家庭科(食物)のリスク管理

家庭科(食物)におけるリスク管理は主に3つあると思います。1つは衛生のリスク、もう1つは作業のリスク、そして教員において忘れてはならないのが時間のリスクです。
1)衛生のリスク
衛生はヒトの健康にかかわることで、ここでは主に食中毒を指しています。食べ物はそのまま食べられるもの、食べ物は買うもの、というイメージは間違いで、スーパーなどに行っても【調理(加熱)しないと食べられないもの】【調理には必須だけどそのままではあまり食べないもの】はたくさん並んでいます。生鮮食品には「生食できないもの(そのままでは有害)」もあります。主食であるコメも、長期保存するならコメのままが良く、食べる時は水を加えて加熱して(=糊化して)飯(ご飯)にして食べます。最近はご飯を「こめ」と呼ぶ人もいるようですが、コメとご飯は本来違うものなので、教員が授業で説明する時には言い分けたいところ。
今、【生食しないもの】【有毒なもの】は、あまりどこでも教えないことが多いので、少しだけWEBサイトにまとめました。【食品の衛生チェック】のページを是非活用してください。
大きくわけて、【生食しない(そのまま食べない)もの】は、生デンプンを含むものや老化でんぷんがメインのもの、マメ科植物やきのこなどのように有害物質を含むもの、あとは、アクや不味成分があるため加熱した方がおいしいもの、あたりです。食用きのこにも、しいたけのように皮膚炎を起こすものやエリンギのようにシアン化合物を含むものがあるので基本は加熱して食べてください。
【有毒なもの】には、野生のきのこの一部、ふぐの肝臓や卵巣など、うなぎの血液(新鮮なもの)、じゃがいもの芽や緑化部分、青梅、ユウガオなどがあります。青梅は塩漬けにして梅干しに、ユウガオは薄く剥いてかんぴょうにして食べます。じゃがいもは芽をとり、皮をむいて食べることが多いです(フライドポテトなど皮つきのまま調理される場合もあります)。
とりあえず、植物性の食品をメインに挙げていますが、動物性食品にも生食しないものや有毒なものはたくさんあります。牡蠣や生肉などのように食中毒になりやすいものもあります。
2)作業のリスク
作業のリスクはケガや火傷が絡むところです。プリント類をガスコンロの傍に置くのも【燃えると危険】だから置かないように指示します。ガスコンロの傍に置いたら100%燃えるわけではないのですが、燃える可能性が高いので注意をするのです。
缶切りやおろし金、皮むき器(ピーラー)など、便利な調理小道具は便利な反面、包丁を使う機会を減らし、危険なことも多いので、中学校以降で用いることを推奨します。皮むき器は刃が鋭利なので、切ると深く切れやすく、対象によって使いやすいものと使いにくいものがあります。おろし金はどこまですりおろして良いかわからない場合もありますし、缶きりは開けた部分が切れやすいです。
ケガをしながら覚えていく…のも実際には悪くないのですが、事前に回避できるようになるのも良いと思います。
コンロで熱くなったフライパンやなべ、オーブン、加熱した油脂などもやけどを起こしやすいです。いずれも熱いことが(色の変化もないので)分かりにくいので、「要注意」と意識しないことに原因があると思います。見た目だけで判断せず、理論的に熱いと思えるようになってください。
作業リスクはすべてを集めたわけではないのですが、危ないところを予測しながら動きましょう。
教員は焦げた匂いがしていないか、ケガをしやすい状況になっていないか、常に気をつけてください。
なべにふたをして加熱すると、お湯ははやく沸きます。
が、ふたをすることで【中身が見えない】状態になるので、中がどうなっているのか分からない状態になりやすいです。「ふたをしたからこれで良し?」と安心して放置される懸念もあります。
お湯が沸騰するまではふたをするのも一案ですが、必要以上にふたをしないように注意してください。
3)時間のリスク
授業時間は無限にありません。
限られているからこそ、ほうれんそうを茹でるのに大きな鍋に冷たい水を10リットル入れて沸かす…と時間がかります。せめてお湯を入れたいところです。ほうれんそうの量によっては湯も減らせるかもしれません。
鍋の大きさも問題と思います。ほかにも時間の制約に影響しそうな因子はあります。
じゃがいもを茹でるなら、大きないもを丸ごと茹でますか?
ビタミンCは壊れにくいかもしれないですが、それも時間がかかります。
ゆでたじゃがいもから摂取可能なビタミンCが少なくなりそうなら、ほかにビタミンCを摂れそうな食品を足すのはどうでしょう。ブロッコリーやほうれんそうなら茹で時間が短くもともとのビタミンC含有量も多い食品です。そういう食品はもともとの含有量が多いので、加熱によってビタミンCが減少してもそれなりに残存していますから、一緒に調理することでビタミンCは確保できる。また、別のメニューで、イチゴやみかんなどを足してもいいですね。
ビタミンCが多い野菜や果物などにはどんなものがあるか、知っていますか。
栄養素等摂取量は、1日の食事内容で考えても良いものです。
調理で栄養素等含有量が増減するのなら、それを補うように食事内容を構成して食べましょう。
「ゆでいも」の調理実習に関しては、芋をゆでる調理方法を学びます。
授業が50分なら、調理時間は20分以内に終わらせたい。
20分でじゃがいもをゆでるには?どんな方法が適切でしょうか。それを考えるところから学習は始まると思います。
家庭なら「電子レンジでチン」も一案ですが、授業では各班に電子レンジを用意できないので、それは発展学習に置いとくとして…。どこにでもある調理装置ではありませんしね。少なくとも電気がないと使えませんし、電子レンジ本体がないと使えません。停電していても、装置がなくても使える調理方法はやはり「ゆでる」「焼く」といった基本的な調理方法だと思います。
ゆでた後にどう調理するかも問題かもしれませんね。
教員は授業の時間配分を管理する立場にあります。
グループで作業すると、はやい班とおそい班が出てきます。はやい班はいいのですが、おそい班の支援方法が問題で、なぜ遅いのかを見極める必要があります。
例えばイニシアチブをとる子どもの有無。調理経験量の多少。チームワーク。
状況に合わせた支援をしてください。
声かけだけでいける時もありますが、作業支援が必要な場合もあります。
「はやくして」という声かけではなく(何をどうはやくすればわからないので遅いのです)、具体的な指示をかけてください。