文部科学省委託事業 令和 3 年度「教師の養成・採用・研修の一体的改革推進事業」教育実習に参加する障害のある学生に対する合理的配慮の在り方の検討に関する調査研究

障がいとは

このページでは独立行政法人日本学生支援機構(JASSO)の障がいのある学生の修学支援に関する実態調査に準じた分類から,以下の障がいの概要や困難さについて説明します。

1.視覚障がい

(1)概要

「視覚障がい」とは,視力や 色覚, 視野等の視機能に障がいがあり見えにくい,あるいは見えない状態です。視覚障がいのある人は眼鏡やコンタクトレンズを着用して矯正しても十分な視力が得られません。
視覚障がいは視力の程度によって,「盲」(見えない,またはほとんど見えない)と「ロービジョン」(見えにくい)に分けられます。
「ロービジョン」には視力や色覚、視野等による様々な見えにくさがあります。

(2)困難さの例

人は生活に必要な情報の多くを視覚から得ていると言われています。生活に必要な情報を得たり,単独で自由に行動したりすることにかなりの制限が生じて,日常生活,移動,文字の読み書き,芸術鑑賞,表情のよみとりなどがむずかしくなり,様々な社会生活に支障をきたすことがあります。

2.聴覚障がい

(1)概要

「聴覚障がい」は音を聞き伝える経路に何らかの障がいがあって話し言葉や周囲の音が聞こえなかったり聞こえにくくなったりする状態です。障がいの種類や程度は様々で,多様な聞こえ方,聞こえにくさがあり,そのことにより困難の状況も異なってきます。

(2)困難さの例

音声が聞こえないということは,音声による情報を知ることができないということです。そのため多くの人が共有している情報をどのように補うのかを常に考え配慮する必要があります。また,音声が聞こえないということ以外にも様々な困難さがあることの理解が必要です。

3.肢体不自由

(1)概要

肢体とは「四肢」と「体幹」を表します。「四肢」は上肢(手と腕)と下肢(足と脚),「体幹」は胴体を意味します。「肢体不自由」とは四肢・体幹が病気や怪我等で正常な機能が損なわれ,長期的に日常生活において不自由や困難が生じている状態です。障がいの部位や程度によって個人差があります。

具体的には,障がいのあり方によって次のように分けられます。

(2)困難さの例

多くの人が当たり前のように行っている行動でも,個々の障がいのあり方によって難しい場合があります。移動等に関するハード面のことだけでなく,それぞれの施設・設備の運用など,ソフト面においても困難さがあります。また,発話等のコミュニケーションに困難がある方や体温調節が困難な方もいます。

4.病弱・虚弱

(1)概要

「病弱・虚弱」とは, 慢性的な呼吸器疾患,心臓疾患,腎臓疾患,神経疾患や悪性新生物,アレルギー疾患,その他政令で定める疾患及び身体虚弱の状態が長期間にわたる,または長期間にわたる見込みのもので,医療や生活規制が必要となるものです。

(2)困難さの例

個別性が高いため一概には言えませんが,抵抗力の低下などにより,風邪等の感染症にかかりやすい場合があります。また,身体への負担の軽減や病状の安定のためには,学校生活や社会生活をおくる上で,活動が制限される場合もあります。本人が申告しない限り,健康な学生と区別がつかないことも多く,長期欠席等により周囲が気づき把握されることもあります。“困難さがわかりにくいこと”が困難さの一つであるといえるでしょう。

5.発達障がい

「発達障がい」とは,何らかの要因による生まれつきの中枢神経系の障がいのため,認知やコミュニケーション,社会性,学習,注意力等の偏りを生じ,現実生活に困難をきたす障がいを言います。

身体障がいと異なり,障がいが可視化できず,障がいの有無は周囲だけでなく,本人や家族も気づきにくいという特徴があります。また,どこまでが本人の個性(性格)や能力の問題で,どこからが障がいによる特性であるのか境界が曖昧で区別がつきにくいため,どの程度の範囲でどの方法の支援を行えばよいのか判断が難しい場合があります

発達障がいには後述する自閉スペクトラム症,注意欠如多動症 ,限局性学習症がありますが,これらの障がいは同じ診断名の障がいであったとしても,個人差が大きく,また複数の発達障がいが重複することもあります。また, これらの特性と環境との相互作用の中で二次障がいとして精神障がいを併発することも多く,障がいのあり方や支援,必要とされる配慮はそれぞれ異なります。

以下では, それぞれの障がいの典型例について紹介します。

〇 自閉スペクトラム症(ASD)の概要

自閉スペクトラム症(ASD)は対人関係の困難さと限定的な興味・関心・行動の2つの主症状からなる発達障がいです。以前は,自閉症,アスペルガー障がい,広汎性発達障がいと呼ばれていました。対人関係の構築の難しさや状況理解の困難さ等から,授業・研究室活動・サークル活動等の多くの場面でトラブルを起こしてしまう場合も少なくありません。また,他の発達障がいや二次障がいとしての精神疾患を併せ有する学生もいます。

〇 注意欠如多動症(ADHD)の概要

注意欠如多動症(ADHD)は不注意,多動,衝動性といった3つの主症状からなる発達障がいです。日常生活においては,忘れ物が多かったり,スケジュール管理をするのが難しく,レポートを期日までに提出するのが難しいというような場合があります。また、 ASDや SLD,二次障がいとしての精神疾患等,複数の特徴や症状を併せ有する場合もあります。

〇 限局性学習症(SLD)の概要

全般的な知的発達に遅れはないが,読む,書く,計算する,推論する能力のうち,特定のものの習得と使用に著しい困難を示す障がいです。

例えば,同級生に比べて,読むのが遅い,漢字や英語のつづりで読み誤りや書き誤り(タイピングも含む)が多い,計算間違いが多い,数量がわかりにくい等が生じます 。

6.精神障がい

(1)概要

「障がい」は,原因に関わらずなんらかの機能が制限された状態を指しますが,精神疾患は身体疾患と異なり,病因や病態,症状や予後などに個別性が高いため,「精神障がい」という表現も多く用いられます。ここでは何らかの精神的な機能に障がいがあり,環境との相互作用によって日常生活や社会生活に支障をきたす状態全般を「精神障がい」としています。青年期は一部精神障がいの好発期でもあり,症状や状態によっては修学上の支援が必要となる場合があります。分類法もいくつもあり,障がいの数も多く,また,先にも述べたように一つの障がいのなかでも,その状態像は個別性が高いため,専門的かつ丁寧なアセスメントが重要です。修学にあたっては本人が必要な医療を継続して受けることが前提であり,そのうえで主治医の意見や治療の状況を踏まえながら,教育機関として必要かつ可能な支援を探っていくことになります。青年期にも多く見られる精神障がいには,具体的には統合失調症,気分障害,不安障害,パニック障害,強迫性障害,摂食障害,パーソナリティ障害などがあります。

(2)困難さの例

精神障がいは,障がいの種類によっては行動や言動が特徴的な場合もありますが(統合失調症や強迫性障害など),多くの場合,症状は目に見えず,環境要因によっても困難さの現れ方が異なります。精神障がいに起因する修学や対人関係上のトラブルが起こっても,本人や周囲に精神医学的な知識が乏しく,単純に性格の問題に帰属させてしまい,本人の抱えている苦しみや困難さが正しく認識されないことがあります。さらに,発達障がいがベースにある場合や,いくつかの精神障がいを合併している場合もあり,その鑑別は難しく,何らかの精神障がいの可能性が疑われた時点で,精神科医による適切な診断と治療を受けているかの確認と,受けていない場合は医療につなげることが必要です。また,環境の調整も重要で,ここが教育機関の支援が生きる領域です。精神障がいによる症状を,医療機関において適切な治療を受けて緩和・コントロールしたうえで,教育機関では,症状と付き合いながら修学と両立していく方法を共に模索しつつ,本人の置かれた環境にから過剰な負荷がかけられている部分があればそれを把握し,可能な範囲で取り除いたり置き換えていくことが支援となります。

※精神障がいの個別の名称については,医療機関で用いられる診断基準で表記しております。