瀬尾研究室紹介 

"応用数学 「行列解析」"とは

 高校時代に多くの不等式を勉強してきたと思います。相加相乗平均不等式(この不等式の3変数版がどうなっているのかわかりますか?) 、三角不等式(ベクトルの長さの不等式などが高校では代表的な関係です。)、コーシー・シュワルツの不等式(これも、ベクトルの内積とその長さの基本的な関係式ですね。)、 最近は、参考書などにはJensenの不等式という名前も散見されます。 ところで、行列は交換法則が成立しません。私たちはその事実を行列は非可換であるといいます。 数の世界の話と行列の世界の話の関係について、もう少し皆さんの興味を引きたいと思います。
 例えば、相加相乗平均の不等式は、2つの正の実数a,bに対して、2数の相加平均(a+b)/2は、2数の相乗平均√ab より常に大きいというものです。 では、行列の世界ではどうなるのでしょうか?応用数学?の一番初めの授業で、正の実数に対応する正の行列とは何かを説明します。 これで、設定はできました。行列では、2つの行列の和やスカラー積は考えられますから、 2つの正の行列の相加平均はもちろん(A+B)/2になります。では、次に相乗平均ですが、積ABの平方根はどうなるでしょう。 与えられた行列の平方根って、なんでした?そういえば、そんなことはあまり考えたことはありませんでしたね。 さらに、もっと深刻な問題があります。AとBが正の行列の時、積ABは残念ながら いつでも、正の行列になるとは限りません。その理由の裏には、行列の非可換性が関係しているようです。 では、行列の世界における相加相乗平均の不等式は考えられないのでしょうか? 世の中の数学者は、成り立たないと言われると、なにくそ!と考えるもので、多くの数学者が、行列版の相加相乗平均の不等式 を研究しました。それは一体どんなものか?興味ありますね!それはこの研究室に来るとわかります。
この様な研究は、これから小学校の算数科の教員を目指す人や中学校や高等学校の数学の先生を目指す人にとって、自分自身の数学のバックボーンを形造るものといえます。自分自身が数学を学ぶ姿勢はとても大切と考えます。先生自身が数学の面白さを知っておくことはとても大切と考えます。さあ、一緒に研究しませんか?

小学校や中学校の先生になりたいのですがと思っているあなたへ

小学校や中学校の先生になりたいのに、行列の勉強をすることの意味は何ですか?確かに、小学校や中学校では「行列」の知識そのものは必要ないでしょう。しかし、あなたが算数や数学を子どもや生徒に教えるときに、あなた自身の算数力や数学力はどのように高めるのでしょうか。教科書を100回読んでも、算数力は身に付きません。大学時代に数学の考え方を身に付けていないと対応ができません。では、大学時代にどのようにして算数力を身に付けるのでしょうか。それは、きちんと書かれた数学の本を読むことでしか、身に付けることはできないと考えています。そこにかかれてあることを、自分で理解し、自分の言葉で説明し、他者をも、納得させること、これができてこそ、理解が深まります。自分の数学の見方や考え方ができる素地が生まれます。帰納や類推、演繹、統合、特殊化、一般化、発展的などの方法に関する考え方が実感を伴って理解できるでしょう。素晴らしい数学者の考え方に接すると、彼らが何を考え、どう数学を深めていったのかを肌で感じるでしょう。数学のよさを身に付ける第一歩です。先生になっても、職員室の自分の机の上に、「Matrix Theory」の本を並べ、ときどき、取り出しては、巻末の問題演習に取り組むことも、あなたの力の源泉になります。そのことが可能になるためには、大学時代にきちんと数学の学習をしていなければなりません。というわけで、少し(いえ、かなり少し)大変ですが、1年間「行列解析」に取り組んでみませんか。1冊の数学の本を最後まで読み通すことは今後の教員生活の自信になります。

瀬尾先生からのメッセージ(4年生セミナーを取りたいなと思っているあなたへ)

 ここでは、「行列解析」を含む「ヒルベルト空間上の作用素」の研究をします。その中でも、エルミット行列を含む自己共役な作用素は、Lowner順序が導入されますが、そこに、順序が定義できます。あたかも、行列の中に大小関係が入るのです。大小関係が入ると、みなさんは高校時代に学んだ「不等式」を思い出すでしょう。そうです、私が今一番興味があるのは、エルミット行列の全体に入る順序構造の解明です。そこには、興味深いたくさんの不等式があり、とても豊かな数学的な世界が広がっています。ぜひ、皆さんとともにその世界を解明して行きたいと思っています。お待ちしています。
そのためにも、ぜひ、3年生までに微分積分 線型代数 そして、3年になるときは、私の「応用数学I」と「応用数学II」 さらにできれば、「解析学」(これは、無限次元のヒルベルト空間上の作用素の基本性質を学べるとき。

教職大学院への進学を考えているあなたへ

 大阪教育大学では、修士課程が廃止になり、平成31年度から教職大学院に一本化になります。教科力だけでなく、教職力を含めた全体的な教員の力量を高めるためです。しかし、算数・数学の力は学部だけの学修で十分とは言えません。実際に現場に立ってからも、その算数・数学の力量を高めることがより必要となります。そのための基礎的な力はどこかで付けなければいけません。私の研究室では、それを「行列解析」の学修を通して、身に付けることを目指します。3年生と4年生でZhang先生の「Matrix Theory」を一渡り読み通すつもりです。この知識をもとに、次は、Bhatia先生の「Positive Definite Matrices」か、もしくは、「Matrix Analysis」を読もうと思います。その中で、興味がありそうなTopicが見つかればそれを深めていきたい。とにかく、新学期を迎える前までに、Zhangの「Matrix Theory」を最後まで読破することが大切です。すべては、ここから始まります。
 私自身はこのような学修がこれから小学校算数科、中学校や高等学校の数学の教員にとって、とても大切な事柄だと思います。数学を深く学ぶ姿勢は、必ずや、実際の教育の現場で役に立つからです。ただ、一言注意をしたいことは、教職大学院は教職力を含めた総合的な力量形成にあり、学校実習での課題設定など、多くのハードルがあり、その上、私の研究室ではさらに、数学の学修をしてもらう必要があります。その両輪を深めなくてはなりません。その覚悟が必要です。

読んでおきたい本・参考文献

さらに余裕があれば、見ておきたい参考文献 ただし、内容はハードですが、ここが主戦場になります。

一応、私自身が書いた本も宣伝のためにあげておきます。新しい方は大学の図書館にも置いてありますのでよかったら眺めてください。

Zhang先生の本の補足としては、次が古典的な名著です。書き方がとても教育的です。教えるときの参考にもなるでしょう。でも、もちろん、Zhang先生の本も教育的ですが

最後に日本語の文献も紹介しましょう。私の専門分野の「行列解析」の日本語文献は残念ながらありません。あれば、それを4回生のテキストにしています。そこで、不等式の基本がかかれてあるものと、作用素の基本がかかれてあるものを1冊ずつ紹介します。どちらも、軽く読み飛ばしておきましょう。きちんと読むと難しいです。

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