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第51回大阪教育大学国語教育学会
2016年12月23日
於 大阪教育大学 柏原キャンパス

お菓子のキャッチコピー研究
〜言葉の誘惑〜

国語表現ゼミナール
3回生 川島大輝・黒木亮・黒田潤介・仁井山楽毅 ・松村拓美・山崎靖弘
指導教員 野浪正隆

第一章 はじめに

1-1 研究動機と目的

 今年度の表現ゼミナールでは、これまでの活動で学校教材を中心とした文学的文章の叙述分析を行った。それに加え、携帯小説や楽曲の歌詞など、文学からは少し離れるが多くの人に親しまれている叙述表現についての分析も行った。活動の中で、そのような大勢の人に向けた表現にはどのような特徴や技巧があるのかというところに興味を持った。そういった表現は、教育の場や文学の場に限定されるものではなく、我々の普段の生活の中にも様々な形で存在している。その中でも、キャッチコピー、特に商品を購買する際に目にするそれは、馴染み深いものである。
 私たちは、日常的に様々なキャッチコピーを見ている。街中や電車の吊り広告、新聞、雑誌、TVやインターネットなど、意識することがなくとも何らかの形で、たくさんのメッセージを目にしているものの、詳細を読み込んだり、商品そのものについて考えたりすることはほとんどの場合ないかもしれない。しかしながら、心のどこかには残っているキャッチコピーは数多くあるのではないだろうか。
 そもそも、キャッチコピーとは何なのだろうか。大辞林 第三版では「〔和catch copy〕消費者の心を強くとらえる効果をねらった印象的な宣伝文句。」とされている。川上徹也『キャッチコピー力の基本』(2010年8月 日本実業出版)では、「短く、的確なことばで表現する能力」をキャッチコピーの力としている。かの三島由紀夫は『文章讀本』(1959年6月 中央公論社)で「文学的な意味合いの高いものではありませんが,それぞれ独特な目的に従って技巧をこらされたものであって,決していわゆる素人の文章ではありません」と述べている。文章で人の心をとらえるのは容易なことではない。コピーライターという職業が存在するほどキャッチコピーというものは、商品の宣伝において重要視されており、三島のいうように、そこには必ず表現の工夫が存在しているのではないかと考える。  今回は、商品キャッチコピーの中でも、老若男女が気軽に手にすることのできる「お菓子」についてのキャッチコピーに焦点を当て、その表現の技巧や工夫について考えていきたい。お菓子のキャッチコピーといえば、パッケージはもちろんのこと、CMや広告などいたるところで目にする。それは、少なからず顧客の購買意欲の要因となっているはずだ。短いその表現の中に、どのような表現特性があるかを研究していきたい。

第二章 研究にあたって

第一節 研究対象

今回、お菓子のキャッチコピーの研究の対象として、大阪教育大学柏原キャンパスの大学生協購買「IRIS」で取り扱われている商品(2016年12月1日時点)のうち、COOP菓子、ガム、キャンディー、クッキーチョコ・パイ、グミ、スティック・ポケット・バー、スティックチョコレート、スナック、ビスケット・クッキー、駄菓子、珍味・素材菓子、半生菓子、板チョコ、粒チョコに分類される全394品目を取り扱う。なお、この項目は大学生協の商品マスタリストの中で、便宜的に分類されたものである。
 キャッチコピーは、広告に掲載されていたり、CMで起用されているものもあるが、今回分析の対象にするキャッチコピーは「普段目にしている」という観点から、パッケージに印字されているものに限定する。そのときキャッチコピーが認められているものは394品目中、329品目である。分類ごとの品目は以下のとおりである。

分類品目数
COOP菓子 24品目
ガム20品目
キャンディー36品目
クッキーチョコ・パイ20品目
グミ31品目
スティック・ポケット・バー21品目
スティックチョコレート20品目
スナック56品目
ビスケット・クッキー30品目
駄菓子65品目
珍味・素材菓子12品目
半生菓子20品目
板チョコ10品目
粒チョコ29品目

第二節 研究方法

研究対象を品詞、文字の種類(ひらがな/カタカナ/漢字/英語/数値)、オノマトペの観点に分け、キャッチコピーとの間にどのような関係があるのかを分析し、考察していく。観点をどのように分析したかについては、各項の冒頭で説明する。

第三章 分析

第一節 品詞

形態素解析システム「茶筌」を参考に品詞分解を行った。329個のキャッチコピーの中で、各品詞が含まれるものの数が以下のとおりである。

品詞頻度
名詞294
形容詞 77
形容動詞 54
動詞102
副詞 80
助詞158
助動詞 73
感動詞 2
連体詞 3
記号104
オノマトペ65

私たちは、商品を手短に紹介するために、「おいしい」や「うまい」など、形容詞を含んだものが多いと予想していたが、形容詞的に用いられている単語を含んだコピーは、形容詞・形容動詞を含めても、総数の半分にも満たない131個であった。また、助詞を含むものも半数ほどしかなかった。これは、できるだけ手短に紹介するという観点で予想通りであった。
ここで、さらに数を細かく見ていくために、キャッチコピー全体における品詞の数を集計した。

品詞頻度
名詞677
形容詞 84
形容動詞 64
動詞133
副詞 98
助詞214
助動詞 98
感動詞 2
連体詞 3
記号126
オノマトペ 75

具体例

名詞頻度
チョコ(※チョコレート、チョコチップ、ホワイトチョコなども含む)35
食感25
おいしさ25
味わい19
カカオ 8
北海道、北海道産 8
贅沢、ぜいたく 5
バター 5
形容詞頻度
おいしい16
香ばしい10
うまい 5
やさしい 5

第二節 文字種

定義

ひらがな
ひらがなのみで構成されているひらがな語がある。(助詞は除く。)
カタカナ
カタカナが含まれている。
漢字
漢字が含まれている。
英語
英語が含まれている。
数字
含有量・成分・創業以来〜年などがふくまれている。

329個のキャッチコピーの中で、各文字種が含まれるものの数が以下のとおりである。

文字種頻度
ひらがな183例).ほっとひといき/雪のようなくちどけ など
カタカナ203例).ベビベビベビベビベビースター♪/サクサクすすめ! など
漢字248例).日本歯科医師会推薦/硬め食感! など
英語 7例).Born in France Made in Japan/Wの果汁 など
数字 34例).カナダメープルシロップ100%/乳酸菌が1億個! など

次にこれを分類別に見ていく。結果は以下の表のとおりである。


第三節 オノマトペ

オノマトペとは擬音語、擬態語の総称で、万葉の時代から感性を表現する言葉として利用されてきた。現代でもオノマトペは何気ない会話から広告文や新聞の見出しにまで利用されており、例えば日本が誇る文化の一つでもあるマンガには日常会話では使わないようなものもある。諸外国と比べても日本のオノマトペは多様多彩で、吉村耕治は日本のオノマトペについて次のように述べている。

日本語は、漢字使用の文化圏の中でもオノマトペの種類が豊富で使用頻度が高いために、「オノマトペの宝庫」とも呼ばれている。
吉村耕治 「日英語の比較の観点から見たオノマトペ-感性の表現の魅力-」(2015年10月 表現学会)

このように日本語の表現においてオノマトペは欠かせない要素となっていて、日本の文化と密接したものであることもわかる。例えば雨が降っている場合、「ポツポツ」「ザーザー」「しとしと」など程度を表現することもでき、「笑う」という動詞の前に使えば「にやにや」「げらげら」「ふふふふ」など様子を表現することもできる。また「ドキドキ」「ワクワク」など心情を表現することもできる。吉村は以下のようにも述べている。

オノマトペは、言葉のプリミティブ(原始的)な要素で、子供にも容易に創造することができ、簡潔な表現で、臨場感にあふれ、心地よいリズムを備え、繊細で微妙な描写力を備えた表現である。
吉村耕治 「日英語の比較の観点から見たオノマトペ-感性の表現の魅力-」(2015年10月 表現学会)

またオノマトペが与える印象について田守育啓は次のように述べている。

オノマトペは語呂がいいため耳に残りやすく、商品名を消費者に印象づけるにはうってつけのことばであるといえるだろう。(中略)その際に役立つのがオノマトペであり、オノマトペの持つ、臨場感に溢れるヴィヴィッドな描写力や語呂のよさが商品の宣伝に一役買っているのである。
田守育啓 『オノマトペ 擬音・擬態語をたのしむ』(2002年9月 岩波書店)

このようにオノマトペは伝えたいものの魅力をたった一語で相手にインパクトを与えることができるという点でキャッチコピーにふさわしいものであるといえるだろう。そしてお菓子では、「サクサクパンダ」や「ポイフル」などオノマトペがそのまま商品名に使われている場合も少なくはない。お菓子は生活用品などとは異なり、大人だけではなく、子どもも購買者になることが多い。オノマトペは年齢を問わずたくさんの人にわかりやすく親しみやすいので、お菓子のキャッチコピーに適しているといえる。そこで、お菓子のキャッチコピーに含まれているオノマトペを分析していく。

分析にあたって、私たちはオノマトペをいくつかに分類した。まず、感覚に訴えるものと、そうでないものの二つに分け、そこからさらに、「食感(固)」、「食感(柔)」、「刺激」、「状態」、「動作」、「効能」の六つに分けた。そして、それぞれの分類の特徴の分析について考察する。以下はその分布である。

食感(固)33

オノマトペ 「ザックザック1、ザクザク1、サクサク10、さっくり5、カリッ2、サクッ(サクッサクッ)8、ポリポリ1、ザクッ1、パリッ2、シャキシャキ1、しゃりしゃり1」
お菓子の種類『半生菓子1、スティック・ポケット・バー1、ビスケット・クッキー10、スティック・チョコレートバー2、板チョコ2、スナック7、クッキーチョコ・パイ1、粒チョコ1、駄菓子3、珍味・素材菓子1、キャンディー1』

「食感(固)」に関連するオノマトペが、最も多くみられた。多くの種類のお菓子に見られる。これらは、一般的に固いものを切ったり刻んだりする時に使われる。ここでは、食感でありながらも、同時に聴覚に訴えかけることができ、商品の魅力を多角的に伝えることができるため、様々なジャンルのお菓子で用いられていると思われる。また、軽快さを感じられることから、キャッチフレーズに組み込むことで、年齢を問わず多くの人の耳に残るキャッチフレーズを生み出すことができるのも、多くの商品で使われている理由だろう。

食感(柔)10

オノマトペ「ふっくら1、ふんわり4、ほっくり1、ふわ3、もち(もちもち)1」
お菓子の種類『半生菓子4、スティックチョコレート2、粒チョコ1、ビスケット・クッキー1、キャンディー1』

上に挙げられているものと同じく食感に訴えかけるオノマトペだが、こちらは特に柔らかいお菓子で用いられる。これらは、柔らかく、弾力があるさまに用いられることが多く、上のものと違って、食感に集中したオノマトペである。爽快感はないが、じっくりと味わうことで、広がっていく味や生地のふくらみを想起させることができる。

刺激 4

オノマトペ「シュワシュワ1、シュワッ1、つーん1、ピリッ1」
お菓子『駄菓子4』

感覚の中でも、食感ではなく、舌に対する物理的な刺激を表したオノマトペである。刺激を好む人にターゲットを絞ったキャッチフレーズに用いられる。

状態 17

オノマトペ「ぎゅっ6、ぎっしり5、しっとり5、じんわり1」
お菓子の種類『半生菓子3、スティック・ポケット・バー5、クッキーチョコ・パイ2、スティックチョコレート1、粒チョコ1、ビスケット・クッキー4』

 主に餡やクリームなどを包み込んだお菓子に対して用いられる。また、他にも栄養や味覚が込められているといった表現にも使われる。味覚や視覚ではなく、中につまっているものを受け手に思い描かせることで、お菓子への興味を集めるようにしていると思われる。その性質上、凝縮されて、気軽に一口で食べられる商品によく見られた。

動作 5

オノマトペ「ポイポイ3、すーっ1、パクパク1」
お菓子の種類『駄菓子1、グミ3、珍味・素材菓子1』

 これまでのオノマトペとは異なり、お菓子を食べるときの感覚ではなく、動作である。動きであるため、前述の食感や刺激とは異なり、視覚化できるのが特徴である。これにより、低年齢層の子どもに対しても効果的にお菓子のイメージを伝えることができる。持ち運びしやすいものや、手でつまんで食べるお菓子に見られ、簡単に食べられることを強調するために動作のオノマトペを用いていると考えた。

効果 9

オノマトペ「スッキリ9」
お菓子『ガム9』

今回調べたお菓子の中では、ガムのみに見られた。お菓子を食べるときの感覚とは違い、お菓子を食べた後に起こる効果についてのものである。ガムの食感は商品による差異を感じにくい。ガムは嗜好品や健康食品であるので、その効果を際立たせるキャッチフレーズのオノマトペが用いられている。

 以上が、今回調べたキャッチフレーズの中にあったオノマトペのまとめである。初めにも言った通り、オノマトペは簡単な表現で、わかりやすく商品の魅力やインパクトを伝えることが目的である。ここまでに挙げたオノマトペは、効果を除いて、購入者が商品の特徴をイメージしやすいように思われた。
 状態までの、購入者の感覚に訴えかけるオノマトペは、わかりやすさから、年齢を問わず意識を引き付け、そのリズム感は記憶にとても残りやすい。どのようなお菓子かを想起させることで、購買意欲を高めるようにしているのだろう。
 対して動作に訴えかけたり、効果を示したりするオノマトペは、記憶に残るまでは感覚と同じだが、想起するのはお菓子そのものではなく、それを食べている、または食べた自分自身である。自分が食べる姿や、食べた後の満足感、発揮された効果を想起させることで、購買意欲を高めている。
 この二種類のオノマトペは、対象こそ違うが、どちらも購入者の想像を促すという点で共通する。簡単な言葉で、端的に魅力を伝え、想像を促すことで、購入者が自由にお菓子の魅力を見つけることができるのではないだろうか。具体的に魅力を説明するのではなく、あえて抽象的なオノマトペを用いることで、より多くの幅の客層にその魅力を伝えることができているのではないだろうかと考えた。

第四節 お菓子の分類別の考察

 以上全ての観点のデータと考察を踏まえ、お菓子の分類別に考察を行う。

【COOP菓子】

 COOP菓子のキャッチコピーの最大の特徴として、素材やその原産地、そして商品自体の説明が行われていることが挙げられる。リズム感を持たせたり、独自の語を用いたりという、いわゆる「キャッチー」な表現は見られず、あくまで商品自体の味、食感など、実際の味覚に訴えかけてくるような表現が重視されている。また、客観的事実で、簡潔に説明する傾向がある。→商品の「要約」
例)北海道産の牛乳使用。あっさりとした味わいです。 「牛乳かりんとう」 (CO・OP)
  小麦全粒粉を使用しサクサクした食感のビスケットに、チョコレートを合わせました。「ダイジェスティブチョコビスケット 」(CO・OP)

【ガム】

 ガムのキャッチコピーでは、「おいしい」や「サクサク」などのように、商品の味覚や食感の特徴を述べるような表現はほとんど用いられておらず、代わりに「スッキリ」や「日本歯科医師会推薦」などのような、それを賞味することによって得られるであろう副次的作用について言及されている。また、自立語としてのひらがなは用いられていないキャッチコピーが揃っている。→噛むことで得られる効果の宣伝
例)強力ミントで眠気スッキリ! 「ブラックブラックガム」(ロッテ)
  息スッキリ「キシリッシュリラックスミント」(明治)

【キャンディー】

 キャンディーでは、その目的によりキャッチコピーの特徴にも少し違いがみられる。ミントタブレット・のど飴類では、主にその商品を摂取するための目的・効果について述べられており、「3000mgのビタミンC」「龍角散のハーブパウダー20%使用」「1粒5分!続く清涼感」のような、具体的な数値を用いることでよりその商品の魅力を売り出そうという試みがみられる。
 一方で、特にビタミンなどの栄養を摂取する健康的な目的や、目を覚ましたり、清涼感を得るなどの実利的な目的のない、いわゆる嗜好目的のキャンディーでは、成分や素材の説明が多用されている。商品の性質上、果実由来の味が多くなるため、「紀州産梅果汁使用」「幻の洋梨」のような、素材に土地名や何らかの肩書を用いるようなキャッチコピーが多くみられる。→得られる「おいしさ」をアピール
例)1粒5分!続く清涼感「ミンティアブリーズシャイニーピンク」(アサヒ)
  龍角散のハーブパウダー20%使用「のどすっきり飴ST」(龍角散)

【クッキーチョコ・パイ】

 クッキーチョコ・パイでは、「サクッ」といったように、その食感に関するような表現や、「バター」「はちみつ」のようなまろやかさを想起させるようなものなど、味に対するアプローチを行うようなキャッチコピーが多くみられる。しかし、このジャンルのキャッチコピーの中にあって、「ほっとひといき」(きのこの山)と、「ここらでひといき」(たけのこの里)は、他のキャッチコピーと違い、味を表現するようなものではない。これは、「きのこの山」「たけのこの里」のような、その商品名だけでその形状・味がすぐに想起できるような定番商品に関しては、改めて商品自体の特徴を述べる必要がなく、その味以外のキャッチコピーを、今回の場合では、それを食べるシチュエーションについてのキャッチコピーを作成したのではないかと考えられる。→おいしさの理由を提示
例)カリッとおいしい!「プッカ チョコレート」(明治)
  じっくり広がるバター風味「アルフォートミニ チョコブロンドミルク」(ブルボン)

【グミ】

 グミのキャッチコピーでは、主にその食感に関する語が多く用いられている。特に、「ハード」「弾力」といったような語が多く、グミでは噛みごたえを重視したキャッチコピーが主となっている。また、「グミ」といえば「コラーゲン」が多く含まれているが、実際に「コラーゲン」を用いたキャッチコピーは、調査した中では1種類しか見当たらなかった。これは、他社が食感等で他のグミとの差をつけようとしている中で、「グミにはコラーゲンが含まれている」という、前提ともいえることをあえて述べることで、グミに対して健康・美容的価値を見出すような消費者を刺激し、購買意欲を高めようとしていると考えらえる。→噛みたい気持ちにアプローチ
例)この弾力、クセになる。「タフグミ」(カバヤ)
  かみごたえ満足!「GOCHIグミ グレープ味」(明治)

【スティック・ポケット・バー】

 この商品群は、チョコレート菓子を中心とするため、「チョコ」「カカオ」のような、チョコレートに関する語に加え、「濃厚」「深い」といったチョコレートを形容する傾向の多い語が多くみられた。また、それに準ずる「ぎゅっと」「ぎっしり」などのオノマトペもいくつか見られた。→チョコレートの魅力で引きつける
例)ホワイトチョコ染み込む! 「ガルボミニこく旨キャラメルポケットパック 」(明治)
  濃く、濃くとろけていく「メルティーキッスプレミアムショコラSTパック 」(明治)

【スティックチョコレート】

 この商品群では、その商品の味・形状・食感に関わるキャッチコピーがほとんどである。ポッキーやトッポ等の定番商品の関連商品である、「ポッキー極細」「味わい濃厚トッポあふれる苺」では、キャッチコピーに数値が用いられている。「もっとチョコ満足50本」「苺たっぷり8倍使用!」といったキャッチコピーは、まずその基準となる商品の存在が必要不可欠であり、これらはポッキーやトッポのように、関連商品が多く販売されている商品ならではのキャッチコピーとも考えられる。→それぞれの良さを主張
例)一本にぎっしりアーモンド「アーモンドクラッシュポッキー」(グリコ)
  苺たっぷり8倍使用!「味わい濃厚トッポあふれる苺」(ロッテ)

【スナック】

 スナック菓子のキャッチコピーでは、主に食感やその味について言及しているものがほとんどである。一部商品名に「大人の」といったような、少し高級感を演出するようなものが見られるが、こういった商品名はキャッチコピーにも反映されており、主に「贅沢」「上質」といった語と対応している。
 また、この商品群には、じゃがりこやかっぱえびせんといった人気商品がある。これらの商品のキャッチコピーは、とても有名であるため、ほとんどの人はその言葉だけで商品を連想することができる。このような知名度も高い商品のキャッチコピーは、主にその商品の特徴ではなく、その商品を食べた際のリアクションに関するものが多いと考えられる。→目を引く、クセになるキャッチコピー
例)ちょっと上質、プチ贅沢 「大人プチクリームチーズケーキ」(ブルボン)
  やめられない、とまらない !「かっぱえびせん」(カルビー)

【ビスケット・クッキー】

 ビスケット・クッキーでは、そのサクサクした食感が最大の特徴ともいえるため、「サクサク」「サクッ」などのオノマトペがほとんどの場合用いられている。それ以外の部分では、味に関する表現と子どもやその保護者に対象を絞った表現が見られた。→想いを食感に乗せて
例)64層のサクサクパイにまろやかチョコ♪ 「パイの実」(ロッテ)
  外はサックリ!中はしっとり!「カントリーマアム ミニカカオ」(不二家)
  サクッとかわいい「ミニ源氏パイ」(三立)

【駄菓子】

 駄菓子のキャッチコピーは、全体を通して子どもに向けたであろうものが多く存在する。「おいしいヨ!」(蒲焼さん太郎)のような非常にシンプルなものから、「おいしさイナズマ級」(ブラックサンダー)のような造語を用いたもの、「ありゃりゃわしのかんむりどこいった」(王様のわすれもの)のような、パッケージのキャラクターとの関連をもたせたキャッチコピーなど、非常にバリエーションに富んだ作品が多い。そのため、駄菓子では商品の特徴を直接的に述べるようなキャッチコピーは少なくなっている。
→それぞれの持ち味で歩み寄る
例)おいしいヨ!「蒲焼さん太郎」(やおきん)
  おいしさイナズマ級「ブラックサンダー」(有楽)

【珍味・素材菓子】

 「和」由来の商品のみを取り扱っているということもあり、キャッチコピーもカタカナを用いたものが比較的少なくなっている。梅や昆布といった素材が多く用いられているため、その素材の原産地について言及するものや、酸味を売りにしたようなキャッチコピーが主となっている。→国産の魅力で勝負する
例)いつでもどこでも「カルくカムこんぶ 」(上田)
  素材のおいしさ「海苔と紀州梅のはさみ焼き」(カンロ)

【半生菓子】

 この商品群では、商品の味や食感などの感覚に関わるキャッチコピーが主である。これは、スナックの「じゃがりこ」のような、代表的な商品が見られないこともその理由の一つとして考えられる。洋菓子では商品名・キャッチコピーともにカタカナが多く用いられており、それとは対比的に、和由来の菓子では、商品名・キャッチコピーともにひらがなが用いられる傾向にある。→素材に合った言葉で伝える
例)カカオの味わいふんわり食感「ほろにがショコラケーキ」(ブルボン)
  ふんわりソフトな食感のバームクーヘン 「ちょっとした気持ち ふんわりバームクーヘン」(ローゼン)

【板チョコ】

 この商品群では、主原料がキャッチコピーに多く用いられている。板チョコは、そのジャンルとして一定の形が決まっているため、キャッチコピー自体もその形式について述べているものは見られず、ほとんどのキャッチコピーがその味や原材料などについてのものである。→中身の違いで戦う
例)進化したカカオとミルクのおいしさ 「ミルクチョコレート」(明治)
  ラムレーズンのみずみずしいおいしさ「ラミー」(ロッテ)

【粒チョコ】

 粒チョコでは、その一口で食べれる手軽さがひとつの特徴である。そのため、「ぎゅっとチョコぎっしり!」「まるで小さなチーズケーキ」「ぜいたくは、ひと粒でできる。」といったように、キャッチコピーにも一粒にその商品の魅力が凝縮されたようなイメージを与えるものが見られる。
 また、このジャンルにおいて、「事務的な作業による一時的・心理的なストレスを低減する」(メンタルバランスチョコGABAミルクパウチ)は、他のキャッチコピーとは少し質が違っているものの、粒チョコという手軽にいつでも食べられるという利点もあいまって、仕事中に気軽に口にできるものであるという印象を与えるものであると考えられる。
→魅力をぎゅっとまとめて、届ける。
例)ぜいたくは、ひと粒でできる。 「アーモンドチョコ」(明治)
  ストレス社会で闘うあなたに「GABA ミルクスタンドパウチ」(森永)

第四章 全体考察

 お菓子のキャッチコピーに共通することは、特徴やアピールポイントの売り出しであり、一般的なキャッチコピーに見られるような疑問や提案によって受け手に考えさせるような表現や名言を利用した言い回し、ストーリー性のある文は、ここではほとんど見られなかった。その特徴やアピールポイントは、分類によって多少の傾向があるものの、商品によって様々であった。私たちは、ここでみられるアピールポイントについて、11の観点を見出した。

味に関するもの110
香りに関するもの17
食感に関するもの92
形状に関するもの9
品質に関するもの31
食べる場面に関するもの13
手法を表すもの22
土地や素材などでブランド力を表すもの50
数値を表したもの27
食べることによって得られる効能を表したもの34
食べることに関わるの行動や態度を表したもの21

 以上のアピールポイントについて、どの項目にも当てはまらないキャッチコピーを有するものが、若干あるものの、ほとんどが1つないしは2つのアピールポイントをキャッチコピーに掲げていることが分かった。

第五章 おわりに

 キャッチコピーのねらいは、消費者に商品を手に取らせることである。その中で、商品の客観的事実を伝えたり味について伝えたりするだけでは、購入者の興味を引き付けることはできないし、逆に、開発者の主観的考えを述べたり、抽象的な表現のみを使用したりしても、購入者に商品の魅力は伝わらない。そのため、キャッチコピーの表現を考えるときは、視点を購入者にうつしたり、客観的な見方になって言葉を投げかけたりする必要がある。また、ジャンルやターゲットの層によってオノマトペなどの表現を駆使したり、漢字やカタカナの使用量を調節したりといった工夫が見られた。購入者が商品に興味を持つように、その魅力を最大限にアピールしようとしている。つまり、キャッチコピーには、まだまだ多くの人の興味を引くための工夫が詰まっているはずなのである。
 今回の分析は、分析の対象を生協のお菓子に限定したために、価格帯などに差があまり生まれず、対象がやや限定的になってしまった。お菓子に限らず、商品を選ぶ際には重要な要素となるパッケージのデザインとの関連性や、パッケージ部分以外のキャッチコピーも、購入者に対する工夫がなされていることだろう。また、企業ごとの特徴や、期間限定商品のキャッチコピー、リズムの工夫なども、キャッチコピーを考えるうえでは重要な要素となりうるのではないだろうか。
 これらのことから、企業ごとに分けて商品を選出したり、実際にキャッチコピーが商品の印象にどのような影響を与えているかアンケートなどを用いて調べたりすることで、また違った結果が見られてくるのではないだろうか。今回は調査しきれなかった観点を踏まえて、今後の研究課題としたい。

参考文献

・増田太次郎 渡辺武『標語・キャッチフレーズ研究室』1958年11月 春秋社
・三島由紀夫『文章讀本』1959年6月 中央公論社
・北村日出夫 山路龍天 田吹日出碩『広告キャッチフレーズ』1981年10月 株式会社有斐閣
・木下栄造『キャッチフレーズの記号論』1988年7月 アリス工芸・寿印刷
・尚学図書 編集『擬音語・擬態語の読本』1991年11月 小学館
・田守育啓『オノマトペ 擬音・擬態語をたのしむ』2002年9月 岩波書店
・丹野眞智俊 『オノマトペ 擬音語・擬態語を考える』2005年8月 あいり出版
・小野正弘『日本語オノマトペ辞典』2007年10月 株式会社小学館
・松村明 編集『大辞林 第三版』2006年10月 三省堂
・竹内謙礼『売り上げがドカンとあがるキャッチコピーの作り方』2009年7月 日本経済新聞出版社
・川上徹也『キャッチコピー力の基本』2010年8月 日本実業出版
・笠松良彦『これからの広告人へ』2013年2月 アスキー新書
・岡本欣也『「売り言葉」と「買い言葉」 心を動かすコピーの発想』2013年7月 NHK出版
・水野良太郎『オノマトペラペラ マンガで日本語の擬音語・擬態語』2014年6月 東京堂出版
・浜野祥子『日本語のオノマトペ―音象徴と構造-』2014年7月 くろしお出版
・森山晋平 監修『物語のある広告コピー シリーズ広告編』2014年7月 パイ インターナショナル
・藤沢晃治『「説得力」を強くする 必ず相手を説得させる14の作戦』2015年6月 講談社
・吉村耕治「日英語の比較の観点から見たオノマトペ-感性の表現の魅力-」2015年10月 表現学会
・マルク・アンドルース マテイス・ファン・レイヴェン リック・ファン・バーレン 著坂東智子 翻訳 『「人を動かす」 広告デザインの心理33 人の無意識に影響を与える、イメージに秘められた説得力』2016年3月 BNN新書
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