電子俳句 より
2004/01/01 | 半月を青天に置き年始む |
2004/01/02 | 冷たき手で起こされている朝寝の子 |
2004/01/03 | 冬の日の同窓会の暖かさ |
2004/01/04 | 瀬戸内の浜から上がる凧の数 |
2004/01/05 | 休館日庭に北風冬木立 |
2004/01/06 | 冬の午後妻の歩幅は短くて |
2004/01/07 | 寒風にすがれた薄の二三本 |
2004/01/08 | 灯を消して机上に残る冬の月 |
2004/01/09 | はやばやと冷凍庫にある鏡餅 |
2004/01/10 | 自転車のライトの中の地蔵かな |
2004/01/11 | 乗客は酒の息して帰路遙か |
2004/01/12 | お神籤を引く大振り袖の花の色 |
2004/01/13 | どんど焼き見つめる頬の赤さかな |
2004/01/14 | 人影の吐く息白し夜の雨 |
2004/01/15 | 寒風や枯葉の上に猫丸く |
2004/01/16 | ほかほかの布団で眠れ受験生 |
2004/01/17 | 「も」の多き論文を読む寒の夜 |
2004/01/18 | 枯れ枝の百の雀は飛び立ちぬ |
2004/01/19 | 学生の歓声満ちて溢れおり |
2004/01/20 | 寒風を受けて微笑むバギーの子 |
2004/01/21 | 採点の赤鉛筆が静止する |
2004/01/22 | 寒の朝時計を見つつ脚速め |
2004/01/23 | 失敗のたこ焼き口が開いており |
2004/01/24 | 数えられるほどの粉雪飛んでいる |
2004/01/25 | 小鼠のねぐらの半ば餌が占め |
2004/01/26 | 手袋の中指にある歯形かな |
2004/01/27 | 日溜まりで雄猫玉を舐めており |
2004/01/28 | 宮川の鴎の数や冬日向 |
2004/01/29 | メールでの卒論指導窓に星 |
2004/01/30 | 冬晴れや卒業論文提出日 |
2004/01/31 | ギター曲聞きつつ夕陽追いかけて |
2004/02/01 | 日曜のライオン冬の空を見て |
2004/02/02 | 冬西日試験問題できあがる |
2004/02/03 | 寒灯や卒論ネットで公開す |
2004/02/04 | 本日で授業終了寒波来 |
2004/02/05 | 冬雲の輪郭赤くして入り日 |
2004/02/06 | もういいかいもういいかいの日暮れかな |
2004/02/07 | どの森で育ったのやら空の鳶 |
2004/02/08 | 川の鴨このアングルでは句にならず |
2004/02/09 | ここ三日心なくして句が成らず |
2004/02/10 | 暖房をつけぬままかな午後七時 |
2004/02/11 | 女子中生の如き桜の固蕾 |
2004/02/12 | 寒緩む猫は並んで食事中 |
2004/02/13 | 目を覚ます朝の車内や寒緩む |
2004/02/14 | 手袋を脱げば手のひら湿りおり |
2004/02/15 | イカナゴの入荷待ちたる売り場かな |
2004/02/16 | 一人見る深夜放送春炬燵 |
2004/02/17 | 春の日の花いちもんめ切りがなし |
2004/02/18 | 階段を下りる速さや春の暮 |
2004/02/19 | 胸中にある入試という固きもの |
2004/02/20 | 春風やジャングルジムの影深く |
2004/02/21 | セーターの網目を越して春の風 |
2004/02/22 | 昼遅き雛の準備はゆるゆると |
2004/02/23 | お土産は終いの蜜柑二つなり |
2004/02/24 | 春の宵浅池の月乱れおり |
2004/02/25 | 春の宵小鼠檻を囓りおり |
2004/02/26 | 寒戻り香箱並べて猫二匹 |
2004/02/27 | 早帰り列車が夕日を追いかけて |
2004/02/28 | ビニールの如きカラスが低く飛ぶ |
2004/02/29 | 発表会のピアノに映る桃の花 |
2004/03/01 | 春が来る競歩の尻の動きにて |
2004/03/02 | 春の日や教え子の歳数えおり |
2004/03/03 | 箱の中に涙を残し雛の夜 |
2004/03/04 | 欠伸する猫は門番従えて |
2004/03/05 | 黄昏の父の帰還や桃香る |
2004/03/06 | 受験生やや俯きて歩きたり |
2004/03/07 | ひとしきり窓白くする春の雪 |
2004/03/08 | 昼寝する又八郎の裸足かな |
2004/03/09 | 遠く行くサイレンの如猫の恋 |
2004/03/10 | 清兵衛の春の土踏む足袋の穴 |
2004/03/11 | 早春のタバコの煙まっすぐに |
2004/03/12 | 五分咲きに鼻近づけて沈丁花 |
2004/03/13 | 採点の鉛筆を置き不如帰 |
2004/03/14 | への字から力を入れて伸びる猫 |
2004/03/15 | 早春の緑のスカート揺れる駅 |
2004/03/16 | 春の宵子猫を食べた狸かな |
2004/03/17 | 春の宵振り返り行く狸かな |
2004/03/18 | 跳ねる毛にポマードつける春の朝 |
2004/03/19 | 春風やエスカレーター工事中 |
2004/03/20 | つま先の力で歩む孕み猫 |
2004/03/21 | 早春や太き腕(かいな)の原節子 |
2004/03/22 | 退学の手続き済みて桃盛り |
2004/03/23 | 春雨やチャンポン麺を買いに出る |
2004/03/24 | 緩やかに終わり近づく謝恩会 |
2004/03/25 | 好きな方へ伸びて行きますユキヤナギ |
2004/03/26 | 柳若葉の煙る道 |
2004/03/27 | 春の日を透かして赤き猫の耳 |
2004/03/28 | 春風や昼寝の猫のひげ光る |
2004/03/29 | 青空へ散りたる花の光りたり |
2004/03/30 | 春風が緑のスカート通り抜け |
2004/03/31 | 時よ止まれ枝垂れ桜の三分咲き |
2004/04/01 | 出勤の六甲山は高笑い |
2004/04/02 | 水割りの氷が溶けゆく歓迎会 |
2004/04/03 | 夙川に家族四人で花筏 |
2004/04/04 | 公園で娘五人とバドミントン |
2004/04/05 | 花を見ず埃の中の曝書かな |
2004/04/06 | 街灯が花を照らした道を行く |
2004/04/07 | 歯茎腫れて舌の先なる膿の味 |
2004/04/08 | 春風や干したるシャツのほの紅き |
2004/04/09 | 入学式三分前のベル響く |
2004/04/10 | 三年が吸い込まれていく地下工事 |
2004/04/11 | 降りしきる花を集めて猫眠る |
2004/04/12 | 梨の花男女にすぎぬ読書生 |
2004/04/13 | 退屈な翅拡ぐるに鍵多く |
2004/04/14 | 春の駅軽く包んだ斜め雨 |
2004/04/15 | 春風や飛行機雲が消えていく |
2004/04/16 | 鳩の糞モンテカルロ法でもやや楕円 |
2004/04/17 | 母の魂包(パオ)のひとつにあつまれる |
2004/04/18 | ぜんまいの西へ行かむと観たまへり |
2004/04/19 | ホトトギス鳴きつる方は高圧線 |
2004/04/20 | 遠足をあくがる心来てゐたり |
2004/04/21 | 散華散華美しきもの遊ぶべし |
2004/04/22 | ふりむけばどすんとたこ焼き落ちており |
2004/04/23 | 顔あげて卵食ふ時電話鳴る |
2004/04/24 | 教え子が産みし赤子のメール来る |
2004/04/25 | 胸中に生きてゐたいの浮御堂 |
2004/04/26 | 青草を掴みのぼりし町はずれ |
2004/04/27 | 麦秋や蝙蝠傘にしたがひぬ |
2004/04/28 | 人の中人ひた急ぐ背を曲げて |
2004/04/29 | 春雷や無数の傷の飛び尽す |
2004/04/30 | 中空に似合う淋しさここへ来い |
2004/05/01 | 教師に一夜佛陀の巨体舞ひ落ちぬ |
2004/05/02 | まつすぐにほぐれほぐるゝ水車 |
2004/05/03 | 神々のをちの鋭声(とごえ)や柚の花 |
2004/05/04 | 斧一丁すでに至福を祝ひけり |
2004/05/05 | 梟が何を言ひ出す春の森 |
2004/05/06 | 玉虫を八十粒に夏の蟻 |
2004/05/07 | もろもろのしつぽのとれてゐる立夏 |
2004/05/08 | 土曜日のうかめる如き水をのむ |
2004/05/09 | 一塊の海の匂いや蛸を切る |
2004/05/10 | 春昼を荒野の石の上に置き |
2004/05/11 | 己が羽を月の港に刷り上げて |
2004/05/12 | 葉桜や野には舌持つ机かな |
2004/05/13 | 初夏昼や汝も紅き薔薇の園 |
2004/05/14 | 燕の目濡れ寂寞の深さかな |
2004/05/15 | 一樹にしてなにもて死なむ吹流し |
2004/05/16 | 饅頭を見ている猿と老人と |
2004/05/17 | 炎天に未来ある身のいでにけり |
2004/05/18 | 鞦韆は地獄を過ぎて極楽へ |
2004/05/19 | 台風やまだ事務書類眺めおり |
2004/05/20 | 五月雨に電球灯り闇深く |
2004/05/21 | 手を振れば夕風のたつ一時間 |
2004/05/22 | 白樺は女ばかりが立つごとし |
2004/05/23 | 蟻地獄雨の切尖桜貝 |
2004/05/24 | 火を投げし夜もみどりなる罐切れば |
2004/05/25 | 間髪を貫く棒の血を流す |
2004/05/26 | 高校の校歌を集め読む日永 |
2004/05/27 | 午後九時を自転車で行く業平忌 |
2004/05/28 | 麦の黄と早苗の緑のコンポジション |
2004/05/29 | 錆おいて伸びる線路や風光る |
2004/05/30 | 円筒の心理バリヤー夏の駅 |
2004/05/31 | 炎天を赤鉛筆が見下ろして |
2004/06/01 | 蝶墜ちてまだ人中に動くかな |
2004/06/02 | 大雲の麓は黒く広がりて |
2004/06/03 | 緑陰を抜ける自転車白き風 |
2004/06/04 | 南国の紺のかなたのけはひあり |
2004/06/05 | 湿り気を蝉の幼虫喜びて |
2004/06/06 | 小説の小学校の揚羽蝶 |
2004/06/07 | 心まで五月雨いよいよ歩みゆく |
2004/06/08 | クレヨンで描く一駅や梅雨の入り |
2004/06/09 | 少年の肩にアカシヤ散りかかり |
2004/06/10 | でで虫が薄薔薇色の殻負いて |
2004/06/11 | 未来よりよろこびの影髪匂う |
2004/06/12 | モンスーン山懐に雨の虎 |
2004/06/13 | あじさゐの使ひきれざる色の数 |
2004/06/14 | 子の靴の泥どの道の水たまり |
2004/06/15 | 手拭いの花びらを田に広げおき |
2004/06/16 | 我が声は鈍く響きて夏至の朝 |
2004/06/17 | 喪の家の愚直の向日葵背を伸ばし |
2004/06/18 | 屋上から夏草茂る空き地見る |
2004/06/19 | 死を見ゆるみづひきぐさになつのくれ |
2004/06/20 | 猫の子の頭蓋はピンポン球ほどか |
2004/06/21 | 台風の勢い残る川の水 |
2004/06/22 | 瀧を見て翅拡ぐるや黒揚羽 |
2004/06/23 | 平日を修学旅行の列車過ぐ |
2004/06/24 | 炎天に頂き一つ覚めにけり |
2004/06/25 | 山越えて幸いありやみちおしえ |
2004/06/26 | すれ違う牛の睫の長さかな |
2004/06/27 | 虹消えて一つ頭蓋の厚さます |
2004/06/28 | 初蝉や捕虫網がぴくと揺れ |
2004/06/29 | 磧にてあにいもうとの兄死ぬか |
2004/06/30 | 天と地の片手出てゐる何待つや |
2004/07/01 | 七月や二番煎じに家にいて |
2004/07/02 | 冷蔵庫唯今の夏詰まりおり |
2004/07/03 | 老眼や小さき文字の吊り広告 |
2004/07/04 | 拾われぬ五十円玉照り返す |
2004/07/05 | 夏の河我殿に越えゆけり |
2004/07/06 | 伸び上がり広がる緑の快楽かな |
2004/07/07 | 薔薇一枝振り回している塾帰り |
2004/07/08 | 夕潮のふきぬけゆくを以て足る |
2004/07/09 | 前期試験声なき「あ」がひろがりて |
2004/07/10 | 洪水が大木倒し運び去り |
2004/07/11 | 息止めて風の気配を夏の穴 |
2004/07/12 | 夏の闇別れし人と呑むばかり |
2004/07/13 | 祇園会や始終臭いとなりにけり |
2004/07/14 | 時計屋の女が運ぶ仔牛の眼 |
2004/07/15 | 近景を追い越す遠き夏の山 |
2004/07/16 | ガラス窓をウスバカゲロウ染めており |
2004/07/17 | サイダーの泡のごと沸く蝉の声 |
2004/07/18 | 濃き汗の滴離るる喉仏 |
2004/07/19 | 炎天に文四郎の鎌光たり |
2004/07/20 | 蒲焼きのパック飛び出すレジ袋 |
2004/07/21 | 蝉時雨若き死神貌がない |
2004/07/22 | 夏の恋袋を掛けぬ林檎の木 |
2004/07/23 | 汗かいて歩いた後の昼寝かな |
2004/07/24 | 一樹なき一行の詩は兜蟲 |
2004/07/25 | 祭り果て水風船は水となる |
2004/07/26 | 垂れ下がる赤き鉄鎖の熱さかな |
2004/07/27 | 滝風は明日へきちんとゆきにけり |
2004/07/28 | 冷房車汗ふきタオル湿りおり |
2004/07/29 | 夏草や人形の顔だけのぞく |
2004/07/30 | 七月尽キャベツの芯の堅さかな |
2004/07/31 | 自転車をこぐ炎天の風受けて |
2004/08/01 | 検尿のコップ手にして動かざる |
2004/08/02 | さざ波はひとりの音に繋がりて |
2004/08/03 | 種なしの葡萄の色に指染めて |
2004/08/04 | 球場に陽炎あがる二回裏 |
2004/08/05 | 喪服着て氷柱の中に立つ如し |
2004/08/06 | 大いなる昼寝の覚めぬ突かで待つ |
2004/08/07 | 山国の闇を十九は見あきたり |
2004/08/08 | 十二支みな小声で言ひて夏祭 |
2004/08/09 | 街灯は影ある夏をぶちきりて |
2004/08/10 | 蛇が出て雨が降るなりまた眠る |
2004/08/11 | 夕暮れ電車の奥の人影動かざる |
2004/08/12 | 噴水の下にいるのは仏たち |
2004/08/13 | 雨の日の噴水空しく落下する |
2004/08/14 | 土不蹈のない足跡消えかかり |
2004/08/15 | 船虫がざわめいている防波堤 |
2004/08/16 | 合宿から帰った夜のカレーかな |
2004/08/17 | たはぶれに二人で佇つや夏の朝 |
2004/08/18 | 家庭用打ち上げ花火それなりに |
2004/08/19 | 油照り言葉少なき檻の猿 |
2004/08/20 | 板の間に電車残りし夏の宵 |
2004/08/21 | 水洟が穴から覗くかくも急 |
2004/08/22 | いにしへのことに草木の交じりけり |
2004/08/23 | 子どもより老女の多き地蔵盆 |
2004/08/24 | 台風来ジャンプシュートに網揺れて |
2004/08/25 | 行く夏や天井見つめる眠れぬ子 |
2004/08/26 | 台風は停滞中なり夏満月 |
2004/08/27 | 自転車のペットボトルに夏少し |
2004/08/28 | かかりつけの医者へ履いてく半ズボン |
2004/08/29 | 窓を押す風の強さや八月尽 |
2004/08/30 | 和歌山の海青くして夏終わる |
2004/08/31 | 秋冷を楽しんでいる半ズボン |
2004/09/01 | 秋雨や傘をささずに戻りけり |
2004/09/02 | 一仕事終えて残暑の街を行く |
2004/09/03 | 雨粒を湯気に弾くや鬼瓦 |
2004/09/04 | 秋天や店の林檎が鳴きいだす |
2004/09/05 | 大阪の海賊船の髑髏(ひとがしら) |
2004/09/06 | 秋天や甘納豆が外出す |
2004/09/07 | ヤッケ着てサンバイザーする案山子かな |
2004/09/08 | 並びいてもうすぐ出番と曼珠沙華 |
2004/09/09 | 占領地区のたくさんの目をふりむかず |
2004/09/10 | 守るべきしづかな音を飲んでをる |
2004/09/11 | 林檎落ちてローフレームに天高し |
2004/09/12 | 秋冷やフロントガラスの虫の跡 |
2004/09/13 | 老犬の遅き歩みや天高し |
2004/09/14 | 葡萄の実色濃くどれにしようかな |
2004/09/15 | 熊の子が帰れば燈火消えており |
2004/09/16 | 秋風や昆布干場の懐手 |
2004/09/17 | 雲燃えて優勝カップ差し上げる |
2004/09/18 | あおあおとあなたと河馬に秋の風 |
2004/09/19 | 秋の暮餌を求める百の鯉 |
2004/09/20 | 秋風に餌を貰えぬ子猫かな |
2004/09/21 | ぷりぷりと箸押し返す秋刀魚かな |
2004/09/22 | 休日の図書館の庭落ち葉鳴る |
2004/09/23 | 天高し椰子の木枯れ葉を纏いをり |
2004/09/24 | 追走者襲いかからんばかりなり |
2004/09/25 | 前日の白線薄きグラウンド |
2004/09/26 | ドングリがぐりぐりぐりと手の外に |
2004/09/27 | つくづくと夜も語りゐる悲願かな |
2004/09/28 | 赤子抱く若き母の目羊雲 |
2004/09/29 | 手のひらにドングリ三つ幼児立つ |
2004/09/30 | 満月に水静かなる句一つ |
2004/10/01 | 秋の陽を窓辺のコップ虹にして |
2004/10/02 | 目があって止める虫への猫パンチ |
2004/10/03 | つくねんと帰路の車窓にけふの月 |
2004/10/04 | オリオンと山駈けおりて波の音 |
2004/10/05 | 少女等に撫でられている夜の猫 |
2004/10/06 | けふはけふの開けるつもりのドアがある |
2004/10/07 | 幼子の視線動かず蟻の穴 |
2004/10/08 | おーいおーいと声出してみる城の秋 |
2004/10/09 | 日本語を掘り出してある画いてある |
2004/10/10 | 水鳥の水の中にて日向ぼこ |
2004/10/11 | 水底に青くも見ゆる光あり |
2004/10/12 | 参観日白粉花が群れており |
2004/10/13 | 無花果の畑は緑緑かな |
2004/10/14 | 豊かなる幕を揚げたる秋の山 |
2004/10/15 | 紅葉に舌を出したる子猫かな |
2004/10/16 | あはれこの道を歩くと窪むなり |
2004/10/17 | 天高く一里が遠し口ひらく |
2004/10/18 | らあめんの溌剌たる香夕紅葉 |
2004/10/19 | 台風は高層揺らして北に去り |
2004/10/20 | 三日月はにんまり満月哄笑す |
2004/10/21 | 塩害が残す桜の花三つ |
2004/10/22 | 金の船紅葉の川を溯る |
2004/10/23 | あたたかき人翻る石畳 |
2004/10/24 | 秋の陽が数個の我に分節す |
2004/10/25 | 高空に雨が降るなりうすき虹 |
2004/10/26 | 日向ぼこ六波羅探題落馬する |
2004/10/27 | 小春日や白鳥のごと歩む人 |
2004/10/28 | 白波を喰べる空気が膨らみぬ |
2004/10/29 | 木々透かす障子の白さ秋座敷 |
2004/10/30 | 短日の路地を微かにもういいかい |
2004/10/31 | 鞦韆の頂点の足秋陽蹴る |
2004/11/01 | 明日から昨日に向かって風が吹く |
2004/11/02 | 髪刈つてドアを開ければ秋の風 |
2004/11/03 | 切り干しが光り吐き出す膳の上 |
2004/11/04 | 旅の服トンボがとまる右の肩 |
2004/11/05 | 脇腹に皺よる老女の運動着 |
2004/11/06 | 夕凪を縫い取っていく秋の鯔 |
2004/11/07 | お辞儀したサタンの禿げや秋の風 |
2004/11/08 | 帰路遥か我が額にある秋の冷え |
2004/11/09 | 目を閉じて晴れ晴れとある秋の海 |
2004/11/10 | 悪玉が散るは美し曼珠沙華 |
2004/11/11 | バス来るやみづいろ海月とカシオペヤ |
2004/11/12 | よき娘きて白い椿を通り過ぐ |
2004/11/13 | 風鈴が叫び柘榴が分裂す |
2004/11/14 | 雲が行く晩夏のパルケエスパーニャ |
2004/11/15 | 秋の風日のさしている草子かな |
2004/11/16 | 短日の紺の部分はいまそこに |
2004/11/17 | 大いなる道を嫌いて屋根に居る |
2004/11/18 | 燭の灯をしづかに移る笑ひかな |
2004/11/19 | 金の芒二人にされて鋤きこんで |
2004/11/20 | 久々にくんと呼ばれる同窓会 |
2004/11/21 | がらがらとひかりの棒を猫の恋 |
2004/11/22 | 行き過ぎて冬の芒の音残る |
2004/11/23 | 秋の暮吾が手に育つ二三の句 |
2004/11/24 | 秋の暮れ会議が延びる気配かな |
2004/11/25 | 高層の窓を野分けが叩きおり |
2004/11/26 | 冬の田の案山子静かに倒れおり |
2004/11/27 | 萍のありしところに死者歩く |
2004/11/28 | 寒そうに墓前の女跪く |
2004/11/29 | 教壇の当たりはもはや暗くなり |
2004/11/30 | 鴨鴎鵜鷺の混じる冬の川 |
2004/12/01 | 何求(と)めて花束持ちて歩けるや |
2004/12/02 | 諸鳥が鳴いてやまざる冬枯木 |
2004/12/03 | 寒烏鳴きやみしかば夕べなり |
2004/12/04 | UFOのように浮かべる冬の空 |
2004/12/05 | 冬月の光が包む小学校 |
2004/12/06 | はんざきの水中もまた溶鉱炉 |
2004/12/07 | 廃品回収表紙のとれた俳誌あり |
2004/12/08 | 客人の耳のうしろの処刑台 |
2004/12/09 | 力なく鬼女となるべし内部まで |
2004/12/10 | 柚子湯沁む蜘蛛の糸張る灯のもとで |
2004/12/11 | 聖賛樹道に微笑の血を流す |
2004/12/12 | 青春の声を出さんと冬の川 |
2004/12/13 | かたまつてはこんでゐたる冬葬礼 |
2004/12/14 | 木枯らしをしづかに移る車椅子 |
2004/12/15 | 冬天のあちこちにある来世かな |
2004/12/16 | 重ね着を静かに開く髑髏かな |
2004/12/17 | 白樺林眼中のもの斃れけり |
2004/12/18 | 小鼠のねぐらの半ば冬支度 |
2004/12/19 | 街に出て土竜のように星を見る |
2004/12/20 | 冬の月空一面を貌にして |
2004/12/21 | 暗がりに沈む冬至が尋ね来て |
2004/12/22 | 鯛は美の途中六十億の飢 |
2004/12/23 | 魂に魂五六個詰めておき |
2004/12/24 | 冬の道命小さくついてくる |
2004/12/25 | 音楽をテントウ虫が舐ぶり居り |
2004/12/26 | 大雪や杭に鼻あてたゝずめり |
2004/12/27 | 冬の陽の声が聞こえる糸電話 |
2004/12/28 | 冬の暮れ水晶のごと濁りたる |
2004/12/29 | 振り向いた廊下の奥に冬陽あり |
2004/12/30 | ぼんやりと顔を照らした冬の月 |
2004/12/31 | 本を伏せ眼をつまみたる大晦日 |