3-2 <気づかせる仕掛け>[方向性の提示]と[ミスリード]との関連性

 <気づかせる仕掛け>に[方向性の提示]が用いられている作品が45ある内、隠す仕掛けに[情報の欠如]が用いられている作品が25(55.6%)あった。カイ自乗値も20.65となっており、特に関連性が高いといえる。関連性が高い理由としては、[方向性の提示]の定義が「最後の一文を見て答えが明らかに分かるもの」であり、[ミスリード]がなされていないものが多い。そのため<隠す仕掛け>は、[ミスリード]を含まない[情報の欠如]のみが用いられる傾向が高いと考えられる。

3-3 <気づかせる仕掛け>とその他の分類項目との関連性

 <気づかせる仕掛け>と<視点>を含めた他の分類項目すべてとの関連をカイ自乗値を用いて調べた。しかし、カイ自乗値が5を超えているものが一部にしか見られず、関連がないと思われる。またカイ自乗値が5を超えた一部の関連項目も、該当する作品が少数であり、信憑性が低いため、一概に関連があるとは言えない。

3-4 [三人称客観]と[思い込み]との関連性

 [三人称客観]と[思い込み]のカイ自乗値は高い数値を示しているが、これは、期待値と比較して実際の数が少ない方に突出している。[思い込み]は主に、登場人物もしくは、語り手の語りや、登場人物の心情を表す部分で書かれ、仕掛けられることが多くみられる。それに対し、[三人称客観]では、登場人物の一人に寄り添って書かれることがないので、そういった文章においては、登場人物の心情や語りによる[思い込み]が仕掛けられない。だから、期待された値よりも数が少なくなったのではないかと考えられる。
 <隠す仕掛け>も関連が見られたのはこの項目のみであり、他の分類項目との関連性は、<気づかせる仕掛け>同様、低いものと考えられる。

4.考察

4-1 全体傾向についての考察

 「意味がわかると怖い話」の[事件]、[事故]は突発的に起こるものが多い。そのため、<期間>としても[一日以内]であるものが多くなるのではないだろうか。そのほか、<期間>が[数ヶ月以内]、[数年以内]のものについては人物関係が[家族]のものが多かった。この理由としては[家族]という関係は長く続くものであるため、長期に渡る[事件]や[事故]を描きやすいからであると考えられる。
<時間設定>について、半分以上のものが時間帯の記述がなかった。これは「意味がわかると怖い話」において時間帯の設定は意味を気づかせるという点において重要ではないからであると考えられる。また、時間帯の設定を書かないことで読者に情報を与えず、これを〈隠す仕掛け〉として利用する場合もあった。
 [屋内]が場所として多く設定されている。この理由は、[事件]、[事故]に巻き込まれた際、逃げられない状況設定をするためだと考えられる。
「意味がわかると怖い話」には、傾向として<視点>が[一人称]の作品が多い。これは読者が視点人物を通して物語を見るため、視点人物の[思い込み]を読者に共有することが出来るからであると考えた。視点人物の[思い込み]という<仕掛け>を利用して読者の誤解を誘うために、一人称視点が多用されているのだと考えられる。
 人物関係について、<視点人物と受け手>は[同一人物]が多かったが、これは視点人物が文章中で起こる[事件]、[事故]に巻き込まれるということである。読者自身も受け手と同じ視点で読むことで、受け手になったかのように感じ、〈隠す仕掛け〉である[思い込み]を使いやすくなる。<視点人物と仕手>の場合は、最も多いのが[他人]であった。その理由として、人物関係を[他人]にしておくことで仕手の人物描写を省き、作品に書く情報量を少なくしているのだと思われる。次いで多いのが11%(23/204作品)の[同一人物]であったが、この場合、視点人物があたかも[事件]・[事故]と関係のない第三者のように振る舞い、仕手とは関わりのない存在であるように描いたものが多かった。そうすることで〈隠す仕掛け〉の[登場人物の語り口(思い込み)]が用いられると考えられる。
<文章量>について、「意味がわかると怖い話」は「はじめに」でも述べたように、匿名掲示板サイト「2ちゃんねる」で発祥したものである。この掲示板では、一度に投稿出来る文字数に制限があり、短文で投稿される事が多い。このことが、上限値である1024字に近づく801字以上の 〈文章量〉を持つ作品が少なくなったことの要因であると考えた。また、〈隠す仕掛け〉の[情報の欠如]のように、必要な情報を書かないことで意味を隠す方法があり、この<仕掛け>の存在も<文章量>を減少させるひとつの要因になったのではないかと考えられる。

4-2 <仕掛け>の関連についての考察

第三章では、<仕掛け>同士がどのように関連しているのか、その他の分類項目と関連性はあるのか、ということについて調べた。結果、<仕掛け>同士で関連するものがあると分かった。この関連の仕方について着目すると、2種類の関連の仕方があると考えた。1つは、<隠す仕掛け>[情報の欠如]と<気づかせる仕掛け>[方向性の提示]に見られるように、<隠す仕掛け>によって欠けている情報を<気づかせる仕掛け>によって補う、という関連の仕方である。もう1つは、<隠す仕掛け>[字面]と<気づかせる仕掛け>[字面]に見られるように、<隠す仕掛け>の存在に気づくことで隠された意味について考える契機にもなる、<隠す仕掛け>と<気づかせる仕掛け>が一体となっている関連の仕方である。このように<気づかせる仕掛け>と<隠す仕掛け>の間には補完関係にあるものと、一体関係にあるものがあると考えられる。

5.おわりに

 今回は<仕掛け>を中心に分析してきた。ここでは今後の課題について述べる。
意味を解読しやすい作品としにくい作品の違いについては、解明できなかった。ただ、この研究を通して、以下のような推測をした。
 解読しにくい作品には<仕掛け>の数が多く、解読しやすい作品には<仕掛け>の数が少ないという量の問題があるのではないか。例えば、<気づかせる仕掛け>が[思い込み・既有の知識]であるならば、登場人物の[思い込み]に気づき、なおかつ[既有の知識]を使って、情報を補完する必要がある。つまり、読者は<仕掛け>が多いと処理しなければならない情報が多くなるので比較的解読しにくくなるのではないか。一方で、<仕掛け>の量と解読のしやすさが関連していないということも考えられる。隠す仕掛けと気づかせる仕掛けが一つずつでも意味を解明しにくい作品は存在するからである。例えば、<気づかせる仕掛け>が[既有の知識]のみの場合でも、補完すべき情報の専門性が高く解読しにくいと考えられる。
加えて、<仕掛け>以外の分類項目について、どの項目同士が関連を持つのか、またその関連が「意味がわかると怖い話」のどのようなことに関与しているのかということについては触れることが出来なかった。
以上を今後の研究課題としたい。

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