食物学とは

食物学そのものは「食べ物」にまつわる諸学問を統合させたもので、応用科学(≒生活を支える科学)です。
学問としてはわかりやすい?とっつきやすい?反面、食文化や認知科学、心理学など、科学(物理・化学・生物など)以外の領域を包括的に含んでいます。
さらに、食品表示や特定保健用食品などの行政的なカテゴリ、栄養関連なら5年ごとに見直される日本人の食事摂取基準など、基礎学問とはちょっと違う分野も含めて、何でもあり、です。
もう少し詳しく…
食物学を独断と偏見で大きくわけると、
1)食文化や歴史など文化人類学に近い領域
2)食品科学(食品そのもの、成分の特性・加工・調理など)
3)栄養科学
4)食品衛生学
5)その他
というように、いくつかの領域があります。
1)文化人類学に近い領域
各地に残る郷土料理のレシピを集め、歴史などを聞きとり調査で収集して研究したり、「豆腐百珍」など古文書から料理を作って古い時代の食生活を研究したり…。和食の継承になるようなヒントもたくさんあるかも。文化人類学・民俗学が社会科ですから、社会科との関連も強いと思います。
2)食品科学
最近は呈味成分や機能性成分ばかりでなく、テクスチャー、いわゆる食感や色彩などに関しても研究が盛んです。食感は呈味性とのバランスで重視されるようになったのかもしれません。サクサク&プリプリしたエビフライやシャキシャキの千切りキャベツなど、食感が重視される食物は多いです。
加工と調理はほぼ同じですが、家庭でおにぎり(おむすび)を作れば「調理」になります。「よりおいしくする」のが調理の目的の1つです。もち米からお餅を作っておかきにする…のは加工と呼ばれます。規模が大きく、できたものが「製品」だから…でしょうか?
小麦粉に水を加えてこねてグルテンを作り、イースト発酵させてふわふわのパンを作ったり、こんにゃくや味噌を作ったりなど、食品科学はヒトの食事をより豊かにしてきたのです。教科でいうと、理科(化学や物理)との関連が強いと思います。
3)栄養科学
ビタミンC(アスコルビン酸)はヒトが生合成できないので摂取するべきビタミンの1つですが、どうやって摂取したらいいでしょうか。新鮮な果物や野菜を食べる案もあるし、茹でて野菜の傘を減らしても食べやすいです。間食にいちごを食べてもいいですね。ジュースやタブレット?…ううむ。品質安定剤としてのビタミンCは栄養になるほど入っていません。タブレットは純粋な化合物を一度にたくさん摂取することになるので、長所短所があるかも。いちごを1パック1人で食べちゃう!…のとちょっと違うようです。そんなこんなを含めて、ヒトを中心として必要な栄養素などの吸収代謝、調理による変動など、栄養科学でも包括範囲は広いです。動物実験も良く行われています。理科の生物領域でも登場します。
4)食品衛生学
食物アレルギーや食中毒、有害物質などを扱うこの分野。行政的な内容もたくさんあります。社会科の教科書に登場する公害病も科学的には衛生学で扱います。乳幼児が口に入れやすいおもちゃや容器の塗料、容器の材質、環境ホルモン、農薬などもここで扱うので、包括する範囲はとても広いと思います。
5)その他
調理レシピの日本語やオノマトペ、美味しいと思う日本語など、国語に関わる分野、おいしさのような感覚は認知科学の一領域でもありますし、得られたデータを統計処理して差があるかみるのなら数学の知識も必要でしょう。食行動、ととらえると、味覚の教育、調理の教育、栄養教育というように教育学も入るかも。行動変容(行動を変える)はダイエットなどで良くきかれる言葉です。SNSでも何キロ痩せた!というような動画は多いようです。調理器具の1つ1つの形も面白いですよね。泡だて器なんて、何であんな形をしているのやら。
食物は世界共通ですから英語の論文も読むかも。そうなると英語も重要です。食物というキーワードを介してひとつひとつの教科をパッチワークするのは面白いと思うし、そのキーワードを生活に変えると家庭科になるんじゃないかなと思います。授業時数は多くないですから、総合や探究と連携するのも良いのかも。
提供する専門科目は多くないので、興味があるところに関してさらに知りたい場合は自分で学ぶ必要があります。が、基礎科学の理解が必要な学問は独学しにくい側面もあります。やりだすと面白いので、何でも聞いてください。
家庭科を教える時には金融や消費も教えます。被服も住居も家族だって…。
食物だけでも相当広いんですけど、さらにアレコレ…そんなに何でもかんでも教えられない!と思ったら、それは、自分の専門を持ち、良く知っているところとそうでもないところを作る、というふうに考えてはいかがでしょう。
「教科」ですから、学術的なところまで理解している分野があるのは良いことです。生活の諸事象は突き詰めれば化学や、物理、生物、歴史、経済、文化、数学、言語学といった基礎学問につながります。
でも、生活に必要な知識は教科書を使えばどこでも教えられる。子どもが自分なりの色を付けられるようになるところまでの基礎を教えれば良いと思います。
中学・高校の家庭科教員免許は、教員養成系の大学でなくても取得可能ですが、教員養成系は教育に特化しています。教職関係の科目や本学独自の学校安全のような科目も専門科目とともに学ぶことになります。
また、他学部と違って全領域をまんべんなく学びます。一つ一つの領域は浅くても、領域間のつながりは学生なりにみえているのではないかと思います。
家庭教育は多様ですから、生活実践スキルも児童生徒の興味もさまざま。「我が家流」があるのも当然です。一方、家庭科では、生活の各分野に興味を持ち、スキル習得方法が分かればOK(と、私は思っています)。生活って、多くのモノとヒトとコトに支えられているんです。スマホだけでは生きられない。
また、家庭科教員は、スーパー生活者(生活スキルの高い人)でなくてもかまわないと思います。
食物学ゼミだから調理がうまくなければ…ということもないはず(ただし、そういう発想を持つ人は少なくありません)。食物の面白さをどんな視点でもいいから教えられるスキルがあればそれでいいのです。
私は食品が好きで化学が好きなので、食品化学をベースに調理の面白さを伝えられたらいいなと思います。
食品機能は、食物学のなかでも新しい分野です。特定保健用食品のような新しいタイプの食品が登場しはじめたので、食生活が大きく変わり始め、食生活が二極化しようとしています。五感を通して「おいしいな」と思えるものは健康に特化した食品じゃないかも…と思ってはいるのですが、どうでしょう。季節感のあるものなどは特別なおいしさがありますよね。
食事も調理もエンターテイメントではなくて、生きるために必要なものです。
調理しないと分からないこともたくさんあります。食品に触れていないのですから。
正解はない…とはいえ、若い人たちも、そしてまた次の世代の人達も、日本の一次産業を守り、和食を継承する姿勢は持ち続けて欲しいと願っています。