水晶の冬の菫のつがれけり
天上も枯野よく透く湧く如し
大試験越え前方にいま刻む
滝の水敵の如く土たたく
林檎食うていつもまんまる春らしく
なつかしや寄り別れては流れかな
春の夜やくりかへしゐる音すなり
冬海の花となりたる人妻よ
牡丹百敵地へ落ちてならびけり
遠雷や大きな耳の飛ぶ蛍
雪はげし落花つもりてお辞儀かな
くちなはのなかしきりに勇気感ぜられ
この頃の髪脱け落つるみてあそぶ
たわいなき罪あるごとく滝涸るる
日脚伸ぶ関東平野にきりぎりす
雲は行き雀の斑ありこころの帆
ひかりの野へ夢一筋の春霰
水べりに月のうつれる静かさよ
焼酎を子猫を食べた夏の風
積み上げし人の声せぬきりもなし
川沿いのトスしたコイン秋の色
初蝶来心と別に老いんとする
冷されてわびしきものに浅き闇
いんぎんに脳天が見え菊日和
探梅のああ満月の深呼吸
夕闇に寒星一つ寝間ひとつ
ゆめにみる山の如くに生れたし
春の夜のなにも来はせぬ寝べきころ
たとえなきこの夕焼けに胸ひたす
大空に小さくなりてとまりけり
鯛あまた鵙叫喚す発狂す
運ばるるもの食ふ音のありしあと
湯気のたつ見渡すかぎりアフリカなり
わが胸にいま声出さば夏に入る
わが胸に響く声あり夏に入る
わが夏の扉を開けた君の声
雨の午後ひそかに傘をねだる猫
退職の手続き済みて想いあり
哀愁が追いかけてくる並木道
美しき風が吹くなり片紅葉
万緑や山川をゆく下駄はいて
炎天の眼もて弥勒を明らかに
鴎舞う須磨の夕べのほの赤き
午後一の陽にあてている雛仕舞う
クーラー代惜しむ心の夏の午後
鈴の音町はいぶせき冬ごもり
水仙の凛とした姿目に残る
プールで一人水のゆらめきに我が身うつす
秋風やとても祭りで遠きかな
月下の猫われは明日たつ客ひとり
花の道何色と問ふなかりけり
天上に緋色のこゑを曼珠沙華
しづかなる明けゆく水の狂ひもせず
良夜かな坂八方に美しき
春しぐれ赤い造花もかがやかす
妻亡くて無人のぶらんこに忘れもの
木曽谷の首のあたりに菊咲けり
或るときは雪をのせたり避暑地かな
じゆぶじゆぶと日陰と知らで花柘榴
一満月一痕として夕がすみ
火の山の驟雨きらきら猫の恋
一つづつ未来ある身の秋の暮
冬薔薇やそのつもりなくはや眠れり
降る雪に息を吹きかけ胸躍る
秋風で木の葉もカサッと音をたて
我が生の光に魅かれ晩酌す
落ち蝉の変速の重さ新学期
台風に帰りし吾子の騒がしさ
新緑に映えて戯る揚羽蝶
人影の窓白くする夏近し
葉の上に雫残れる今朝の庭
春風や私の心つれてゆく
ハムスターのエスカレーター疑いて
春風や猫は並んでみな眠る
秋風や木の葉を落とす水の上
子供らが涙を残し飛んでいる
台風に木の葉が全てさらわれり
町の木の物寂しげな秋の夕方
「も」の多きほっとしたまま芝の上
夕暮れの急ぐ帰りに秋の雨
ざわめくは祭囃子に胸躍る
青空へ跳躍猫が花水木
静かさや自転車をこぐ受験生
子猫らが追いかけてくる残暑かな
晴天やそろそろと行く巫女の舞
座敷からまことに青き海が引く
月光に燃えてをるなり月夜かな
太陽と小鳥遊びし春の音
空の上初めて一緒に遠花火
悲しさは途中たましひ潤す雨
さみしさの鼻の先だけほとの神
我を見て鳴きやすむなり客ひとり
さわやかに子がかげろふに沈みけり
美服して抜けばくるもの時雨かな
月の出や火かけて見むや桜かな
初日さすここに小川の夏めけり
あれこれとアイデア浮かぶ雨の街
時代小説じっくりじっくり秋の月
秋風がジャングルジムを通り抜け
乳母車母のようなる夢の船
凧(いかのぼり)浮かぶ小さな渡り鳥
ふりむけば見渡すかぎり星祭
矢のごとく風が吹くなり船の中
春を病み日日のいのちぞなすままに
あたたかな一つの花に冬日かな
ハムスタ〜上目遣いで見上げてる
土日だけページめくるもきりはなし
野良猫の盆踊り歌夏の夢
また一つ開いて閉じて春の朝
風光る陽にあてている燕かな
咲き揃う雲指さして花の色
秋の暮蟷螂芒の穂をつかみ
てのひらの己に気付く生命線
春暁の授業中の眠たさに
運命は二人にされて見ゆるもの
はるかまで空真青なる荒野かな
満月に水の湧きゐる泉かな
田の上のパセリのあをきあふれをり
夕潮のころろと鳴ける鈴虫や
ていねいにとまらんとする蝶々や
夏浅し行き航跡は丸くなる
冬の夜どうするつもり並びいて
冬の日の虚実皮膜の鵜を見てる
桜咲き別れと出会い繰り返す
風温み赤子の頬にも笑み浮かぶ
中夜祭共に踊った我が仲間