第一章 課題解明の方法
本論に入る前に、推理小説とはどういうものなのか?について考えてみた。推理小説という呼び名が一般的に使われるようになったのは、大体昭和二十一年以降のことで、それまでは探偵小説と呼ばれていた。横溝正史氏は探偵小説を次のように定義づけている。
「探偵小説とは、主として犯罪に関する難解な秘密が、論理的に、徐々に解かれて行く 経路の面白さを主眼とする文学である。」
この定義は、現在の推理小説にも充分に通用するものであると思われる。また、土屋隆夫氏は『現代推理小説体系 第十巻』の中で以下のように述べている。
「推理小説は、一定の形式を必要とする文学である。それが成功するためには、
人工的な謎と、
謎を解明する人工的な論理と、
それに伴う意外性、
を必要とする。わたしがことさらに「人工的」ということばを付け加えたのは、推理
小説が徹頭徹尾「作り話」であることを強調したいからにほかならない。もちろん、
すべての小説が「作り話」であることにかわりはないが、推理小説は、特にその「作
話性」を重視する。犯罪の記録や、ノンフィクションと呼ばれるもの、或いはある事
件のルポルタージュのようなものは、いかに文学的に表現されていても、推理小説と
呼ぶべきではない。そこには、作者が作り出した「人工的な謎」や「人工的な論理」
がないからだ。」
今回、本論を書くにあたって、このような説をもとに、推理小説であると判断できるものを研究資料として選んだ。
さて、第二章では作品紹介と構成面からの猫の役割を考察する。
<作品>
これら8作品について、作品紹介として、以下の観点から見ていくことにする。
1 登場人物
2 あらすじ
3 作品に登場する猫についてわかること
4 猫の事件との関わり方
5 その他気付いたこと
次に、猫とサスペンスの関わりをみるために、作品中に出てくるサスペンスを図式化する。
*サスペンス〈suspense〉 小説・映画などで物語中の危機が、読者・観客に感じさせ
る不安・懸念の気持ち 〜『広辞苑』第四版〜
suspense 1気がかり、懸念、不安(な状態);(小説映画などの)持
続的緊張感、サスペンス
2未定(の状態);(社会情勢・事件などが)未決定の状態、
不安定、どっちつかず 〜『プログレッシブ英和辞典』〜
*伏線 文章技法の一つ。小説、戯曲などで、のちに述べる事柄の準備の
ために、それに関連した事柄を前の方でほのめかしておくこと。
また、そのもの。
読者を文章に引きつけ、読み進めさせるために様々な仕掛けがある。その一つがサスペンスであるが、推理小説はこのサスペンスの原点と言えるであろう。
江連隆氏は「サスペンスによるプロットの構造分析」の中で、サスペンスとプロットの関係を図式化して考察されている。そこで、本論でも江連氏の図式化を参考にしながら、上記の8作品のサスペンスを図式化し、さらに猫との関わりを見ていきたいと思う。
なお、江連氏は、サスペンスをアルファベットを用いて表わしているが、本論では最終的に猫との関わりを考察することが目的のため、サスペンスの内容も図の中に組み込むことにした。また、作品に登場する猫は、重要な伏線になっていることもあるため、新たに「伏線」という欄を設けることにした。
第三章では、作品中での猫の描かれ方について見ていくことにする。まず初めに、各作品の猫に関する記述の部分を抜き出していく。その後、様々な共通点のもとに比較を行ない、猫の種類による違いなどを見ていくことにする。