神経教育学とは
人はどのように文字を読むのか。なぜ計算に困難を感じるのか。学習はどのようなメカニズムで成立するのか。 当研究室では、こうした問いに対して経験則にとどまらず、脳・神経科学の実証的データに基づき、一人ひとりの子どもに応じた科学的知見の構築に取り組んでいます。
「神経教育学」とは、脳科学や認知科学で明らかになった「脳のしくみ」を、実際の教育現場や学習支援に応用していく、神経科学・認知科学と教育学を統合する学際的な研究分野です。特別支援教育の現場で直面するさまざまな困難を神経メカニズムの観点から読み解き、効果的な支援プログラムの開発へと繋げることを目指しています。
神経教育学のアプローチ
私たちの脳には約860億個の神経細胞(ニューロン)があり、それぞれが複雑なネットワークを作っています。 「見る」「聞く」「考える」「感じる」―ーすべての活動は脳が担っており、学びに直結しています。 当研究室では、以下のような多様な視点から研究を行っています。
原因メカニズムの理解
人が新しいことを覚えるとき、脳の中ではどんなことが起きているのか。記憶や注意のメカニズムを探ります。
読み書きと脳
文字を読むとき、脳のどの部分が活動するのか。読み書きの困難さの原因を脳科学的に理解します。
発達と脳
子どもの脳はどのように発達していくのか。一人ひとりの発達に合わせた支援の方法を考えます。
感覚と認知
音や光、触覚など、感覚の情報を脳がどう処理するか。感覚の特性に応じた教育支援を研究します。
運動と脳
手先の器用さや体の動きをコントロールする脳のしくみ。運動面の支援にも脳科学が役立ちます。
こころと脳
感情やコミュニケーションに関わる脳の領域。社会性の発達を科学的に支える方法を探ります。
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【コラム】運動すると頭が良くなる?―有酸素運動と認知機能の関係―
※このコラムは生成AI(NotebookLM等)を活用して、有酸素運動と認知機能に関する研究知見を整理・要約したものです。
「運動すると頭が冴える」は本当か?
体育の授業の後、なぜか集中力が上がった気がする……そんな経験はありませんか? 実はこれ、「気のせい」ではありません。有酸素運動(ジョギング・水泳・自転車こぎなど、酸素を使って長く続ける運動)が脳の働き、とくに「考える力」「覚える力」「注意を向ける力」といった認知機能を高めることは、世界中の研究で繰り返し示されています[1]。
脳への効果①:「脳の肥料」BDNFが増える
有酸素運動をすると、脳内でBDNF(脳由来神経栄養因子)という物質が増えます。BDNFは神経細胞を育てたり、ニューロン同士の繋がり(シナプス)を強化したりする働きがあり、「脳の肥料」とも呼ばれます。有酸素運動によってBDNFが豊富に分泌されることで、脳が新しい情報を記憶しやすい状態になるのです[2]。
脳への効果②:海馬が大きくなる
記憶の「関所」として知られる脳の部位が海馬(かいば)です。驚くことに、定期的な有酸素運動を続けると、この海馬が実際に大きくなることが分かっています。2011年のEricksonらの研究では、週3回・40分程度の有酸素運動を1年間続けた高齢者は、海馬の体積が約2%増加し、記憶力テストの成績も向上したと報告されています[3]。海馬は加齢とともに縮みやすい部位なのですが、運動によってその老化を食い止められる可能性があるのです。
脳への効果③:ワーキングメモリと実行機能が上がる
運動の恩恵は記憶だけにとどまりません。ワーキングメモリ(作業中に情報を一時的に頭の中に保持する能力)や実行機能(計画を立てる・衝動を抑える・注意を切り替えるなど、目標に向けて思考・行動を調整する能力)にも良い影響が現れます。これらはいずれも主に前頭前野という脳の前側の領域が担っており、学習や日常生活に欠かせない力です。有酸素運動はこの前頭前野の活動も活性化させることが、様々な研究で明らかになっています[1][4]。
教育・特別支援への応用
こうした知見は教育の現場にも活かされ始めています。たとえば、授業の前に軽い有酸素運動を取り入れると子どもの集中力が高まる、といった実践が報告されています。大内田研究室でも、有酸素運動が子どもたちの認知機能や学習に与える影響を実験的に研究しており、特別支援教育の現場で活用できる「運動プログラム」の開発を目指しています。「運動する子は勉強もできる」というのは単なる根性論ではなく、脳科学が裏付ける事実かもしれません。
- Hillman, C. H., Erickson, K. I., & Kramer, A. F. (2008). Be smart, exercise your heart: exercise effects on brain and cognition. Nature Reviews Neuroscience, 9(1), 58–65.
- Cotman, C. W., & Berchtold, N. C. (2002). Exercise: a behavioral intervention to enhance brain health and plasticity. Trends in Neurosciences, 25(6), 295–301.
- Erickson, K. I., et al. (2011). Exercise training increases size of hippocampus and improves memory. Proceedings of the National Academy of Sciences, 108(7), 3017–3022.
- Best, J. R. (2010). Effects of physical activity on children's executive function: contributions of experimental research on aerobic exercise. Developmental Review, 30(4), 331–351.
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【コラム】脳の機能局在:骨相学から体部位再現性へ
※このコラムは生成AI(NotebookLM等)を活用して、脳科学の歴史と基本概念の情報を整理・要約したものです。
機能局在論の萌芽「骨相学」
脳の特定の部位が特定の機能を担うという「脳の機能局在」の考え方は、19世紀初頭にフランツ・ヨーゼフ・ガルが提唱した「骨相学(Phrenology)」に遡ります。ガルは、人間の性格や知能が脳の異なる器官に局在し、その発達具合が頭蓋骨のふくらみとして表れると主張しました。現代の科学的見地からは疑似科学として否定されていますが、「脳の各部位には異なる機能がある」という機能局在論の先駆けとしての歴史的意義を持っています[1]。
現代の機能局在:ペンフィールドの「体部位再現性」
その後、科学的な実験手法によって機能局在が証明された代表例が大脳皮質における「体部位再現性(Somatotopic Representation)」です。これは、特定の身体部位と大脳皮質の特定の領域が規則正しく一対一で対応している空間的配置を指します。
1950年代、カナダの脳神経外科医ワイルダー・ペンフィールドは、てんかん患者の手術中に大脳皮質を電気刺激し、患者が体のどの部位に感覚や運動を感じるかを詳細にマッピングしました。その結果、手や唇、舌など、複雑で繊細な動きや感覚を必要とする部位ほど、脳内で広い面積を占めていることが判明し、これを可視化した図が有名な「ペンフィールドのホムンクルス(小人)」です[2][3]。
神経教育学への示唆
重要なのは、この体部位再現性は決して固定されたものではなく、経験や学習、リハビリテーションによってその領域が変化する「可塑性」を持っていることです。手指を使った学習活動や運動が脳の発達に良い影響を与えるのも、このメカニズムが深く関わっています。このような脳の特性を理解し、教育や学習支援の現場に活かしていくことが、神経教育学の要となります。
大学ではこんなことが学べます
- 特別支援教育の理論と実践
- 脳と神経のしくみ(神経科学の基礎)
- 障害のある子どもの理解と支援方法
- 心理学・教育学の視点からのアプローチ
- 最新の研究技術(脳活動の計測など)
- 教育現場での実習・体験
大内田ゼミの特徴(ゼミ希望の2回生へ)
大阪教育大学の2回生向けに、3回生からのゼミ配属を見据えた当研究室の特徴をご紹介します。 当ゼミでは、教育現場の課題に対して、脳科学や認知科学のアプローチを用いて科学的に解決する力を養います。
実践的な研究活動
実際の教育現場や対象者との関わりを通じて、理論だけでなく生きたデータを計測・分析します。認知機能や行動指標など、一人ひとりの特性を科学的に捉えるアプローチを学びます。
ゼミの雰囲気とサポート
学生一人ひとりの研究上の興味・関心を重視し、実験計画の立案から論文執筆まで指導します。
多様な進路
卒業後は特別支援学校や小学校の教員をはじめ、大学院進学、公務員、一般企業など、専門的な視点を活かして様々な分野で活躍しています。
ゼミ学生の卒業論文テーマ
大内田ゼミでは、学生一人ひとりが関心を持つテーマに沿って、発達障害、認知機能、有酸素運動の影響など多様な研究を行っています。以下は過去の卒業論文などの研究テーマ例です。
テキスト分析:論文抄録からの頻出キーワード
全39件の論文抄録・タイトルを自然言語処理(形態素・単語抽出)にかけた結果の頻度グラフです。
修了論文(特別専攻科)
2025年度
安藤千春
有酸素運動が計算能力の速度と正確性に与える影響
特別支援教育特別専攻科 258001 安藤 千春
指導教員 大内田 裕
【第1章 緒言】
現代の義務教育,特にGIGAスクール構想下の学習環境において,計算能力の個人差や苦手意識は依然として課題である.従来の反復練習は,ADHDやDCD等の特性を持つ児童には心理的・身体的負担となる場合があり,新たなアプローチとして運動の活用が注目されている.先行研究では,中強度運動が紙筆課題の作業速度を向上させると報告されたが,パソコンを用いた課題では効果が見られなかった.その要因として「先読み」の可否が挙げられたが,先行研究の運動時間は10分間であり,生理的刺激として不十分であった可能性がある.BassoとSuzuki(2017)が示す標準的な運動時間は16分以上である.そこで本研究では,運動時間を20分間に設定し,十分な覚醒水準の上昇を促すことで,パソコン画面上で連続提示される計算課題の処理速度および正確性に及ぼす一過性運動の影響を明らかにすることを目的とする.
【第2章 研究方法】
被験者は大学生15名(平均年齢21±2歳)とした.実験は静寂な室内で行い,運動前の認知課題として,Pythonで作成したPC上の計算課題(四則演算100問)を実施した.本課題は3種類の解答候補が提示され,正しい解答を選択する形式とし,先行研究の課題であった「先読み」を物理的に排除した上で,速さと正確さを求めた. 運動条件にはトレッドミルを用い,時速6.0kmでのランニングを20分間実施した.この強度はBassoとSuzuki(2017)等が定義する「中強度」に相当し,過度な疲労を伴わず覚醒効果が得られるものである. 運動終了後,呼吸が整ったことを確認し,運動後課題を実施した.解析にはJASPを用い,運動前後の心拍数,回答時間,誤答数の変化について対応のあるt検定と相関検定を行った.
【第3章 結果】
心拍数は運動前の平均65回/分から運動後は82.8回/分へ有意に上昇し(p<0.001),適切な負荷による覚醒水準の高まりが確認された.計算課題における回答平均時間は,運動前の1.883秒から運動後は1.713秒へと短縮し,統計的に有意な差が認められた(p=0.002).一方,誤答数については運動前平均2.867回,運動後平均1.800回で有意な変化は見られなかった(p=0.198). また,運動後の心拍数の高さと回答時間の短縮量との間に有意な相関は認められず(r=0.091),心拍数と誤答数の変化量との間にも相関は見られなかった.
【第4章 考察・結論】
本研究の結果,20分間の中強度有酸素運動は,誤答数を増加させることなくパソコン計算課題の回答速度を有意に向上させた.通常生じる「速度と正確性のトレードオフ」が見られない点は,運動が前頭前野の実行機能を活性化し,情報処理効率を高めたことを示唆する.松本ら(2016)が効果を認めなかったパソコン課題において,本研究で成果が得られた主な要因は運動時間の差にある.先行研究の10分間では有酸素運動として不十分であったが,本研究では20分間に延長したことで適切な有酸素運動効果を得るには一定以上の時間が必要であると示唆された.また,心拍数の上昇幅と成績向上幅に相関が見られなかった点は,効果を得るために激しい運動が必須ではないことを示す.これは, 本研究の結果は,GIGAスクール構想下の学習環境において,運動に苦手意識のある児童やADHD等の特性を持つ児童に対しても,過度な負担のない20分程度の運動が有効な学習支援策となり得ることを示すものである.
【文献】
Basso,J.C.,&Suzuki,W.A.(2017)「TheEffectsofAcuteExerciseonMood,Cognition,Neurophysiology,andNeurochemicalPathways:AReview」.BrainPlasticity.p.127-152.
松本直幸・今給黎綾乃・黒部一道・西脇雅人(2016)「事前に行う短時間中強度運動が単純加算および視覚記憶課題成績に及ぼす影響」.日本生理人類学会誌.p.59-68.
武田沙季
書字障害における原因の解明と適切な介入による検討
特別支援教育特別専攻科 259008 武田 沙季
指導教員 大内田 裕
【第1章 序論】
本研究の目的は、書字障害(dysgraphia)を抱える児童が書字のどの部分に困難さを感じているのか、神経科学的・認知心理学的な観点から捉え、現場の教員が個々の特性に適合した支援方法を考える際に役立つ情報をわかりやすくまとめることである。現場では、書字に関するメカニズムが多岐にわたることから個々に応じた支援を決定することが困難な状況にあると言える。本研究は、書字困難児に対して、適切な支援をしたいと考える教員の問いに対し、脳科学の知見に基づいた科学的根拠をもって答えようとするものである。
【第2章 本論】
本論では、これまで解明されてきた脳損傷における読み書き障害の知見について検討することを通して、後天性と発達性書字障害との相違点を考察した。その中で、一度学習したことができなくなる後天性と、これから学習を積み上げていく発達性との違いはあるものの、症状として表れる状態はよく似ていることが明らかになった。それは、後天性での脳損傷箇所と発達性での脆弱さが現れている箇所は同じところであることを意味する。後天性の知見は、障害を受けた機能と脳損傷領域との関係が非常に明確に見ることが出来る。一方で、発達性の場合は、この関係性が非常に不明瞭となっている。これは、発達性が障害を受けてから様々な学習や代償が生じているため、元来生じた機能障害から変化しているためである。このようなことから、後天性の知見を検討することで、発達性の読み書き障害の元々の問題点にたどり着くことが出来ると考えられる。
脳内における仮名と漢字の処理は、異なった2つの経路(腹側路と背側路)で処理されており、そのことを認知心理学では、「二重経路モデル」と説明されている。書字の過程において、腹側路は言葉の意味の処理が行われる経路で、背側路は音韻処理が行われる経路である。脳内での処理が漢字と仮名で違うことは、日本文化の発展と共に使用されてきた文字が仮名(表音文字)と漢字(表意文字)の異なった文字種を使用していることに関連があるが、二重経路の説明をもって、現在の発達性の困難の所在が音韻に関わるものと、意味的なものに関わるものに整理できる。また、書字は読みとまとめて考えられることも多い。それは、脳内で処理される共通の領域があり、読みと書字の機能は互いに関わりながら成長していくためであるが、最終的な出力方法は異なる。書字の最終的な出力とは、ペンを使って実際の文字を書くという運動である。つまり、書字とは脳内における認知的要素と運動的要素という2つの異なる要因が関与している。認知的要素は、読みと書字とが互いに強く関わるが、運動的要素は書字特有の要素であり介入による機能向上が認められるのではないかと考え、書字の運動的要素について整理した。運動を行うためには、まず脳では行う運動の計画が立てられる。この計画は、運動プログラムと呼ばれ、どの筋肉をどの程度収縮させるのかというもので、小脳による内部モデルを利用して形成される。この内部モデルとは、脳の中の身体像のことで、どのように身体を動かすかを頭の中でシミュレーションし、その情報を元に筋肉をどの程度収縮するかの命令を出すことで運動が生じる。ただし、この運動は、頭の中でシミュレーションを通して計画が立てられていることから、初期には中々思い通りの運動になっていないが、運動を繰り返し行うことで運動プログラムのエラーが修正され徐々に思い通りの運動に近づいていき、さらに運動自体が自動的に行うことができるようになる。このように、思い通りの運動ができるようになるためには、繰り返し運動プログラムを作成し、実行して、思い通りでない部分(エラー)を修正していくということが重要になる。本研究の核心として、運動に関わる介入については、反復練習が重要な効果があることから、書字困難児に対しても、運動に関するエラーについては、反復練習が効果的な支援方法であると考えた。書字困難児に見られるエラーについての分析を行い、運動に関するエラーには、どのような児童の様子が見られるのかを整理した。書字に困難さを抱える児童それぞれのエラーに対する支援を行うことが、児童の書字表出能力を向上させるのではないかと考えられる。
【第3章 結論】
書字障害への支援の本質は児童が文字を書き、気持ちや情報を伝えることを諦めないことにある。改善の余地がある運動面においては、適切なアセスメントに基づいた「回路の強化」を諦めない姿勢が重要である。その視点をもつことで、書字に困難を抱える児童の支援に悩む教員が、一人ひとりの児童に寄り添った支援を決定できることを提言する。
【文献】
小池敏英・雲井未歓・窪島努 (2003).『LD児のためのひらがな・漢字支援』,あいり出版.
岩田誠・河村満(編)(2007).『神経文字学:読み書きの神経科学』,医学書院.
2024年度
安部巴稀
有酸素運動がGlobal・Local注意に与える影響
特別支援教育専攻科 248001 安部 巴稀
指導教員 大内田 裕
(1行空白)
【第1章 背景】
注意機能は、意識や記憶など多様な認知活動の基盤(船山ら,2022)であり、全般性注意や方向性注意に分類され、注意ネットワークがこれを支える(横澤ら,2021)。人の物体知覚には、全体として捉えるグローバル処理と部分として捉えるローカル処理があり(二瀬,1999)、特にローカル処理にグローバル情報が干渉することが知られている(Navon,1977)。注意の個人差はASDやADHDに顕著であり、ASDはローカル処理が、ADHDはグローバル処理が優位である(文部科学省,2021)。
言語機能は左半球のブローカー野とウェルニッケ野が中心であり(高垣,2023)、学習には脳の可塑性が重要である。脳内のニューロンは新しい情報に対してシナプスを再構成し、経験を通じて情報の統合と記憶定着が行われる(川平ら,1995)。学習は短期記憶から長期記憶への変換を経て、作業記憶や知覚表象を通じ意味記憶に至る(多鹿,2016)。これらの脳機能は運動によって強化されることが明らかになっている。
有酸素運動は、軽度または中強度の負荷で継続して行える運動を指す。運動により酸素需要量が増加すると、呼吸器系や循環器系の活動が亢進し、心拍数が増加する。有酸素運動は認知機能や海馬に影響を与え、ワーキングメモリの機能向上(Pontific,2009)や空間探索、記憶の向上に効果をもたらす(早川,2020)。特別支援学校では、学習面や行動面で困難を示す児童生徒への支援として、朝の運動を取り入れる学校が増加している。先行研究から、有酸素運動がグローバル・ローカル注意に与える影響は負荷依存的であり、両者は二律背反の関係にあると考えられる。
【第2章 方法】
研究に同意を得られた18歳~40歳の学生20名(男性18名、女性2名)を被験者として実験を実施した。実験は以下の流れで2セット実施した:パソコンでの実験、続いて10分/1kmペースで15分間のランニング、その後再度パソコンでの実験を行った。パソコンでの実験では、階層刺激文字を用いた。これは密度の高い大きな文字を密度の低い小さな文字で構成したもので、大小の文字が同一の場合と異なる場合の2条件を設定した。
被験者は4グループに分類した:①同一文字のグローバル刺激から開始、②同一文字のローカル文字から開始、③異なる文字のグローバル刺激から開始、④異なる文字のローカル文字から開始。各グループは同一の運動条件下で実験を行った。
統計解析にはMicrosoft ExcelおよびJASPを使用した。t検定を実施し、有意水準は5%未満とした。また、各条件間の相関分析も行った。
【第3章 結果】
運動負荷と課題の反応速度の関連性を分析した結果、運動前後の心拍数の差と反応速度の間に有意な差は認められず(t検定:p = 0.746)、相関関係も確認されなかった。また、日常的な運動習慣の有無による群間比較においても有意差は見られなかったものの、有酸素運動が注意機能に即時的な影響を及ぼすことが確認された。
個人内評価の分析では、運動前後での反応時間の変化量とグローバル・ローカル処理における反応時間に顕著な個人差が認められた。この傾向は運動後も継続して観察された。具体的には、運動による反応時間の変化において、顕著な変化を示す被験者と変化の少ない被験者が存在した。また、グローバル・ローカル処理の反応時間については、運動前から処理速度に大きな差異がある群と近似値を示す群、さらに運動後に差異が生じる群と近似値を維持する群が確認された。 これらの個人差を総合的に分析した結果、4つの主要な反応パターンが特定された。第一に、グローバルとローカルの両処理において反応速度が向上するパターン、第二に、いずれか一方の処理のみで反応速度が変化するパターン、第三に、両処理で相反する変化を示すパターン、そして第四に、一方の処理速度が向上する一方で他方が低下するパターンである。
【第4章 考察】
本研究では、有酸素運動がローカル注意に大きな影響を与える可能性を明らかにすることを目的とした。研究結果から、運動前後における課題の反応時間差と心拍差にそれぞれ有意差が認められた。しかし、反応時間と運動負荷(運動前後の心拍差)との間には有意な関連性は見られず、互いに影響を及ぼすほどの結果は得られなかった。このような結果となった主な要因として、運動負荷量の個人差と刺激課題の特性が挙げられる。今後は、グローバル注意が運動後に向上するという期待された結果を得るために、被験者の日常的な運動量を考慮した運動負荷の設定と、より適切な階層刺激文字の改善を行い、さらなる研究を進めていきたい。
本田貴大
有酸素運動がGlobal・Local注意に与える影響
注意機能は、意識や記憶など多様な認知活動の基盤(船山ら,2022)であり、全般性注意や方向性注意に分類され、注意ネットワークがこれを支える(横澤ら,2021)。人の物体知覚には、全体として捉えるグローバル処理と部分として捉えるローカル処理があり(二瀬,1999)、特にローカル処理にグローバル情報が干渉することが知られている(Navon,1977)。注意の個人差はASDやADHDに顕著であり、ASDはローカル処理が、ADHDはグローバル処理が優位である(文部科学省,2021)。
言語機能は左半球のブローカー野とウェルニッケ野が中心であり(高垣,2023)、学習には脳の可塑性が重要である。脳内のニューロンは新しい情報に対してシナプスを再構成し、経験を通じて情報の統合と記憶定着が行われる(川平ら,1995)。学習は短期記憶から長期記憶への変換を経て、作業記憶や知覚表象を通じ意味記憶に至る(多鹿,2016)。これらの脳機能は運動によって強化されることが明らかになっている。
有酸素運動は、軽度または中強度の負荷で継続して行える運動を指す。運動により酸素需要量が増加すると、呼吸器系や循環器系の活動が亢進し、心拍数が増加する。有酸素運動は認知機能や海馬に影響を与え、ワーキングメモリの機能向上(Pontific,2009)や空間探索、記憶の向上に効果をもたらす(早川,2020)。特別支援学校では、学習面や行動面で困難を示す児童生徒への支援として、朝の運動を取り入れる学校が増加している。先行研究から、有酸素運動がグローバル・ローカル注意に与える影響は負荷依存的であり、両者は二律背反の関係にあると考えられる。
【第2章 方法】
研究に同意を得られた18歳~40歳の学生20名(男性18名、女性2名)を被験者として実験を実施した。実験は以下の流れで2セット実施した:パソコンでの実験、続いて10分/1kmペースで15分間のランニング、その後再度パソコンでの実験を行った。パソコンでの実験では、階層刺激文字を用いた。これは密度の高い大きな文字を密度の低い小さな文字で構成したもので、大小の文字が同一の場合と異なる場合の2条件を設定した。
被験者は4グループに分類した:①同一文字のグローバル刺激から開始、②同一文字のローカル文字から開始、③異なる文字のグローバル刺激から開始、④異なる文字のローカル文字から開始。各グループは同一の運動条件下で実験を行った。
統計解析にはMicrosoft ExcelおよびJASPを使用した。t検定を実施し、有意水準は5%未満とした。また、各条件間の相関分析も行った。
【第3章 結果】
運動負荷と課題の反応速度の関連性を分析した結果、運動前後の心拍数の差と反応速度の間に有意な差は認められず(t検定:p = 0.746)、相関関係も確認されなかった。また、日常的な運動習慣の有無による群間比較においても有意差は見られなかったものの、有酸素運動が注意機能に即時的な影響を及ぼすことが確認された。
個人内評価の分析では、運動前後での反応時間の変化量とグローバル・ローカル処理における反応時間に顕著な個人差が認められた。この傾向は運動後も継続して観察された。具体的には、運動による反応時間の変化において、顕著な変化を示す被験者と変化の少ない被験者が存在した。また、グローバル・ローカル処理の反応時間については、運動前から処理速度に大きな差異がある群と近似値を示す群、さらに運動後に差異が生じる群と近似値を維持する群が確認された。 これらの個人差を総合的に分析した結果、4つの主要な反応パターンが特定された。第一に、グローバルとローカルの両処理において反応速度が向上するパターン、第二に、いずれか一方の処理のみで反応速度が変化するパターン、第三に、両処理で相反する変化を示すパターン、そして第四に、一方の処理速度が向上する一方で他方が低下するパターンである。
【第4章 考察】
本研究では、有酸素運動がローカル注意に大きな影響を与える可能性を明らかにすることを目的とした。研究結果から、運動前後における課題の反応時間差と心拍差にそれぞれ有意差が認められた。しかし、反応時間と運動負荷(運動前後の心拍差)との間には有意な関連性は見られず、互いに影響を及ぼすほどの結果は得られなかった。このような結果となった主な要因として、運動負荷量の個人差と刺激課題の特性が挙げられる。今後は、グローバル注意が運動後に向上するという期待された結果を得るために、被験者の日常的な運動量を考慮した運動負荷の設定と、より適切な階層刺激文字の改善を行い、さらなる研究を進めていきたい。
2023年度
高木悠希
特別支援学級が直面する課題に関する研究 ースクールサポーターとしての実践を通してー
-スクールサポーターとしての実践を通して-
特別支援教育特別専攻科 238014 高木悠希
指導教員 大内田 裕
【研究の背景】
現在の日本は、自治体にもよるが、特別支援学校や地域の学校の特別支援クラスの中で
も、とくに知的障害児の数が年々増加している傾向にある。ひとつの特別支援学校に生徒
が入りきらなくなることも起きており、学校を新設する自治体が増えてきている。しかし、
特別支援学校での生活を必要とする児童・生徒の数に対し、まだ特別支援学校の数は足り
ていないのが現状である。
特別支援学校の必要性が訴えられていることから、特別支援学校教諭の数も増やす必要
があり、採用人数は今後増える自治体もあることが予想される。しかし、特別支援学校の
なかでも肢体不自由児の学校や聾学校、盲学校などは減少している。そのため、これらの
学校の教師が知的障害児の学校に異動となることも増えるだろう。特別支援学校は各障が
いによって指導方法等も違うため、知的障害児の学校が増加するのであれば、そこで働く
教員はその障がいについての知識や技能をもっと身につける必要もある。
【奈良市立春日中学校におけるスクールサポーター活動】
昨年、学校教育支援活動(スクールサポーター)として奈良市の中学校で活動した。天
理大学在学中に「学校教育支援」という授業があり、実際に特別支援教育を近くで見てみ
たいという興味を持ったことがきっかけで自分自身の成長につなげたいと感じ、授業を履
修しスクールサポーターとして活動する事を決めた。とても短い期間ではあったが多くの
学びを得ることができたと感じている。学校教育支援活動(スクールサポーター)とは、学
校教育の様々な場面での指導補助にあたるものである。あくまで指導補助という立場での
活動になるため、学校の担当教員と十分な打ち合わせを行った上で支援活動を行う必要性
がある。
【まとめ】
奈良市立春日中学校での学校教育支援を通して、多くの学びを得ることができた。教育
現場に出て、実際に特別支援の必要な生徒と関わってみることで、気づくことが多くあっ
た。個々の支援に必要なことは、生徒のコミュニケーション能力をしっかり見た上での支
援だと感じた。クラスの中での立ち振る舞いや、友達との関係づくりなどが班活動やペア
学習に関係してくる。特別支援学級の生徒間だけでのやり取りだけでなく、普通学級の生
徒とのコミュニケーションによって班活動やペア学習のモチベーションが変わってきてい
たのが、支援を続ける中で見えてきていた。また、特別支援学級の生徒ではないが、少し
気をつけて支援を行う必要性のある生徒も多く、1 人 1 人への声掛けを忘れず、全体をま
んべんなく見る必要性があり支援は難しいと思った。机上整理の苦手な生徒や文字を書く
のが苦手な生徒、靴をしっかりと履けない生徒など個性があり、その子にあった支援をす
ることがとても大切で、その時々にあった必要なことを考えて動く必要性があるため、私
自身の経験のためにとても貴重な経験をすることができた。この経験を活かして特別支援
に携わり生徒のために何ができるかを模索し続けられる教員になりたい。
【文献】
金山元春:天理大学教職教育研究 第3号 2020年12月 特別な支援が必要な生徒
に対する理解と支援方法 p43-51
奈良市教育委員会事務局学校教育課:学校サポートのてびき
奈良市教育委員会事務局学校教育課:奈良市学校教育活動支援事業実施要項
文部科学省:特別支援教育の推進について(通知) 1.特別支援教育の理念
河合正太郎
有酸素運動が身体図式に与える影響
-頭の中でのイメージと実際の行動は一致するのか又は誤差があるのかについて-
特別支援教育特別専攻科238007河合 正太郎
指導教員 大内田 裕
【第1章 はじめに】
日常生活や運動をするとき、頭の中で思っているイメージと実際に体を動かしたときとでは、イメージ通りに体が動かないことを何回か経験した事があるだろう。例えば、段差をまたぐときに思ったより段差が高く、つまずいたことなど、誰もが1度ぐらいは経験があるだろう。このように、頭の中でのイメージと実際に体を動かすときでは、イメージと実際の間に誤差があるのではないとかと考える。誤差があることによって、イメージ通りに運動ができないため、運動に苦手意識を持つ原因になるのではないかと思われる。頭の中のイメージと実際に体を動かすときの差がどのくらいあるのか、一致しているのかを本人が理解しておくことで、実際に体を動かすときに、頭の中のイメージと実際の運動が近いものとなる。
近年一過性有酸素運動によって、認知パフォーマンスが向上することが明らかになっている。McMorris(2011)は、「一過性有酸素運動によって脳血流量が一時的に増加し、ノルエピネフリン、ドパミン、血漿カテコルアミン濃度が変化し、認知機能に影響を与える」と述べている。以上のことから、有酸素運動により、脳が活性し認知機能が向上することが示されている。また、身体認知が正確な人ほど、運動をすることに優れていることが分かっている。
【第2章 研究目的】
以上の背景から、自己身体を正解に知ることができると、運動をすることが楽しくなると考えた。しかし、有酸素運動をすることによって、頭の中のイメージと実際が一致するのか明らかになっていない。本研究では、イメージと実際が運動により一致するのか、検証することを目的とする。
【第3章 研究方法】
大阪教育大学の特別支援教育特別専攻科の学生15名を対象に実験を行った。まず、始めに頭の中の身体イメージを計測するために、どの高さまで跨げるかを実際に跨ぐことなくイメージによって跨げる高さを問い、頭の中のイメージの高さを測定した。また、頭の中でのイメージの高さを平均し、その高さをイメージの高さとした。イメージで跨げる高さを計測し、その後、実際に1回またいでもらい。実際に跨げる高さを計測した。この一連の流れを有酸素運動である縄跳びを用いて運動前後でどのような変化があるのか研究を行った。
【第4章 結果】
運動前後では、頭の中の跨ぐイメージと実際に跨げる高さ間に有意差があり、右足イメージ、右足実際にも有意差があったことが分かった。また、運動後では、頭の中のイメージと実際の高さが一致することが分かった。
【第5章 考察】
今回の研究により、頭の中のイメージで跨げる高さと実際の跨げる高さを一致させるためには、有酸素運動に属する縄跳びトレーニングを行うことで、前頭前野の血流量が増加し、脳が活性化されたことによって、頭の中のイメージと実際に体を動かしたときの誤差が小さくなったと考えられる。
今後は、運動の成功例を写真やビデオや実際に確認し記憶して、脳の中でよいイメージを意識させて、運動するとイメージと実際のズレが少なくなるのか、記憶から実際の運動はどのような影響があるのか検討が望まれる。
【文献】
サンドラ・ブレイクスリー、マシュー・ブレイクスリー(2009)『脳の中の身体地図(ボディ・マップのおかげで、たいていのことがうまくいくわけ)』株式会社インターシフト
森岡周(2005)『リハビリテーションのための脳・神経科学入門』株式会社協同医書出版社
Head Hetal : Sensory disturbances from cerebral lesions. Brain34:102-245,1911.
木村竜晟
有酸素運動が短期記憶およびワーキングメモリに及ぼす影響
特別支援教育特別専攻科 238009 木村 竜晟
指導教員 大内田 裕
【第1章 緒言】
我々は日常生活において一つ情報を処理しながら、同時に他の異なる行動をとるようなことがよくある。運転や勉強、買い物がその例である。日常生活を送っていく上で周辺環境がもたらす多種多様な情報から必要なものを選択し情報の保持や処理を行う。この機能と密接に関わっているのがワーキングメモリと呼ばれる機能である。ワーキングメモリの機能が低いと集中が続かなかったり物をなくしたり日常生活に支障をきたす。ワーキングメモリは数多くのモデルが存在するが、その記憶の仕組みは一時的な記憶の保持のみを行う短期記憶とは異なるものである。
また、近年では有酸素運動を行うことで認知機能が向上することが報告されている(早川2020)。運動をすることで記憶を司る脳の海馬への血流が増加し記憶力が向上、改善することが明らかにされている。さらには、海馬での神経保護やシナプスの可塑性には脳由来神経栄養因子(BDNF)が重要な役割を果たし、このBDNFの血中濃度が認知能力を左右することも明らかにされている。
本研究では、学校現場でよく用いられる有酸素運動であるなわとび運動を用いて有酸素運動が、短期記憶およびワーキングメモリにそれぞれどのような影響を与えるのかを明らかにすることを目的とした。
【第2章 方法】
対象者は大阪教育大学に所属する学生16名(男性8名、女性8名)であり、対象者の個人情報の取り扱いには十分注意した。
実験はなわとび運動前後で短期記憶を計測する数唱課題の順唱、およびワーキングメモリ能力を測定する数唱課題の逆唱を用いて測定し分析を行った。1桁から順に表示され正解すると桁が1つずつ増え3回誤ると終了するプログラムを用いて順唱と逆唱の課題を行った。順唱および逆唱それぞれの桁数を短期記憶、ワーキングメモリのスコアとした。
また、運動前後には運動負荷量を測定するために身体反応である血圧と心拍数の測定を上腕式血圧計を使用し測定した。なわとび運動はメトロノームを用いて100bpmに合わせて跳ぶように指示し、運動最大継続時間を5分とし中断のタイミングは被験者に委ねた。運動終了後には主観的運動強度(RPE)を記録した。被検者は実験開始前に全身筋量と強い相関がみられる握力も測定した。
【第3章 結果】
心拍数や血圧の測定項目において運動前後で有意な差が認められたことから十分な運動負荷量に達していたことが確認された。しかしながら短期記憶およびワーキングメモリのスコアにおいて運動前後において有意差は認められなかった。そこで、短期記憶とワーキングメモリの変化がどのような要因と関与していたかを調べるため被検者を短期記憶スコアが向上した群、減少した群、ワーキングメモリスコアが向上した群、減少した群に分け、スコアの変化量とそれぞれの測定項目との相関関係を調べた。短期記憶が向上した群では握力や血圧、心拍数の変化量、運動時間と相関関係がみられ、減少した群では主観的運動強度や血圧において相関関係が見られた。また、ワーキングメモリが向上した群では握力や血圧との相関関係が見られ、減少したグループでは主観的運動強度や血圧、心拍数、運動時間において相関関係が見られた。
【第4章 考察・まとめ】
本研究では、有酸素運動前後で短期記憶およびワーキングメモリのスコアが向上するのかどうか明らかにすることを目的としたが、全被検者において共通した変化は見られなかった。その要因としては運動強度の高さや安静時間の短さが挙げられる。本研究での全被検者での平均主観的運動強度は16.5と非常に高く、安静時間は先行研究では5分だったものを2分で実施したため、被検者が運動効果を得る以前に疲労状態のままで運動後の課題を解いたということが考えられる。さらには、被検者の年齢層もばらばらであり、運動経験の有無も大きく異なるため一定のデータが得られなかった可能性がある。課題のスコアとして回答できた桁数をそのまま使用したことからスコアの1点間の距離が大きくなり差が見ることができず同値になり相関関係が見られないこともあった。
今回の実験では、握力や運動強度、運動時間、血圧に相関関係が見られた。そのためこの要因を再度見直すことで更なる結果が期待される。運動強度を下げ、運動時間長くとり、安静時間を先行研究と同様の5分に設定し再度スコアの変化を検討したい。
2022年度
古田千夏
リズムジャンプトレーニングがワーキングメモリ機能に与える影響
特別支援教育特別専攻科228015 古田 千夏
指導教員 大内田 裕
【第1章 はじめに】
学校体育における「ダンス」必修化に伴い、実施は進んでいるものの、その内実は指導者による敬遠と内容の混乱も招いていることも事実であり、ダンス特有の指導の難しさが指導者自身の不安や苦手意識と繋がっているからではないかと推察されている。(和光ら2018)そのような状況の中、ルールや動きが簡単で取り入れやすいことから近年、リズムジャンプトレーニングが表現運動やダンスの導入として使われ始めている。リズムジャンプトレーニングとは、ビートの強い曲に様々なジャンプ運動を組み合わせたものである。リズムジャンプトレーニングで必要なものは、ラインと呼ばれる障害物と音楽を再生させるプレイヤーのみであり、ルールも①ラインを踏まない②リズムに合わせる③合図でスタートするとシンプルである。津田(2013)は学校現場でリズムジャンプトレーニングを実施し、運動能力や認知機能が向上することを明らかにした。次に有酸素運動について、Pontifexら(2011)は、心肺機能の向上を目的とした身体活動介入が、思春期前の子どもにおけるワーキングメモリの認知的制御の改善と関連することを明らかにした。このように、有酸素運動によって認知機能やワーキングメモリ機能を向上させると示している研究が多く発表されている。
次に短期記憶とワーキングメモリの違いについてまず短期記憶は、必要な情報を保持、貯蔵、検索という情報の保持を中心とした認知モデルであり、聞こえてきた音声情報をそのまま言葉で表出する順唱課題がこれにあたる。一方でワーキングメモリは、情報の保持に加えて情報の操作をも含んでいると定義されており、聞こえてきた音声情報を逆転させ言葉で表出する逆唱課題がこれにあたる。湯澤(2019)は、ワーキングメモリについて、短い時間に心の中で情報を保持し、同時に処理する能力のことを指し会話や読み書き、計算などの基礎となる、私たちの日常生活や学習を支える重要な能力であるとしている。
【第2章 研究目的】
以上の背景から、有酸素運動がワーキングメモリに良い影響を与えるということと、リズムジャンプトレーニングが認知機能や運動能力に良い影響を与えるということが明らかになった。しかし、有酸素運動に分類されるリズムジャンプトレーニングがワーキングメモリにどのような影響を与えるかについては明らかになっていない。本研究では、リズムジャンプトレーニングを行うことでワーキングメモリに良い影響を与えるかを検証することを目的とする。
【第3章 研究方法】
大阪教育大学の在籍する学生10名を対象に実験を行った。1回目の順唱・逆唱課題、リズムジャンプトレーニング、休憩、2回目の順唱・逆唱で構成し計約30分間の内容で行った。リズムジャンプトレーニングでは10種類のジャンプを約10分間行い、ジャンプ中の心拍数と動脈血飽和酸素度(SPO2)を計測した。なおジャンプの種類は、被験者の年齢に合わせた難易度であり、かつ息が上がる程度の強度であるジャンプを選定した。順唱・逆唱課題では数字と無意味語を設定し、それぞれについて最大正答文字数を計測した。
【第4章 結果と考察】
実験の結果、まずは心拍数及びSPO2値について統計分析をしたところ運動前と運動中の平均値に有意差が見られた。このことによりリズムジャンプトレーニングが被験者に適度の運動負荷を与えたことが分かった。さらに課題については短期記憶能力にあたる数字・無意味語の順唱課題の成績はわずかに変化したが有意差はみられなかった。一方、ワーキングメモリ機能にあたる数字・無意味語の逆唱課題の成績は、数字、無意味語ともに上昇したが、無意味語のみ有意差が見られた。これらの結果より、リズムジャンプトレーニングを行うことにより、言語面のみワーキングメモリ機能が向上するということが明らかになった。このような結果が出たことには、いくつかの要因が考えられる。まずリズムジャンプトレーニングの前後で、順唱課題の成績は変化しなかったが逆唱課題の成績が上昇したという結果については、有酸素運動に属するリズムジャンプトレーニングを行うことで前頭前野の血流量が増加し、脳が活性化されることでワーキングメモリが向上したためであると考えた。また、逆唱課題の中でも無意味語のみ上昇したという結果については、無意味語課題で用いた平仮名の音の長さが関係していると考えた。数字について考えると、数字は1文字の記号に対して2音が対応していることが多い。(例:「1」→「い・ち」、「3」→「さ・ん」)一方、平仮名は1文字に対して1音が対応しており、数字と平仮名を比較すると記号の数が同じ場合であっても平仮名の方が音の長さが短くなることが多い。本研究で行った無意味語の逆唱についても、数字の逆唱に比べて、音の長さが短いことから短期記憶負荷が少なくなり、言葉を反対に操作する際の全体的な負荷が少なくなった。このことにより無意味語のみ逆唱の成績が上昇したのではないかと考えた。
以上より、本研究でリズムジャンプトレーニングについて数字情報のワーキングメモリ機能の向上への効果を示すことはできなかったが、言語情報のワーキングメモリ機能の向上に効果があることを示すことができた。
【引用参考文献(一部抜粋)】
津田幸保,小野みどり.(2018).リズムジャンプが児童の認知機能に与える影響.美作大学・美作大学短期大学部紀要.第63号.pp1-7.
宮本 直子
日本語の読み書きと注意欠陥に困難を抱える生徒に対する個別オンライン学習支援
2020年に学習指導要領が改定され、外国語教育を更に重視し、「聞くこと」「読むこと」「話すこと」「書くこと」の力を総合的に育む重要性を示唆している。一方で、2022年の文科省調査報告において、通常学級に在籍する小中学生の8.8%が学習面や行動面で著しい困難を示す発達障害の可能性があることが明らかになった。たとえ困難があっても、発達障害を抱える児童の多くが外国語を学びたいと思っている。
認知的長所を活用した英単語の読み・意味指導を行い、その結果、大幅な成績の向上を立証した。(上岡・北岡・鈴木, 2018)また、読み書きを学ぶ際に視覚(見る言語)、聴覚(聞く/知覚する言語)、および運動感覚触覚(感じる言語記号)等の多感覚を使って直接指導を行うことを目的とした指導法であるマルチセンソリー(多感覚)・アプローチ法(Multisensory Structured Language Approach : MSLアプローチ)が考案され効果を上げている(小林, 2012など)。
1-2)目的
国語の読み書きと注意継続が難しい小学生6年生の対象児童1名に対して、オンライン授業の指導を通して、認知的長所と身体の多感覚機能を十分に活用し、英語に慣れ親しみを感じると共に、英語学習の素地を作り中学校への円滑な接続ができることを目的とした。
【第2章 方法】
3-1)指導場所及び期間
本プログラムは週に一度、60分のオンライン授業で、13回の指導を行い、実証した。
3-2)指導内容
外国語で他者とコミュニケーションを行う時はまず自己紹介から全てが始まるので、状態動詞の「be動詞(現在形)」から学習を始めることにした。学習内容を自己紹介、他己紹介、物の説明に必要な文法と単語と決め、認知的長所とMSLアプローチに基づいた指導を行った。
3-3)モジュール学習
モジュール学習(帯学習)とは、通常45分の授業を15分ごとの3つに分ける短時間学習のことで、授業のパターン化をすることにより、授業を受ける側も、する側も次に何をするのか不安に思うことはなく安心して授業を受ける、また別の活動になることにより、新たな気持ちで次の活動へと入りやすいため、集中力の継続に効果的である。
3-4)使用した電子教材
単語学習にquizletアプリを用いた。また、文法の定着を図るためにルーレットとLucky Draw、チャンツや歌でYouTubeを使用した。
【第3章 結果】
学習の定着度を数値化するためのテストでは、全ての学習内容の92%を13回のオンラインレッスンで習得したという結果が得られた。
【第4章 考察】
様々なアプリを用いながら、短時間ずつ区切った活動をテンポよくオンラインで指導を行った結果、A児は「わかる」「うれしい」という実感と喜びを感じ、積極的に英語を発語するようになった。母国語の読み書きの習得に特異的な困難を示す児童に対する指導は、①MSLアプローチ②ICTの活用③モジュール学習が非常に重要であると考えられる。
通常学級には対象児のように知的に遅れはないが、読み書きや注意継続に問題のある児童はたくさん在籍している。この指導法は発達障害を抱える児童への支援だけでなく、通常級に在籍する小中学生にも有用である。英語を学習する中で、児童の考え方、価値観、世界観に大きな影響を与え、将来の可能性が広がることが想定される。
友武涼
競泳400m自由形におけるレースパターンにおける考察-障がいの有無、障がい種に着目して-
競泳のレースにおいて高いパフォーマンスを発揮するためには適切なペース配分が重要となり、ペース配分は競技者及びコーチが考慮すべき必要かつ重要なポイントであると考えられる。競泳400m自由形のレースパターンに関する報告は数多くあるが、対象となる選手は健常者である場合が多く、障がいを有する選手を対象とした研究は少ない。早川ら(2014)は知的障がいを有する人は運動能力が健常者に比べ、概ね低いことを報告している。このことから、健常者と障がいを有する人では運動能力に差がある事が考えられるが、健常者と障がいを有する選手、障がいの種類での比較をした研究は見当たらない。
そこで、本研究では競泳400m自由形の出場者を対象に障がいの有無や障がいの種類においてレースパターンに違いが見られるのかを明らかにすることを目的とした。
【第2章 方法】
1)分析対象及び分類:障がいを有する選手(以下A群)は2021年、2022年に開催されたジャパンパラリンピック、2020年に開催されたパラ秋季大会において400m自由形の出場者(男子30名女子24名)を抽出した。また、運動機能の障がいである肢体不自由(以下運動群)と感覚器の障がいである視覚障がい及び聴覚障がい(以下感覚群)の2つに分類した。健常者群(以下B群)においては2006年、2011年、2016年、2021年に開催された全国中学校水泳競技大会(以下JH)、日本高等学校選手権水泳競技大会(以下IH)、日本学生選手権水泳競技大会(以下IC)において400m自由形の出場者(男子543名女子474名)を抽出した。
2)記録の収集: レースにおける記録は、A群は一般社団法人日本知的障害者水泳連盟HP及び一般社団法人日本パラ水泳連盟HPにより、B群は公益財団法人日本水泳連盟が公認するSEIKO競泳リザルト速報サービスにより取得した。
3)分析項目: 400m自由形のレースを50m毎の8区間に分け、2項目に関して分析を行った。1つ目は前半区間泳速度に対する後半区間泳速度の割合を求めた前後半区間泳速度比、2つ目は50m毎の区間泳速度である。算出した各区間泳速度はそれぞれV1、V2、V3、V4、V5、V6、V7、V8とした。
4)統計処理: 結果の表記はすべて平均値±標準偏差で示した。統計ソフトSPSS Statistics version 25(IBM社製)を使用した。各群間の平均値比較にはStudentのt検定を用いた。各群内の平均値比較には一元配置分散分析を行い、その後の検定にTukeyのHSD検定による多重比較を行なった。すべての検定及び分析の有意水準は5%未満とした
【第3章 結果と考察】
A群とB群の前後半区間泳速度の比較では男女ともにA群とB群の間に有意な差があり、A群はB群より有意に低い値であった。このことからA群の男女はB群の男女とレースパターンは有意に異なり、A群の男女に比べてより先行型のレースパターンを遂行していることが示唆された。佐藤ら(2017)は競技者自身が適したレースパターンを選択している可能性を示唆している。一方で本研究において対象とした障がいを有する選手は100%近くの選手が先行型のレースパターンを遂行しており、障がいを有する選手はレースパターンを選択することができていない可能性が示唆された50m毎の区間泳速度に関して、A群の選手はV1は他の7区間よりも有意に速く、V2はV3〜V7の5区間よりも有意に速い値を示した。感覚群の選手は運動群の選手と異なり、V8がV3からV7の区間で有意に速い値を示した。Vorontsov et al.(2003)は、レース進行に伴う泳速度の低下は、ストローク頻度の低下が関連することを報告した。Gourgoulis(2014)は、キック動作を行うことによって体感に傾きが水平に近くなることを報告している。これらの研究により、上肢運動も下肢運動も高いパフォーマンスを発揮するためには重要であるが、運動群の選手はストロークの頻度の低下やキック動作の減少により水中姿勢の維持が難しくなり、後半になるにつれ速度の維持ができなくなる可能性が示唆された。
【第4章 結言】
本研究の結果から、障がいを有する選手は健常者に比べ、より先行型のレースパターンを遂行している事が示唆された。また、運動機能の障がいを有する選手は、ストローク頻度の低下やキック動作の減少により水中姿勢の維持が難しくなり、後半になるにつれ速度の維持が難しくなる可能性が示された。これらのことから、障がいを有する選手は先行型のレースパターンを選択しているのではなく、前半の速度を維持できなかった結果、先行型を遂行せざるを得ない可能性が示された。
仲宗根 久笑
知的障害生徒におけるストレッチポールを用いたストレッチの効果
ストレッチポールとは株式会社LPNの円柱形のツールでフォームローラーの1種である。このストレッチポールを用いたエクササイズやストレッチでは姿勢改善などに必要な脊柱アライメントへの効果、胸郭拡張機能改善、心身におけるリラクゼーション効果などが報告されている。
知的障害と発達障害は不安傾向が高いため、不安傾向が高まると強い緊張状態に陥り、筋緊張が起こる。その状態が続くと肩こりなどの症状や、疲労が蓄積し、集中力の低下につながり、授業や教員の話に集中できないことがあると考えられる。
そこで本研究では、知的障害生徒に対してストレッチポールを用いたストレッチを行い、知的障害生徒の活動量・緊張状態にどのような影響を与えるのかを検討する。次に、ストレッチを行った後、知的障害生徒の様子・行動を観察し、精神的側面にも影響を及ぼすのかを検討する。
【第2章 実験】
本研究では知的障害生徒5名(男子3名、女子2名、年齢範囲13–15歳)を対象とした。各対象者には朝のランニング後に後頭下筋群、肩甲骨、脊柱起立筋、広背筋、大円筋を中心としたストレッチを5種目行い、その後歩数計を着用し、学校生活の(5時間)の活動量を計測した。また、教員(10名)に質問を行い、1日の様子・行動の調査を行った。実験条件として、期間は5日間で、1日目はストレッチを行わず、2〜5日目までストレッチを実施した。また、日別で時間割が違い、1・2・4日目と2・5日目と分けられる。得られた活動量のデータに基づき、毎日の5時間分の活動量の比較を行い、さらに午前中と午後の活動量の差は多重比較を行った。多重性の問題に対してはHolmの補正を行い、有意水準は5%と設定した。
【第3章 結果】
1日の合計活動量では3日目が5日目以外で、5日目は1・4日目に対して有意に高い値を示した。午前と午後の活動量の比較では3日目のみが午後の方が午前よりも有意に高い値を示した。また日別に午前と午後を比較したところ、午前のみどれも有意な差は見られなかった。午前と午後においては3日目の午後が全ての午前中に、5日目の午後は1・2・4日目の午前中よりも有意に高い値を示した。午後のみの比較では3・5日目が1・2・4日目よりも有意に高い値を示した。1日の様子・行動では「手・肩・腕・背中の筋緊張」、「離席行動」、「他者が話す前に喋ってしまう」、「友達に失礼な発言をする」では全員に変化は見られなかった。「教室からでていってしまう」では3・5日目に低下した生徒、4日目に増加した生徒が、「教室の中で走り回る」では4日目のみ低下した生徒が見られ、「手足をそわそわ動かす」、「喋りすぎる」では2日目のみ低下した生徒、3・5日目に増加した生徒が見られた。「活動に集中して取り組む」では2日目のみ増加した生徒、2・5日目のみ増加した生徒が見られ、「落ち着いている」では2日目のみ増加した生徒、2・3日目と続けて増加した生徒が見られた。
【第4章 考察】
1日の合計活動量で差が見られたのは、午後の活動量が起因していると考えられるが、実験条件にもあったように日別で時間割が違うことから時間割の影響もあると考えた。「離席行動」「他者が話す前に喋ってしまう」「友達に失礼な発言をする」という点では変化がなかったため、ストレッチポールの効果が見られないと考える。「教室から出ていってしまう」「教室の中を走り回る」では観察している限り、苦手な教科やわからないことがあると不安になり、その行動を起こしてしまったと考えた。「手足を動かす」「喋りすぎる」では生徒の特性によって変化していると考えられ、「活動に集中している」「落ち着きがある」ではほとんどの生徒が2日目に増加し、3日目以降に普段と同程度になったため、ストレッチポールによる即時効果が現れていると考えた。手・肩・腕・背中の筋緊張の変化は見られず、対象者から「怖い」「やりにくい」などの不安があったが、徐々にストレッチの動作を理解し、自身で動かせるようになると「気持ちいい」「身体が整う」などの不安が少なくなり、生徒によっては表情も緩んでいたことから心身におけるリラクゼーション効果があったと考えた。
【文献】
・坂元孝子 ストレッチポール運動の精神及び身体的効果の評価 Dynamics & Design Conference 2008 (0), _348-1_-_348-6_, 2008 一般社団法人 日本機械学会
2021年度
松下 岳人
特別支援教育におけるICT機器活用のあり方についての研究 〜障がい特性から選ぶタブレットアプリの活用についての提案〜
-障がい特性から選ぶタブレットアプリの活用についての提案-
特別支援教育特別専攻科 218025 松下 岳人
指導教員 大内田 裕
【第1章 研究の背景と目的 】
特別支援学校においてもGIGAスクール構想によりICT化が進められてきた。しかし、PCやタブレットなどの何らかの端末について、1人1台を導入し利活用している現状がある反面、端末を持ち帰っての活用やその方法、学校現場の学習場面の活用や教員そのもののICT活用指導力に対する不安が課題の上位に挙げられる現状がある。本研究では、ICT機器の活用についての課題の中でも特に、タブレットの学習アプリの活用に注目し、一般的な障がいの特性と照らし合わせることで、そのアプリがどのような障がいの児童生徒に向いているかを示した検索データベースを構築し提案することを目的とする。
【第2章 障がいの特性と学習アプリ】
学習アプリのデータベースを作成するにあたり、検索キーワードと学習アプリと結び付ける障がいとその特性について以下にまとめた。なお、特性については、学校生活や学習に着目した特性を扱い、それらの特性については、常に更新の対象となる。
知的障がいと発達章がいに関して、その特性とそれに関する支援が重なってくることから、同じグループとして特性を扱う。学校生活及び学習に着目した特性としては、[見通しを立てることが苦手・他人の気持ちを理解することが苦手・言葉にない意図を読み取ることが苦手・物事を想像することが苦手・電車やバスなど乗り物が好きなど]とした。肢体不自由と病弱/身体虚弱に関して身体の動きを障がいの特性により制限されるという点で共通するので、同じグループとして特性を扱う。ただし、肢体不自由児の場合、タブレット端末に関する自助具を利用して学習することを前提とし、学校生活及び学習に着目した特性として、[画面を随意的にタッチできる・画面をみることができる・発語によにるコミュニケーションが難しいなど]とした。視覚障がいについては、障がいの学校生活及び学習に着目した特性として、[視力が低くものが見えづらい・聴覚が優位的に働く・音声によるコミュニケーションができるなど]とした。聴覚障がいについては、学校生活及び学習に着目した特性として[聴力が低くものが聞こえづらい・視覚が優位に働く・文字によるコミュニケーションができる]とした。
【第3章 学習アプリ活用表とデータベース】
学習アプリ活用表については、神戸市がiPadの活用の際、特別支援学校用に提供している無料学習アプリの一覧表をもとに作成し、2章に記載した障がい特性を各学習アプリの教科や内容、操作性などを考慮し、各障がいの特性に有効と考えられる支援を考慮し、活用表としてまとめたものである。あくまで、一般論としての障がい特性を前提として考えられているため、実際に適合するかどうかは、実践で検証する必要がある。従って、この活用表においては、実践検証の過程を得ることで柔軟に更新され、より実践に応じた活用になっていくことを述べておく。活用表をデータベース化し、キーワード検索でその障がいの特性にあった学習アプリ名が表示されるようにした。これにより、現場でどのアプリを使ったら良いかの指針が示された。
【第4章 研究のまとめ】
この学習アプリ活用データベースが、多くの現場で実践的に検証され更新されていくことにより、タブレット端末の個人の学習としてのアプリの利用が活性していくことが考えられる。今まで教材提示の自助具や遠隔での授業などでの活用が多かったタブレット端末が、個人のニーズに合わせた学習アプリの活用へと転身していき、子どもたちの学びを身近なものとして活用促進されていくことが期待される。現場で求められている「こんな特性のある子には、こんなアプリがおすすめ」という一つの指針は示す事ができた。
【文献】
・文部科学省「GIGAスクール構想に関する各種調査の結果 令和3年8月」
・新潟市障がい福祉課 「障がい特性について」
・九都県市首脳会議首都圏連合協議会 障害者への合理的配慮を示すマークの検討会
「障がい特性に応じた対応について」
・石飛穂乃香 ・ 岡田信吾(2021)『就実教育実践研究』第14巻 抜刷
就実教育実践研究センター 2021年 3 月31日 発行
「特別支援学校におけるICT機器の活用状況」
・平成29年3月 岩手県立総合教育センター
「特別支援教育におけるタブレットPCを 活用した効果的な教育実践に関する研究」
山内 一真
最大握力の向上が巧緻性に与える影響 −知的障害児の運動に対する基礎的研究−
/Users/yamauchi6313/Desktop/大教大/ゼミ/修了論文/抄録/218027・山内 一真・抄録.doc
白井海渡
有酸素運動が発語機能へもたらす影響
特別支援教育特別専攻科 218018 白井 海渡
指導教員 大内田 裕
背景
発達障害の⼦どもたちが抱える問題の⼀つに,⾔語発達の遅れが挙げられる。⾔語能⼒は,コミュニケーション能⼒を育成する上で重要なものであり,他者との社会的関係を形成する上で必要である。なので,言語能力の向上に関するアプローチの検証は重要であると考えられる。
有酸素運動は、今までに認知機能の改善,または低下を予防する効果があり,認知症のリスクを低下させる可能性があることが数多く報告されており,発語機能の運動的側面と認知的側面に向上効果をもたらすと考えられる。
これらの背景を受け、武(2021年)は,有酸素運動と発語機能に関連があることを提唱するための知⾒を得ることを目的とし、有酸素運動前後で言語テストを実施した。その結果、発語機能の運動的側面と認知的側面に向上効果を与えることが分かった。しかし,運動的側面については有酸素運動による運動負荷との大きさに有意な正の相関が見られたが、認知的側面に有意な相関は確認できなかった。また,研究限界として,検証方法として設定した有酸素運動の負荷量が実験協力者によって様々で異なってしまっと述べており,運動負荷の設定における課題を残している。
⽬的
以上の背景から,本研究では,有酸素運動と発語機能の関連性を明らかにすることを⽬的とし,有酸素運動前後で,運動的側⾯を測定する⾔語課題,認知的側⾯を測定するための⾔語課題を⾏うことで,有酸素運動が運動的側⾯と認知的側⾯に影響を及ぼすのかを検証する。さらに、運動負荷の違いによって、有酸素運動による発語機能への影響に差があるか検証する。そして,これらの結果から,有酸素運動が具体的に発語機能の運動的側⾯に影響を及ぼし,さらに認知的側⾯にも影響を及ぼすことに関係性があるのかを検証する。
⽅法
⼤阪教育⼤学に在籍する学⽣10 名を対象に検証を行った。実験は,1回目の言語課題,有酸素運動,休憩,2回目の言語課題,アンケートで構成し,計約80 分の内容で行った。
有酸素運動では,時速8 km/hの速度で20分間のランニングを行った。さらに,心拍数とSPO2測定のため,運動開始から休憩終了までパルスオキシメータを装着し計測した。
言語課題は,発語機能の運動的側面を検証するために早口言葉課題を,認知的側面を検証するために文字流暢性課題および単語流暢性課題を設定した。
結果
有酸素運動により運動負荷をかけることができたか確かめるため,心拍数およびSPO2について運動前と運動中における平均値で統計分析をしたところ,有酸素運動前と運動中の平均⼼拍数に有意差が⾒られた。このことより,今回の有酸素運動の運動負荷によって心拍数とSPO2が変動し,さらに,有酸素運動により発語能力の運動的側面と認知的側面が上がったと考える。
次に,有酸素運動が発語機能に与える効果を明らかにするために,各言語課題における有酸素運動前後の成績数について統計分析をしたところ,全ての課題において有意差が見られた。このことより,今回の有酸素運動により,発語機能の運動的側面と認知的側面に向上効果があったと考えられる。
次に,各言語課題の成績増加量、有酸素運動中の平均⼼拍数および平均SPO2ついて無相関検定を⾏い,有酸素運動による運動負荷が,⾔語課題の成績に関連があるのかを明らかにした。要因として、各言語課題の成績増加量、有酸素運動中の平均⼼拍数および平均SPO2を使⽤した結果,運動中心拍数については、文字流暢性課題の成績増加量に有意な負の相関が,単語流暢性課題の成績増加量に有意な正の相関が見られた。運動中SPO2 については、早口言葉課題の成績増加量に有意な負の相関が,文字流暢性課題と単語流暢性課題に有意な負の相関が見られた。このことより,発語機能の運動的側面については、有酸素運動による運動強度が高いほど向上効果が高い可能性が考えられる。一方で,発語機能の認知的側面においては,運動強度の高さと向上効果が比例的な関係ではないこと可能性が考えられる。
次に、運動強度の違いによる有酸素運動の影響を調べるため,感じた運動強度に分け,相関を調べた。感じた運動負荷が低い者たちを対象に同様の検定をした結果,運動中心拍数については、単語流暢性課題に有意な正の相関が見られた。運動中平均SPO2については,全ての言語課題において有意な正の相関が見られた。
次に、感じた運動負荷が低くなかった者たちを対象に同様の検定をした結果,運動中心拍数については,早口言葉課題では有意な正の相関が見られ,文字流暢性課題に有意な負の相関が見られた。運動中平均SPO2 については、早口言葉課題に有意な負の相関が見られ,単語流暢性課題に有意な正の相関が見られた。
これらの結果より、各言語課題と運動強度の高低によって、有酸素運動による効果が異なる可能性が考えられる。発語能力の運動的側面では、有酸素運動による運動強度が高いほど能力が向上しやすくなる可能性が考えられる。一方,認知的側面については,有酸素運動による向上効果はあるものの,運動強度が強いと向上効果が薄くなる可能性が考えられる。
引用文献
・武晴菜(2021) 有酸素運動が発語機能に与える影響
卒業論文(学部)
2025年度
平田 萌
有酸素運動が文章理解と注意力に与える影響
肢体不自由教育コース 222134 平田 萌
指導教員 大内田 裕
1. 背景
近年、有酸素運動が認知機能に及ぼす影響について多くの研究が行われており、運動によって注意機能や実行機能が一時的に向上する可能性が示唆されている。しかし、これまでの研究は単語記憶や反応時間など比較的単純な課題を用いたものが多く、文章理解のように複数の認知過程を必要とする課題への影響は十分に検討されていない。文章理解には語彙処理に加えて、文脈統合、論理整合性判断、注意の持続、ワーキングメモリによる情報保持と統合などが関与する。また、文章理解において論理的整合性が重要であり、論理性の崩れた文書の理解や記憶は非常に困難である。そこで本研究では、一過性の有酸素運動が文章理解および注意を要する課題遂行に及ぼす影響について、文章の整合性の有無という観点から検討した。
2. 目的
本研究の目的は、一過性の有酸素運動が文章理解および注意を要する課題成績に及ぼす影響を明らかにすることである。さらに、文章の整合性の有無によって運動効果が異なるかを探索的に検討した。
3. 方法
対象者は大阪教育大学に在籍する学生14名(平均年齢21.67歳と男性2名女性12名)であった。実験は、運動前に血圧と心拍数を測定し、その後文章理解課題に取り組ませた。次に15分間の有酸素運動を実施し、運動後に再度血圧と心拍数を測定した。5分間の休憩後、運動前と同程度の難易度の文章理解課題を再度実施した。
文章理解課題は180〜250字程度の文章を用い、整合性のある文章と整合性のない2種類の文章をとした。課題では文章を黙読した後、内容に関する設問に回答させた。また注意機能の指標として、文章中に3〜5か所の誤字を含め、被験者には気づいた誤字箇所に印をつけるよう求めた。回答時間は課題開始から終了までをストップウォッチで計測した。
統計解析はJASPを用い、運動前後の比較には対応のあるt検定を実施した(有意水準5%)。加えて、正答数などの離散値データについては正規性が担保されない可能性を考慮し、Wilcoxon符号付順位検定を用いて検討した。さらに、運動による各指標の変化量(運動後−運動前)についてPearsonの積率相関係数を算出し、変化量間の関連を検討した。
4. 結果
生理的指標では、心拍数は運動前(77.64 ± 9.02 bpm)と比較して運動後(85.93 ± 11.65 bpm)に有意に上昇した(t(13) = −5.162, p < .001)。一方、収縮期血圧は運動前(109.14 ± 14.59 mmHg)と運動後(111.71 ± 20.40 mmHg)の間で有意差は認められなかった(t(13) = −0.944, p = .363)。拡張期血圧についても運動前(72.07 ± 8.08 mmHg)と運動後(71.14 ± 11.48 mmHg)の間に有意差は認められなかった(t(13) = 0.401, p = .695)。
課題成績では、整合性問題の正答数が運動後(3.79 ± 0.43)に運動前(2.86 ± 0.77)より有意に増加した(t(13) = −5.643, p < .001)。誤字検出数も運動後(13.00 ± 1.62)が運動前(9.86 ± 2.96)より有意に増加した(t(13) = −4.810, p < .001)。また、回答時間は運動後(191.57 ± 47.23 秒)が運動前(246.43 ± 63.86 秒)より有意に短縮した(t(13) = 5.292, p < .001)。
整合性の有無による正答数の変化について、運動効果を変化量(運動後−運動前)として算出し、整合性あり/整合性なし条件間で比較した結果、有意差は認められなかった(W = 20.000, p = .790)。一方、運動前後の比較では整合性あり条件および整合性なし条件の両条件において、運動後に正答数が有意に増加した(整合性あり:W < 0.001, p = .020;整合性なし:W < 0.001, p = .011)。
相関分析では、収縮期血圧差と誤字検出数差の間に有意な正の相関が認められた(r = 0.627, p = .029)。一方、心拍数差、問題正答数差、回答時間差と他の変数との間には有意な相関は認められなかった。
5.考察
本研究の目的は、一過性の有酸素運動が文章理解および注意を要する課題成績に及ぼす影響を明らかにすることであり、さらに文章の整合性の有無によって運動効果が異なるかを探索的に検討した。その結果、有酸素運動後には文章理解課題の正答数および誤字検出数が増加し、回答時間が短縮したことから、一過性の有酸素運動は文章理解および注意機能を一時的に促進する可能性が示唆された。
特に誤字検出数の増加は、運動後に文章中の細部へ注意を向ける力が高まり、注意の持続や選択的注意が促進された可能性を示している。また、回答時間の短縮は注意配分が効率化し、情報処理速度が一時的に向上したことを反映していると考えられる。これらの結果は、一過性運動によって生理的覚醒が高まり、注意機能を中心とした認知処理が一時的に促進された可能性を示す。
一方で、整合性の有無による運動効果の差は明確に示されなかったことから、運動効果は文章の整合性に依存するというよりも、文章理解課題に共通する注意機能全体の向上として現れた可能性がある。
本研究の限界として、対象者数が14名と少数であること、運動前後で類似課題を2回実施したことによる学習効果の影響、得点範囲が小さい場合の天井効果、個人差による運動強度のばらつきなどが挙げられる。今後は統制条件の設定、測定方法の改善、対象の拡張を含めた検討が必要である。
6.結論
一過性の有酸素運動後には心拍数が上昇し、文章理解課題の正答数および誤字検出数が増加し、回答時間が短縮した。以上より、一過性の有酸素運動は文章理解および注意を要する課題遂行を促進する可能性が示された。教育現場においては、学習前に短時間の有酸素運動を導入することが、注意の向上や学習効率の改善に寄与する可能性がある。
平田萌
有酸素運動が文章理解と注意力に与える影響
肢体不自由教育コース 222134 平田 萌
指導教員 大内田 裕
1. 背景
近年、有酸素運動が認知機能に及ぼす影響について多くの研究が行われており、運動によって注意機能や実行機能が一時的に向上する可能性が示唆されている。しかし、従来の研究は単語記憶や反応時間など比較的単純な課題を用いたものが多く、文章理解のように複数の認知過程を必要とする課題への影響は十分に検討されていない。文章理解には語彙処理に加え、文脈統合、論理的整合性判断、注意の持続、ワーキングメモリによる情報保持と統合などが関与する。特に論理的整合性は文章理解において重要であり、整合性の崩れた文章では理解が困難になる。そこで本研究では、一過性の有酸素運動が文章理解および注意を要する課題遂行に及ぼす影響について、文章の整合性の有無という観点から検討した。
2. 目的
本研究の目的は、一過性の有酸素運動が文章理解および注意を要する課題成績に及ぼす影響を明らかにすることである。さらに、文章の整合性の有無によって運動効果が異なるかを探索的に検討した。
3. 方法
対象者は大学生14名であった。実験では、運動前に血圧および心拍数を測定した後、文章理解課題を実施した。その後15分間の有酸素運動を行い、運動後に再度血圧と心拍数を測定し、5分間の休憩後に運動前と同程度の難易度の文章理解課題を実施した。
文章理解課題には180〜250字程度の整合性のある文章と整合性のない文章を用い、内容理解に関する設問への回答を求めた。また注意機能の指標として文章中に誤字を含め、誤字検出数を記録した。回答時間は課題開始から終了までを計測した。統計解析には対応のあるt検定およびWilcoxon符号付順位検定を用い、有意水準は5%とした。
4. 結果
生理的指標では、心拍数は運動後に有意に上昇したが、血圧には有意な変化は認められなかった。課題成績では、文章理解課題の正答数および誤字検出数が運動後に有意に増加し、回答時間は有意に短縮した。
整合性の有無による正答数の変化量を比較した結果、有意差は認められなかった。一方、運動前後の比較では、整合性の有無にかかわらず両条件で運動後に正答数が有意に増加した。また、収縮期血圧の変化量と誤字検出数の変化量との間には正の相関が認められた。
5.考察
研究の目的は、一過性の有酸素運動が文章理解および注意を要する課題成績に及ぼす影響を明らかにすることであり、さらに文章の整合性の有無によって運動効果が異なるかを探索的に検討した。その結果、有酸素運動後には文章理解課題の正答数および誤字検出数が増加し、回答時間が短縮したことから、一過性の有酸素運動は文章理解および注意機能を一時的に促進する可能性が示唆された。特に誤字検出数の増加は、文章中の細部に注意を向ける力や注意の持続が高まった可能性を示している。また回答時間の短縮は、注意配分や情報処理効率が一時的に向上したことを反映していると考えられる。
一方、整合性の有無による運動効果の差は明確に示されなかったことから、運動効果は文章の論理構造よりも、文章理解課題に共通する注意機能の向上として現れた可能性がある。本研究の限界として、対象者数が少ないことや学習効果、個人差の影響が挙げられる。
6.結論
一過性の有酸素運動後には心拍数が上昇し、文章理解課題の正答数および誤字検出数が増加し、回答時間が短縮した。以上より、一過性の有酸素運動は文章理解および注意を要する課題遂行を促進する可能性が示された。教育現場においては、学習前に短時間の有酸素運動を導入することが、注意の向上や学習効率の改善に寄与する可能性がある。
平石嵐士
有酸素運動が認知的抑制機能に及ぼす影響
肢体不自由教育コース 222133 平石 嵐士
指導教員 大内田 裕
【第 1 章背景】
球技スポーツや教育場面においては,刻々と変化する状況の中で適切な判断を行い,必
要に応じて行動を制御する能力が求められる。こうした判断行動の基盤には,抑制機能や
注意機能といった実行機能が関与している。近年,有酸素運動が認知機能を一時的に向上
させる可能性が示されているが,その効果が抑制機能に特異的であるのか,あるいはより
全般的な認知機能に及ぶものであるのかについては十分に明らかにされていない。そこで
本研究では,有酸素運動が認知機能に及ぼす影響について,サイモン課題を用いて検討す
ることを目的とした。
【第 2 章 実験方法】
参加者は大学生 20 名であった。実験課題にはサイモン課題を用い,一致条件および不一
致条件における反応時間を測定した。実験は運動前測定と運動後測定の 2 段階で実施し,
有酸素運動としてトレッドミルによる 15 分間のランニングを課した。運動前後には反応時
間に加えて,心拍数および血圧を測定し,生理的変化との関連についても検討した。
【第 3 章 結果】
分析の結果,一致条件および不一致条件のいずれにおいても,運動後に反応時間が有意
に短縮することが示された。二要因反復測定分散分析の結果,運動前後の主効果は有意で
あったが,一致性との交互作用は認められなかった。また,運動後において一致条件と不
一致条件の反応時間には有意な差が確認された。さらに,運動後最高血圧と反応時間の変
化量との間に有意な正の相関が認められた。
【第 4 章 考察】
本研究の結果から,有酸素運動は抑制機能に特異的な効果を及ぼしたというよりも,一
致条件・不一致条件の両方に促進効果をもたらす,全般的な注意機能あるいは覚醒水準の
向上として作用した可能性が示唆された。これは,有酸素運動によって覚醒水準が高まり,
刺激処理や反応選択といった基礎的な認知過程が全体的に促進されたためであると考えら
れる。また,血圧変化との関連が認められたことから,運動に対する生理的反応の個人差
が認知機能変化に影響を及ぼしている可能性が示された。以上より,有酸素運動は抑制機
能そのものの改善よりも,より包括的な認知的準備状態を高める働きを有していると考え
られる。
【第 5 章 総合考察・結論】
本研究では,有酸素運動が認知機能に及ぼす影響について,サイモン課題を用いて検討
を行った。その結果,運動後には一致条件および不一致条件の双方において反応時間の短
縮が認められた一方で,抑制機能の向上を示す明確な交互作用は確認されなかった。
このことから,本研究で観察された有酸素運動の効果は,抑制機能に特異的な改善ではな
く,注意機能や覚醒水準といった全般的な認知機能の促進によるものである可能性が高い
と考えられる。
また,運動後血圧と反応時間変化量との関連が認められたことから,運動に伴う生理的
反応の大きさが認知パフォーマンスの変化に影響を与えることが示唆された。これらの結
果は,有酸素運動が認知機能に及ぼす影響を理解する上で,抑制機能のみに焦点を当てる
のではなく,覚醒や注意といった基盤的機能を含めて捉える必要性を示している。
以上より,有酸素運動は抑制機能そのものの改善に限定されるものではなく,より広範
な認知的準備状態を高める働きを有していると結論づけられる。本研究の知見は,スポー
ツ場面や教育現場において,運動を活用した認知機能支援を検討するための基礎的資料となることが期待される。
越智奎太
有酸素運動が顔と名前の記憶と倒立顔効果に及ぼす影響
顔認知は、一般物体の視覚認知とは異なる特異的な処理過程を有することが知られてい
る。とりわけ、顔を正立で提示した場合には顔全体の配置関係(例:目・鼻・口の相対的
位置)に基づく処理が優位になりやすい一方、倒立するとこの配置情報の利用が困難にな
り、成績が低下する倒立顔効果が生じる。すなわち、正立顔と倒立顔では、同じ刺激であ
っても認知処理の様式が異なり、倒立条件は相対的に処理負荷が高い状態を作り出す操作
とみなせる。
近年、一過性の有酸素運動が注意や記憶などの認知機能を一時的に向上させる可能性が
示唆されている。これらの効果は、注意資源の配分効率の改善や覚醒度の上昇を介して生
じると考えられており、処理負荷の高い課題ほど影響が顕在化する可能性がある。しかし、
有酸素運動が顔と名前の記憶に及ぼす影響、ならびに倒立顔効果が運動によって変化する
かについては十分に検討されていない。そこで本研究では、正立顔および倒立顔を用いた
顔—名前記憶課題を運動前後に実施し、正答率と反応時間の変化を比較することで、有酸
素運動が顔認知の処理様式に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。
【第 2 章 実験】
被験者は大学生 20 名であった。実験課題には、男女各 5 名の顔写真を用い、顔刺激の
下に 3 つの名前選択肢を提示する顔‐名前記憶課題を用いた。顔刺激は正位置条件と逆位
置条件の 2 種類を設定した。被験者は有酸素運動前後の 2 回、同一形式の課題を実施した。
有酸素運動にはトレッドミルを用い、15 分間の走行を行わせた。測定指標として、正答率
および正答時の反応時間を記録した。
【第 3 章 結果】
有酸素運動前後における生理指標(心拍数および血圧)について分析を行った結果、い
ずれの指標においても運動前後で有意な差は認められなかった。
正答率については、運動前後および顔の向きの主効果が有意であり、運動後には全体と
して成績が向上し、正立顔は倒立顔よりも高い正答率を示した。一方、両要因の交互作用
は認められず、運動による正答率の向上は顔の向きに依存しなかった。
反応時間については、運動前後および顔の向きの主効果に加え、両要因の交互作用が認
められた。運動後には反応時間が短縮し、特に逆位置条件において改善が大きく、運動前
にみられた倒立顔効果は運動後に減弱した。
【第 4 章 考察】
本研究の結果、生理指標に有意な変化は認められなかったものの、正答率および反応時
間において課題成績の向上が確認された。このことから、有酸素運動は心拍数や血圧とい
った自律神経系指標の持続的変化を伴わずとも、認知課題の遂行に促進的な影響を及ぼす
可能性が示唆された。特に反応時間の短縮が認められたことから、運動による覚醒水準や
注意機能の一時的な向上が、認知処理の効率化に寄与したと考えられる。また、逆位置条
件において改善が相対的に大きかったことは、処理負荷の高い条件ほど運動の効果が顕在
化する可能性を示している。一方で、倒立顔効果自体は維持されており、有酸素運動によ
って顔認知に特有の処理様式が大きく変化することはないと考えられる。
【第 5 章 まとめ】
本研究では、有酸素運動が顔と名前の記憶および倒立顔効果に及ぼす影響について検討
した。その結果、課題成績の向上は認められたものの、正答率においては運動前後と顔の
向きの交互作用が認められず、この向上は練習効果による可能性が示唆された。一方、反
応時間においては運動後に短縮がみられ、特に逆位置条件においてその改善が顕著であっ
た。このことから、有酸素運動は正確性よりも処理速度に影響を及ぼし、全体処理よりも
部分処理が優位となる倒立顔条件において、部分認知に関わる処理機能を一時的に促進し
た可能性が考えられる。以上より、有酸素運動の効果は限定的ではあるが、顔認知におけ
る処理様式の一側面に選択的に作用する可能性が示された。
川口実乃里
有酸素運動の介入による計算力の向上-精算と概算による比較-
学年が上がるにつれて、計算に苦手意識を持つ児童が増加する傾向にある。計算は単一の認知能力ではなく、数量、言語、実行機能、空間認知といった複数の機能が連携することによって、実行される多面的なプロセスである。計算には、大きく分けて「精算」と「概算」の2種類に分けることができる。「精算」とは、定められた計算手続きに従って精密な計算を行い、正確な解を求める処理を指す。「概算」とは「桁数の多い数の計算や複雑な計算をするとき、概数を使って結果の近似値を求めること」と定義されている。計算が苦手な第一の要因として、数処理と数概念への理解不足が挙げられる。第二の要因として、「数量処理」の困難さが挙げられる。近年、有酸素運動が脳の様々な機能に対して向上させることが知られている。先行研究(安藤 2022)では、有酸素運動の介入が計算能力、特に乗法計算などの「精算」能力の向上に寄与することが示唆されている。しかし、実際の学習場面や日常生活において求められる計算能力には、正確な数値を算出する精算だけでなく、数の大きさを把握し比較判断する「概算」の能力も極めて重要である。したがって、本研究では、計算課題を「精算」と「概算(比較課題)」の2種類に分けて実施し、15分間の有酸素運動の介入がそれぞれのパフォーマンス(得点および処理速度)にどのような影響を及ぼすかを比較・検討することを目的とする。
【第2章 実験方法】
本実験は、大阪教育大学に在籍する学生20名(男性7名、女性13名)を対象に行った。安静状態で血圧および握力の測定を行った後、1回目の計算課題(精算および概算)を実施し、それぞれの所要時間を測定した。その後、15分間の有酸素運動を行った。運動終了直後に再度血圧測定を行い、1回目と同様の条件で2回目の計算課題を実施した。評価指標として、各課題(110問)をすべて解き終わるまでの「総解答時間」を計測した。また、ここから1問あたりの平均処理速度(総解答時間 ÷ 110問)を算出した。有酸素運動には、トレッドミル(HORIZON FITNESS TEMPO T82)を使用した。強度は時速6km(軽いランニング程度)に設定し、運動時間は15分間とした。
【第3章 実験結果】
有酸素運動前後の生理的指標の変化(脈拍・血圧の変化量)、計算パフォーマンス(得点・処理速度の変化量)の変化を分析するためにt検定を行ったところ、有酸素運動前後の生理的指標の変化(脈拍・血圧の変化量)、計算パフォーマンス(得点・処理速度の変化量)に有意な差が認められた。血圧・有酸素運動による生理的活性化(脈拍・血圧の変化量)が、計算パフォーマンスの向上(得点・処理速度の変化量)とどのように関連しているかを検証するため、相関分析を行った。精算課題においては、脈拍差、最高血圧差、最低血圧差のいずれの生理的指標についても、得点差や処理速度差との間に有意な相関は認められなかった。概算課題においては、一部の指標間で有意な相関が認められた。
【第4章 考察】
本研究では、小学校の休憩時間を想定した15分間の有酸素運動が、計算能力(精算および概算)に与える影響を検証した。結果として、運動後には概算は「正答率の上昇」「総解答時間の短縮」「1問あたりの回答時間の短縮」が見られたが、精算では見られなかった。精算課題に関しては、本研究の対象である大学生にとって、一桁の四則演算を中心とする精算課題は、すでに高度に学習され、処理が自動化された課題であると考えられる。また、運動前の時点で極めて高い正答率を示していることから、天井効果により運動による上積み効果が検出されにくかったことも要因として考えられる。一方、概算(比較判断)課題においては、生理的指標の変化量が大きい被験者ほど、処理速度の短縮幅が大きいという正の相関が確認された。本研究で用いた概算課題は、「2つの数式の計算結果を一時的に保持」し、それらを「比較・照合」するというプロセスを含んでいる。これは、情報の保持と処理を同時に行うワーキングメモリの中央実行系(Central Executive)に対し、単純な計算よりも高い認知負荷を課すものである。先行研究(Bae, 2016等)において、有酸素運動は覚醒レベルを高め、利用可能な認知リソースを増大させることで、特に高次な認知機能を要する課題の成績を向上させることが報告されている。本研究の結果はこれと合致しており、運動による身体的・生理的な活性化が、ワーキングメモリへの負荷が高い概算課題に対して、必要な認知リソースを供給し、その処理効率を直接的に高めたものと解釈できる。
金城真琴
有酸素運動が巧緻運動制御に及ぼす影響-力発揮および脱力反応時間を指標として-
― 力発揮および脱力反応時間を指標として ―
【第1章 研究の背景と目的】
発達・知的障害児においては、認知機能の障害に加え、書字や道具操作、衣服の着脱な
ど、日常生活や学習活動に直結する巧緻運動の不器用さが広く認められている。DSM-5-TRで
は、これらの運動の困難さを発達性協調運動障害(Developmental Coordination Disorder:
DCD)として位置づけており、学齢期児童の約5〜8%が該当するとされている。しかし、DCD
は学習障害や自閉スペクトラム症などと比較して教育現場での認知度が低く、適切な支援を
受けられないまま学齢期を過ごす児童も少なくない。先行研究では、DCD児は自己概念の低下
や友人関係の困難さ、さらには抑うつ傾向や成人期におけるQOLの低下とも関連することが報
告されており、運動の不器用さへの早期理解と支援の重要性が指摘されている。
一方、有酸素運動は脳血流量の増加や脳由来神経栄養因子(BDNF)の分泌促進を通じて、
中枢神経系の機能を一時的に高めることが報告されている。有酸素運動が認知機能や全身運
動能力に及ぼす影響については多くの研究が存在するものの、手指の巧緻運動制御、とりわ
け力発揮および脱力反応といった精緻な運動制御過程に焦点を当てた研究は十分に行われて
いない。そこで本研究では、巧緻運動における制御特性を力発揮および脱力反応に要する時
間という観点から捉え、有酸素運動の実施前後でどのような変化が生じるのかを検討した。
【第2章 実験方法】
本研究の対象は、大阪教育大学に在籍する健康な成人22名であり、安静時と有酸素運動後
の2条件で測定を行った。測定課題は、握力センサーを用いた握動作および指先動作であり、
被験者にはできる限り速く握る・離す動作を一定時間反復させた。有酸素運動としては、15
分間の中等度のランニングを実施し、運動後に5分間の休憩を設けた上で再測定を行った。取
得した力の時系列データから、反応回数、力の大きさ、力の変動幅、反応時間、力発揮およ
び脱力速度を算出し、運動前後で比較した。
【第3章 結果】
その結果、握動作および指先動作のいずれにおいても、有酸素運動後に反応回数の有意な
増加と反応時間の短縮が認められた。一方で、力発揮速度(力の変化量)には有意な変化は見
られなかった。握動作では、最大発揮力および力の変動幅が有意に低下したのに対し、指先
動作では力の大きさに有意な変化は認められなかった。さらに、力と速度・回数の関係を分
析した結果、握動作では力を抑えることで回数や速度を高める力–速度トレードオフが多くの
被験者で確認された。
【第4章 考察】
本研究では、有酸素運動が巧緻運動制御に及ぼす影響について、握動作および指先動作を
対象に検討した。その結果、両課題に共通して有酸素運動後に握る・離す速度の上昇と収縮
回数の増加が認められ、中枢神経系の活動水準が一時的に高まった可能性が示唆された。一
方で、握る・つまむの運動に違いがみられた。
握動作では、有酸素運動後に力の振幅が低下し、収縮相および弛緩相の時間が短縮してい
たが、力発揮速度自体には変化がなかった。これは、力を速く出す能力が向上したのではな
く、1回あたりの力発揮量を抑えることで動作テンポを高める戦略へと制御様式が変化したこ
とを示している。このような調整には、皮質‐大脳基底核回路を中心とした運動抑制機構が
関与している可能性があり、不要な力発揮を抑制しつつ効率的な運動を選択する適応的制御
が働いたと考えられる。
一方、指先動作では、力の最大値に変化は見られなかったものの、動作回数および速度が
向上していた。この結果は、力と速度のトレードオフでは説明できず、有酸素運動による中
枢神経系の情報処理速度や運動出力調整能力の向上を反映している可能性がある。
以上より、有酸素運動は巧緻運動の遂行様式を課題特性に応じて変化させ、握動作では力を
抑制する戦略的調整を、指先動作では中枢性処理の高速化をもたらしたと考えられる。本研
究の結果は、巧緻運動の向上を筋力強化ではなく、中枢神経系による運動制御の最適化とし
て捉える重要性を示しており、教育場面や発達・知的障害児への支援において、有酸素運動
を準備活動として活用する可能性を示唆するものである。
2024年度
神辺芙由花
短時間の有酸素運動が記憶に与える影響
知的障害教育コース 212112 神辺 芙由花
指導教員 大内田 裕
【第1章 背景・目的】
学習において記憶は重要な要素であるが、その記憶力を向上させる方法の一つとして、有酸素運動が挙げられる。発達障害のある子どもには、ワーキングメモリを含む記憶の障害が見られることが多い。また、ASDの人に対する支援方法として、情報を視覚的に提示する支援方法の有効性は多くの研究で指摘されている。短時間の有酸素運動が子どもの学力向上において有効であるかの検証をすることで、実際の教育現場でワーキングメモリの低い人たちなどに対する支援やアプローチの幅を広げられると考えられる。
本研究では、トランポリンを跳ぶという有酸素運動が、文字の情報、聴覚情報、絵と文字の複合情報による記憶にどのような影響を与えるのかを検証する。
【第2章 実験方法】
実験の同意が得られた大学生20人を被験者とし、有酸素運動前後における、ひらがな・カタカナ合わせて14単語の正答数の変化から、記憶力が向上するのか検証した。被験者は、短時間の有酸素運動として、トランポリンを5分間跳び、運動前後で、ひらがな・カタカナの14単語を記憶する課題を3問行った。記憶課題は、文字のみを提示する「見る条件」と、読み上げられた単語を聞く「聞く条件」、文字と文字の意味に即した絵が同時に表示される「絵の条件」の3種類を用意した。
【第3章 結果】
運動前後の平均正答率の変化を見てみると、見る条件・聞く条件・絵の条件すべて運動後の平均正答率が増加し、絵の条件・見る条件・聞く条件の順に有意な差を認めた。
見る条件では、運動前後で親近部分の単語の正答率は増加していたが、系列位置効果は見られなかった。聞く条件では、運動前後で、中間部分と親近部分の単語の正答率が増加し、親近性効果が見られるようになった。絵の条件では、運動前後で親近部分の単語の正答率が増加したが、系列位置効果は見られなかった。
運動後心拍数が増加すると運動後の聞く条件の中間部分が増加することが分かった。
【第4章 考察】
各条件において運動前に比べて運動後の方が平均正答率は増加していた。ただし、被験者各個人における運動前後の正答数の変化を見てみると、条件ごとに減少した被験者もいることから、変化には個人差があることが分かった。また、すべての課題条件において、有酸素運動によって単語の記憶能力の単語の記憶能力が向上したことが明らかとなった。
見ると絵においては、運動前も運動後も系列位置効果は見られなかったが、聞く条件においてのみ、運動によって統計的に有意な親近性効果が見られるようになった。つまり、短期記憶の成績に影響があったと考えられる。聴覚条件でのみ親近性効果が観察されたことは、有酸素運動が聴覚的記憶処理に特異的な影響を及ぼす可能性を示唆している。これは、運動による海馬の活性化が、聴覚情報の処理経路に優先的に作用した可能性が考えられる。
運動後の聞く条件の中間部分に増加が見られた。単語の一覧の中間部分は、初頭部分と親近部分に比べて干渉を受けやすく、記憶されにくいということが先行研究によって明らかとなっているが、今回の実験によって、聞く条件においては有酸素運動によって干渉されやすい中間部分の正答数が上がることも明らかとなった。また、各条件において、系列位置による正答数の差が少なくなる傾向が見られたため、有酸素運動が特に中間部の記憶成績を向上させる効果があったと考えられる。これは、運動による海馬の活性化が、短期記憶から長期記憶への転送プロセスを促進し、より効率的な情報の符号化と保持を可能にした可能性がある。
心拍の運動前後差が増加すると聞く条件の運動前後差が増加した。このことから、有酸素運動の効果が大きく表れるほど、聴覚情報の単語の記憶能力が向上したことが分かる。
心拍の運動前後差が増加すると絵の条件での運動前後差が増加する傾向にあった。これも同様に、有酸素運動の効果が大きく表れるほど、絵と同時に提示されたときの単語の記憶能力が向上したことが分かる。
礒江さゆり
有酸素運動が視空間性ワーキングメモリに及ぼす影響
わたしたちは、日常生活においてさまざまな情報を記憶・処理しながら行動している。この機能と密接に関わっているのがワーキングメモリである。ワーキングメモリの機能が低い場合、計算や音読、板書など学習場面での困難が生じるだけでなく、物を無くす、忘れ物をするなど日常生活の中でも困難が生じる可能性がある。
ワーキングメモリは、情報を一時的に保持する役割のみを担う短期記憶とは異なり、記憶の保持に加えて情報の処理を行うことが特徴である。また、有酸素運動には海馬の血流増加や脳由来神経栄養因子(BDNF)の発現促進によって、認知機能を改善する効果があることが示唆されている。
本研究では、有酸素運動が短期記憶およびワーキングメモリに与える影響を明らかにすることを目的とした。
【第2章 方法】
対象者は大阪教育大学に所属する学生20名(男性8名、女性12名)である。対象者の個人情報の取扱いには十分配慮した。
実験では、トランポリン運動前後でトレイルメイキングテストのスコアを測定し、分析を行った。トレイルメイキングテストでは数字を順に選択するPart Aと数字とひらがなを交互に選択するPart Bを実施し、それぞれの所要時間を短期記憶およびワーキングメモリのスコアとした。また、運動負荷量を評価するため、運動前後に心拍数および血圧を測定した。
トランポリン運動は、メトロノームを用いてBPM80のリズムに合わせて飛ぶように指示した。なお、トランポリンの跳躍の高さは被験者の判断に委ねた。
【第3章 結果】
運動前後で心拍数や血圧の測定項目において、有意な差が認められたことから、十分な運動負荷に達していたことが確認された。一方で、短期記憶およびワーキングメモリのスコアにおいては有意な差は認められなかった。そこで運動強度(心拍数、血圧)と短期記憶およびワーキングメモリのスコアとの間の相関関係を調べた。その結果、運動前後の心拍数の変化量とPart Aのスコアに負の相関関係(-0.373)が見られた。また、運動前後の血圧(拡張期)の変化量と運動後のPart Bのスコアに正の相関関係(0.434)、運動前後の血圧(収縮期)の変化量と運動前後のPart Bのスコア差に負の相関関係(-0.392)が見られた。
【第4章 考察】
本研究では、「有酸素運動によってワーキングメモリは向上するのかという問いに基づき、5分間のトランポリン運動を実施し、その効果を検討した。運動によって、心拍数や血圧は有意に増加したが、短期記憶およびワーキングメモリのスコアでは有意差が求められなかった。一方、運動前後の心拍数の変化量とPart Aのスコアには負の相関が認められ、適度な運動が短期記憶を向上させる可能性か示唆された。しかし、運動前後の血圧の変化量とPart Bのスコアには正の相関があり、過度な運動負荷がワーキングメモリに負の影響を及ぼす可能性が示された。これらの結果は、認知機能の種類によって最適な運動強度が異なることを示唆している。
本研究では、運動強度の統制や回復時間が不十分であった点、被験者の個人差が不足していた点などの限界がある。今後は運動強度を一定に保つ装置の使用や、個別に調整した回復時間の設定、長期的な運動習慣の影響の検討が求められる。これらの改善により、有酸素運動と認知機能の関係がさらに明らかとなり、教育現場で活用できる運動プログラムの開発が期待される。
武内舜也
休憩が筋力トレーニングに与える影響
病弱教育コース 212125 武内 舜也
指導教員 大内田 裕
【第1章 はじめに】
筋力トレーニング(以下筋トレ)は、筋力向上、筋肥大、基礎代謝の増加、生活習慣の予防など、多くの利点があることから、近年健康維持や競技パフォーマンス向上のために広く実施されている。筋トレの効果を最大限に引き出すためには、休憩時間の適切な設定が重要な要因となる。本研究では、筋トレ中の休憩時間を二つの条件に分類し、休憩が筋トレのパフォーマンスと回復に与える影響を明らかにすることを目的とする。
【第2章 理論的背景と関連研究】
休憩が筋トレに与える影響を「筋トレの生理学的効果」「休憩の役割」「精神的側面」「個人差」の4つの観点から検討した。1点目の「筋トレの生理学的効果」では、主に筋力や筋肥大の向上、基礎代謝の向上による体脂肪の減少や生活習慣病の予防が挙げられるが、これらは個人差により効果が異なる。2点目の「休憩の役割」では、短時間の休憩(30秒~1分)は筋肉が疲労した状態での適応能力を高め、筋持久力の向上につながる。一方、長時間の休憩(1分半~3分)は筋力の回復と筋肥大を促進する効果がある。3つ目の「精神的側面」では、自己効力感や自尊心が高まり、自信とストレス耐性の向上、さらに認知機能の向上につながる。4つ目の「個人差」では、遺伝的要因、性別、年齢、トレーニング経験などが影響する。そのため、トレーニングプログラムは個々の特性や目標に応じて柔軟に設計する必要がある。
【第3章 方法】
実験は21~22歳の健康な男子大学生11名を対象に実施した。被験者には2つの異なる休憩条件でトレーニングを行ってもらった。1つ目は「Interval条件」で、各セット間に30秒~1分の短時間休憩を設定し、2つ目は「Once条件」で、セット間にまとめて1分半~3分の長時間休憩を設定した。これにより、休憩時間の違いが筋力トレーニングに与える影響を比較検討することが可能となった。
【第4章 結果】
筋力トレーニング前後の握力の変化を分析した結果、Interval条件(短時間休憩)では握力の低下が緩やかであったのに対し、Once条件(長時間休憩)では急激な低下が観察された。具体的な数値を見ると、減少率はOnce条件の方が顕著に大きかったものの、最終的な回復率については両条件間で有意な差は認められなかった。
さらに詳細な分析により、Once条件においては握力が強い被験者ほど減少率が低く抑えられる傾向が明らかになった。また、両条件共通の特徴として、握力が強い被験者ほど回復率が高いという相関関係が確認された。これらの結果をより包括的に理解するため、被験者を「筋力トレーニング経験」「握力強度」「体重」の3つの要因でグループ分けし、各グループにおける減少率と回復率の傾向について多角的な分析を実施した。
【第5章 考察】
本研究の結果から、以下の2点が明らかになった。Interval条件では負荷が段階的に与えられることで筋肉への負担が分散され、筋力の低下が抑制される。一方、Once条件では短期間での筋力強化が可能である。これらの知見から、筋力が比較的弱い人にはInterval条件が適しており、負荷を分散することで早期の回復と筋持久力の向上が期待できる。対して、筋力が強い人にはOnce条件が効果的で、筋肥大や急速な筋力向上に適している。つまり、個々の筋力レベルに応じたトレーニング方法の選択が重要である。なお、近年注目を集めているHIIT(高強度インターバルトレーニング)は、本研究のInterval条件とは異なり、短いインターバル時間で常時負荷がかかる状態を維持するため、Once条件に近い特徴を持つ。
本研究の限界として、被験者が男性に限定され、サンプルサイズが小さく、また右手のみの測定であったことから、結果に偏りが生じた可能性がある。今後は性別や年齢などの個人差を考慮した、より包括的な検証が必要である。
これらの知見は教育現場での応用が期待できる。子どもたちの筋力や健康状態に応じて負荷を適切に調整することで、より効果的な筋力トレーニングが実現可能となる。 例えば、知的障害のある子どもたちには負荷を分散させることで過度の疲労を防ぎながら持続的な筋力強化を図り、ある程度筋力が向上した子どもたちにはOnce条件を活用して、さらなる筋力向上を目指すことができる。
亀田紀々子
有酸素運動が食欲に与える影響
特別支援教育専攻 212109 亀田 紀々子
指導教員 大内田裕
【第1章 はじめに】
有酸素運動前後の食欲の変化を検証することで、食べ物の好き嫌い、食生活、発達障害児
の偏食の改善につながる可能性を考えた。例えば、運動前は脂っこいものを食べたいと思
っていても、運動後は異なる食べ物を欲するような変化が見られることがある。このよう
な運動前後での食欲の変化から、有酸素運動が食欲に影響を与えると考えた。
有酸素運動には、心肺機能の向上、カロリー消費の増加、基礎代謝の向上、ストレス軽減
などの効果がある。適切な負荷での有酸素運動は、健康的な体づくりにつながる。食欲に
は視覚触発性、味覚誘発性、嗅覚誘発性があり、食材の色や食べ物から受ける刺激、それ
らの脳への伝達が影響を及ぼす。また、好き嫌いには環境要因や過去の経験が関係し、生
理的な要因で好き嫌いが生じることもある。一般的に人は旨味や甘味を好み、苦味や特定
の食感を避ける傾向がある。これらの要素を考慮しながら、有酸素運動と食欲の関連性を
検討する。
【第2章 研究目的】
運動前後の食欲の変化を調べることにより、偏食や食の好き嫌い、健康的な生活習慣の
改善につながる可能性があると考えられる。しかしながら、有酸素運動が食欲にどのよう
に影響するかは、まだ十分に解明されていない。そこで本研究では、有酸素運動が食欲に
もたらす変化を検証することを目的とする。
【第3章 研究方法】
本実験では、ランニングマシンを用いて有酸素運動を実施する。まず、有酸素運動前の
心拍数と血圧を測定する。次に、食べ物の写真30枚(好きな食べ物3枚、嫌いな食べ物3
枚を含む)を被験者に提示し、各写真に対する食欲度を1から5の尺度で評価してもらう。
その後、ランニングマシンに慣れるため、時速6キロで3分間のウォーミングアップを行
い、続いて本運動として男性は時速13キロ、女性は時速10キロで10分間走行する。運
動後、運動前と同様の測定と評価を実施する。
【第4章 結果】
有酸素運動前後の食欲の変化を分析した結果、運動後に全体的な食欲の低下が観察され
た。特に、運動直後30分以内において顕著な食欲抑制効果が確認され、この傾向は被験者
の性別や年齢に関わらず一貫して見られた。また、食品のカテゴリー別での比較において
も、全般的な食欲度の評価が運動前と比較して有意に低下していることが明らかとなった。
【第5章 考察】
今回の研究により、有酸素運動が食欲調節メカニズムに影響を与える可能性が示唆され
た。栄養素別の分析では、タンパク質、脂質、炭水化物の3つのカテゴリー間で顕著な変
化は観察されなかったものの、食事形態(内食・外食)や食事回数(1日1-2食・3-4食)
による違いが明確に現れた。特に、普段から規則正しい食生活を送っている被験者群では、
運動後の食欲抑制効果がより顕著に表れる傾向が見られた。
また、運動強度と食欲抑制効果の関係性も観察され、中強度(最大心拍数の60-70%)の
運動で最も効果的な食欲調節が確認された。これは、運動による血中グレリン濃度の変化
や、交感神経系の活性化が関与している可能性を示唆している。さらに、運動習慣のある
被験者とない被験者では、食欲抑制効果の持続時間に差が見られ、定期的な運動習慣が食
欲調節機能の向上に寄与する可能性が考えられる。
今後の研究課題としては、実際の食事摂取量の測定や、長期的な運動介入による食欲調
節メカニズムの変化を検証することが望まれる。また、異なる運動強度や運動時間が食欲
に与える影響についても、より詳細な調査が必要である。これらの知見は、効果的な食事
管理プログラムの開発や、健康的な生活習慣の確立に貢献することが期待される。
八木 勇龍
企業における障がい者雇用の実態と課題についての考察
特別支援教育専攻 212147 八木 勇龍
指導教員 大内田 裕
【第1章 本研究の背景と目的】
近年、障がい者雇用は日本において一定の進展を見せているものの、依然として多くの課題が残されている。障害者雇用促進法の施行や法定雇用率の導入により、障がい者の雇用が増加し、企業の理解も広がりつつある。しかし、雇用の質、特に障がい種別に応じた配慮や職場環境の整備は依然として不十分であり、障がい者が長期的に活躍できる環境作りにはさらなる努力が必要とされている。また、障がい者雇用に関する支援は法的には整備されているが、企業側の障害者雇用に対する認識や実際の配慮措置については、まだ改善の余地が多く残っている。本研究の目的は、企業における障がい者雇用の課題を、先行研究から明らかにし、さらに、課題の解決策を検討することにより、理想の雇用状態を増やすためにはどうすれば良いかを検討した。
【第2章 方法】
CiNiiで「障害者雇用」と検索をかけた結果、5293件、「障がい者雇用」は、335件、「障害者雇用、障がい者雇用」は31件。結果、重複しているものを省いた障害者雇用に関しての論文の件数は、5597件である。「障害者雇用 課題」では、421件。「障がい者雇用 課題」では、23件。「障害者雇用 障がい者雇用 課題」では、3件。重複しているものを省くと、計441件である。「障害者雇用 課題 企業」では93件、「障がい者雇用 課題 企業」では0件。であるため、企業における障害者雇用の課題に関しては93件の論文が見られた。障がい者雇用の課題は、前述した先行研究より、⑴企業の障がいについての知識、合理的配慮提供に対する障害者および受入れ企業の理解不足、⑵実際の業務の選定、コスト面での不安について、⑶採用時や採用後の対応についての課題と解決策について検討した。
【第3章 結果】
これらの課題を解決することによって、企業における障害者雇用の課題は解決に向かうことが示唆された。企業が直面している主要な課題として、障害者に対する知識や認識の不足、合理的配慮を提供するための理解不足、適切な業務選定が難しいこと、さらにはコスト面での不安が挙げられることが分かった。特に、企業はコスト面での不安を解消するために、助成金制度を活用することが有効であり、特に小規模企業にとっては障害者雇用を実現するための強力なサポートとなる可能性が高いことが示唆された。また、職場環境の整備も最優先事項として浮き彫りになり、ユニバーサルデザインを目指すのではなく、障がい者が快適に働けるように適切な環境を整備することが重要であるという点が明確になった。これらの課題を克服することが、企業における障害者雇用の促進に繋がり、最終的には日本社会における労働力不足を解消する手助けとなる可能性があると示唆された。
【第4章 考察】
障害者雇用において、課題を解決することは非常に重要であるが、それだけでは理想的な雇用状態を実現することは難しいと考えられる。理想的な雇用状態を作り上げるためには、課題の解決に加え、新たなビジネスモデルの構築が不可欠である。現在の制度では、企業は障害者雇用を社会的責任として捉えがちだが、障害者雇用が企業にとって「手間とコストがかかる」という認識ではなく、「企業に利益をもたらす雇用」であるという新しい視点が必要である。例えば、農園型雇用やBPO事業など、新しいビジネスモデルを活用することで、企業は障害者雇用を戦略的に導入することができると同時に、障がい者にとっても充実した仕事の機会を提供することが可能となる。これにより、障がい者が自身の能力を最大限に発揮できる環境が整い、企業もその多様な才能を活かすことで生産性向上やイノベーションを促進することができる。結果として、企業は法定雇用率を達成し、CSR活動を進めるだけでなく、障害者雇用が実際に企業の成長と利益に繋がる要素であることが明らかになる。理想的な雇用状態を実現するためには、課題解決だけでなく、企業の経営戦略として障害者雇用を再構築し、企業と障がい者の双方にとってメリットが生まれるような新しいビジネスモデルを積極的に取り入れることが必要で思われる。
川端柊子
有酸素運動が空間記憶に与える影響
本研究は、発達障害と認知機能の関係を検討し、有酸素運動が認知機能の向上に与える影響を実証することを目的とする。
空間記憶とは、目的のものを探したり目的地へ向かったりする能力であり、海馬が重要な役割を担う。特に「場所細胞(place cells)」が空間の認知地図を形成し、道順の記憶を支援する。ワーキングメモリは、情報を一時的に保持しながら処理する能動的な記憶システムであり、単なる短期記憶とは異なる。Baddely(2012)のワーキングメモリモデルでは、音韻ループ、視空間スケッチパッド、エピソードバッファの3つのサブシステムが協調して機能する。発達障害は、DSM-5の診断分類に基づき、自閉スペクトラム症(ASD)や学習障害(LD)などが含まれ、その認知機能の特性として空間記憶やワーキングメモリに困難を示すことがある。
発達障害児の増加に伴い、教育現場では認知機能の特性に配慮した支援が求められている。ワーキングメモリの向上には、神経衰弱のような記憶ゲームが効果的とされている。本研究では、有酸素運動が空間記憶とワーキングメモリに与える影響を検証し、発達障害児の認知機能支援に貢献することを目指す。
【第2章 方法】
本研究では、有酸素運動介入がワーキングメモリに与える影響を神経衰弱を用いて検証することを目的とした。運動には中強度の運動負荷が得られるトレッドミルを使用した。
先行研究では、高強度運動後には疲労により認知機能が低下する一方、中強度運動後は認知機能が向上することが報告されている。これを踏まえ、15分間の有酸素運動を実施した。
全被験者は同一のトレッドミルを使用し、時速9kmに設定してランニングを行った。ワー
キングメモリの測定には、1~10までの数字が書かれたトランプ 40 枚を使用した神経衰弱を採用した。測定は運動前に2回、運動後30分の休憩を挟んで1回、さらに30分の休憩後に1回の計4回実施した。また、運動負荷量を評価するため、運動前、運動直後、運動終了 30 分後の計 3回、上腕式血圧計(オムロン社製 HEW-7511T)を用いて心拍数と血圧を測定した。
【第3章 結果】
運動前後の手数の変化を分析したところ、運動前と比較して運動後の平均手数は減少傾向を示し、安静時と運動後の間に有意差が認められた。
運動前後の解答時間を比較すると、運動後に統計的に有意な時間短縮が確認された。また、数字エラー数については、運動後に平均エラー数の有意な増加が観察された。
座標の分析では、特に左中央での重複エラーが減少傾向を示した。2 枚目にめくったトランプの重複エラー(過去にめくったカードとの重複)について、被験者 15人の平均を比較すると、運動前は27/40、運動直後は 18/40、運動30分後は 12/40であった。この運動前後での平均重複エラー数の減少は統計的に有意であった。
【第4章 考察】
本研究は、有酸素運動がワーキングメモリと空間記憶に与える影響を検証することを目的とし、神経衰弱課題を通じて被験者の認知機能の変化を分析した。実験結果から、有酸素運動後には神経衰弱の手数が減少し、トランプの数字および位置の記憶精度が向上することが確認された。さらに、1 枚目のカードと数値が近いトランプを選択する頻度が増加し、記憶活用能力の向上が示唆された。
また、同一座標のトランプを繰り返しめくる回数が減少し、特に左中央領域でこの傾向が顕著であった。このことから、有酸素運動が特定の空間領域における記憶機能に影響を及ぼす可能性が示された。本研究により、神経衰弱における成績向上がワーキングメモリの強化と関連し、空間記憶の向上にも寄与することが明らかとなった。
これらの知見から、有酸素運動によるワーキングメモリの活性化が認知機能全般の向上につながる可能性が示唆された。今後は、個人差要因および長期的効果についての詳細な検討が必要である。
2023年度
西岡明日香
短時間の有酸素運動が有意味語・無意味語の記憶に与える影響
学校教育教員養成課程 特別支援教育専攻
発達障害教育コース 202130 照井 芙空
知的障害教育コース 202135 西岡明日香
【第1章 背景・目的】
学習は記憶の連続だが、その記憶力を向上させる方法として、有酸素運動がある。本研究においては、短時間の有酸素運動が、有意味語、無意味語の記憶にどのような影響を与えるのかをそれぞれ検証することとした。有酸素運動の介入による、有意味語、無意味語の記憶の変化や、記憶の順序効果である系列位置効果の変化を示すことができれば、本児童生徒の学力の向上を図るためのアプローチを検討する際の一助となると考えた。上記のことから、本研究においては、短期間の有酸素運動が、有意味語、無意味語の記憶にどのような影響をあたるのかを検証することを目的とする。
【第2章 有意味語の実験・結果・考察】
〈実験〉 実験の同意が得られた大学生13名を被験者とし、有酸素運動前後における、同一カテゴリ語3文字のひらがな、カタカナ、それぞれ10語の有意味語の正答数の変化から、記憶力が向上するのかを検証した。被験者は、短時間の有酸素運動として、室内で5分間縄跳びを実施し、運動前後で、画面に3秒間隔で提示される、ひらがなカタカナそれぞれ10語の有意味語を記憶する課題を行った。
〈結果〉 ひらがなの有意味語においては、運動前後で、記憶した10単語のうち4番目から7番目までの中間部分と8単語目から10単語目までの親近部分の正答数が増加した。運動前では親近効果が見られ、運動後では系列位置効果が見られた。カタカナの有意味語においては、運動前後で正答数は減少した。運動前後共に、中間部の成績が低下する系列位置効果が見られた。
〈考察〉 ひらがなの有意味語においては、有酸素運動によって、中間部分、親近部分の成績が、10単語の1単語目から3単語目までの初頭部分と同等程度まで上がったため、中間部で成績が低かするという系列位置効果が小さくなる傾向にあった。カタカナの有意味語においては、運動前後共に系列位置効果が見られた。被験者によっては、提示した有意味語が、初めて見た単語であったため無意味語となっていた可能性があり、無意味語を記憶する場合には、系列一効果が顕著に見られることが推察できる。
【第3章 無意味語の実験・結果・考察】
〈実験〉 実験の同意が得られた大学生14名を被験者とし、有酸素運動前後での、ひらがな、カタカナ、それぞれ10語の無意味語の正答数の変化から、記憶力が向上するのかを検証した。被験者は、短時間の有酸素運動として、室内で5分間縄跳びを実施し、運動前後で、画面に3秒間隔で提示される、ひらがなカタカナそれぞれ10語の無意味語を記憶し記述する課題を行った。
〈結果〉 ひらがなの無意味語においては、運動前後で、初頭部分と親近部分の正答数が増加した。運動前後共に、系列位置効果は見られなかった。カタカナの無意味語においては、運動前後で、親近部分の正答数が増加した。運動前には、系列位置効果は見られなかったが、運動後では、親近性効果が見られた。
〈考察〉 ひらがなの無意味語においては、有酸素運動によって、有意な効果は見られなかった一方、カタカナの無意味語においては有酸素運動によって親近性効果に有意な効果を与えた。有酸素運動には記憶の役割を担う海馬を活性化させる効果を持つため、有酸素運動が親近性効果を向上させたことから、有酸素運動がワーキングメモリ機能を向上させたと推察できる。以上より、無意味語の記憶では有酸素運動を行うことでワーキングメモリ機能向上に効果を与えると推察できる。
【第4章 総合考察】
有意味語の実験においては、ひらがなにおいて、運動前後で、特に中間部分と親近部分の正答数が増加し、運動前では親近効果が、運動後では中間部分と親近部分の正答数が増加したため、初頭部分との正答数の差が縮まり、系列位置効果は見られにくくなった。カタカナにおいては、運動前後で正答数は減少し、運動前後共に、系列位置効果が見られた。カタカナの有意味語が被験者によっては無意味語となっていた可能性が高い。有意味語では、運動後に系列位置効果のうち、中間部分と親近部分において記憶力の向上が見られた。有意味語、つまり我々にとって既知の情報を記憶することに関しては、系列位置効果は見られにくいと考えられる。一方で、運動後に記憶力の向上が見られることから有酸素運動によって、有意味語記憶においては、系列位置効果の中間部分の成績低下を防ぐ効果があると推察される。以上より、有意味語では、有酸素運動は特に中間部分と親近部分に有意な影響を与えると言える。
無意味語の実験においては、ひらがなでは、運動後に初頭部と親近部で正答数が増加したが、運動前後で系列位置効果は見られなかった。カタカナでは、運動前には系列位置効果は見られなかったが、運動前後において親近部の正答数のみ増加し、親近性効果が見られた。無意味語では、カタカナのみ親近性効果の向上が見られた。ひらがなや漢字で表しやすい単語を有意味語とするならば、カタカナで表記される外来語などは無意味語と捉えることができると考える。無意味語あるいは生まれて始めて知った言葉は情報として記銘されるのに、ひらがなで表現しやすい既知である有意味語よりも記憶負荷がかかる。以上より、記憶負荷がかかる条件下では、有酸素運動は親近性効果に対し有意な効果を与えると言える。
本研究を通して、有酸素運動は有意味語・無意味語の記憶に、有意な影響を与えることが明らかになった。有酸素運動による海馬活性を通して記憶の向上が見られた結果であるということが考えられる。
照井芙空
短時間の有酸素運動が有意味語・無意味語の記憶に与える影響
学校教育教員養成課程 特別支援教育専攻
発達障害教育コース 202130 照井 芙空
知的障害教育コース 202135 西岡明日香
【第1章 背景・目的】
学習は記憶の連続だが、その記憶力を向上させる方法として、有酸素運動がある。本研究においては、短時間の有酸素運動が、有意味語、無意味語の記憶にどのような影響を与えるのかをそれぞれ検証することとした。有酸素運動の介入による、有意味語、無意味語の記憶の変化や、記憶の順序効果である系列位置効果の変化を示すことができれば、本児童生徒の学力の向上を図るためのアプローチを検討する際の一助となると考えた。上記のことから、本研究においては、短期間の有酸素運動が、有意味語、無意味語の記憶にどのような影響をあたるのかを検証することを目的とする。
【第2章 有意味語の実験・結果・考察】
〈実験〉 実験の同意が得られた大学生13名を被験者とし、有酸素運動前後における、同一カテゴリ語3文字のひらがな、カタカナ、それぞれ10語の有意味語の正答数の変化から、記憶力が向上するのかを検証した。被験者は、短時間の有酸素運動として、室内で5分間縄跳びを実施し、運動前後で、画面に3秒間隔で提示される、ひらがなカタカナそれぞれ10語の有意味語を記憶する課題を行った。
〈結果〉 ひらがなの有意味語においては、運動前後で、記憶した10単語のうち4番目から7番目までの中間部分と8単語目から10単語目までの親近部分の正答数が増加した。運動前では親近効果が見られ、運動後では系列位置効果が見られた。カタカナの有意味語においては、運動前後で正答数は減少した。運動前後共に、中間部の成績が低下する系列位置効果が見られた。
〈考察〉 ひらがなの有意味語においては、有酸素運動によって、中間部分、親近部分の成績が、10単語の1単語目から3単語目までの初頭部分と同等程度まで上がったため、中間部で成績が低かするという系列位置効果が小さくなる傾向にあった。カタカナの有意味語においては、運動前後共に系列位置効果が見られた。被験者によっては、提示した有意味語が、初めて見た単語であったため無意味語となっていた可能性があり、無意味語を記憶する場合には、系列一効果が顕著に見られることが推察できる。
【第3章 無意味語の実験・結果・考察】
〈実験〉 実験の同意が得られた大学生14名を被験者とし、有酸素運動前後での、ひらがな、カタカナ、それぞれ10語の無意味語の正答数の変化から、記憶力が向上するのかを検証した。被験者は、短時間の有酸素運動として、室内で5分間縄跳びを実施し、運動前後で、画面に3秒間隔で提示される、ひらがなカタカナそれぞれ10語の無意味語を記憶し記述する課題を行った。
〈結果〉 ひらがなの無意味語においては、運動前後で、初頭部分と親近部分の正答数が増加した。運動前後共に、系列位置効果は見られなかった。カタカナの無意味語においては、運動前後で、親近部分の正答数が増加した。運動前には、系列位置効果は見られなかったが、運動後では、親近性効果が見られた。
〈考察〉 ひらがなの無意味語においては、有酸素運動によって、有意な効果は見られなかった一方、カタカナの無意味語においては有酸素運動によって親近性効果に有意な効果を与えた。有酸素運動には記憶の役割を担う海馬を活性化させる効果を持つため、有酸素運動が親近性効果を向上させたことから、有酸素運動がワーキングメモリ機能を向上させたと推察できる。以上より、無意味語の記憶では有酸素運動を行うことでワーキングメモリ機能向上に効果を与えると推察できる。
【第4章 総合考察】
有意味語の実験においては、ひらがなにおいて、運動前後で、特に中間部分と親近部分の正答数が増加し、運動前では親近効果が、運動後では中間部分と親近部分の正答数が増加したため、初頭部分との正答数の差が縮まり、系列位置効果は見られにくくなった。カタカナにおいては、運動前後で正答数は減少し、運動前後共に、系列位置効果が見られた。カタカナの有意味語が被験者によっては無意味語となっていた可能性が高い。有意味語では、運動後に系列位置効果のうち、中間部分と親近部分において記憶力の向上が見られた。有意味語、つまり我々にとって既知の情報を記憶することに関しては、系列位置効果は見られにくいと考えられる。一方で、運動後に記憶力の向上が見られることから有酸素運動によって、有意味語記憶においては、系列位置効果の中間部分の成績低下を防ぐ効果があると推察される。以上より、有意味語では、有酸素運動は特に中間部分と親近部分に有意な影響を与えると言える。
無意味語の実験においては、ひらがなでは、運動後に初頭部と親近部で正答数が増加したが、運動前後で系列位置効果は見られなかった。カタカナでは、運動前には系列位置効果は見られなかったが、運動前後において親近部の正答数のみ増加し、親近性効果が見られた。無意味語では、カタカナのみ親近性効果の向上が見られた。ひらがなや漢字で表しやすい単語を有意味語とするならば、カタカナで表記される外来語などは無意味語と捉えることができると考える。無意味語あるいは生まれて始めて知った言葉は情報として記銘されるのに、ひらがなで表現しやすい既知である有意味語よりも記憶負荷がかかる。以上より、記憶負荷がかかる条件下では、有酸素運動は親近性効果に対し有意な効果を与えると言える。
本研究を通して、有酸素運動は有意味語・無意味語の記憶に、有意な影響を与えることが明らかになった。有酸素運動による海馬活性を通して記憶の向上が見られた結果であるということが考えられる。
石津美祈
有酸素運動が顔と名前を結びつけて覚える力に与える影響
知的障害教育コース 202102 石津 美祈
指導教員 大内田 裕
【1.背景・目的】
人の顔や名前を覚えることは、社会生活において重要な機能であり、人間関係の構築や深化、コミュニケーションの円滑化、個人的な充実感と満足度の向上に寄与する。さらに、有酸素運動が認知機能向上に影響を与えるという知見を基に、人の顔と名前を覚えるという力についても有酸素運動の介入によって向上する可能性があると考え、本研究で実証することとした。有酸素運動の介入が顔と名前を結びつけて覚える力に影響を与えることを本実験によって示すことができれば、様々な場において応用的に活用していくことが可能であると考える。上記のことから、本研究は有酸素運動が人の顔と名前を結びつけて覚える力に影響を与えることを提唱するための知見を得ることを目的とする。
【2.実験】
実験の同意が得られた大学生12名を被験者として、有酸素運動前後での課題の正答数及び解答時間の変化から、記憶力が向上するのか検証した。課題の内容は、AIによって生成された架空の人物30名の顔と名前を覚え、テストを行うというものである。テストでは、名前から顔写真を選択する形式と顔写真から名前を選択する形式の2つを用意した。有酸素運動は室内でトレッドミルを使用し、時速5㎞で15分間のランニングを行った。
【3.結果】
心拍数の変化、血中酸素濃度の変化、課題における平均正答数の変化、平均解答時間の変化を運動前後において対応のあるt検定により比較を行ったところ、心拍数の変化、平均正答数の変化、平均解答時間の変化に統計的有意な差が認められた。また運動前後の心拍数の差と課題成績の関連性について調べた結果、心拍数の差が大きい人は運動前後での平均正答数が減少し、解答時間は大きく短縮した。一方、運動前後で心拍数の差が小さい人は運動前後での平均正答数が増加し、解答時間も短縮する結果となった。
【4.考察】
本研究では、運動前後で平均正答数が上昇し、平均解答時間が短縮されたことが結果として得られた。有酸素運動が課題成績の変化に影響を与えたのかという点については、有酸素運動を行う前後で被験者の平均心拍数の差に有意な差が認められたこと、また、前後の平均心拍数の差で被験者を2群に分け、それぞれ運動前後の課題成績との検定を行ったところ統計的有意な差が認められたことからも、有酸素運動が課題成績の変化に影響を与えた可能性が高いだろう。
次に、心拍数の差と課題成績の変化との関連性について、心拍数の差が大きい人は運動前後で記憶の正確性が低下し、反応時間に表れる記憶の確信度が大きく上昇した。一方で、心拍数の差が小さい人は運動前後で記憶の正確性が向上し記憶の確信度も上昇した。ただし、心拍数の差が大きい人の結果に関しては、速さと正確性のトレードオフが行われた可能性があり、解答時間の短縮が課題成績の向上と直結する難しさがある。一方で、心拍数の差が小さい人に関しては、正確性が担保された上で解答時間の短縮も見られ、課題成績の向上が確認された。このことから、同じ有酸素運動を行っている場合でも、普段からの運動経験等により身体的な影響を受けにくい人は有酸素運動の認知機能向上効果をより享受しやすい可能性が考えられる。
また、被験者の正答率の分析結果から、性別や年齢、髪型や表情などの要素は顔と名前の覚えやすさに大きな影響を与えておらず、課題形式(五十音順)が正答率に関係している可能性も低いと考えられる。正答率の高い人物に対する被験者の感想からは、名前や顔が有名人や知り合いに似ているなどの既存の情報との共通点が多く見られ、顔と名前の印象の合致も覚えやすさに影響している可能性が高いことが分かった。これらの結果から、覚えやすさには個人の印象や既存の情報との関連性も記憶に影響を与えていることが示唆された。
田畑杏佳
運動が注意量に与える影響
発達障害教育コース 202127 田畑 杏佳
肢体不自由教育コース 202140 藤井 志帆
指導教員 大内田 裕
【第 1 章 はじめに】
近年、学習障害(LD)、注意欠如・多動性障害(ADHD)、自閉症スペクトラム障害(ASD)
などの発達障害への関心が高まっている。その特性は様々だが、その 1 つに「不器用さ」
がある。不器用であるがために、運動そのもの以外にも問題を抱える場合、いわゆる二次
障害が起こる可能性がある。「自分はうまくできない」と思ってしまうことによる自尊心や
自己肯定感の低下も考えられる。二次障害を引き起こさないようにするために、「不器用さ」
に対しての理解をし、それを改善することができるようにアプローチしていくことが必要
になる。本研究においては、不器用さを改善するためのアプローチとして「運動」を設定
し、運動前後に身体特異性注意の量を計る課題を行うことでその効果を検証した。身体性
注意の量を計る課題は近い手効果を利用して作製した。
【第 2 章 実験1:有酸素運動】
実験1では、有酸素運動によって身体特異性注意の量が変化するのかを検証することを
目的として、トレッドミルを用い、時速5㎞で 15 分間の有酸素運動を行った。結果とし
て、有酸素運動による注意量の変化について、運動前後の反応時間の差と運動強度の間に
正の相関が見られた。手の位置ごとに結果を見たときに、手が刺激位置から遠いときは反
応時間が短くなった人が多かったが、運動強度とは相関が見られなかった。このことから、
手が刺激位置から遠いときに反応時間が短くなった要因として有酸素運動は大きく関わっ
ていないことがわかった。そして、手が刺激の表示位置に近いときは反応時間が速くなる
人も遅くなる人もいたが、運動強度との正の相関が見られ、運動強度が高い運動を行って
いた人ほど反応時間が短くなっていた。このように手と刺激の位置が近かったときに運動
強度との相関があったことによって、有酸素運動を行うことにより、自分の手またはその
周囲空間に対する注意量が増加することが明らかになった。
【第 3 章 実験2:レジスタンス運動】
実験2では、実験1の「有酸素運動は手またはその周囲空間に対する注意量が増加する」
という結果を受け、運動課題をレジスタンス運動に変えても結果が得られるのではないか
という仮説を立て、実験を行った。 結果として、レジスタンス運動前後での注意量にお
いて、有意な差は見られなかった。本実験では、レジスタンス運動として利き手に 18 ㎏の
ハンドグリップを、反対の手には 13 ㎏のハンドグリップをもち、両手同時に 1 分間に 60
回のペースで 3 分間の運動を行った。結果が出なかった原因として、このハンドグリップ
運動は手先のみを動かす運動であったため、心拍数もあまり変わらなかったことが考えら
れる。また、この課題に対して、実験者から「疲れた」という声や実験者の中には途中か
ら握るのが困難になる場面も見られた。このことから、運動による負荷が大きいため、疲
労が大きくなり、注意力が散漫になった可能性が考えられる。
【第 4 章 総合考察】
2 つの実験から、有酸素運動を行うことにより、自分の手またはその周囲空間に対する
注意量が変化することが明らかになった。今回の研究から、有酸素運動は、知的障害や発
達障害で見られる巧緻運動の苦手などの運動の不器用さの改善を生じさせる可能性がある
方法ということができるだろう。この研究を活用した取り組みとして考えられるのは、例
えば、特別支援学校で図画工作の授業などの巧緻運動を行う時間の前に体を動かす時間を
設け、子どもたちが体を動かし、そのあとに課題に取り組むといった取り組みがあげられ
る。今後の展望としては、運動は「不器用さ」を抱える児童生徒へのアプローチとして効
果があるのかを検証するために、特別支援学校等に在籍する児童生徒を対象とした実験を
行う必要がある。そのうえで、有酸素運動による効果を調べる実験においては、本研究に
おいて設定した課題からは自分の手またはその周囲空間に対する注意量が増加させるのに
十分なものであると言い切ることができなかったことから、有酸素運動の負荷を上げて行
った場合、被験者全体で効果を得られるようになるのかを検証する必要がある。また、本
研究で扱ったトレッドミル及び手先の運動以外の運動においても同様の結果が得られるか
を検証したい。さらに、本研究が男性や異なる年齢層でも同様の結果が得られるかを研究
課題として今後検討したい。
藤井志帆
運動が注意量に与える影響
肢体不自由教育コース 202140 藤井 志帆
発達障害教育コース 202127 田畑 杏佳
指導教員 大内田 裕
【第 1 章 はじめに】
近年、学習障害(LD)、注意欠如・多動性障害(ADHD)、自閉症スペクトラム障害(ASD)
などの発達障害への関心が高まっている。その特性は様々だが、その 1 つに「不器用さ」
がある。不器用であるがために、運動そのもの以外にも問題を抱える場合、いわゆる二次
障害が起こる可能性がある。「自分はうまくできない」と思ってしまうことによる自尊心や
自己肯定感の低下も考えられる。二次障害を引き起こさないようにするために、「不器用さ」
に対しての理解をし、それを改善することができるようにアプローチしていくことが必要
になる。本研究においては、不器用さを改善するためのアプローチとして「運動」を設定
し、運動前後に身体特異性注意の量を計る課題を行うことでその効果を検証した。身体性
注意の量を計る課題は近い手効果を利用して作製した。
【第 2 章 実験1:有酸素運動】
実験1では、有酸素運動によって身体特異性注意の量が変化するのかを検証することを
目的として、トレッドミルを用い、時速5㎞で 15 分間の有酸素運動を行った。結果とし
て、有酸素運動による注意量の変化について、運動前後の反応時間の差と運動強度の間に
正の相関が見られた。手の位置ごとに結果を見たときに、手が刺激位置から遠いときは反
応時間が短くなった人が多かったが、運動強度とは相関が見られなかった。このことから、
手が刺激位置から遠いときに反応時間が短くなった要因として有酸素運動は大きく関わっ
ていないことがわかった。そして、手が刺激の表示位置に近いときは反応時間が速くなる
人も遅くなる人もいたが、運動強度との正の相関が見られ、運動強度が高い運動を行って
いた人ほど反応時間が短くなっていた。このように手と刺激の位置が近かったときに運動
強度との相関があったことによって、有酸素運動を行うことにより、自分の手またはその
周囲空間に対する注意量が増加することが明らかになった。
【第 3 章 実験2:レジスタンス運動】
実験2では、実験1の「有酸素運動は手またはその周囲空間に対する注意量が増加する」
という結果を受け、運動課題をレジスタンス運動に変えても結果が得られるのではないか
という仮説を立て、実験を行った。 結果として、レジスタンス運動前後での注意量にお
いて、有意な差は見られなかった。本実験では、レジスタンス運動として利き手に 18 ㎏の
ハンドグリップを、反対の手には 13 ㎏のハンドグリップをもち、両手同時に 1 分間に 60
回のペースで 3 分間の運動を行った。結果が出なかった原因として、このハンドグリップ
運動は手先のみを動かす運動であったため、心拍数もあまり変わらなかったことが考えら
れる。また、この課題に対して、実験者から「疲れた」という声や実験者の中には途中か
ら握るのが困難になる場面も見られた。このことから、運動による負荷が大きいため、疲
労が大きくなり、注意力が散漫になった可能性が考えられる。
【第 4 章 総合考察】
2 つの実験から、有酸素運動を行うことにより、自分の手またはその周囲空間に対する
注意量が変化することが明らかになった。今回の研究から、有酸素運動は、知的障害や発
達障害で見られる巧緻運動の苦手などの運動の不器用さの改善を生じさせる可能性がある
方法ということができるだろう。この研究を活用した取り組みとして考えられるのは、例
えば、特別支援学校で図画工作の授業などの巧緻運動を行う時間の前に体を動かす時間を
設け、子どもたちが体を動かし、そのあとに課題に取り組むといった取り組みがあげられ
る。今後の展望としては、運動は「不器用さ」を抱える児童生徒へのアプローチとして効
果があるのかを検証するために、特別支援学校等に在籍する児童生徒を対象とした実験を
行う必要がある。そのうえで、有酸素運動による効果を調べる実験においては、本研究に
おいて設定した課題からは自分の手またはその周囲空間に対する注意量が増加させるのに
十分なものであると言い切ることができなかったことから、有酸素運動の負荷を上げて行
った場合、被験者全体で効果を得られるようになるのかを検証する必要がある。また、本
研究で扱ったトレッドミル及び手先の運動以外の運動においても同様の結果が得られるか
を検証したい。さらに、本研究が男性や異なる年齢層でも同様の結果が得られるかを研究
課題として今後検討したい。
児玉あいか
学習における独語の効果についての検討
我々は普段の生活の中で、何気なく行っている行動や作業中、考え事をしている時に独語を言っている時がある。学習中に独語を言うという人もいるだろうが、その目的や実際に得られる効果はどういったものなのだろうか。先行研究から、独語には自己調整や思考整理などの機能があるとされているが、人々がその機能を実感しているかは明らかにされていない。さらに、その機能をより確かなものにするためには実証的根拠が必要であるだろう。本研究では、アンケート調査及び計算課題を用いた実験から、独語が話される目的を明らかにし、学習における独語の効果について検討する。
【第2章 実験Ⅰ】
実験Ⅰでは、独語を話す目的や独語に対するイメージについて検討した。16歳~27歳の77名(記入漏れのため分析対象は70名)を対象に、Google Formを用いて独語に関するアンケート調査を行った。
その結果、主に、考え事をしている時や学習中に「思考を整理する」、確認作業をしている時に「ミスを防ぐ」、嬉しい時や悲しい時に「気持ちを落ち着かせる」といった目的から独語が話されていることが分かった。学習中に限定した独語については、内容理解、記憶の定着、情報の短期記憶、集中力の向上といった目的から話されていることが分かった。独語に対するイメージについては、独語は作業効率や集中力を高める効果があるというプラスのイメージを持ちつつも、独語は恥ずかしいと思っている人は半数近くいた。
【第3章 実験Ⅱ】
実験Ⅱでは、数字に関連する騒音が計算課題遂行に与える影響を明らかにした後、様々な音環境下での計算課題遂行における独語の効果について検討した。大学生17名を対象に、計算課題を用いた実験を行った。【無音・独語有り】【無音・独語無し】【騒音・独語有り】【騒音・独語無し】の4条件下での解答数と正答率を調査した。騒音条件では円周率を読み上げる音声を再生した。
その結果、騒音は計算課題の解答数・正答率を下げることが分かった。数字に関連する騒音は計算課題遂行への妨害効果があった。また、独語の有無による結果の差異を見ると、騒音下では独語有りの方が、独語無しに比べて正答率が上がっていた。無音下での独語の効果は見られず、騒音下においても回答数に関しては独語の効果を見出すことはできなかった。課題に関連する音環境下という限定された場面において、課題の正確性を担保する方法の一つとして独語があると考えられる。
【第4章 総合考察】
実験Ⅰ、実験Ⅱの結果から、人々は生活の中で、自然と独語の機能を見出し、それらの機能を活用する目的で独語を言っていることが示唆された。実験Ⅱの結果から、独語は計算速度を遅くする効果が認められた。実験Ⅰの結果から、独語を話すことに対して、「作業スピードを上げる」といった速度に関する目的を持っている人はおらず、「思考を整理する」「ミスを防ぐ」といった正確性に関する目的を持っている人が多く見られた。人々が持つ独語を話す目的は、それぞれが経験的に確信を得てきた独語の効果に基づくものなのだろう。
【第5章 おわりに】
学習場面において、周囲の騒音が学習の処理を妨げる影響がある場合には、独語はその騒音による影響に対抗して、正確性を担保する可能性がある。しかし、実験Ⅱの被験者が20代女性に限定されていたこと、実験中に発せられた独語は普段の独語とは完全に同一でないことから、今回の実験で明らかになったことが必ずしも全ての人に適用されるものではないと考えられる。このことを踏まえ、今後は子どもや高齢者、男性を対象にした調査を行っていきたい。また、独語がより自然に発せられる状況下での実験方法についても検討していく。
村上夏帆
難易度と集中力の関係を脳活動から検証
-適切な難易度の学習課題設定に向けて-
学校教育において、学習課題を設定する際に重要な要素の一つに難易度が挙げられる。過去の研究では課題が易しすぎず難しすぎない場合に課題努力が最も大きくなり、力の限界を超えない範囲で困難な目標であるほど、パフォーマンスは向上するとされている。そのため、子どもたちの学力を教員が理解し一人一人に適切な難易度の学習課題を提示することが、子どもたちが学習パフォーマンスを最大限発揮するにあたって重要であるだろう。特に、障がいのある子ども、外国にルーツのある子ども、不登校児童生徒など学校教育で求められる多様化したニーズに応えるために、子どもたち一人一人に合わせた学習設定はより重要になると考えられる。
そのため、本研究においては課題の集中力と難易度の二つに着目し、これら二つの指標が脳活動としてどのように定量化できるかを課題中の脳活動を計測することにより明らかにする。
【第2章 実験】
研究の目的や実験内容を口頭で説明し同意を得られた大阪教育大学に在籍する17名を被験者とした。『易しい』『普通』『難しい』の異なる難易度の計算課題をそれぞれ3回ずつ60秒間行った。計算課題の前には毎回30秒の休憩時間を設定した。実験中は、休憩中を含めHOT-2000(携帯型脳活動計測装置)を装着するよう被験者に指示を行った。この装置では前額部にセンサーを装着することにより左右の前頭葉前部領域の脳活動をリアルタイムに簡便に計測することができる。本研究ではこの装置を使用し計測した被験者のoxyHbとdeoxyHbの二つ脳血流量の指標を脳活動量として使用した。また、課題による脳血流量の変化値は、課題中の脳血流量から休憩中の脳血流量を引いた値をそれぞれの被験者の脳活動量とした。また、3回の課題における脳活動量の平均をその難易度における脳活動量とした。
【第3章 結果】
難易度が上がるにつれて正答数の全体平均は、50.03問、18.37問、2.05問と減少していった。右脳活動量及び左脳活動量の全体平均は、難易度が上がるにつれて上昇する傾向が見られた。
また、「ふたつの課題間での正答数の差によるグループ分け」「それぞれの課題における正答数によるグループ分け」「脳活動変化パターンによるグループ分け」を行いそれぞれの脳活動量の傾向をまとめた。
【第4章 考察】
本研究の結果、課題の難易度が上がるにつれて、被験者の脳血流量は右も左も増加していく傾向にあった。そのため、HOT-2000を使用して脳血流量を計測した領域は、脳血流量の増加が難易度の上昇に関連していることが考えられる。
また、集中力を反映する脳活動を調べるために、「脳活動変化パターンによるグループ分け」を行ったところ2名の特徴的な被験者がみられた。計測した領域の左の脳血流量が0.2以上と一定の活動量を認め、かつ左の脳血流量が山型(『普通』で最も脳活動量が多くなる)に変化しており、『難しい』で最も脳血流量が少なくなった。この特徴を持つ被験者は、計測した脳の領域の左側が集中力に関連していることが考えられる。
本研究では、多くの被験者で集中力を反映する脳活動を計測することはできなかった。計算課題の難易度には個人差があり、すべての被験者にとって3つの難易度が適切ではなかった可能性がある。また、HOT-2000で計測できるのは前頭前野前額部の限られた領域であり、必ずしもその領域に集中力に関連する機能が存在しているとは言えない。そのため、課題内容を検討し直しより精密な機器を用いて再度検証を行いたい。
学校教育において一人一人の学習進度に合わせた適切な難易度の学習課題設定は、集中力をはじめとする学習パフォーマンスを最大限発揮するために大変重要である。本研究では、これを裏付けるための脳活動を検証したがはっきりとしたデータを得ることはできなかった。ただし、易しすぎることもなく、難しすぎることもない学習課題が子どもたちの学習パフォーマンスを高めることはこれまでの研究でも明らかとなっている。自分自身も、子どもたちの学習課題を考える際には子どもたち一人一人の学習進度に合わせた難易度設定を心掛けたい。
2022年度
梶田岳斗
ゲーム・インターネット依存による主観的時間について
病弱教育コース 192109 梶田 岳斗
指導教員 大内田 裕
【背景・目的】
依存とは、特定の何かに心を奪われ、「やめたくても、やめられない」状態になることである定義されている。また、2019年に世界保健機関(WHO)が「疾病及び関連保健問題の国際統計分類(ICD)」の最新版で、インターネット依存の下位項目の一つである「ゲーム障害」が正式に認められた。しかしながら、個人のインターネット利用率(2019)は約9割となっており、私たちの生活においてインターネットはなくてはならない存在となっている。また、eスポーツの市場規模が拡大していることから、ゲームが世間から受け入れられ、娯楽としてより一般的になりつつある。これからもゲームやインターネットを利用する人が大きく減ると言ったことは想像できず、私たちはゲームやインターネットと上手に付き合っていくことが求められる。
近年ゲーム・インターネット依存の傾向が非常に高いと思われる人が多く、日常生活に悪影響を及ぼしていることが問題となっている。多くの人がインターネットやゲームをしていると、いつの間にか時間が大きく経っている経験があるだろう。つまり、楽しい時間はあっという間に過ぎるのに,退屈な時間はなかなか過ぎない。この状態はゲーム・インターネットに強く当てはまるだろう。しかしながら、インターネットやゲームは心の支えや生きがいとなっていることもあり、インターネットやゲームから隔離することで解決する問題ではないと考える。今回の研究ではゲーム・インターネット依存と時間感覚について調べることであり、依存への根本的な解決法を調べるものではなく、支援する際に実践的に使えるものではないかもしれない。しかし、インターネット依存・ゲーム依存の高い人について知ることで依存への間違った偏見や依存の恐ろしさを知ることができ、誰もが依存症になる可能性があるということを提示できると考える。
以上より、本研究の目的はゲーム・インターネット依存度による主観的時間の違いについて検証することとなる。仮説として、時間経過に対する注意の欠如により、ゲーム・インターネット依存度が高い人ほどゲーム中の時間を短く感じると考える。
【方法】
研究の目的や実験内容に同意を得られた20歳以上の大学生15名(男性6名、女性9名)を被験者とし、ゲーム時とアイマスク時の10分間の主観的時間を計測し、アンケートから算出されるゲーム・インターネット依存度との関連があるかどうかを検証した。実験の内容としては、初めにVRゲームの操作に慣れてもらい、その後VRゲームを10分間の主観的時間が経つまでプレイする。VRゲームをプレイした後には、休憩時間を設けた。休憩終了後、アイマスクを着用し、10分間の主観的時間が経つまで待つ。計測された主観的時間をゲーム・インターネット依存度やアンケート結果と照らし合わせ、関連性を見ることで、ゲーム・インターネット依存による影響を確かめた。
【結果】
ゲーム・インターネット依存度を計測するヤングテストの計20の質問項目から、被験者のゲーム・インターネット依存度の平均は49.5点であり、39点以下を非依存群、40点から59点を低依存群、60点以上を高依存群とし、3群に分類すると、非依存群が2人、低依存群10人、高依存群3人であった。また、ゲーム・インターネット使用時間とゲーム・インターネット依存度には正の相関が見られた。しかしながら、ゲーム時とアイマスク時の主観的時間とゲーム・インターネット依存との相関がなく、ゲーム・インターネット依存の低いグループと高いグループ2つに分けても統計的に有意な差が認められなかった。
【考察】
実験の結果として、主観的時間とゲーム・インターネット依存に関連が見られなかった。ゲーム・インターネット依存傾向と主観的時間に予想される関係が見られなかった理由として3点考えられる。3点とは、実験時間・実験回数、ゲーム・インターネット依存度の偏り、VRゲームの特殊性である。これらのことを踏まえると、時間を過度に意識させすぎず、普段のゲーム・インターネット利用する環境設定や幅広いゲーム・インターネット依存傾向の被験者を確保し複数回実験を行うことが必要と考えられる。
しかしながら、ゲーム・インターネット依存の低依存群は半年間のゲーム・インターネット利用時間に増加傾向があることや過度のゲーム・インターネット使用を自覚している人が多く、減らしたいと思っているが多いことが新たにわかった。本研究からゲーム・インターネット依存と主観的時間を主に見てきたが、ゲーム・インターネット依存の低依存群の結果より主観的時間以外にもゲーム・インターネット依存と時間について関連性があると考えられる。
【文献】
総務省.(日付不明).令和2年版 情報通信白書 インターネットの利用状況. 個人のインターネット利用率(2019)
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r02/html/nd252120.html
畑陽向
有酸素運動が音楽の印象に与える影響
運動前後に音楽聴取を行うことは人間の感情や精神状態にどのような影響を与えるのか。我々は常に、無意識的に音楽に触れる生活を送っており、その影響を受けている。本研究では数ある影響の中でも情動の部分に着目して検討することとした。
発達障害には自閉スペクトラム障害等、自身で情動調整することが難しいという特性を持つものがある。先行研究によると自閉症スペクトラム障害における情動調整は激しい問題行為と関連付けられており、それにより調整される情動は不安や怒りなどのネガティブなものだと述べられている。
これまで有酸素運動と認知機能の関係において、有酸素運動を行うことによって認知機能の向上や、一時的な気分に対するネガティブな気分の減少及びポジティブな気分の増減が起こると報告されている。さらに音楽聴取と認知機能の関係についても、メロディ、テンポに関わりなく、抑うつ不安的な気分が軽減され、非活動的な気分が増えるとされており、音楽聴取による、ストレス軽減と、リラクゼーション効果が認められたと先行研究で報告されている。有酸素運動や音楽聴取などが認知機能へ良い影響を与えるならば、特別支援学校での授業や発達障がい児への支援の手立てを考える際に応用していけるのではないだろうか。以上の事を踏まえて本研究では、4分間のトランポリン運動の介入が音楽聴取時の曲に対する印象に与える効果について検証する。このようにして、運動前後の評価の変化を見ることで有酸素運動が情動機能に与える影響について検証を行った。
第2章 方法
平均年齢22.1歳の男女約15名(男性4名、女性11名)を被験者として、有酸素運動の前後に音楽聴取を行うことで曲の印象へどのような影響があるのか検証した。実験内容は、1曲30秒ずつ曲が流れている間に、聴いている5曲に関してのGoogleフォームで作成したアンケートにより評価を行う。次に有酸素運動課題は大阪教育大学C棟プレイルームにてトランポリン(Samtoth)を使用し、メトロノームのテンポ100に合わせて、4分間有酸素運動を行った。最後に、運動前と同じ方法で音楽を聴取している間に、聴いている曲に関しての評価をおこなった。音楽は、BPM(Beats Per Minute)68、69、91.5、115.7、121と速いテンポから比較的ゆっくりとしたテンポの曲までまで5曲のクラシック音楽を選定した。
第3章 結果
実験の結果、はじめに運動前後において全5曲と全質問項目をまとめて評価値に変化が生じているかをt検定で検定を行ったところ、統計的有意な差は見られなかった。次に14質問項目をポジティブなものとネガティブな項目に分けて統計検定での比較を行った結果、ネガティブな質問項目では特に有意差は見られなかったがポジティブな質問項目では有意傾向がみられた。さらに全5曲をまとめて14質問項目ごとに運動前後の変化について検定を用いて比較したところ、有意差が見られた。最後に曲ごとの運動前後の変化について検定を用いて比較したところ、一曲目、二曲目、三曲目、五曲目においては質問項目によって有意差が見られたが、4曲目においては、有意差は見られなかった。
第4章 考察
本研究は有酸素運動が情動などの認知機能に与える影響について着目し、4分間のトランポリン運動を取り入れることで運動前後に行った音楽聴取にどのような心理的影響があるのかということについての検証を行う事を目的とした。その結果、曲ごとに有酸素運動の効果は異なっていた。このことは、曲の特性によって、有酸素運動の効果が異なることが示唆された。また、特に効果がみられた質問項目は、曲に対するポジティブな項目(楽しい、親近感を感じる、目がさえる,快適である)であった。先行研究から自己の心理状態により、快適な曲が影響を受けることが報告されている。そのため、運動後は心理状態が向上して,曲に対する印象が向上したと示唆される。
これらの結果より、曲に対する印象変化は自律神経の活動量を反映している可能性が考えられる。自律神経は、交感神経と副交感神経という逆の働きをする2つに分かれており、交感神経は身体を活発に動かすときに働き、副交感神経は身体を休めるときに働く。穏やかな曲調の音楽を聴取する事は副交感神経の活動を上げる働きがある(岩永ら2017)。また、自律神経系は、交感神経の興奮により活動が上昇したのちに、その興奮を抑えて一定に保とうとする仕組み(ホメオスターシス)を有している。そのため副交感神経は運動後、時間とともに上がっていく働きがある。以上より,有酸素運動は、交感神経を活動させることにより運動者の心理状態を向上させ、それにより曲の印象を向上させたと考えられる。このことから、有酸素運動は、感情などの情動的側面にも良い効果を与えることが示唆された。
大橋由侑
有酸素運動が注意力と空間探索能力に与える影響
聴覚障害教育コース 192105 大橋由侑
指導教員 大内田裕
【第1章 背景】
発達障害とは、発達障害者支援法において「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠如多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるもの」と定義されている。発達障害の人は認知機能に問題があると考えられている。また、認知機能とは理解、判断、論理などの知的機能のことであり、生活や学習の場面で欠かせない機能である。認知機能の土台的機能には注意機能があり、発達障害のある人は認知機能に問題があることによって注意を向けること、注意を継続することに困難がある。注意力に関わる能力として空間探索能力があり、空間を探索するためには物事に注意を注がなくてはならない。しかし、空間探索能力に注意力が必要となるのならば認知機能に問題のある発達障害のある人には発揮することが苦手な能力であると言えるだろう。上記の問題や苦手を抱えた発達障害児が近年増加傾向にあり、学校現場や療育現場に対する特別支援教育や児童発達支援の需要は年々増加する発達障害児の数と共に高まることは想像に容易く、その需要に対する支援の内容も常に検討していかなくてはならないだろう。
本研究では、一過性の有酸素運動と注意力及び空間探索能力に関連があることを提唱するための知見を得ることを目的とし、有酸素運動の前後と休憩を取り時間が経過してからの計3回注意力及び空間探索能力を測る課題に取り組むことで、一過性の有酸素運動によって注意力及び空間探索能力が向上するのか、また時間の経過によって注意力及び空間探索能力がどのように変化するのかを検証した。
【第2章 実験】
実験は21~25歳の大阪教育大学の学生男女18人を対象に、有酸素運動前後に注意力と空間探索能力を必要とする課題を行うことで、課題の成績に変化が現れるのかを検証した。課題は、注意力と空間探索能力が求められる数独を使用し、課題は運動前、運動直後、運動終了から30分後の計3回行った。有酸素運動課題は、トレッドミルで時速6㎞のペースで20分間のウォーキングを行い、その後5分間の休息を行った。
【第3章 結果】
今回の研究では、有酸素運動をする前に比べて有酸素運動直後と運動30分後ともにうめたマスの数が向上し、有意な差が認められた【運動直後(p<0.014),運動30分後(p<0.003)】。また、正解したマスの数も向上し、有意な差を認められた【運動直後(p<0.023),運動30分後(p<0.009)】。しかし、運動直後と運動30分後を比較した結果、うめたマスの数、正解したマスの数共に有意な差は認められなかった【うめたマスの数(p<0.460),正解したマスの数(p<0.561)】。ただし、正答率に差は認められなかった。
【第4章 考察】
実験の結果、運動前の課題の成績に比べて運動直後、運動30分後ともにうめたマスの数と正解したマスの数が向上した。つまり、有酸素運動によって注意力が向上し、それと同時に空間探索能力も向上したと考えられる。有酸素運動によって注意力が向上し、本来注目すべき数字にしっかりと注意を注げるようになったことによって的を絞って考えることができるようになったのだろう。また、数独では手がかりとなる数字の探索が必要となるが、的を絞って考えることができるようになったことで探索のスピードが上がり、より一層制限時間以内にマスをうめることができるようになったと考える。しかし、運動直後と運動30分後の成績を比較したところ成績の有意な差は認められなかった。つまり、最低でも30分後までは注意力が続いていると考えられる。しかし、中には運動30分後の成績が最も良い者と悪い者がいた。よって、全体的には有酸素運動をした後の方が課題の成績が良いが、継続力があるとは言い切れず、人によっては休憩を挟むことによって逆に集中力を損ない、有酸素運動前以下の結果になってしまうことが分かった。
正答率を運動前、運動直後、運動30分後で比較すると有意な差は認められなかった。つまり、有酸素運動は数独を解くプロセスのための注意力と空間探索能力に効果があったが、その解答が正確であるかどうかを判断するための力に対しては効果がなかったと考える。その理由としては、被験者たちは問題を如何に速く解き終わるかに意識が向くあまりその解答が正しいかまで思考が及ばなかったことが原因だと考えられる。
安藤綾加
有酸素運動が計算力に与える影響
聴覚障害教育コース 192101 安藤綾加
指導教員 大内田裕
【第1章 背景・目的】
算数の問題を解くためには実に様々な能力が必要になってくるが、「計算力」はほとんど全ての問題に対して、答えを導き出すプロセスの中で必要となる能力だと言っても過言ではない。そして、運動によって認知機能や記憶機能を向上させると示している研究が多く発表されている。そこで、有酸素運動が認知機能の向上に影響を与えているのならば、その認知機能の一つである計算力も有酸素運動の介入によって向上する可能性があると考え本研究で実証することとした。有酸素運動の介入による計算力の変化を本実験によって示すことができれば、計算力の向上のきっかけとなり、算数への学習意欲や学力向上、また、算数障害へのアプローチの一助となると考えた。上記のことから、本研究は有酸素運動と計算力に関連があることを提唱するための知見を得ることを目的とする。
【第2章 方法】
実験の同意が得られた大学生12名を被験者として、有酸素運動前後での計算課題の誤答数及び計算時間の成績の変化から、計算力が向上するのかを検証した。実験の内容としては、有酸素運動として室内でトレッドミルを使用し、時速5kmで15分間のランニングを行った。そしてその前後で、計算課題(乗法の筆算)を実施し、誤答数と1問あたりの平均計算時間の変化を見ることで、計算力の計測を行った。
【第3章 結果】
運動前後の心拍数の変化・運動前後の血圧の変化・運動前後の計算課題における1問あたりの平均計算時間の変化・運動前後の計算課題における誤答数の変化で、対応のあるt検定を行ったところ、心拍数の変化と計算課題における1問あたりの平均計算時間の変化に有意な差が認められた。また、運動中の心拍数の高さと運動前後での1問あたりの平均計算時間の差に中等度の相関があった。つまり、運動中の心拍数が高い人ほど、計算課題の成績が運動後に向上したという結果となった。
【第4章 考察】
問題を1問解くのにかかった平均時間は、有酸素運動の介入によって有意な減少が認められた。それに対し、誤答数は運動前後で有意な増加が認められなかったため、計算課題の成績が向上したといえる。また、運動中の心拍数の高さと運動前後での1問あたりの平均計算時間の差に相関がみられた。このことにより、計算課題の成績の向上は練習効果ではなく、有酸素運動の介入によってもたらされた変化であるということがいえる。さらに、運動中の心拍数の高さと運動前後での1問あたりの平均計算時間の差に相関がみられたことと、有酸素運動の時間を、小学校などで取り入れられている休憩時間を参考に15分間に設定していたことから、小学校などの休憩時間に外遊びなどの有酸素運動を取り入れることは、計算力の向上に良い影響を与えると考えられる。
今回の実験の計算課題として設定したかけ算の筆算を含め、計算をするには暗算や繰り上げの作業を正確に行わなければならない。その際、特に必要となるのがワーキングメモリ能力である。ワーキングメモリ能力は脳の前頭前野と深い関係にある(苧阪,2012) 。さらに、山本ら(2007) は、身体運動が脳の前頭前野を活性化させ、認知機能に望ましい影響を及ぼす可能性を示している。したがって、有酸素運動によってワーキングメモリ能力が向上したことが、今回の実験で有酸素運動が計算力を向上させるという結果になった要因の一つだと考えられる。
【文献】
苧阪直行.(2012).前頭前野とワーキングメモリ
山本大誠,奈良勲,春藤久人,松尾善美,中前智通,森川孝子.(2007).身体運動が認知機能および 脳の神経活動に及ぼす影響.
森川愛理
特別支援学校における教材としてのボードゲームの活用
肢体不自由教育コース 192142 森川 愛理
指導教員 大内田 裕
【第1章 背景・目的】
知的障害のある子供の学習上の特性として、学習によって得た知識や技能が断片的になりやすく,実生活で生かすことが難しいとされている。そのため、できる限り子供の成功体験を豊富にするとともに、自発的・自主的な活動を大切にし、主体的な活動を促すよう指導を行う。具体的な方法として、教材・教具の工夫がある。児童生徒の興味・関心や得意な面を考慮して、楽しく学べる工夫を行うことで、より学習が進むと考える。楽しみながら学ぶことの手段の一つとして、遊びを取り入れることがある。遊びは児童の意欲的な活動を育み、児童同士や教師と児童の関わりを促すこともできるため、効果的な指導の形態である。楽しく学べる教材として、ボードゲームの学習利用がある。
近年のボードゲームに関する研究では、ボードゲーム自体の効果や大学生を対象として実施されてきているものが多い。これらの研究では、ボードゲームについての教育効果は示されているが、子供や、特に障害のある子供を対象にした効果はオリジナルのゲームでしか実証されていない。オリジナルのゲームは、子供の実態に応じて考案、アプロ―チできる点においては有効だが、教員不足の深刻性が増す現代において、子供の実態や発達段階ごとに、それぞれの先生が都度ゲームを考案し実践することは現実的ではない。
そこで、市販されている手に入りやすいゲームで、特別支援学校の子供も挑戦しやすいゲームを選び、特別支援学校(知的障害)の教材として適しているのか、また教材として使えるものがどの程度あるか検討した。
【第2章 方法】
実験の同意が得られた学生15名を被験者として、筆者が選定した種類のボードゲームを体験してもらった。使用したボードゲームは6種類で、ゲームに同封されている規定の遊び方で12通りの遊びを対象に実験を行った。ゲームの選定についてはドイツで毎年多数発売されているような、比較的馴染みやすいボードゲームを選んだ。実験後にフォームを用いて、「ゲーム参加者の基本的属性」、「各ゲームの攻略要素の分類(複数選択可)」、「各ゲームの感想(自由記述)」について調査を行った。
【第3章 結果】
実験の結果から、ゲームや遊び方によって難易度に差はあるが、全体を通して、特別支援学校(知的障害)の教材として使用することで教育効果が見られるとの回答を得ることができた。「短期記憶」の要素が強いゲームが多く見られたが、「計算力」、「知識量」、「対話力」等、遊び方それぞれに力を使う要素が認められた。
【第4章 考察】
実験の結果から、ボードゲームを特別支援学校の教材として用いるには、他の各教科等の教材と同様に、子どもの実態に合わせてルールの工夫や適切な支援等を行うことでより教育効果があると期待できる。本研究の結果は、ボードゲームを活用することで、楽しみながら障がいのある子供の認知機能のトレーニングやコミュニケーションに関わる力の育成に役立つと考えられる。
【文献】
文部科学省. (日付不明). 参照先: 特別支援教育について 4.障害に配慮した教育 (3)知的障害: (3)知的障害:文部科学省 (mext.go.jp)
文部科学省. (平成30年3月). 特別支援学校学習指導要領解説各教科等編(小学部・中学部)
アナログゲーム療育.参照先:アナログゲーム療育の特徴:【公式】アナログゲーム療育 (gameryouiku.com)
山口葵
短時間の有酸素運動がワーキングメモリーに与える影響
肢体不自由コース 182144 山口葵
指導教員 大内田裕
【第1章 背景】
ワーキングメモリとは、今何をすべきかという課題目標と、次に何をするのかというプランを活動が終了するまで憶えておくという機能であり、課題目標とプランを保持しながら従事しなければならない計算式の遂行にも必要となる。そして、この記憶機能は発達にともなって個人内で劇的に変化するとともに同年群の中でも大きな個人差があることが知られており、ワーキングメモリー機能の個人内変動、 個人間の差異が学習場面で必要とされるさまざまな課題の遂行に影響を与えていることが明らかとなってきている。そして、学習において様々な困難が生まれる発達障害や知的障害のある児童にとって、ワーキングメモリの能力の向上が重要だと考えられる。
20~30分間の有酸素運動がワーキングメモリ機能向上に影響を与えるという報告は多く見受けられるが、短時間の有酸素運動がワーキングメモリ機能に影響があるかどうかについての報告は少ない。そこで、本研究では短時間の有酸素運動がワーキングメモリ能力にどのような影響を及ぼすのかについて明らかにすることを目的とした。
【第2章 実験】
研究の⽬的や実験内容を⼝頭と⽂書で説明し同意を得られた20歳~26歳の⼤阪教育⼤学に在籍する学⽣14名(男性1名、⼥性8名)を被験者とした。運動前に加法のワーキングメモリ課題50問を暗算で⾏い、5分間の有酸素運動を⾏う。その後5分間の休憩を挟み、再びワーキングメモリ課題50問を⾏うという実験を⾏った。有酸素運動は室内のトランポリン(SAMTOTH トランポリン 大型102cm)を使⽤し、ジャンプをするタイミングはメトロノームでBPM100に設定し、そのタイミングに合わせて飛ぶ実験を⾏った。
【第3章 結果】
運動前後それぞれの計算時間の変化を⾒てみると、被験者9⼈における運動前の平均計算時間は272秒(±)で、運動後の平均計算時間は221秒(±)であった。 (図4参照)。運動前⽐べて運動後の平均計算時間は減少傾向にあり、t-TESTの結果、安静後と運動後の差に有意な差は認められた。
運動前の解答時間と運動後の解答時間には統計的優位な時間の短縮が認められた(t=2.571,df=8,p=0.03)。
【第4章 考察】
運動前に比べて運動後における被験者の平均解答時間の変化は減少傾向にあった。そして、運動前に比べて運動後における被験者の平均正答数の変化は増加傾向にあったが、有意な差は認められなかった。以下、それぞれの項目について考察を行った。ただし、各個人における運動前後の正答数や解答時間の変化を見てみると、正答数が減少した被験者や解答時間が増加した被験者もいたため、変化には個人差があることが分かった。
本研究において被験者各個人における解答時間を比較したところ、運動前に比べて運動後の解答時間が増加している被験者もいたが、被験者9名の運動後の解答時間の平均は51秒減少していた。そもそも計算能力というのは、様々な認知機能から成り立っており。その一つにワーキングメモリが含まれる。またそのほかにも、例えば文字を認識する能力や言語能力や内言などの認知機能も関わっている。すでに我々の研究室では、時速9kmの有酸素運動を20分行い、運動前後でのワーキングメモリ機能の変化を調べており、その結果、平均解答時間と平均正答数ともに有意な向上が見られた(栗原, 2020)。その為、有酸素運動がワーキングメモリ機能向上に影響を与えることはすでに明らかになっていた。
今回の研究では、計算能力にはワーキングメモリの要素が非常に重要であることが分かっている。有酸素運動がワーキングメモリ機能を向上させたことにより、有酸素運動は計算能力向上にも影響を与えると考えられる。つまり、本研究において、被験者の運動後の平均解答時間が減少したということは、すなわち、5分間のトランポリンによる短時間の有酸素運動によってワーキングメモリ機能が向上したことで計算処理能力が向上したといえる。
Welcome!
「誰もが自分らしく学べる社会をつくりたい」
「脳のしくみに興味がある」
「子どもたちの力になりたい」
特別支援教育は、一人ひとりの神経学的特性と学習過程の関係を科学的に探究する学問分野であり、ゼミでの研究活動はその入口となります。
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