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第51回大阪教育大学国語教育学会
2015年12月23日
於 大阪教育大学 柏原キャンパス

「映画キャッチコピーの表現法」

国語表現ゼミナール
3回生 池田朝哉 奥田真心 小野田彩花 倉元達也 小出涼花 高寺大喜 水呉知史 中本駿平
指導教員 野浪正隆

目次

1.はじめに
1-1 研究動機と目的
1-2 研究対象
2.研究にあたって
2-1 研究方法
2-2 分析の観点
3.分析
3-1 ジャンルと叙述・語句の関連性
3-2 ジャンルと叙述の方向の関連性
3-3 キャッチ文長とジャンルの関連性
3-4 キャッチ文長と叙述の方向の関連性
3-5 ジャンルと記号の関連性
3-6 公開年代と使用語句の関連性
3-7 公開年代とキャッチ文長の関連性
4.おわりに

1.はじめに

1-1 研究動機と目的

 今年度の表現ゼミナールでは、前期の活動で物語教材の叙述分析を行なった。叙述分析を行なっていく中で、身の回りのさまざまな表現についても興味を持った。巧みな表現が用いられている事例として、私たちが普段映画を観るときに何気なく目にするキャッチコピーが挙げられる。キャッチコピーは主に配給会社が宣伝のためにつけるものである。配給会社は読み手にその映画への興味を持たせるために洗練された表現を考える。では、そのキャッチコピーには、読み手を惹き付けるためのどのような表現の工夫が盛り込まれているのか、ジャンルや公開年代、叙述分析などをもとに多様な観点から考察していく。

1-2 研究対象

 本節では、研究対象について説明していきたい。そもそも映画のキャッチコピーとはどのようなものであるのか。デジタル大辞泉によると「キャッチコピー」については以下のように説明されている。
 《(和)catch+copy》人の注意をひく広告文、宣伝文。(デジタル大辞泉)
今回、「映画キャッチコピー集」というサイトから無作為に計586作品を選出した。年代としては1973年から2014年まで、ジャンルとしてはアクション、恋愛、コメディなど計16種類のものを収集した。また、このジャンルの定義については後述するものとする。

2.研究にあたって

2-1. 研究方法

 1-2で述べた方法で映画を無作為に選び、映画キャッチコピーの表現方法(文字種・叙述内容等)、映画のジャンル、年代といった観点別に分類し、各観点の全体傾向やそれらにどのような関わりが見られるかについて考察を行った。

2-2. 分析の観点

 映画キャッチコピーの構成要素として、前節で述べたような観点から計七つについて分類を行った。

@ジャンルについて

映画のキャッチコピーとジャンルの関連を調べるにあたって、山田和夫氏の『映画論講座(別巻)映画の事典』(合同出版 1978年11月)をもとに以下のように全16種類のジャンルに分類した。
アドベンチャー
主人公の冒険を主題としたもの。(例:インディ・ジョーンズ)
アクション
心理描写などに比べて、登場人物の戦闘や肉体的な躍動に関する描写が中心となっているもの。(例:スパイダーマンシリーズ)

恋愛
恋愛を主題に描いたもの。ロマンス映画や、ラブ・ロマンスとも言われる。(例:花より男子ファイナル)
戦争
歴史上の戦争を題材としたもの。(例:硫黄島からの手紙)
ドラマ
物語の一切が登場人物の行動によって描かれる点と、登場人物が何らかの目的を持っている点に特徴がある。その目的への障害に直面することで、登場人物は葛藤する。障害への直面は、往々にして、登場人物同士の精神的・物理的衝突の形で提示される。(例:ALWAYS三丁目の夕日)
コメディ
一般的に陽気なドラマであり、読み手を楽しませ、エンターテインメントとして作られている。コメディというジャンルでは、しばしばユーモラスな状況、話し方、アクションやキャラクターが誇張される。(例:テッド)
SF
空想科学映画のことで、サイエンスフィクションの略である。(例:スターウォーズ)
サスペンス
ある状況に対して不安や緊張を抱いた不安定な心理、またそのような心理状態が続く様を描いた作品をいう。(例:踊る大捜査線シリーズ)
ホラー
観る者が恐怖感を味わって楽しむことを想定して制作されているもの。(例:リング)
ファンタジー
愛と友情、主人公の人間的な成長などをモチーフとしたもので、魔法使い、異世界、魔法生物などの題材がよく用いられる。(例:ハリーポッターシリーズ)
青春
スポーツ、悲恋、仲間との友情、試練とその克服などをテーマにしたもの。(例:ウォーターボーイズ)
ファミリー
家族、大人と子供たちで一緒に鑑賞して、ともに楽しめる映画作品のこと。(例:カールじいさんの空飛ぶ家)
ミステリー
謎を解くことで物語が展開されるもの。(例:容疑者Xの献身)
ドキュメンタリー
記録映画といい、あるがままの状態を作為なく撮影したもの。(例:マイケルジャクソン THIS IS IT)
オムニバス
二つ以上の映画が複合されたもの。(例:犬の映画)
歴史
人類の歴史上の人物、事件などを描いたもの。(例:座頭市)
以上のジャンル分けをもとに、研究を行っていくこととする。


A叙述内容(「内」と「外」)について

 「内」・「外」はキャッチコピーの内容が登場人物・語り手のどちらの視点で述べられているのかという基準で判別した。
 「内」のキャッチコピーは次のようなものである。
・映画の登場人物が他の登場人物に向けて発しているもの。
「この世には不思議なことなど何もないのだよ、関口君。」(『姑獲鳥の夏』)
・映画の登場人物の心理
「それでも、永遠だと信じたかった――。」(『僕等がいた 前編』)
 つまり登場人物の視点で表現されたものであると見て取れるものが「内」である。
 「外」のキャッチコピーは次のようなものである。
・語り手が読み手に対して語りかけているもの
 「君はまだ、究極のサッカーを知らない。」(『少林サッカー』)
・語り手が映画について説明しているもの
 「愛と平和の大冒険ファンタジー!」(『妖怪大戦争』)
 このように「外」のキャッチコピーは語り手の視点からの表現なのである。
 また、「内」「外」の概念では判別できないものを「内外」とした。その例を以下に挙げる。
・誰が発した言葉かがわからないもの
 「さあ、世界一オカシな工場見学へ!」(『チャーリーとチョコレート工場』)
・映画の登場人物が読み手に語りかけているもの(疑問・誘いかけ)
 「遊ぼ。」(『着信アリ2』)
誰が発した言葉かわからない表現と、登場人物が読み手に語りかけてくるような表現を「内外」とした。

B叙述内容(「状況」「行動」「心理」「談話」)について

状況…映画の説明、語り手の台詞など
行動…映画の登場人物の行動
談話…映画の登場人物の台詞
心理…信じる・愛するなどの気持ちを表すもの

Cキャッチ文長

キャッチコピーの文字数(句読点含む)。10文字ごとに区切った。

Dキャッチ文字種

キャッチコピーに使用されている文字の種類。(ひらがな・カタカナ・漢字・英字・数字・記号)
なお、記号は「!」「?」「…」を指す。

E年代

映画の公開年代のこと。

F使われている語句

どのような語句が用いられているのかについて調べた。
例:「世界」、「愛」など

3. 分析

3-1 ジャンルと叙述・語句の関連性

 映画には、様々なジャンルが含まれているが、映画のジャンルによってキャッチコピーに使われている言葉に読み手をひきつけるための特徴はないか、ジャンルごとの頻出語句や、叙述内容に偏りがあれば、それはどのような効果があるのかを調べた。
ここではSF・恋愛・コメディ・アクションの四つの分野を対象にした分析を行なった。

SF映画
そこで、「何が起こるかわからない」「その先が気になる」と思わせるために読み手側に問いかけてくる疑問系のキャッチフレーズや、結論を隠し曖昧に濁すような表現が使われているのではないかという仮説を立てた。調べてみると、その割合は23.2%を占めた。以下、キャッチコピーの例である。

「そして 何かが生き残った…」    (『ロストワールド ジュラシックパーク』)
その時、何が起きたのか? (『クローバーフィールド HAKAISHA』)


恋愛映画
 恋愛映画はその名の通り恋愛を主題に描く映画である。
 SFとは異なり現実的に起こりうることが描かれることが多い。このため、読み手に共感を得やすいような[心理]描写が多いのではないかと推測した。
ここでの[心理]描写とは、「思う」「信じる」「好き」「愛する」「恋に落ちる」などの心理的要因を含む動詞も含めた。
 その結果が下のグラフである。

(図1)恋愛映画における叙述内容
状況行動談話心理
27.50%7.50%22.50%42.50%
(表1)恋愛映画における叙述内容の割合
[状況]・[行動]・[談話]・[心理]の4つに分けたとき、[心理]描写は全体の42.5%に当たった。
このように、半分近くが[心理]描写である。
   キャッチコピーの例
「それでも、永遠だと信じたかった――。」(『僕等がいた前篇』)
「太陽にあたれない彼女に恋をした。」(『タイヨウのうた』)

3-2 ジャンルと叙述の方向の関連性

  本節では、ジャンルと叙述の方向の関連性について述べていきたい。
まず、すべての映画の叙述の方向について集計した。

(図2)全映画の叙述の方向

 集計の結果、「外」が52%と半分以上を占めた。
 外に向けたキャッチコピーが多いのは、元々周知度が高くない作品の場合、作品の概要を説明しなければ、作品自体を読み手が掴めないためではないだろうか。
また、ジャンルごとに叙述の方向について違いがみられるのではないかと考えしらべたところ、いくつか特徴的なものがみられた。特徴的なものについて取り上げてみていきたい。
ドラマやミステリーでは比較的「内」が多い結果となった。「内」のキャッチコピーにおいて、主にキャッチコピーはその広告の中で完結するため、読み手にとっては閉ざされた情報であるといえる。ドラマやミステリーのように、そこに事件や謎などがある場合、「内」のキャッチコピーで、読み手に閉ざされた情報を提示することで読み手の興味・関心を惹きつけることができるのではないだろうか。そのためこれらのジャンルの映画のキャッチコピーには「内」のものが比較的多いのではないかと考えられる。

内外
アクション242370
アドベンチャー4931
オムニバス031
コメディ11937
サスペンス141116
ドキュメンタリー103
ドラマ263330
ファミリー779
ファンタジー7717
ホラー4414
ミステリー3127
恋愛51718
戦争354
歴史3213
青春757
SF13426
(表2)ジャンルごとの叙述の方向

3-3 キャッチ文長とジャンルの関連性

 本節では、キャッチ文長とジャンルの関係について述べていく。
 まず、キャッチ文長についての全体傾向をみていく。以下、集計の結果である。

(図3)全映画のキャッチ文長
 このように、文字数が10〜19文字の映画が49%と最も多く約半数を占める。また、文字数が40〜99文字の映画は全体の約92%を占める。
 では、ここで2つの仮説をもとにジャンルとキャッチ文長の相関関係を見ていく。
 一つ目は、「ホラー映画のキャッチコピーは短い」という仮説である。
 ホラー映画はあまり多くを語らないことによって映画内容の不気味さや恐怖感を煽るように表現されているのではないかと推測し、「ホラー映画のキャッチコピーは短い」という仮説を立てた。
 なお、先ほども述べたように全ジャンルで最も数が多く、約半数を占めるのは10〜19文字のキャッチ文長の映画であるため、それよりも短い1〜9文字のキャッチコピーを短いキャッチコピーとする。
キャッチ文字数が1〜9文字のホラー映画は、ホラー映画全体の14%である。
他も同様に考えると、

アクション映画12%
恋愛映画8%
ファミリー映画0%
コメディ映画2%
ドラマ映画13%
SF映画16%
ミステリー映画5%
サスペンス映画7%
アドベンチャー映画11%
ファンタジー映画6%
である。
映画の数があわせて全体の10%に満たなかったため、数が20個以下のジャンルについては対象としなかった。
以上より、ホラー映画のキャッチコピーは短いということは確認できる。
 仮説でも述べたように、多くを語らないことで恐怖感を表現しようとしている例として
「うひひひひひひひひひ…」(『学校の怪談』)
「遊ぼ。」(『着信アリ2』)
などがあげられる。これらのようなキャッチコピーは読み手に対し、不気味さや恐怖感を与え、読み手の視聴意欲を掻き立てるのではないだろうか。
 ふたつめは非現実の内容であるSF映画のキャッチ文長は短いものが多かったので、現実の世界に即した内容であるドラマジャンルの映画はキャッチコピーが長いのではないかと推測し、「ドラマジャンルの映画のキャッチコピーは長いものが多い」と仮説を立てた。
キャッチコピーの長さが1〜39字の映画は全映画の93%を占める。それ以上の文字数のキャッチコピーは全体の七%に満たないので、ここでは対象としなかった。
ドラマ映画42%
アクション映画30%
アドベンチャー映画36%
コメディ映画41%
サスペンス映画28%
ファミリー映画26%
ミステリー映画29%
恋愛映画46%
ファンタジー映画43%
以上より、ドラマ・コメディ・恋愛・ファンタジーのキャッチ文長はそれぞれ長いものが40%を超えていることがわかる。しかし、ファンタジー・恋愛についてはドラマを上回っている。
 なぜこのような結果になったのであろうか。まずはドラマのキャッチ文長が長かった理由について述べる。
 ドラマジャンルは、先ほどのSF映画と異なり現実の世界をモチーフにした映画である。ゆえに内容の方向性を示唆する表現がなければ読み手は内容が把握できず、視聴意欲も起こらないと推測できる。そのため文字数も多くなるのではないだろうか。
 恋愛もドラマと同じく、内容の予測がつくような具体的な内容を示すことによって、読み手の視聴意欲をわき起こさせていると推測できる。
 コメディ映画については読み手を笑わせるための要素を含めるためにキャッチ文長が長くなっているのではないだろうか。いわゆる「オチ」をつけるためにはそれまでの話の流れがあるはずであり、必然的に文字数が増えるということである。
 一方で、ファンタジー映画はSFと同じ非現実の世界を描いているものであるにも関わらず、キャッチ文長が長くなっていた。これは、SFは現実世界の科学が発展した形の世界を描いているが、ファンタジー映画はまったく非現実の世界を描いており、その非現実の質が異なっているからであると考えられる。つまり、全く別の世界観を伝えるために多くの説明が必要になり、キャッチ文長が長くなるのではないだろうか。
このように、ジャンルとキャッチ文長の間には少なからず関連性があるといえる。映画ジャンルの性質を生かすような表現が工夫されており、文長にも影響を与えているのである。

3-4 キャッチ文長と叙述の方向の関連性

図4 全映画の叙述内容の割合
 キャッチコピーの長さとキャッチコピーの叙述の方向には特徴的な関係が見られるのか、それぞれのデータを基に考察した。
まず、両者を比較検討する前に、キャッチコピー全体における叙述の方向の割合を示した(図4)を再掲し、また、キャッチコピー文長の分布について確認する。
(図4)からは「外」が全体の52%と最も大きな割合を占めており、「内」「内外」のキャッチコピーはほぼ同数であることがわかる。

内外
1〜926(43%)19(31%)16(26%)
10〜19122(43%)95(33%)70(24%)
20〜2978(60%)28(21%)25(19%)
30〜3943(68%)6(10%)14(22%)
40〜4917(77%)1(5%)4(18%)
50〜596(67%)1(11%)2(22%)
60〜695(100%)0(0%)0(0%)
70〜792(100%)0(0%)0(0%)
80〜894(75%)1(25%)0(0%)
90〜991(100%)0(0%)0(0%)
(表3)キャッチ文長ごとの叙述の方向
 次に、キャッチ文長ごとの叙述の方向の割合について調べた。
 ここから、「外」の割合はキャッチコピー文長が長くなるにつれて大きくなり、60文字以上では1つを除き「外」のキャッチコピーとなっているということ、反対にキャッチコピー文長が短くなるほど「内」「内外」のキャッチコピーが増えているということが分かった。また、「内」と「内外」の割合に注目して見てみると、はじめ「内」の割合の方が高いが、次第に「内外」の割合が高くなっていき、20〜29文字でほぼ並んで以降は「内外」の方が多くなっているという変化が見られた。
以上の結果から、「外」のキャッチコピーは映画の内容等を説明するものが多いため比較的長くなりやすいのではないだろうか。また、単純な「内」と言えるキャッチコピーは登場人物のセリフが中心である。ゆえに、短いものが多くなるのではないかと考えられる。

3-5 ジャンルと記号の関連性

 ジャンルと記号の関連性を調べるにあたって、まず記号の持つ特性について述べていく。

「…」・・・文に間を与える働き
「?」・・・疑問符。疑問を表す。
「!」・・・感嘆符。強調・驚きなどの感情を表す。

 本節では、映画をジャンルごとに振り分け、記号がいくつキャッチコピーに含まれているかを表にし、その関連性を見ていくこととする。

(表4)「…」とジャンルのクロス集計

(表5)「!」とジャンルのクロス集計

(表6)「?」とジャンルのクロス集計
(表4)からは、「…」はホラーの約30%近く使われていることが、(表5)からは「!」はアドベンチャーで半数以上使われていることが、(表6)からは、「?」はミステリーにおいて約20%以上使われていることがわかる。
 これらから、ホラー映画では恐怖心をあおるため、間を置いたりゆっくりとした口調で相手に伝えたりするのに効果的な「・・・」がキャッチコピーに使われていることや、アドベンチャー映画では臨場感を生み出すために「!」が使われていること、スピード感やスリルを伝えることができ、謎を解き明かす物語の多いミステリーでは「?」を使って、読み手側の興味関心を惹いているということが考えられる。
 つまり、ジャンルごとに記号が使い分けられており、恐怖心や臨場感、興味関心を惹くなど、映画の内容に合ったキャッチコピーを生み出すのに、記号がその役割の一端を担っているのである。

3-6 公開年代と使用語句の関連性

本節では、公開年代と使用語句の関連性について探っていきたい。この二つの項目で分析を行ったのは、時代の流れによってキャッチコピーに用いられる語に違いや変化が現れると考えたからである。また、公開年代別にキャッチコピーを見ることでキャッチコピーに対する作り手の工夫の変わりようも見ることができるのではないかと考えた。
 公開年代は、映画数のバランスも踏まえて、ここでは「〜1999年」(A)、「2000〜04年」(B)、「2005〜09年」(C)、「2010年〜」(D)の4つに分けて分析することにした。キャッチコピーに用いられる語は、使用頻度(1つのキャッチコピーに2つある場合は2とカウントする)を調べ、上位のものをとってグラフを作成した。また、それぞれの語について使用頻度の割合についても算出した。

(A)〜1999(B)2000〜04年(C)2005〜09年(D)2010年〜
頻度累積割合

累積
頻度累積割合

累積
頻度累積割合

累積
頻度累積割合

累積
14143.00%21212.90%12121.60%8世界81.50%
7214.40%17世界385.20%10222.90%7152.80%
6275.70%10486.50%9314.10%6214.00%
5世界326.80%10587.90%8世界395.10%6275.10%
5377.80%10689.30%8未来476.20%5326.10%
5428.90%97710.50%8人生557.20%5377.00%
4469.70%98611.70%8638.30%5428.00%
45010.60%89412.80%8719.30%5478.90%
45411.40%810213.90%77810.30%5529.90%
4運命5812.30%710914.90%78511.20%55710.80%
36112.90%7未来11615.80%6奇跡9112.00%4最後6111.60%
3恐怖6413.50%6伝説12216.60%69712.80%4正義6512.30%
3地球6714.20%612817.40%610313.60%46913.10%
37014.80%613418.30%6人間10914.30%47313.90%
37315.40%513918.90%511415.00%4真実7714.60%
3映画7616.10%        511915.70%4人類8115.40%
3人生7916.70%        512416.30%48516.10%
38217.30%        512917.00%48916.90%
38518.00%        513417.60%        
3冒険8818.60%        513918.30%        
39119.20%        514418.90%        
               5運命14919.60%        
(表7)公開年代ごとのキャッチコピーの使用語句の使用頻度・累積・割合の累積

これらのデータをもとに分析していく。
 データからわかることの1つ目は、「愛」という語が多用されていることである。使用頻度を見ると、どの年代でも2位以上に挙がっており、割合で見ても、多い年代では3パーセントを占めている。このことの理由として、「愛」の持つプラスのイメージが関係していると考える。「愛」という語は多くの映画に対応し、関連する語である。そこで、「愛」のようなプラスのイメージの語を用いることで、その映画について読み手に好印象を与えるという効果があるのではないかと考えた。しかし、グラフからわかるように、年代を経るにつれて「愛」の使用頻度の割合は減少傾向にある。実際に割合を数字で見てみると、(A)の使用頻度は3.0パーセント、(B)は2.9パーセント、(C)は1.6パーセント、(D)は1.3パーセントと近年になるにつれ減少していることがわかる。これは、これまでの歴史の流れの中で、「愛」の使用がパターン化されていた時代から、そのパターンから抜け出すようにキャッチコピーの工夫がなされて、「愛」の使用が減少してきたからではないだろうか。それでも上位にある「愛」は、いまもなお、読み手に対して映画について良い印象を与えるようにはたらくのだということが考えられた。
 データからわかる2つ目のことは、「世界」という語の使用頻度は2000年代に入ってから急に増加しているということである。割合を見ると、(A)では1.1パーセントだったのが(B)では2.3パーセントにまで増加している。これは、インターネットの発達やグローバル化の影響により、世界規模で考えるべき機会が増えたからなのではないかと考えた。しかし、そこからまた(c)1.0パーセント(D)1.5パーセントと、伸び続けてはいないことから、「世界」という語も「愛」同様、パターン化された語という位置づけになったのではないだろうか。その代わりに、「生」や「人生」、「未来」といった印象の良い語が使われだしている。  そして、データからわかることの3つ目は、公開年代の古いものに多く用いられている語のイメージについてである。他と比べて、(A)では、使用頻度の高いものの中に「恐怖」や「戦」(いずれも割合0.6パーセント)といった一般的にプラスイメージとは言えない語が挙がっている。これは、世相で見ると1999年までの間に冷戦やバブル崩壊といった出来事があり、精神的に不安定な時代であったから、こういった語が用いられていたのではないだろうかと考えた。
 これらの分析から、映画が公開された年代とその映画のキャッチコピーには、やはり時代によって少しずつ異なる点もあり、また、時代の流れに左右されているところもある、ということがわかる。

3-7 公開年代とキャッチ文長の関連性

 本節では、公開年代とキャッチ文長の関連について述べていく。
 キャッチコピーには、短い文で読み手の心を掴むものから、長い文で興味を引く内容のものまでさまざまにある。そのなかで、各年代に分けて集計を取ったとき、それぞれの年代の特徴が見えてくるのではないか、という仮説を立て、調査を行った。
各年代それぞれのキャッチコピー文長の割合をグラフにすると、以下のようになる。


 (図5)各年代のキャッチ文長の割合
年代によってキャッチコピーの平均文字数に特徴が見られた。特に、近年では、20文字以下の短いものが好まれる傾向にあることがわかった。
そのように短いキャッチコピーが好まれる背景には、画像、映像加工技術の向上や、キャッチコピーに使用される言葉の工夫の発達などがあげられるのではないだろうか。

4.おわりに

 表現者のねらいは読み手に「この映画を見てみたい」と思わせることである。そのためには映画の特徴やアピールポイントを説明しなければならないが、ただ単にあらすじのようなものを書いていても読み手の興味をひきつけることは出来ない。また表現者の主観的な感想を述べるのみであったり、抽象的な表現を使用しすぎても、読み手には伝わりにくくなる。そのような中で、表現者は、視点を登場人物にうつしたり、客観的な立場から語り手として言葉を投げかけたりしている。時にはどちらとも取れる視点からの表現や登場人物が読み手に言葉を投げかけるような表現もある。また、ジャンルによる叙述内容や文長の工夫、年代による文長や、言葉の変化などそれぞれの映画に合わせた工夫が見られた。先に述べたように、キャッチコピーとは読み手に映画を見てもらうための表現であり、表現者は1つの映画を最大限にアピールしようとしているのである。
つまり、キャッチコピーには、まだ映画の内容を知らない読み手の興味関心をひきつける言葉の工夫が詰まっているということだ。
 今回の研究では映画を無作為に選んだことにより、ジャンルごとに分けるとジャンルに偏りが生じた。公開年代によって映画数に差が出てしまったという問題点もあった。これらの反省から、ひとつの構成要素に焦点化した映画選びをおこなう必要性を感じた。また、キャッチコピーが映画を見る人に与えた影響を数値化したものとして興行収入という構成要素を用いた。しかし、興行収入に影響する要因はキャッチコピーだけではない。映像や写真による読み手への働きかけも興行収入に影響を与える。他にも、シリーズものや原作(小説やマンガ)があるものでは、キャッチコピーの影響を必ずしも受けているとは考えにくい。
 これらのことを踏まえると、ひとつの観点ごとに映画を選んだり、実際にキャッチコピーが人に与える影響をアンケートなどの方法で確認したりすることによって、より正確な研究結果が得られるのではないだろうか。これを今後の研究課題としたい。

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