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岡田淳「チョコレートのおみやげ」の続き 野浪正隆

 それから、みこおばさんは携帯電話を取り出して、登録済みの番号にかけた。
「おねえちゃん? みこです。ほんまやったらゆきちゃんをお家までおくるんやけど、用事ができてしもて、悪いんやけど西宮北口に6時に迎えに来てくれへんやろか?」
「……」
「よかった、助かります。ごめんね、晩御飯の支度の時間やのに。」
「……」
「あ、そうなん。ハヤシライスがもうできているん。よかった。じゃぁ、西宮北口に6時いつものプラットホームの水飲み場のところで、お願いします。」
みこおばさんは携帯電話を閉じると、私の方をみて「聞いた?」といった。
「ハヤシライスはわかったけれど、用事て何?」
「大人の用事。いまから行くところで見当がつくかもしれん。わかったら、言うてね。」
 そして、みこおばさんと私は坂の途中のチョコレート専門店にもう一度入って、おばさんは6個入りの箱を一つ買った。
 坂をたらたら降りて、阪急三宮駅西口からプラットホームに上がると5時30分だった。
「余裕やな。ゆきちゃん、大人の用事分かった?」
「みこおばさんが自分のためにチョコレートを買ったというのではないということはわかるけど。」
「誰へのおみやげでしょう」
「おばさんは西宮北口で降りるの?」
「イエス」
「西宮北口に住んでいる誰か?」
「イエス」
「今日でないとあかんの」
「イエス」
「うーん誰やろ」
「ヒント、今日作った話に出ています」
「なんであんな話を作ったのか不思議やったけれど、そういう人なんや。」
「ニワトリ・風船売り・おじいさん、誰でしょう」
「ニワトリはチョコレートを食べて生き返るから、今日でないとあかんにはあってるなぁ」
というところで、梅田行特急が来た。
「違います。」
おじいさんは後で付け加えた登場人物やし、チョコレートに関係がないから違うわなぁ。」
「おじいさんは、違います」
「風船売りか、みこおばさん、風船売りの知り合いいてはるのん?」
「おったら面白いけれど、風船を売っているのではありません。普通のサラリーマンです。」
「ひょっとして、みこおばさんはニワトリやったん?」
「へへへ。」
「喧嘩したん?」
「へへへ。」
「3か月ずっと会ってないん?」
「へへへ。」
「そうか、チョコレートのおみやげ、二人で食べて仲直りか。」
「まだ、お母さんたちには内緒やで」
 西宮北口につくと、挨拶もそこそこに、みこおばさんは階段を駆け上っていった。

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