電子俳句 より
2006/01/01 | 字余りの一途といふは残しけり |
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2006/01/02 | 今生は躓きどほし寝るとする |
2006/01/03 | つんつんと指で書く文字路地焚火 |
2006/01/04 | 足もとの氷が呻くひしひしと |
2006/01/05 | 足下に来た白球の匂い嗅ぐ |
2006/01/06 | 少年の一群過ぎて冬夕焼 |
2006/01/07 | 笛止んで一群の鶴渡りけり |
2006/01/08 | しばらくは蹴りし空き缶幸せか |
2006/01/09 | 持ち替える杓の温みや初冠 |
2006/01/10 | 流れ来る雲は冬日を覆いけり |
2006/01/11 | 柔らかき商売繁盛で笹持ってこい |
2006/01/12 | 3コマの講義終えたる喉の熱 |
2006/01/13 | 諍いて抹茶アイスを一人嘗め |
2006/01/14 | 笹藪が雪を落として腰伸ばす |
2006/01/15 | われに住むふさぎの虫や春隣 |
2006/01/16 | たそがれのこきこきこきと髪匂う |
2006/01/17 | しづかなる闇より走り去りにけり |
2006/01/18 | 青鷺が羽を広げた匂い来る |
2006/01/19 | お湯割りに沈む梅干し赤黒く |
2006/01/20 | 凧糸は若き父親の手から伸び |
2006/01/21 | 京の雪傘を斜めに今出川 |
2006/01/22 | 来世まで硬き沓音響きおり |
2006/01/23 | 滝壺に雄螺子をきつく締めておき |
2006/01/24 | 底冷の木洩れ日背なをつつきけり |
2006/01/25 | わが内にある石英はやや緑 |
2006/01/26 | 北陸のひと駅ごとの烏賊昇り |
2006/01/27 | 着膨れて焼きたてパンを両の手に |
2006/01/28 | 彼一語骨まだ熱し大移動 |
2006/01/29 | わたくしがかくれていたのは本の中 |
2006/01/30 | 首伸して青鷺が行く川の上 |
2006/01/31 | 恐るべき汚れるまへの女人の手 |
2006/02/01 | 遠山に時に瞬く鏡あり |
2006/02/02 | ゼミ室の錠はスルリと開きにけり |
2006/02/03 | 悲しさに急げる雲を唆す |
2006/02/04 | 虎の視線外套の背に受けている |
2006/02/05 | 信号で鳴く烏へはまだ七歩 |
2006/02/06 | 五年女子五人集いて春近し |
2006/02/07 | 長椅子にしずかな暮らし寝かせおく |
2006/02/08 | 脇役が半透明に戻り行く |
2006/02/09 | 横雲の上辺燃やしいる夕陽 |
2006/02/10 | 行列は三途の川へじわじわと |
2006/02/11 | 着ぶくれて犬と眼の合ふ缶酎ハイ |
2006/02/12 | 鈍行が軋む音する冬の駅 |
2006/02/13 | 小袋のチョコとアメとが匂いけり |
2006/02/14 | 近づくとチョコレートの匂いせり |
2006/02/15 | 梅割と鰯の味噌缶春近し |
2006/02/16 | 冬の雨昼寝の猫は身じろがず |
2006/02/17 | 生きていく痛みが消える午前二時 |
2006/02/18 | 春雨の道は蛇の目を写しおり |
2006/02/19 | 見送りて婆は駅舎に座りけり |
2006/02/20 | 本読んで妻が微笑む夜炬燵 |
2006/02/21 | 白鷺が水から脚を抜くかたち |
2006/02/22 | 虻飛んで虹の元なる蛇目覚む |
2006/02/23 | 鴨橙白鷺檸檬水温む |
2006/02/24 | ビラカンサ前期日程明後日 |
2006/02/25 | 受験子が鉛筆の音乱射して |
2006/02/26 | 香水と割れし鏡と蜜柑かな |
2006/02/27 | 恋を得て曲がった腰で落葉掃く |
2006/02/28 | 若者が富士を横切る恋をして |
2006/03/01 | 生返事木洩れ日背なに踊りけり |
2006/03/02 | なにごとか叫んで割れるシャボン玉 |
2006/03/03 | 明々とした屋台の屋根に親狐 |
2006/03/04 | 正規分布ゆらりと揺れる春のれん |
2006/03/05 | 恋を得てくにへと鉄路変わりけり |
2006/03/06 | 蟻の目に杉の花粉が見えており |
2006/03/07 | 沈丁花蕾解いて春を呼ぶ |
2006/03/08 | かぐや姫帰らず博士の妻になり |
2006/03/09 | 本読んで暮れた一日巻き戻す |
2006/03/10 | 水噴かぬ噴水にある希望かな |
2006/03/11 | 雲間よりお化け屋敷が戻りけり |
2006/03/12 | 一匹の夫のいびき足る心 |
2006/03/13 | 頭頂を風通り過ぎ卒業す |
2006/03/14 | 船縁で若き漁師が獲物見る |
2006/03/15 | 水澄みて日矢の一条白砂に |
2006/03/16 | ゆっくりとガラス彫刻解け続け |
2006/03/17 | 父親の金玉貰い生まれけり |
2006/03/18 | 早春の椿落ちなば夕芥 |
2006/03/19 | たそがれのほほづきの前に缶酎ハイ |
2006/03/20 | 何かしら女の匂い部屋にあり |
2006/03/21 | 鵙猛り吾が手に育つ都かな |
2006/03/22 | 春潮は魔法が利かぬ裸馬逃げよ |
2006/03/23 | 子を殴ちし大音響よ並び糞る |
2006/03/24 | 椿散るだからどこでも初景色 |
2006/03/25 | 鷹の目は棺のわれのかとふと思ふ |
2006/03/26 | 点火した煙突の上魂遊ぶ |
2006/03/27 | 骨上げや白く流れる雪解水 |
2006/03/28 | 花一輪美人の従姉妹も中年に |
2006/03/29 | 春寒や自治会長は小屋の中 |
2006/03/30 | 熊の子がまだ海見ゆる早桜 |
2006/03/31 | にせものを少年が彫る夕時雨 |
2006/04/01 | 残雪や草木虫魚なかに栖む |
2006/04/02 | とらへたる電流凝りて疣となる |
2006/04/03 | 杉花粉吹いて片寄る鼻の穴 |
2006/04/04 | 蟻地獄サタン離れて昇天す |
2006/04/05 | 春暁に酒のみ出して薄着して |
2006/04/06 | 春風や女三人夜の噴水 |
2006/04/07 | 生返事カンコンカンコン明滅す |
2006/04/08 | 花に対す並木は煙る柳の芽 |
2006/04/09 | スーパーのビール焼き鳥浜遊び |
2006/04/10 | 叢を白く変えたる落花かな |
2006/04/11 | ナルニアのライオンにない臭いかな |
2006/04/12 | ビッグバンドジャズで行く帰路電車 |
2006/04/13 | 花びらの上で黒猫あくびする |
2006/04/14 | 俯きて山茶花が散る遍路道 |
2006/04/15 | 菫色の鼬の最期を遺したし |
2006/04/16 | 自治会の任期終えたる桜かな |
2006/04/17 | 脇役を独り見にくる娯楽室 |
2006/04/18 | パリに住む友をちょっぴり解る夜 |
2006/04/19 | 忘れざる忙中閑の台詞あり |
2006/04/20 | 毟られて三十五年やショパン鳴る |
2006/04/21 | サルビア燃えて許婚ゐた濡れてゐた |
2006/04/22 | 亡き伯母のもしももしもの先斗町 |
2006/04/23 | いつまでも橋のたもとのかいつぶり |
2006/04/24 | 土地柄が遠き戦争広き家 |
2006/04/25 | 迷路から化粧の匂いひとを吐く |
2006/04/26 | 近づいておんな四人の四月の夜 |
2006/04/27 | 落椿泥鰌を食って佇ってをり |
2006/04/28 | 女高生指で書く文字輝けり |
2006/04/29 | よく笑ふ雨天決行バスが行く |
2006/04/30 | 葱坊主独り見にきて呑むばかり |
2006/05/01 | 死にし人意地悪をせし初夏の水 |
2006/05/02 | 噴水に一人の女蹲る |
2006/05/03 | ランナーは通り過ぎたり遊撃手 |
2006/05/04 | 迷路とはお化け屋敷の湯冷めかな |
2006/05/05 | 薔薇ひとつ三十年が過ぎており |
2006/05/06 | 釘抜いてネット徘徊爺と婆 |
2006/05/07 | 半玉の腕の白さ揺れており |
2006/05/08 | 枇杷咲いて癌病棟の風静か |
2006/05/09 | トラックの転勤の荷が人を吐く |
2006/05/10 | 明日明日香雨天決行良夜かな |
2006/05/11 | 蝶が舞う音はトレモロ小夏風 |
2006/05/12 | 女学生行間ありてふみはずし |
2006/05/13 | 麦秋を特急列車薙いで行き |
2006/05/14 | 山の端に紫だちたる藤と桐 |
2006/05/15 | 初夏の夜の悪友からの電話かな |
2006/05/16 | 起し絵の街をまっすぐ歩きけり |
2006/05/17 | 水に入る直線泡を連れている |
2006/05/18 | 埋め立て地午後三時半揚げ雲雀 |
2006/05/19 | 熊の子が侮られつゝ町に入る |
2006/05/20 | 蔓踏んで銃身の艶城ケ島 |
2006/05/21 | 白い人影ふれてつめたき菌(きのこ)生え |
2006/05/22 | 六つで死んで平凡赦す手が拾ふ |
2006/05/23 | 人のものとけゆく魂の世なりけり |
2006/05/24 | 月光をガソリンガール萌えにけり |
2006/05/25 | 涼風の月下を満たす花水木 |
2006/05/26 | 萬緑を時間の束が貫きて |
2006/05/27 | 初夏の暮頬傷ほてる蟇 |
2006/05/28 | 初夏の夜タンゴを踊る神がいて |
2006/05/29 | 穀象が載る初夏の洗い水 |
2006/05/30 | 擬態語の音素に潜む初夏の風 |
2006/05/31 | いつ頃が出産予定日燕の巣 |
2006/06/01 | 地球儀が回転しつつ歌いおり |
2006/06/02 | 関東平野市松模様に麦の秋 |
2006/06/03 | さつきから吸はるるごとし梅雨の宵 |
2006/06/04 | 蛇いちご木漏れ日を吸い赤くなる |
2006/06/05 | 梅雨富士は頭に懸想見せにけり |
2006/06/06 | 大鯉のたましひ黒き泡となる |
2006/06/07 | 木漏れ日にじつとしてゐる大蜥蜴 |
2006/06/08 | 陽光で体を拭いたサルスベリ |
2006/06/09 | まゝごとの背景海が眠りおり |
2006/06/10 | 人間のはつと明るきこころざし |
2006/06/11 | あらかたは衣服で赭い鞍馬山 |
2006/06/12 | 切り株や一夫多妻の斧通る |
2006/06/13 | 夏の雲同じ事務服同じ席 |
2006/06/14 | 沖までの光は波を白く見せ |
2006/06/15 | しがらみに海よりのもの翅使ふ |
2006/06/16 | 第三のひとさしゆびに活けにけり |
2006/06/17 | 揚げ雲雀額明るく発狂す |
2006/06/18 | かたつむりページをめくるたびに見る |
2006/06/19 | 竹林にヘヤピンこぼれ昼蛙 |
2006/06/20 | 手を振って遠国へ行く「阿部一族」 |
2006/06/21 | 風通るつま先立ちの蔵の床 |
2006/06/22 | 夕牡丹深き地中を出してくる |
2006/06/23 | 海上を押しよせて来る驟雨かな |
2006/06/24 | ときをりは命小さく透きとほる |
2006/06/25 | 梅雨の午後眠るランゲルハンス島 |
2006/06/26 | 新月に一里は歩く桜貝 |
2006/06/27 | 梅雨空は登校拒否児午前九時 |
2006/06/28 | 手が届く天上の雲合歓の花 |
2006/06/29 | 天使魚も笑へり赫き月懸る |
2006/06/30 | 悲しさのあらはれ出でし林かな |
2006/07/01 | 雨降って来週もやる七夕祭 |
2006/07/02 | 向日葵が少し俯く夕べかな |
2006/07/03 | 夕暮れた階段猫の甘え声 |
2006/07/04 | 蛤にうまれて白い風を受け |
2006/07/05 | 夏空にピカソの青の声ありき |
2006/07/06 | 海底に生きているよの明かりかな |
2006/07/07 | 夏草や煉瓦を囲み持ち上げる |
2006/07/08 | 廃トンネル闇むらがりて音がする |
2006/07/09 | 天近きビヤガーテンへ月のぼる |
2006/07/10 | たとふれば絹の彼方の青嵐 |
2006/07/11 | かたつむり一つ目小僧塩むすび |
2006/07/12 | たましいののぼりつくして裾かぎり |
2006/07/13 | 死を見ゆる時間はありや額の花 |
2006/07/14 | 猫よりも走行距離を柔らかく |
2006/07/15 | ややありて羽根ひろげたる鞍馬山 |
2006/07/16 | 楠の大きくゆるく枯れゆくか |
2006/07/17 | そよかぜが桐の実軽く撫でていく |
2006/07/18 | 戦争はひとごとかもね夏の宵 |
2006/07/19 | 汽車は今積み木の上を走り行く |
2006/07/20 | 短夜を仰臥している鬼ケ島 |
2006/07/21 | 小甲虫キーボードから這い出して |
2006/07/22 | 大桜木を覆い尽くした藪枯らし |
2006/07/23 | 溌剌と七十回目の大暑かな |
2006/07/24 | 木漏れ日を上昇していく蝶一頭 |
2006/07/25 | ビル窓に映る夕陽に乾杯す |
2006/07/26 | 風鈴を後ろの海が受けている |
2006/07/27 | 八月や娘が鳩を分けてゆく |
2006/07/28 | あやまたず日輪ころがす海水浴 |
2006/07/29 | 擂粉木の背後に響く遠花火 |
2006/07/30 | 青空を歩いて今日が溢れおり |
2006/07/31 | 午後7時梅割焼酎冷えており |
2006/08/01 | 駄句沢山暑中見舞いに書いておき |
2006/08/02 | その犬は魔法の利かぬ溲瓶持ち |
2006/08/03 | 妄想の風吹きゐたり筆二本 |
2006/08/04 | をさなくて夏山低くして進む |
2006/08/05 | 大空に永き青春のどぼとけ |
2006/08/06 | 山川に白きてのひら落ちにけり |
2006/08/07 | 台風にころがされている蝉の殻 |
2006/08/08 | 息吐いて熱気を吸い込む京の町 |
2006/08/09 | 送り火の混雑予告地下の駅 |
2006/08/10 | 腹痛の子と止痛の子が夏休み |
2006/08/11 | 浮きを抱き流水プールのゴミになる |
2006/08/12 | 青空を台風一過雲残す |
2006/08/13 | あるときはふだんの心芦屋浜 |
2006/08/14 | バスの灯に浮かぶ林檎の実の青さ |
2006/08/15 | 海の音に髪ぬれしままソーダ水 |
2006/08/16 | 携帯が臭いトイレで句作をし |
2006/08/17 | ガラス戸にぶつかる蝶の向上心 |
2006/08/18 | ビアジョッキ掲げ夕陽と乾杯す |
2006/08/19 | 夏の朝あんパン一つ籠の中 |
2006/08/20 | 残暑なる埋め立て地に飛ぶ雲雀かな |
2006/08/21 | 鈴の音が皆美しくにくみけり |
2006/08/22 | われにつきゐし水はるかになりにけり |
2006/08/23 | ゆるゆると芋の葉に立つ秋の風 |
2006/08/24 | 行く夏は近鉄特急に乗車して |
2006/08/25 | われよりものつぺらばうの背は低し |
2006/08/26 | 一瞬がちょっぴり解るしやぼん玉 |
2006/08/27 | 青空に銀行のある大都会 |
2006/08/28 | 夏風に微かに揺れる愛の鍵 |
2006/08/29 | 麗らかにひと美しく地蔵盆 |
2006/08/30 | 招かれざるいまが幸せあかんべえ |
2006/08/31 | 松原を流す湖国の小秋風 |
2006/09/01 | いつまでも恋の猫名はブラッキー |
2006/09/02 | 若者が女を待って三時間 |
2006/09/03 | こほろぎの子等の眸ひかる幸せか |
2006/09/04 | 涼風を溶かしてチューハイ飲んでおり |
2006/09/05 | 小さき葉が腰かけてゐる波止の秋 |
2006/09/06 | 病葉に意地悪をしてポケットに |
2006/09/07 | 蚊の声す大空港を病臥して |
2006/09/08 | 友情と転勤の荷がまじりをり |
2006/09/09 | 巣燕のちちはは一つ古りしかな |
2006/09/10 | 羅や奥の鈴虫皆哀し |
2006/09/11 | 生返事浪華のビルのやじろべゑ |
2006/09/12 | 秋の夜の備え確かめおる夕べ |
2006/09/13 | 月笑うぶ厚き頑固古書の市 |
2006/09/14 | 晩夏光嫁ぎしうはさおでんの具 |
2006/09/15 | 秋の風四方の薮を揺すりをり |
2006/09/16 | 河豚宿は一つ燈籠の手水かな |
2006/09/17 | 時計屋の一法師蝉声高く |
2006/09/18 | 秋の夕ハートバンクでアテ探し |
2006/09/19 | 晩稲田は西日の光はねかえす |
2006/09/20 | 台風に沿って近づく稲光 |
2006/09/21 | 巣に誇る獲物の球や女郎蜘蛛 |
2006/09/22 | 無言にて花壇取り巻く彼岸花 |
2006/09/23 | しんとして女は秋の風の中 |
2006/09/24 | 野の果は大きく暮れてふるへをり |
2006/09/25 | 小熊ちゃんと呼ばれる娘秋の暮 |
2006/09/26 | 稲刈りが終わった畦の彼岸花 |
2006/09/27 | ミュシャ展で輪郭線を追っており |
2006/09/28 | サドル上げ空気を足して走る夜 |
2006/09/29 | おはようと手を取る秋の一年生 |
2006/09/30 | 赤ちゃんに米こぼれをり九月尽 |
2006/10/01 | 揺れている石榴は空に続きおり |
2006/10/02 | よく笑ふ会えないあの人おでんの具 |
2006/10/03 | 比叡見てキリンの睫毛暮れて来し |
2006/10/04 | プラタナス水着の痕の幸せか |
2006/10/05 | せせらぎの石に戻りし鳥の声 |
2006/10/06 | 夕暮れる四条の空や尻を掻く |
2006/10/07 | 青空に寡黙なる酒まじりをり |
2006/10/08 | その赤が人悲します曼珠沙華 |
2006/10/09 | 八十の終生木枯ひかり充つ |
2006/10/10 | 青年の大往生や小鳥来る |
2006/10/11 | 盃にぐいとポパイの良夜かな |
2006/10/12 | 黄紅が一樹に集ふ秋半ば |
2006/10/13 | 外灯を浴びて吹き出す芒かな |
2006/10/14 | 過ぐ街は祇園夕空鰯雲 |
2006/10/15 | 校門の裏の石榴は割れており |
2006/10/16 | 冬園をめぐりて少しもの言ひぬ |
2006/10/17 | ふつくらと砂丘のおもて変わりけり |
2006/10/18 | 秋の風地面の下に鬼の顔 |
2006/10/19 | 枯れ枝に辞令一片鳴つてをり |
2006/10/20 | 秋の陽を鶴嘴一瞬跳ね返し |
2006/10/21 | 位置変へずからから笑ふドーナツ屋 |
2006/10/22 | 秋の朝サンフラワー丸沖を行く |
2006/10/23 | 雄鹿に追われた家族に秋の風 |
2006/10/24 | 青年が望む小島に人の影 |
2006/10/25 | 秋の夕橋のたもとのしやぼん玉 |
2006/10/26 | 鶴橋の駅でリュックが擦れ合い |
2006/10/27 | 魂のごと鳩を撮り続けおり |
2006/10/28 | 本心はオープンテラスに残しけり |
2006/10/29 | 秋の陽に仁王の乳首くっきりと |
2006/10/30 | 過信かも小枝の先の赤蜻蛉 |
2006/10/31 | 今日もまた半袖を着る十月尽 |
2006/11/01 | 天高し留学生の嘘の鼻 |
2006/11/02 | 校門に半透明のバスツアー |
2006/11/03 | 文化の日男やもめの整頓癖 |
2006/11/04 | 秋風やキャナルパークに揺れる影 |
2006/11/05 | 浜からの六甲山の夜景かな |
2006/11/06 | 午後八時テニスコートに明かり満ち |
2006/11/07 | 八十の人差し指が微笑める |
2006/11/08 | くちびるが念入りな顔大枯野 |
2006/11/09 | 寝不足の街の青空蜻蛉飛ぶ |
2006/11/10 | 虫鳴いて重たきものが割れてゐる |
2006/11/11 | 寒紅やつまづいて後砂走る |
2006/11/12 | 登山帽おんな四人の秋の風 |
2006/11/13 | 日本晴れ橋のたもとに頬杖が |
2006/11/14 | かくれんぼウサギの跳ねる表彰式 |
2006/11/15 | 木枯しや人工衛星やじろべゑ |
2006/11/16 | 冬凪の心の海を鳥渡る |
2006/11/17 | 指先に木洩れ日赤く届きけり |
2006/11/18 | 噴水が微笑んでいる小春風 |
2006/11/19 | 先生と親不孝者露天風呂 |
2006/11/20 | あるときは悲鳴の如き句をつくる |
2006/11/21 | 地下街を一筋逸れて闇の闇 |
2006/11/22 | 盃に風の生まるる冬は来ぬ |
2006/11/23 | 秋日傘村の祭りは面つけて |
2006/11/24 | 見物の人去ればまた落葉掃く |
2006/11/25 | 丹田に鬼を匿い秋を行く |
2006/11/26 | 靴音が前に冷たく流れけり |
2006/11/27 | 霜月や使はぬままの郷言葉 |
2006/11/28 | 終列車前の座席の独り言 |
2006/11/29 | 冬の夜をくり貫いている終列車 |
2006/11/30 | 忘れ句は首を曲げれば出てくるか |
2006/12/01 | ほの白しライトアップの先の空 |
2006/12/02 | 忘れ句がバスの窓から戻り来る |
2006/12/03 | 業終へて夜霧の中を降りていく |
2006/12/04 | 少年の大いなるものを一くさり |
2006/12/05 | 屋根裏のあにいもうとが目覚めけむ |
2006/12/06 | あるときは薊の棘の丘に立つ |
2006/12/07 | 水母より忽ち君を見に出づる |
2006/12/08 | 矢のごとき青年の尻年の暮 |
2006/12/09 | 雪晴れて満月はやや黄み強し |
2006/12/10 | つま先の痺れた命撫でてをり |
2006/12/11 | 鬱々と花は奈落を洗ひをり |
2006/12/12 | 冬の暮かなしき前歯向ひくる |
2006/12/13 | 落椿ふみて跣足の兵となる |
2006/12/14 | 室生寺の文春文庫風が読み |
2006/12/15 | 舞姫にたんぽぽの茎沈みけり |
2006/12/16 | 美しき人懐かしやひとりゐて |
2006/12/17 | ひよひよにひよと応える鴨の群 |
2006/12/18 | 寒烏電信柱に一羽ずつ |
2006/12/19 | 寒風の中に女は風車 |
2006/12/20 | 裏山の我一人知る鳶の座 |
2006/12/21 | 昇降機レモンはうまく走りけり |
2006/12/22 | 株を切ることにはじまる冬至かな |
2006/12/23 | あかあかと胸の谷間が光りをり |
2006/12/24 | 街の雨に打たれて揺れるわが脂 |
2006/12/25 | 知った子は次のサンタになることに |
2006/12/26 | 橇行や嫁ぎて梨を生くるべし |
2006/12/27 | あたたかき博物館の寒牡丹 |
2006/12/28 | 古切符畳の間にかくれてゐ |
2006/12/29 | 冬の夜や泪たまれば毛糸編む |
2006/12/30 | 痩馬のいのちしづかに客迎ふ |
2006/12/31 | 振り返る山懐の椿道 |